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塩と心血管疾患:低ナトリウム摂取量を勧めるための不十分な証拠

Salt and Cardiovascular Disease: Insufficient Evidence to Recommend Low Sodium Intake

By Martin O’Donnell; Andrew Mente; Michael H. Alderman; Adrian J.B. Brady; Rafael Diaz; Rajeev Gupta; Patricio López-Jaramillo;

Friedrich C. Luft; Thomas F. Lüscher; Giuseppe Mancia; Johannes F.E.Mann; David McCarron; Martin McKee; Fraanz H. Messerli;

Lynn Moore; Jagat Narula; Suzanne Oparil; Miloton Packer; Dorairaj Prabhakaran; Alta Schutte; Karen Sliwa; Jan A. Staessen;

Clyde Yancy; Salim Yusuf

Medscape   

Disclosures European Heart Journal 2020;41:3363-3373

 

要約とはじめに

要約

 摂取量に関係なくナトリウム摂取量低下は血圧を下げ、次には心血管疾患発症を下げることを前提に、幾つかの血圧ガイドラインは全人口に低ナトリウム摂取量(塩として5.8 g/d以下)を勧めている。これらのガイドラインは、自由生活者で持続的な低ナトリウム摂取量を達成させるための効果的な介入もなく、個人の信頼できるナトリウム摂取量を推定する実行可能な方法もなく、そして(適度な摂取量と比較して)低ナトリウム摂取量が心血管疾患発症を下げる高品質の証拠もなく展開されてきた。本レビューで、現在のガイドライン検討委員会によって設定された低ナトリウム摂取量の推奨値が確かな証拠によって支持されているかどうかを我々は調べた。我々のレビューは低ナトリウム摂取量についての現在の勧告に対する対立点を提供しており、個人の特別な低ナトリウム摂取量目標(例えば、2.3 g/d以下)は、他の食事要因に関する不確実な効果や心血管疾患を低下させることで証明されていない効果について実行できないかもしれない。方法論的な限界にもかかわらず、現在の証拠は、世界人口のほとんどは心血管疾患の危険率を増加させない中庸のナトリウム摂取量範囲であり、ナトリウム摂取量が5 g/dを超えたとき心血管疾患の危険率は増加することを示唆している。現在の証拠は限界があり、存在する証拠の解釈には意見の相違があるけれども、観察研究に基づいて、5 g/d以上の平均ナトリウム摂取量の人口に5 g/d以下の人口レベルの平均目標値を示唆するためには合理的である。しかし、心血管疾患発症や死亡に及ぼすナトリウム低減の大規模なランダム化比較試験の結果を待っている。

はじめに

 摂取量に関係なくナトリウム低減は血圧を下げ、次に心血管疾患の危険率を下げると言う前提で、幾つかの血圧ガイドラインは全集団に低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)を勧めている。(1)低ナトリウム摂取量の推奨者達は、安全でないナトリウム摂取量の低い限界値を設定する必要はなく、そして現在の平均ナトリウム摂取量は全ての人々(ほとんどの人口の大多数の摂取量は2.3 – 4.6 g/d)に有害であると主張している。しかし、ナトリウムは正常な心血管生理と健康に要求される必須栄養素で、したがって、他の必須電解質の場合と同様に摂取量の生理学的に「健康に良い」範囲があると予想される。ナトリウムは最もしばしば(90%以上)塩化ナトリウム()の形で摂取され、ナトリウムのホメオスタシスは多数の神経ホルモンや中枢神経生理学的メカニズムによって厳密に制御されている。多くの中でナトリウムの1つの役割は体内の主要な細胞外陽イオンとして血管内容量を維持している。塩化ナトリウムの注入または摂取はほとんどの人々で血圧増進効果を持っており、これは急性ショックに塩化ナトリウム注入を行い、症候性起立性低血圧の人々で1日当たりのナトリウム摂取量を増やす理由である。ナトリウムはまた浸透圧を決める主要陽イオンであり、ナトリウム収支が正の場合、アンジオテンシンまたはノルアドレナリンの投与量応答曲線が左に移動する。ナトリウムは免疫調節にも役割を果たしているようである。

 

1 ナトリウム()摂取量のカテゴリー

ナトリウム摂取量カテゴリー

ナトリウム() g/d

ナトリウム (mmol/d)

およその茶匙塩量

低ナトリウム摂取量

ナトリウム2.3 g/d以下(5.75 g/d以下)

ナトリウム100 mmol以下

1匙以下

中程度ナトリウム摂取量

ナトリウム2.3 - 4.6 g/d(5.75 - 11.5 g/d)

ナトリウム100 - 200mmol/d

1 2

高ナトリウム摂取量

ナトリウム4.6 g/d以上(11.5 g/d)

ナトリウム200mmol/d以上

2匙以上

 

                  図1 必須電解質と健康との関係

 上図下部の表を示す

      必須電解質摂取量   

 

定                 義

推奨食事許容量

特定の人生段階と性グループでほぼ全ての(97 - 98)健常者の栄養要求量を十分に満たすための平均食事栄養摂取量

許容上限摂取量

全人口でほとんど全ての人々に対して悪い健康影響の危険をおそらく生じさせない最高の平均栄養摂取量。摂取量が上限値以上に増加するにつれて、悪い影響の世界中の危険性は増加する可能性がある。

十分な摂取量

観察的にまたは経験的に決定する方法に基づく推奨平均栄養摂取量、または十分な栄養状態を維持していると仮定された明らかに健常人グループによる栄養摂取量の推定値

 

 ナトリウムの生理的役割と一致して、ナトリウム摂取量増加は、必ずしも全てではないが、ほとんどの人々の血圧上昇と関係している。多成分食事療法の一部としてナトリウム摂取量の極端な低下は1866年に心不全のために最初に報告され、1949年に重症高血圧を治療するライス・ダイエットの一部として報告された。1980年代と90年代に主として行われたその後の臨床試験は、高血圧または前高血圧の人々でナトリウム摂取量を低下させたとき、平均血圧に適度なグループ・レベルの低下を報告した。これらの試験で最大である高齢者の非薬物療介入試験(TONE)と高血圧予防試験(TOHP-II)1.8 g/d以下のナトリウム摂取量を目標とし、徹底的な個人の食事カウンセリングを通して2.3 – 3.2 g/dと言う平均摂取量までナトリウム摂取量で適度の低下を達成し、2年間以上の追跡調査で平均血圧を適度に低下させる結果となった。30日間の交絡試験(n=412)である高血圧-ナトリウム予防食事アプローチ (DASH-ナトリウム) 試験は現在のナトリウム摂取量ガイドラインで特別な目標に最大の影響を及ぼした;食事摂取量が研究者達によって完全に管理されたとき、1.5 g/d以下までナトリウム摂取量を下げて血圧低下を報告した。この試験が発表された時点で、介入またはメカニズムに関係なく、人口レベルの心血管発症の低下と個人の危険率低下に何某かの血圧低下をもたらすだろうと一時的に仮定された。その後のガイドラインは高血圧者に1.5 g/d以下の特別なナトリウム摂取量目標値を大きく強調しており、DASH-ナトリウム試験からの結果を直接的に実行していた。今日、ほとんどの食事ガイドラインは目標値に僅かな差(例えば、WHO2.0 g/d以下を勧め、アメリカ心臓協会は2.3 g/d以下と危険率の高い人には1.5 g/d以下を勧めている)があっても、低いナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)を勧めている。平均ナトリウム摂取量は3.95 g/dと世界中に推定されており、したがって、現在勧められている低ナトリウム摂取量を達成することは食事パターンの劇的な変化を要求しており、自由に生活している人達、特にほとんどのナトリウム摂取量が任意の食品(例えば、加工食品)から来る分野で達成することは難しいことがあり、摂取量そして/または製造食品のナトリウム含有量を大きく変更する必要がある

 これらのガイドラインは、自由に生活している人達で持続的な低ナトリウム摂取量を達成するための効果的な介入なしに、個人の信頼できるナトリウム摂取量を推定する適正な方法なしに、そして低ナトリウム摂取量が(適正摂取量と比較して)心血管疾患発症を減らす高品質の証拠なしに元々作成された。

 幾つかの例外を除いて、ナトリウムの生理学の理解が進化しても、ナトリウム摂取量と心血管疾患発症の関係がJ字型曲線であるますます強力な証拠があっても、低ナトリウム摂取量推奨は変化や挑戦に対して著しく抵抗されてきた。ナトリウム摂取量と心血管疾患発症とのJ字型曲線関係を報告するこれらの前向きコホート研究は、全てのガイドラインが根拠にしている基本的な仮定について矛盾する証拠を提供し、このナトリウム摂取量の全ての低下はより少ない心血管疾患に直接的に言い換えられている。健康政策の観点から、前向きコホート研究の現在のメッセージはほとんど一貫しており、高ナトリウム摂取量(4.6 g/d以上)は平均ナトリウム摂取量2.3 – 4/6 g/dと比較して比較的高い死亡率や心疾患危険率と関係していた。しかし、説得力のある証拠は適正(平均)摂取量と比較して低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)で有意に低い心疾患危険率である(ランダム化比較試験を含めて)。低ナトリウム摂取量のガイドライン勧告値は、ナトリウム摂取量と心血管疾患発症との関係に関して限られた証拠があったときに初めて導入された。証拠が進化するにつれて、ほとんどのガイドライン委員会はこれらの大規模でより最近の疫学研究からの発見を進化する思考と推奨に組み込むことに消極的であった。ほとんどのガイドライン委員会は、低ナトリウム摂取量推奨と矛盾する実質的な一連の作業を真剣に検討しなかった。

 2013年に国立医学アカデミーによる証拠の独立したレビューは、心血管予防のための低ナトリウム摂取量の推奨を支持する証拠が不十分であると結論を下した。しかし、2019年に心血管予防のための低ナトリウム摂取量を支持する新しい証拠がないにもかかわらず、再構成された委員会は低ナトリウム摂取量を強く推奨した。そして実質的により多くのデータ、例えば、都市と農村における前向き疫学調査(PURE研究)からの100,000人やUK-Biobank調査からの300,000人からのデータは2.3 – 4.6 g/dのナトリウム摂取量範囲がより最適である可能性が高いことを示唆した。観察研究には固有の制限がある(例えば、共変量の大幅な調整とナトリウム摂取量の介入的減少の効果を評価できないにもかかわらず、逆因果関係または交絡の可能性がある)。しかし、ナトリウム摂取量低下(2.3 g/d以下)の有効性と安全性を実証する大規模なランダム化比較試験データがないとき、観察研究は、ナトリウム摂取量のような被爆と集団における長期間の心疾患危険率との関連の「利用可能な最良の証拠」を提供する。

 本レビューで、現在のガイドライン委員会が設定した低ナトリウム摂取量の勧告値が厳密な証拠によって支持されるかどうかを我々は調べた。我々のレビューは低ナトリウム摂取量に関する現在の勧告値に対する対立点を提供している。個人に対する特別な低ナトリウム摂取目標値(2.3 g/d以下)は実行できないかもしれないことを示唆し、他の食事要因に不確実な結果をもたらし、心血管疾患を低減する効果は証明されなかった。方法論的な限界にもかかわらず、現在の証拠は、世界人口のほとんどは心疾患危険率増加と関係のない適度のナトリウム摂取量範囲であり、ナトリウム摂取量が5 g/dを超えると心血管疾患の危険率が増加することを示唆していることを我々は主張する。

 

ナトリウム()摂取量を適切に測定できるか?

 ナトリウム摂取量(例えば、2.3 g/d以下)に関する特定の個人レベルの勧告値を作成する上で主な障害は個人のナトリウム摂取量を客観的に定量する有効で信頼できる方法がないことである。複数の24時間尿収集の使用は受け入れられた参考法であるが、この方法は臨床診療や非常に大きな集団研究では実用的でない。より便利な食品摂取頻度(FFQs)24時間食事思出法、食事記録を含めて食事調査手段は時間を要し、高い精度で完成させるには難しい。食事記録と国別の検証済み24時間食事思出法はナトリウム摂取量の合理的で良い推定値を提供すると報告され、個人の不正確な摂取量を提供するFFQsよりも優れているように見える。最後に、個人の高、中、低ナトリウム摂取量への主観的な自己分類は信頼できない。全ての食事アンケート、特にFFQsは明確な食事パターンと様々なナトリウム摂取源を持つ様々な集団で検証が必要である。

 個人のナトリウム摂取量を推定する便利で信頼性のある方法がないことは現在の勧告値に影響を及ぼす。他の危険因子の勧告値(例えば、血圧、グルコース、あるいはコレステロール)とは異なり、公立のメンバーはナトリウム摂取量の有効で信頼できる推定値にアクセスできなく、したがって、1日当たり特定の塩摂取量の推奨値を解釈または実行できない。

 集団レベル調査のために、大きな試料サイズがランダム誤差を最小にし、ナトリウム摂取量の十分に正確な推定値を得るために必須である。この考え方で、一回の24時間尿収集でも得ることは特に一般化可能な国内および国際的な人口調査にとって困難な場合がある。ある国のボランティア研究で、24時間尿収集の未完了率は約18%であった。ナトリウム摂取量の簡単で信頼性が高く、有効な測定法を開発することの重要性を考えると、尿中ナトリウムの単一測定値を使用した式から算出された測定値にかなりの注意が払われている。

 多くの式に基づく方法が発表されてきた。例えば、早朝空腹時尿試料を1回使うことやランダム(またはスポット)尿を使うことである。これらの方法はいずれも個人レベルのナトリウム摂取量推定には適切ではないが、大規模な疫学調査で集団レベルの推定値に使われてきた。例えば、PURE研究は空腹時早朝スポット尿試料(摂取量の代表として)からの24時間ナトリウム排泄量の式で換算された推定値に基づく17ヶ国から100,000人以上のナトリウム摂取量を調べた。24時間尿中ナトリウム排泄量と実際の24時間尿収集量の1回の尿から式で算出した推定値のクラス内相関(ICC)は良好である。

 空腹時の測定から24時間ナトリウム摂取量を計算するために川崎式(ナトリウムと臨床変数の空腹時尿推定値から推定)の使用は批判されてきた。しかし、これらの批判は、空腹時尿試料を使わない、不正確な時間の尿収集を使う、または参考法(例えば、不完全な24時間尿収集の人々をチェックまたは除外してない)のプロトコールに従わないことによって式を間違って使用している研究に大きく依存しており、不正確な方法論のために偏向された推定値を結果としてもたらした。WHOは平均ナトリウム摂取量測定のために適正である集団研究のためにスポット/空腹時ナトリウム摂取量調査を考えている。

 必須栄養素と健康上の結果との関係を示すために、測定法は大規模な一般化可能な研究に適した方法で、個人を平均ナトリウム摂取量の異なるグループに分類する必要がある。健康な集団における心血管疾患発症率と死亡率が低い(年間1%以下)ことを考えると、ナトリウム摂取量のカテゴリー間の違いを検出するには非常に大きな試料サイズが必要である。特にナトリウム摂取量が多い、中程度、または少ない人の間の結果率の相対的な違いは中程度であると予想されるからである(例えば、10 – 20%の相対危険率)。表2(省略)は、一次および二次心血管疾患予防集団の様々な相対危険率を検出するために必要となるナトリウム摂取量カテゴリー内の大体の試料サイズを示している。例えば、5年または10年間続けたナトリウム摂取量グループ当たり10,000人以上の参加者による研究が、一次予防集団における15%の相対危険率を検出するために必要である。したがって、多くの必要な証拠を提供するためには、十分に実用的で大きな試料サイズで使用できる十分な妥当性と信頼性を備えた測定法が必要である。

結論

1. 世界の大多数は2.3 g/d以下を摂取している 5 – 10%よりも少ない2.3 – 4.6 g/dを摂取しているので、非常に低いナトリウム摂取量と健康結果との長期間関係に関して人の経験は限られている。

2. 2.3 g/d以下の特定ナトリウム摂取目標値は、実行可能で有効な個人のナトリウム摂取量推定法がないので、個人レベルで実行されない。

3. 集団レベルの平均摂取量を推定することは、適正に使えば(例えば、空腹時早朝尿試料を使う川崎の式)、1回の尿試料で有効な式を使った推定値で可能である。

4. 食事(24時間)思い出しと記録は平均摂取量を推定するために使われるかもしれないが、ナトリウム摂取量を(24時間尿収集)と比較して過少評価する傾向があり、大規模調査では実際的でない。全ての自己報告法は偏向を報告しがちである。

 

塩と健康

生理学

 人の生理に対するナトリウムの重要性は、塩摂取量と健康との関係はJ字型になりそうなことを示唆している。ナトリウムは必須栄養素で、数々の生理学的工程に必要であり、血清ナトリウム濃度を正常範囲内に維持するために数々の工程(腎臓、ホルモン、免疫、神経、血清浸透圧の調整)によって厳密に制御されている。カリウムとナトリウム交換は人細胞の活動電位の重要な部分である。1936年にリヒターによって最初に述べられ塩欲求は食事中の塩の生理学的追求を指しており、調整管理下にある;この概念は個体群の安全性の生理学的証拠によって裏付けられている。ほとんどの人々で、正常な腎臓は、摂取量が多いときには大量のナトリウムを排泄でき、摂取量が少ないときには非常に少ないナトリウムしか排泄しない。ナトリウムを排泄するこの能力 は低カリウム食の存在下で損なわれる。

 ナトリウム摂取量、蓄積、そして排泄の生理学について我々の理解は進化し続けている。例えば、最近の証拠は、ナトリウム排泄がおよそ1週間毎に起こる変動を示し、ナトリウムの大部分は皮膚、皮下リンパ・ネットワークおよび筋肉や骨に蓄積され、ナトリウム貯蔵は免疫系によって部分的に制御され(潜在的な進化的防腐役割を示唆している)、そのためにナトリウムは調節効果あるようであることを示唆している。ナトリウム摂取量はレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)に影響を及ぼす;長期間研究で示されるように低ナトリウム摂取量はRAASを活性化し(2)増加した血漿レニン濃度は増加した心疾患危険率と関係している。反射恒常性制御の障害を伴う交感神経系の活性化は低ナトリウム摂取量で報告されてきた。ナトリウム摂取量の大きな低下も圧反射を介した調節を含む心血管の力学に影響を及ぼす。動物モデルで、低ナトリウム摂取量はストレス(例えば、敗血症性ショック)中の弱毒化された昇圧反応や圧反射機能障害と神経アドレナリン作動姓の悪影響と関係している。低ナトリウム摂取量は動物研究で、ナトリウム流出低下で膜ナトリウム輸送に影響を及ぼすようにも見える。ナトリウム摂取量が非常に少ない狩猟採集民集団は高血圧発症が少なく、RAASの過剰な活性化を報告してきたが、健康に及ぼす低ナトリウム摂取量の長期間効果はこれらの集団では評価されない。彼等の平均寿命が短い(40年間)からである。動物研究で、高ナトリウム摂取量は大動脈肥大と細胞外マトリックスの発達と関係しており、血管平滑筋細胞の動脈硬化と交替の増加につながり、そのことはナトリウム摂取量を減らすと逆転する。高ナトリウム摂取量と動脈硬化の関係は血圧効果とは関係ないようにみえる。人間研究で、高ナトリウム摂取量は血管の構造と機能に関連しており、高ナトリウム摂取量は頸動脈内膜壁の厚さ、動脈硬化指数の増加にも関連しているが、関係パターンはJ字型関係を示唆している。

 

              図2 ナトリウム摂取量と血漿レニン活性および収縮期血圧の関係(A)

                 死亡および心血管疾患発症(オドンネルらとブルナーおよび

ガブラスから採用)の関係(B)

 

歴史的展望

 塩は冬の何ヶ月間に食物を保存できるようにしたので、塩は狩猟採集社会から定住社会への移行を促進したと考えられてきた。塩は生命に不可欠であるという概念は、多様な文化の多くの儀式や宗教儀式で塩の卓越性をもたらした。直観的に、肉体労働者は塩と水の交換の必要性を理解していた。両方とも明らかに汗の成分で、水と塩の両方に対する先天的な行動の推進力は、現在、強力な神経ホルモン制御によって推進されていることが知られている。 (ラテン語の「サラリウム」からの) 「サラリー」という言葉は塩を買うためにローマ兵士への支払いに始まり、日常生活でその重要性を反映していた。イギリスの支配に抗議するために塩税を選択する際に、「水や空気の次に塩は多分、健康に対して最も重要である」とガンジーは述べ、一般の人々は塩の本能的な魅力を認めていた。インドのイギリス植民者達は生命にとって塩の決定的な重要性を理解しており、したがって、彼等の収入を増やすために塩に重い税金を課し、その結果、暑い時期にイギリスの支配下にあるインドの一部で死亡率が大幅に急増した。182ヶ国の分析により曲線関係が示唆されているが、生態学的に最高の平均寿命の諸国は最高の平均ナトリウム摂取量の諸国が多い。以来、ナトリウムの低下は心不全の管理において支持されたり、支持されなくなったりしており、現在、最終的に大規模な臨床試験で評価されている。

 重要な食事変化はナトリウム摂取源の変化であった。これは裁量的(例えば、食事に加えられる食卓塩)または非裁量的供給源(例えば、パンなどの調理済み食品の一部)に由来する場合がある。非裁量的供給源からのナトリウム摂取量が次第に増加してきた。高所得諸国で最も著しい。塩摂取量の非裁量的供給源はヨーロッパや北アメリカで塩摂取量の75 – 80%を占めるが、他の地域(例えば、中国やアフリカ)では低い。食品産業界は貯蔵寿命を延長し、味を改善するために食品に塩を加える。非裁量的ナトリウム給源の増加で、個人的に摂取量を管理することができなくなり、食事中のナトリウム摂取量を推定する能力が低下している(食品中に隠されているから)。しかし、ナトリウム摂取量は中枢神経機構を通して厳密に制御されているように思われ、そのことはナトリウム摂取源の変化にもかかわらず、人口の安定した平均ナトリウム摂取量に寄与しているように思われる。

疫学

血圧。全体的に人口レベル電力能力ナトリウム摂取量と血圧の単調で曲線的な関連の説得力のある疫学的証拠がある。INTERSALTはナトリウム摂取量と血圧の横断的な関係を調べるための最初の大規模な国際研究であった。32ヶ国の52センターから年齢20 – 50歳の参加者(n=10,079)をランダムに選び、ナトリウム摂取量測定のために24時間尿収集試料を提供し、1988年に報告された。INTERSALT53センターの中で33センターでナトリウム摂取量と血圧との間にポジティブな関係を報告し、同時に発表されたスコットランド心臓研究は有意な関係はないことを報告した。ナトリウム摂取量と血圧との関係を報告した最大の国際研究は都市と農村における前向き疫学(PURE)調査であり、18ヶ国から102,216人の成人が参加した。PUREはナトリウム摂取量と血圧との関係でポジティブな曲線関係(ナトリウム1 g/d増加当たり2.11/0.78 mmHg)を報告した。それは3 g/d以上でのみナトリウム摂取量と有意で、5 g/d以上で摂取量との関係が最大であった(ナトリウム1 g/d増加当たり2.58 mmHg)。ナトリウム摂取量と血圧との関係は高齢者、高血圧者およびより低いカリウム食を食べている人々でより強かった。ナトリウム摂取量と血圧との関係に関して報告した最大のコホート研究は最近のUK-Biobank研究で、それもナトリウム摂取量と血圧との間にポジティブな関係を明らかにした。効果程度は前の観察研究の結果とほぼ一致していた。EPOGH/FLEMINGHO研究は6年間の追跡後にベースラインのナトリウム摂取量(24時間尿収集で測定)と血圧変化との関係を調べ(n=1,499)、共変数を調整後、収縮期血圧で増加(ナトリウム2.3 g/d増加当たり1.71 mmHg)を報告した。

 ある人々はナトリウム摂取量増加による昇圧効果に対してより敏感で、「塩感受性」と呼ばれる状態である。高血圧と「塩感受性」の両方に関係した遺伝子多型の同定は集中的な研究分野である。例えば、研究は高血圧発症のために塩摂取量とアンジオテンシンI転換酵素挿入-削除多形との間の遺伝子と食事の相互作用を報告している。塩感受性の現在の臨床的関連性は不明確である。塩感受性集団の定義と同定には均一性はないが、高血圧を発症した人は高血圧を発症させなかった人と比較してナトリウム摂取量の特定の増加に対して血圧上昇がより大きいように見える。しかし、重要な多形の同定はナトリウム摂取量推奨に対する将来の個別化されたアプローチを容易にする可能性がある。

心血管疾患発症。多くの前向きコホート研究はナトリウム摂取量(様々な測定法を使用)と心血管疾患発症や死亡との関係を評価した。これらの研究のほとんどのメタアナリシスはデータ全体を評価するのではなく、むしろナトリウム摂取量の最低四分位数と最高四分位数を比較し、それにより直線関係を仮定した。対照的に、グラウダルらは全ての摂取量カテゴリーを含め、ナトリウム摂取量と死亡および心血管疾患発症との間にJ字型関係を明らかにし、中程度摂取量と比較して4.6 g/d以上と2.7 g/d以下で危険率は増加した。このメタアナリシスからの結果はナトリウム摂取量を推定するために使われた方法間で一致していた。そのメタアナリシス以来、2つの大規模研究が発表された、1つは国際研究(PURE研究、n=101,9457.2年の追跡)UK-Biobank(n=322,6247.0年の追跡)で、両方とも24時間尿中ナトリウム排泄量の式から得られた推定値を使用した(摂取量の代替値)PURE研究はナトリウム消費量と心血管疾患発症と死亡率との間にJ字型関係を報告し、3 – 5 g/dの間に最低値があり、前のメタアナリシスと一致していた。高ナトリウム摂取量と関係あいた危険率増加は高血圧者に大部分限定されていることをPURE研究は報告し、結果はPREVEND研究によっても支持され、PURE研究も高ナトリウム摂取量と関連した危険率は高カリウム摂取量や比較的高い品質の食事をしている人々で軽減されることを明らかにした。PURE研究は心血管疾患危険性のある平均ナトリウム摂取量の社会レベル(n=369社会)集団も明らかにし、高ナトリウム摂取量(5 g/d以上)の社会だけがナトリウム摂取量と関連した心血管疾患危険率を増加させたことを観察した。UK-Biobank研究はナトリウム消費量と心血管疾患発症との間に有意な関係を報告しなかったが、死亡率に関連したJ字型パターンを示唆した。

 低ナトリウム摂取量と心血管疾患発症および死亡率の危険率増加の関連は、スポット尿からの求めたナトリウム摂取量の式を利用した推定値を使った研究で報告されただけである根拠に基づいて疑問を持たれてきた。しかし、(中程度の摂取量と比較して)低ナトリウム摂取量と関連した危険率増加は24時間尿収集を採用した多くの研究(すなわち、EPOGH/FLEMINGHO研究(n=3,681)PREVENT研究(n=7,330)CRIC研究(心筋梗塞者でn=3,757)そしてアルダーマンらによる研究)で報告されてきたことを述べることは重要である。

 2019年に、アメリカ国立医学アカデミーによって報告されたナトリウムとカリウムの食事参考摂取量は、前記のコホート研究や低ナトリウム摂取量と心血管疾患発症または死亡率の危険率増加(J字型関係)を報告したメタアナリシスからの証拠を考慮しなかった。その代わり、報告はTOHP試験(n=2,275;193人の心血管疾患発症または死亡)のコントロール・グループの観察追跡に焦点を置いた。報告は、ナトリウム摂取量と心血管疾患発症の直線関係があると結論を下したが、低ナトリウム摂取量者(2.3 g/d以下)と中程度ナトリウム摂取量者(2.3 – 4.6 g/d)とを比較した危険率に統計的に有意な差はなかった、すなわち、結論はこれらの摂取量グループ間で統計的な差の証拠によって支持されなかった。観察研究の主な代表としてTOPHからのこの解析を含める決定はナトリウム摂取量の反復24時間尿推定値の使用に基づいていると思われた。

 中程度摂取量から低摂取量へナトリウム摂取量が移行するとき、ナトリウム摂取量と血圧()および心血管疾患発症()との一致しない関連はRAAS、他の神経ホルモン活性、反反射の完全性、および多分他の関連した食事因子(例えば、カリウム摂取量)(2)に及ぼす低ナトリウム摂取量の競合する「目標をはずれた」逆効果に関連している可能性がある。残留交絡および逆因果関係の可能性を含め、観察研究の固有の限界はナトリウム摂取量と臨床結果との因果関係に関する決定的な結論を排除し、これには臨床試験が必要である。

臨床試験

血圧。多くの臨床試験は血圧に及ぼす減塩の効果を評価してきた。ほとんど(95%以上)は比較的小さな試料サイズで短期間(6ヶ月以下)であった。

給餌試験:最大の「給餌」臨床試験はDASH-ナトリウム試験で、それには前高血圧者412人が参加した。これは30日間3つの異なったナトリウム摂取量(3.3, 2.5,そして1.5 g/d)を評価し、DASH食パターンとコントロール食パターンを比較する3 X 2の要因試験であった。それは低ナトリウム摂取量で血圧低下(コントロール食を食べたとき、3.3 g/dから2.5 g/dへの低下に関して-2.1mmHg、さらに1.5 g/dへの低下に関して-4.6mmHgの収縮期血圧変化、DASH食を食べたときそれぞれ-1.3-1.7mmHgの低下)を報告した。血圧低下はコントロール食の人々で最も顕著であった。そこでは背景のカリウム摂取量(1.56 g/d)が典型的なアメリカ食(2.6 g/d)よりも低かった。そのことは試験で血圧に及ぼすナトリウム低減の効果を強化しているのかも知れない。DASH食試験からの結果は、全成人人口のための最適目標値として1.5 g/d以下のナトリウム摂取量というその後の特別な勧告値に非常な影響を及ぼした。

集中的な食事カウンセリング:カウンセリング/教育介入を評価した臨床試験の中で、血圧に及ぼす長期間(平均追跡期間は36ヶ月であった)ナトリウム低減効果の調べるためにTOHP-II試験が最大(n=2,382)である。TOHP-IIは減量についての教育介入も評価した2 X 2の要因計画を採用した。介入グループで1.8 g/d以下のナトリウム摂取量を目標にしたにもかかわらず、18ヶ月間の平均ナトリウム摂取量は3.1 g/d(36ヶ月で3.2 g/d)であった。このことは2.3 g/d以下の目標値は、ナトリウムを下げるために実質的な努力をしている臨床試験の管理された設定でも達成されなかった。コントロール・グループの平均ナトリウム摂取量は3.9 g/d(36ヶ月で4.0 g/d)であった。ナトリウム摂取量グループ間の収縮期血圧差は6ヶ月で2.9mmHg18ヶ月で2.0mmHg、そして36ヶ月で1.2mmHgであった。介入グループの高血圧頻度の減少も時間が経つと消えた[6ヶ月で危険率0.6118ヶ月で0.88、研究終了時で0.82]TOHP-IIの主要な結果の指標である拡張期血圧の平均変化はナトリウム低減と36ヶ月のコントロール・グループ間で統計的に有意な差ではなかった(-0.6mmHg)

 TONE試験は、1種類の降圧剤を服用している管理された老齢者(60 – 80歳、n=975)で同様のカウンセリング/教育介入を評価した。肥満参加者(n=585)の中で、試験設計は2 X 2の要因計画でコントロールと比較して減ナトリウム食と減量計画の両方を評価した。非肥満者グループで、試験は減ナトリウム食とコントロール食を比較した。介入後90日で、血圧は介入グループで3.4mmHg収縮期血圧の低下であった。介入90日後に降圧剤治療の中止が始まった。30ヶ月後、ナトリウム介入グループで患者の大部分は降圧剤治療を受けない、またはコントロール食グループと比較して(38%対24%;P0.001)150mmHg以下の収縮期血圧と90mmHg以下の拡張期血圧(そして心血管疾患の証拠はなかった)であった。

 臨床試験のメタアナリシスは、一時的に前向きコホート研究からの結果と一致してナトリウム摂取量低下で血圧の平均値低下を報告してきた。36件の血圧臨床試験(n=6,736)の1つのメタアナリシスで、ナトリウム摂取量低下は血圧低下(-3.39/-1.54mmHg)と関係しており、高血圧のない人々(-1.38/-0.58mmHg)よりも高血圧参加者(-4.04/-2.26mmHg)で大きかった。臨床試験追跡の期間を違えて行なわれたサブグループ解析は3ヶ月間以下の試験(31試験;n=3,351)について-4.07/1.67mmHg3 – 6ヶ月間(5試験;n=2,817)の試験について-1.91/1.33mmHg、そして6ヶ月間以上(3試験、n=2,862)-0.88/0.45mmHgのグループ間血圧差を報告し、長期的な代償メカニズムは減量による最初の血圧低下に対抗するかもしれない可能性を上昇させた。

 比較的集中的な食事カウンセリングにもかかわらず、自由に生活している人口で低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)を達成し持続させると言う挑戦をこれらのデータは示しており、そしてナトリウム摂取量低下が血圧低下起こすが、ナトリウム低減の降圧剤効果は時間と共に減塩する場合があることを示している。TONE試験とTOHP-II試験の両方で、コントロール・グループは食事カウンセリング介入(例えば、塩摂取量に焦点を置かない健康的な食事に関するアドバイス)を受けなかった、したがって、研究者達は食事の質の全体的な改善とは無関係にナトリウム低下の独立した効果を決定できなかった。

家庭/社会レベル:中国のクラスター・ランダム化比較試験で家庭の塩摂取量を減らすために学童を目標にした教育介入(28学校、832家族)はナトリウム摂取量低下(介入対コントロールについてのナトリウム摂取量に及ぼす平均的な影響は子供で-0.76 g/d、大人で-1.16 g/d(P<0.001)であった。)を報告した。一方、収縮期血圧は追跡中の介入グループとコントロール・グループの両方で上昇したが、上昇は子供で平均効果-0.8mmHg(P=0.51)、成人で-2.3mmHg(p<0.05)とナトリウム低減介入グループで有意に小さかった。ベルギーでコントロール町とした1つの町で教育プログラム(マスメディア技術を採用)を比較した初期の試験(n=2,211)はナトリウム低下(0.58 g/d)を報告したが、追跡5年後の介入町とコントロール町との間に血圧差はなかった。

塩代替物:臨床試験は塩代替物(低ナトリウム塩)の血圧効果を評価した。通常、NaClの割合を約45 – 65%減らしてそれをKClまたはMgSO4で置き換えることで達成され、自由に多い塩を使用する人口(例えば、中国)で最も介入が適切であった。これらの臨床試験(5件の臨床試験、n=1,974)のメタアナリシスは6ヶ月から2年間の期間で塩代替物使用で血圧低下(-4.9/-1.5mmHg)を報告した。

 中国のクラスター・ランダム化比較試験(中国の田舎健康イニシアティブ-減塩研究)は介入グループ(社会ベースの健康教育プログラムとナトリウムを減らしカリウムを加えた塩代替物へのアクセス)とコントロール・グループに対して120村をランダム化した。塩代替物が通常の塩よりもずっと高価であるため、介入村の30村は補助金をもらった。介入60村の参加者1,295(尿調査1,63)の中で、コントロール・グループ(参加者1,272人、尿調査1,001)と比較して追跡中グループで0.32 gのナトリウム摂取量低下(P=0.03)があった。グループ間で血圧には統計的に有意な差はなかった(それぞれ-1.1/0.7mmHgP=0.390.34)

心血管疾患発症/心不全

 心血管疾患発症や死亡を含めた臨床結果に及ぼす低ナトリウム摂取量の効果を調べるために設計された大規模な個人レベルのランダム化比較試験は完了せず、または発表されなかった。

心血管疾患の一次予防。クラスター・ランダム化比較試験(n=1,98130ヶ月間追跡)は台湾の退役軍人老人ホーム5ヶ所で行われ、そこではカリウム・リッチの塩を使用してカリウム摂取量を増やしナトリウム摂取量を低下させた。その結果は高カリウム低ナトリウム・グループに割り当てられた人々で心血管疾患死亡の低下を明らかにした。試験はクラスター・レベルのデータを使うよりもむしろ単位として個人のデータを使って解析された。さらに、その試験ではナトリウム摂取量は約5.2 g/dから3.8 g/dに低下したと推定された;介入グループでカリウム摂取量は増加。

 介入期間または延長された観察追跡中のいずれも心血管疾患発症を報告した食事で減塩の臨床試験のメタアナリシスは異なる結論に達した。TOHP試験の観察追跡やChangらによる試験を含めて心血管疾患発症を報告している臨床試験のコクラン・レビューは、臨床的に重要な効果を確認する力が不足しているが、死亡率に関する有意な効果がない1つの解析で心血管疾患に19%の低下を報告した。最近のNAMパネルによるこれらの臨床試験の別のメタアナリシスも心血管疾患発症で臨床的に重要な危険率低下を報告し、死亡率の低下を示唆した。証拠は中程度の強さであると判断され、低ナトリウム摂取量の勧めを支持する重要な証拠として参考にされた。最近のアンブレラ・レビュー(メタアナリシスのメタアナリシス)で、著者らは、減塩が正常血圧者で全死因の危険率と高血圧者で心血管疾患死亡を減らす中程度の確実性の証拠を報告した。

 これらのメタアナリシスからの結果は減塩戦略からの利益を示唆する一方、彼等は低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)自体の影響に対処していない。TOHP-II試験の観察追跡もChangらによる試験のいずれも介入グループに現在勧めている低ナトリウム摂取量目標値を達成できなかったからである。さらに、TOHP試験では、心血管疾患結果についての追跡調査が23%失われたが、死亡率については完全な追跡調査が行われた。

 これらのメタアナリシスからの結果は、将来のガイドライン勧告値を通知するための高品質の証拠を提供するために、心血管疾患発症に及ぼす低ナトリウム摂取量の効果を調べるために大規模な決定的長期間ランダム化比較試験を実施に弾みを与えている。

 5年以上追跡した600村で参加者21,000人以上の大規模クラスター・ランダム化比較試験である塩代替物と脳卒中研究(SSaSS)は、脳卒中の既往または脳卒中危険率が高い人々の脳卒中危険率に及ぼす高カリウム塩代替物の効果を評価するために中国で行われた。SSaSS試験からの結果は、人口レベルのアプローチは自由に高いナトリウム摂取量の高危険率人口で脳卒中を予防するために重要な意味を持っている。しかし、この試験が高ナトリウム摂取量地域で塩代替物を評価しているので、低ナトリウム摂取量の効果に対する答えを提供する、または脳卒中危険率に関してカリウム増加のための効果と低ナトリウム摂取量だけの効果を区別する可能性は低い。

心血管疾患発症の二次予防。心血管疾患発症既往の患者で心血管疾患発症に及ぼす低ナトリウム摂取量の独立した効果を発表した臨床試験はない。

心不全。進行中の研究は、心不全(再発入院と死亡)を予防し、症状の改善を達成するために心不全でナトリウム摂取量低下の役割を調べている。今日まで、心不全患者のための低ナトリウム摂取量を支持する、または異論を唱える証拠は首尾一貫していなかった。心不全のアドヒアランスおよび保持試験(HART)の観察的解析は、無制限のナトリウム摂取量にランダム化された人々と比較して、制限されたナトリウム摂取量にランダム化された人々の間で心不全についての死亡や入院の比較的高い危険率を報告し、複数の成分介入内で配信された。対照的に、Colin-Ramirezらは、無制限の勧告値と比較して制限されたナトリウム摂取量(2 – 2.4 g/d)に割り当てられたグループで比較的低い死亡率と再入院率を報告した。心不全患者でナトリウム摂取量低下を評価した9研究(n=479)のメタアナリシスは利益または害を支持または反論する証拠はないことを明らかにした。2つの進行中のランダム化比較試験は、通常のケアと比較してナトリウム-心不全試験(n=1,000)1.5 g/dおよびSALT試験(n=250)2.0 g/d以下の目標値までナトリウム摂取量を減らすために集中的な食事カウンセリングを評価している。

 心不全患者のナトリウム摂取量のガイドライン勧告値は新しい証拠で案出され、ヨーロッパ心臓病学会の心不全協会(ESC)は証拠がないために、2012年に塩摂取量を減らすための公式なガイドライン勧告値を取り除いた。2016ESC心不全ガイドラインで、委員会は「特定の生活様式のアドバイスが生活の質や予後を改善すると言う証拠はほとんどない」と報告している。ナトリウム摂取量目標値は特定の「証拠レベル」として含まれていないが、委員会は患者教育セッションに含まれる重要な話題としてナトリウム摂取量を減らすことを(2.4 g/d以上のナトリウム摂取量患者で)リストにあげた。

 

結論

1. ナトリウム摂取量と血圧には正の曲線関係があり、高ナトリウム摂取者、高齢者、高血圧者、低カリウム食摂取者で最大の影響が見られる。

2. 高ナトリウム摂取量と関係した心血管疾患発症の危険率増加は、ナトリウム摂取量が5 g/dを超えるときに観察された。

3. 中程度のナトリウム摂取量(2.3 – 4.6 g/d)は前向きコホート研究で高低両方のナトリウム摂取量と比較して低心血管疾患危険率と一貫して関係していた。

4. 高ナトリウム摂取量と関係している心血管疾患危険率は高血圧状態によって変化する。

5. 高ナトリウム摂取量の危険性はカリウム摂取量によって変化する。そこでは高ナトリウム摂取量の危険性はより多くのカリウムを摂取する(果物、野菜そしてナッツを多く摂取する)人々で減少する。

6. 心不全患者の最適ナトリウム摂取量は不明である。

 

我々は塩摂取量を低いレベルまで安全に減らせるか?

 証拠を脇に置いて、低ナトリウム摂取量は心血管疾患危険率を(中程度の摂取量と比較して)低下させると仮定すると、個人または社会でナトリウム摂取量をより低いレベルまで減らす利用可能な介入はあるか?答えは大規模な決定的ランダム化比較試験の実施を求める声にも影響する。

集団レベル

 世界的に平均ナトリウム摂取量はグローバル疾病負荷(GBD)の協力によって24時間尿収集を使って187ヶ国からの調査のメタアナリシスで3.95 g/dと推定された。INTERMAP研究に基づくと、摂取量は東アジア、中央アジア、そして東ヨーロッパで(平均4.2 g/d以上)そして中央ヨーロッパと中東/北アフリカで(3.9 – 4.2 g/d) 最高である。幾つかの国は、食品の成分再構成、消費者教育、包装ラベル表示、そして公的機関(例えば、学校、職場)の設定への介入を目標にしてナトリウム摂取量を下げるための戦略を開発、実行、モニターするためにWHO情報に基づくアプローチを採用した。幾つかの国、そのほとんどは比較的高い平均ナトリウム摂取量(4 g/d以上)であるが、試料採取された集団で平均ナトリウム摂取量に低下を報告した。例えば、平均ナトリウム摂取量が高い中国で時間経過に伴って主に自由にできる塩摂取量の減少により、平均ナトリウム摂取量に低下(1991年から2009年までに6.7から4.8 g/d)の証拠がある。

 3 – 4 g/d範囲の平均ナトリウム摂取量の国で、集団レベル介入で平均ナトリウム摂取量に印象的な低下の証拠はほとんどない。イギリスで1つの研究は2000/01年から2011年までに平均ナトリウム摂取量で0.6 g/dの低下を報告した。その間に、ナトリウム摂取量を減らすためのいくつかの的を絞った戦略は、例えば、食品産業界と協力して塩を減らした食品を再調整することや公衆の意識向上キャンペーンの実施が実行された。しかし、2008(減塩プログラムが十分に確立されたとき)からのナトリウム摂取量のイギリス報告は平均ナトリウム摂取量に有意な低下は報告されなかった。国際レベルでは、世界的と地域内の両方で平均ナトリウム摂取量はグローバル疾病負荷のメタアナリシスに基づくと、1990年から2010年までに低下しなかった。

社会レベル

 詳細に述べたように、社会レベルの介入が低摂取量レベルまでナトリウム摂取量を低下させた報告はなかったが、約0.5 g/dの平均ナトリウム摂取量の低下は多成分教育介入で可能性に思われる。

個人レベル

 DASH-ナトリウム試験のような給食試験は短期間の低ナトリウム摂取量目標値を達成したが、より長期間この低ナトリウム摂取量を維持することは報告されなかった。集中的な食事カウンセリングは低ナトリウム摂取量(1 g/d)を実行したが、TOHP-II試験で達成された平均摂取量は3.2 g/dで、TOHP-II参加者は大規模試験の中で一般集団の間違いなく代表であった。臨床試験の最近のメタアナリシスは、TOHP-IITONE試験で使われた介入のような食事カウンセリング介入は、介入の激しさのために日常的な一次医療の臨床実践には適していなかった。

他の食事摂取への影響

 単独の栄養素についてのガイドライン設定で、他の食事因子についての影響を考慮することが重要である。例えば、最近のNAM報告書には、血圧と心血管疾患危険率に関する提案された相互関連効果を考慮して、1つのガイドラインでナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)とカリウム摂取量(3.5 g/d以上)の両方の値があった。しかし、単独の栄養素摂取量を扱っている他のガイドラインと同様に、統合された勧告値の実現可能性と実際的な影響は十分に考慮されていなかった。集団でナトリウム摂取量とカリウム摂取量を組み合わせて試験した全ての研究で、ナトリウム摂取量はカリウム摂取量とポジティブに関係しており、カリウム摂取量の増加(3.5 g/d以上)は達成することが難しく、低ナトリウム摂取量(1.5 – 2.3 g/d)を維持することと集団の非常に小さな部分だけは、組み合わされたガイドライン目標値になっている食事をしていたことを示唆した(3)。さらに、非常な低ナトリウム摂取量を目標にすることの総合的な食事品質に影響を与える可能性がある。メルカドらによる研究は、目標食事品質を達成することはNHANESコホ-トで高いナトリウム摂取量でよりも2.3 g/d以下のナトリウム摂取量でより難しいかもしれない。

              3 ナトリウムとカリウムの複合摂取量と死亡率/心血管危険率の関係。

                心血管疾患発症または死亡の複合危険率のヒートマップは、中程度の

                ナトリウム摂取量が3 – 5 g/dおよびカリウム摂取量が多い地域で最も

                危険率が低く、ナトリウム摂取量が極端でカリウム摂取量が少ない

                地域で危険率が最も高いことを示している。これらのハザード比の

                参考ハザード比は、ナトリウムの一日排泄量/摂取量5.00 gおよび

                カリウムの一日排泄量/摂取量2.25 g(ナトリウムおよびカリウムの

                排泄量の中央値)の値に設定され、Xでマークされている。重ねられた

                線は、同時分布の四分位数を表し、各地域には分析された参加者の1/4

                が含まれる。r = 0.34

 

 多くの食事因子(例えば、果物、野菜そして肉摂取)と食事パターン(例えば、地中海食)は心血管疾患発症の様々な危険率と関連付けられる。総合的な食事品質はナトリウム摂取量の心血管への影響を修正することで重要であるように思われる。その結論はDASH-ナトリウム試験からの証拠によって支持される。それはあまり健康でない人々と比較して健康的な心血管食事の人々でより大きな血圧低下効果を報告した。比較的高いカリウム摂取量が高いナトリウム摂取量と血圧との関係を好ましく修正するかもしれないことを報告しているPURE研究からのデータと同様であった。疫学研究も、カリウム摂取量増加は心血管危険率低下、特に脳卒中についても関係していることを報告しており、高ナトリウム摂取量の悪い心血管効果を好ましく修正する。我々は長期的な実現可能性、許容性、正味の健康への効果、または一般的な(健康的な)集団で低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)の他の栄養素に及ぼす正味の効果に関して非常に限られたデータしか持っていない。

 ナトリウム摂取量を減らすことの心血管効果は地域によって非常に変化する食事中のナトリウム源の違いによっても影響されるかもしれない。ヨーロッパと北アメリカで、加工食品とファーストフードは過剰なナトリウム摂取量の重要な給源である。より健康的な食品選択(例えば、新鮮な果物や野菜)のためにこれらの食品項目の代替品はナトリウム摂取量を下げ、総合的な食事品質の改善を通して他の心血管健康上の利点も与える。他の地域で、生野菜の豊富な食事はナトリウムも豊富で(例えば、伝統的な日本食)、その様な食事パターンにおける低下は同じ心血管利益を持っていないかもしれない。

 

結論

1. 持続的な低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)を達成させるための介入(個人、社会、または国家)は実証されていない。

2. 低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)と高カリウム摂取量(3.5 g/d以上)を同時に目標値を達成させることは自由生活者では非常に希である。ナトリウム摂取量とカリウム摂取量はポジティブに相関しており、一般的な集団で現在の組み合わされたナトリウム-カリウム目標値を達成させることは難しい。

3. 比較的高カリウム摂取量で中程度のナトリウム摂取量(2.3 – 4.6 g/d)は集団の大部分によって達成され、観察研究で低心血管危険率と関係していたが、決定的な介入試験で証明されていない。

 

同じ証拠に関してどうしてそのような矛盾があるのか?

 ナトリウム摂取量低減は少しの血圧低下と関係していると言う同意はあるが、全ての低下が心血管疾患発症や死亡の低減につながる同意はない。そのような利益を明らかに示す決定的な長期間試験ないからである。高塩食を食べている人々(特に総合的に貧しい食事の背景にある)でナトリウム摂取量低減が望ましいことに関する一般的な(必ずしも完全ではない)同意があり、そのため、意見の相違は、一部の個人でナトリウム摂取量を減らすべきかどうかではなく、誰がどの程度まで減らすべきか、ということである。低ナトリウム摂取量の勧めは一般的に国民保健の観点を想定しており、ナトリウム摂取量の分布を左に移動させるために人口全体の介入に重点を置いており、このことは個人への影響は非常に小さいが、人口レベルでは潜在的に大きな影響を与える可能性があると言う1985年にローズによって最初に提案されたアプローチである。しかし、ローズのアプローチは、例えば、タバコの場合と同様、問題のリスク要因に関連する危険性は暴露が増えると一貫して増加すると仮定している。これは、関係がJ字型またはU字型関係である所には適用できない。低ナトリウム摂取量の勧めに反対し中程度の摂取量範囲を勧める人々はより「臨床的」な視点を採用し、特に目標の達成が困難で、観察研究が害を示唆する場合、人口レベルのナトリウム摂取量が少ないことを推奨するために必要な証拠レベルは、それを摂取する人々に利益をもたらす必要がある。心血管疾患医療の臨床医は、例えば、症候性起立性低血圧または再発性失神があるようなある患者でナトリウム摂取量増加を勧めており、したがって、臨床的なJ字型関係の存在は彼等の診療に固有のものである。さらに、臨床医は、便利な検査では測定できず、患者にとって達成が非常に難しいナトリウム摂取量の特定の目標値を推奨するという課題に直面している。その上、健康行動に関する公衆への多数のメッセージの文脈において、効果のないまたは実行不可能な介入に投資することにより、効果的な介入からリソースをそらす危険性がある。強力な公衆衛生メッセージが、それを裏付ける確実で一貫した証拠なしに策定された場合、結果として「機会費用」と信頼性ギャップの危険性が生ずる。

 

ナトリウム摂取量が非常に少ないという公衆衛生政策に根本的な欠陥はあるか?

 食事ガイドラインへの現在のアプローチで議論の余地のある欠陥は推奨された摂取量範囲または目標値を決定する前に要求された証拠のレベルである。ナトリウム摂取量の場合、低ナトリウム摂取量(1.5 g/d以下)を目標とした最初の決定は、血圧低下を示した小規模短期間試験と30日間の低ナトリウム摂取量を評価したDASH-ナトリウム試験のメタアナリシスに基づいていた。一般的に強い食事勧告を作成するために要求される証拠は、特定の適応症に対する医薬品の推奨に必要な証拠と比較して、強度と品質が劣っていた。ナトリウム摂取量に関するガイドラインは、個人のナトリウム摂取量の妥当で便利な測定が利用できなかったことを考慮しないで、非常に低いナトリウム摂取量を達成することが可能である(そして全集団で決して示されなかった)証拠なしに、他の食品や栄養素(例えば、カリウム摂取量)の摂取量に及ぼす効果に関して十分な考慮をせずに、そして低ナトリウム摂取量が(通常の中程度摂取量と比較して)心血管疾患発症を下げると言う十分な証拠なしに作成された。

 2つのガイドライン委員会は証拠の強さを表すGRADEシステムを採用した。しかし、GRADEアプローチは医療介入(すなわち、医療品と医療器機)に関連した証拠を要約するために主に開発された。公衆衛生的介入に関するガイドライン勧告値を作成するためのGRADE方法論の適用には、特に観察研究が重要な役割を果たす必須栄養素については課題がある。必須栄養素の健康への影響を評価するための推奨事項に取り組むには新しい方法論または既存の方法論の改善が明らかに必要である。

 

我々は減塩の大規模なランダム化比較試験を必要とするか?

 ナトリウム摂取量と人の生理学や健康との関係についての我々の知識には大きなギャップが残っている。しばしば言われる欠陥は心血管疾患発症や死亡に及ぼす低ナトリウム摂取量の効果と安定性を、特に心不全患者で確立するために大規模なランダム化比較試験がないことである。その様な試験は平均ナトリウム摂取量を0.5 – 1 g/d減らすことの有効性を明確にすることが期待されるが、低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)が効果的で安全かどうかと言う疑問には答えていない。グループ間のナトリウム摂取量の大きな差を達成することは、集中的な食事カウンセリングをしても難しいことは分っており、持続的な低ナトリウム摂取量による結果を出した利用できる介入はない。進行中のランダム化比較試験は、ナトリウム摂取量を減らすための専門家の食事カウンセリングが心血管疾患発症を減らしているかどうか、そして減塩が心不全患者で結果を改善するかどうかに取り組めるが、持続的な低ナトリウム摂取量(2.3 g/d以下)が介入グループで達成される可能性は低いので、低ナトリウム摂取量を特に評価する可能性は低い。

 

現在の証拠に基づいて我々は何を勧め/示唆できるか?

個人レベル

 大規模なランダム化比較試験と個人のナトリウム摂取量を正確に測定する方法論がないので、我々は特定のg/dナトリウム摂取目標値を勧めることを避けるべきである。高ナトリウム摂取量の鍵となる給源(特に心血管疾患危険性と関係のない食品、例えば、高ナトリウム含有量の加工食品)を避けることに関して実践的なアドバイスをすることは合理的である。このガイダンスは全体的な食事の質に関する推奨事項に組み込む必要があり、個人の特定のグループ、特に高血圧者を対象とすることが最適である。

人口レベル

 現在の証拠には限界があり、存在する証拠の解釈で意見の相違はあるが、観察研究に基づいて心血管疾患発症と死亡の発生に関する減塩の大規模なランダム化比較試験の結果を待ちながら、5 g/d以上の平均ナトリウム摂取量人口に5 g/d以下の人口レベル平均目標値を示唆することは合理的である。