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心不全における塩制限:我々が行っていることと知らないこと

Sodium Restriction in Heart Failure: What We Do and Don’t Know

By Eloisa Colin-Ramirez and Justin Ezekowitz

Medscape   2020.08.06

Editorial Collaboration

Medscape & American College of Cardiology

 

 塩制限は心不全患者のための長い間自己治療の要であり、心不全における体液バランスの関連と体液過剰に対する塩摂取量の潜在的に寄与している。この推奨は、塩制限が生活の質に及ぼす影響にもかかわらず持続しており、心不全患者の予後は、塩制限を支持する質の高い証拠がないために、過去10年間一貫して疑問視されてきた。塩制限は心不全患者の臨床的結果を長期間にわたって変化させるか?ここに我々が知っていることと、我々が学ぶ必要があることの概要を示す。

 

どうして塩制限か?

 心不全、特に拍出量が低下した心不全は、ナトリウム増加と水貯留を通して心臓拍出量を維持するための代償的応答として交感神経(SNS)活性とレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)によって特徴付けられる。しかし、この神経ホルモン活性の長期間効果は心不全の進行に寄与する。さらに、通常、SNSRAAS活性を打ち消すシステムは、さらなる血管収縮と体液量過剰に寄与することにより心不全の発症でも変化する。

 

心不全ガイドラインは何を勧めるか?

 米国心臓病学会財団/米国心臓協会 (ACCF/AHA)、カナダ心臓血管学会(CCS)、およびヨーロッパ心臓協会(ESC)などの主要機関によるガイドラインは質の高い証拠が限られておりながら塩制限食を是認しているけれども、1日当たりの推奨摂取量に関しては合意がない()

 

表 心不全患者のための1日当たり塩摂取量推定値

機関

症候性心不全

ステージABの心不全

ステージCDの心不全

米国心臓病学会財団/米国心臓協会

3.8 g/d以下に塩制限

3.8 g/d

症状改善のためにある程度の塩制限を考慮(例えば、7.6 g/d以下)

カナダ心臓血管学会

5.1 - 7.6 g/dに塩摂取量制限

5.1 - 7.6 g/dに塩摂取量制限

5.1 - 7.6 g/dに塩摂取量制限

ヨーロッパ心臓協会

特別な最高一日塩摂取量なし;6 g/d以下に制限することをアドバイス

特別な最高一日塩摂取量なし;6 g/d以下に制限することをアドバイス

特別な最高一日塩摂取量なし;6 g/d以下に制限することをアドバイス

 

ACCF/AHAガイドラインは症候性心不全患者(クラスlla、レベルC)で中程度の塩摂取量を勧めている。2012年米国心臓協会勧告値に従ってACCF/AHAガイドラインは全人口に3.8 g/d以下の塩摂取量に制限することをアドバイスしている;ガイドラインはステージAB心不全患者にもこのレベルが適正であると考えている。ステージCまたはD心不全患者については正確な勧告値はないが、ACCF/AHAは、これらの患者は症候改善のために塩摂取量を7.6 g/d以下に制限していることを示唆している。

ACCF/AHAガイドラインと対照的に、ESCガイドラインは心不全患者に特別な最高塩摂取量を提供していないが、6 g/d以上の過剰な塩摂取量に対してはアドバイスしている。2017CCSガイドラインは5.1 - 7.6 g/dの塩摂取量に制限することを示唆している。

 

矛盾する証拠

 心不全患者の臨床結果に及ぼす塩制限の効果に関する疫学的証拠は様々な結果を示してきた。平均3年間にわたる心不全の外来患者の塩摂取量を調査した観察研究は、7.1 g/d以上の塩摂取量患者は低い塩摂取量(7.1 g/d以下)の患者と比較して急性心不全についての危険率が大きいことを示唆している。年齢、性、カロリー摂取量、左心室排泄量、体格指数、ベーター・ブロッカー使用、およびフロセマイド使用に関して調整した後でも、これらの結果は一定のままであった。

 302人の心不全患者で24時間塩排泄量を測定した観察研究と244人の心不全患者で食事日記をレビューした前向き研究のような他の長期間研究は低塩摂取量(5.1 g/d)に従った軽症心不全患者で疾患のない生存期間が短いことを示唆しており、塩摂取量が7.6 g/d以上の中症から重症の心不全患者で潜在的に有害であることを示唆している。Heart Failure Adherence and Retention Trialに登録された心不全患者のデータを解析したごく最近の長期的な研究は、心不全による死亡または入院の複合的な結果の危険性と塩摂取量が6.4 g/d以下の患者で心不全による入院が高まることを示している。

 幾つかのランダム化比較試験(RCTs)からの証拠も様々な結果を示している。例えば、メキシコの心不全クリニックで患者203人の我々の試験は、塩制限のために通常の食事勧告を受けているグループと比較して6.1 g/d以下の目標塩摂取量による食事介入を受けたグループで再入院が少なくなり、12ヶ月の生存期間が長くなる傾向を示した。さらに、38人の心不全患者を追跡した我々のパイロット研究は生活の質と6ヶ月間3.8 g/d以下の塩摂取量を達成した患者でBタイプのナトリウム利尿ペプチド量で改善を示唆した;しかし、臨床結果はこれらの患者で調べられなかった。

 逆に、パリネロらによる研究とパテルナらによる2つの研究は、利尿剤高投与と厳格な水分制限の組み合わせで低塩摂取量(4.6 g/d)対中程度塩摂取量食(7.1 g/d)の臨床症状に関しては悪い効果を示唆している。これらのRCTsからの証拠における矛盾は少なくとも部分的に研究設計の特徴(例えば、力不足で共同介入は臨床ガイドラインと矛盾していた)であるかもしれなかった。

 9研究と479人の最近の系統的レビューは、減塩食を食べていた外来心不全患者で臨床上改善の限られた証拠を明らかにし、結果は心不全患者について結論付けられなかった。研究には心血管に関連したまたは全ての原因による死亡、心血管関連の発症、入院または入院期間のような臨床結果に関する十分なデータを提供したレビューは含まれなかった。

 これに続いて、PROHIBITパイロット研究は27人の心不全患者を3.5 g/dまたは7.6 g/dの塩を含む食事を毎日食べるようにランダムに割り当てた。12週間の追跡後、3.5 g/dグループの患者で生活の質は改善されたが、7.6 g/dグループの患者では変わらないままであった。N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド量はどちらのグループでも影響されなかった。

 

学ぶ必要のあること

 明らかに、心不全患者における塩制限の役割について重要な疑問に答えるためにさらに調整を行う必要がある。

例えば、

  塩制限は慢性または急性心不全患者により大きな、またはより小さな影響を及ぼすか?

  心不全の結果に及ぼす本当の悪物は何か-塩摂取量、水分摂取量、またはより幅広い食事成分?

  心不全患者で塩制限が悪い臨床結果を減らせば、全ての心不全タイプ、または特定の心不全表現型またはシナリオについてのこれらの結果を減らすのに有効か?

一方、利用できる証拠、心不全における体液バランスの関連性、および体液過剰に対する塩摂取量の潜在的な寄与などに基づいて、我々

は、心不全患者(特に症候性の人)の塩摂取量を5.1 g/d – 7.6 g/dの間に中程度に制限することは合理的であると考える。進行中の試験ナトリウム-心不全は心不全患者で通常の治療と比較して臨床結果に及ぼす低摂取量(3.5 g/d以下)の有効性を調整している。この実用的な試験結果は、塩摂取量を大幅に制限する効果に関する追加情報を提供し、将来の推奨事項を導くのに役立つ。