この塩代替品は血圧を下げるのに役立つ可能性がある。
では、なぜこれを使用する人が少ないのか?
This Salt Alternative Could Help Reduce Blood Pressure.
So Why Are So Few People Using It?
By Xiaoyue Xu, Alta Schutte, and Bruce Neal
The Conversation 2024.01.29
オーストラリアの成人の3人に1人は高血圧症である。過剰な塩分(ナトリウム)は高血圧症のリスクを高めるため、高血圧症の人は食事中の塩分を減らすよう勧められている。しかし、何十年にもわたる強い勧告にもかかわらず、オーストラリア人塩摂取量を減らすよう説得できていない。調理方法を変えたり、味付けを変えたり、スーパーマーケットの棚から減塩食品を選んだり、塩分の少な味を受け入れたりするのは、人々にとって難しいことである。
今では、シンプルで効果的な解決策がある。カリウム強化塩である。通常の塩と同じように使用でき、ほとんどの人は味に大きな違いを感じない。カリウム強化塩への切り替えは、塩摂取量を減らすのとは違って実現可能である。我々の新しい研究では、高血圧の臨床ガイドラインでは、患者に明白な切り替えの推奨を与えるべきだと結論付けている。
カリウム強化塩とは?
カリウム強化塩は、通常の塩を構成する塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置き換えたものである。低ナトリウム塩、カリウム塩、ハート塩、ミネラル塩、または減塩塩とも呼ばれる。塩化カリウムは塩化ナトリウムと見た目も味も似ている。カリウム強化塩は、ナトリウム摂取量を減らすだけでなく、カリウム摂取量を増やすため、血圧を下げる働きがある。主に果物や野菜から摂取されるカリウムの不足は、高血圧のもう1つの主な原因である。
証拠は何か?
20,995人を対象としたランダム化試験から、カリウム強化塩に切り替えると血圧が下がり、脳卒中、心臓発作、早期死亡のリスクが軽減するという強力な証拠が得られた。参加者は脳卒中の既往歴があるか、60歳以上で高血圧であった。
他の21件の研究の概要から、世界の人口の多くがカリウム強化塩の恩恵を受ける可能性があることが示唆されている。
世界保健機関の2023年高血圧に関する世界報告書では、カリウム強化塩が血圧を下げ、脳卒中などの心血管イベントを予防する「手頃な戦略」であると強調されている。
臨床ガイドラインには何を記載すべきか?
我々は、アメリカ、オーストラリア、日本、南アフリカ、インドの研究者と協力し、世界中の高血圧管理に関する32の臨床ガイドラインをレビューした。我々の調査結果は、本日、アメリカ心臓協会のジャーナル「高血圧」に掲載された。
現在のガイドラインでは、カリウム強化塩の使用について明確で一貫したアドバイスがされていないことが分かった。
多くのガイドラインでは、食事中のカリウム摂取量を増やすことを推奨しており、すべてのナトリウム摂取量を減らすことに言及しているが、カリウム強化塩の使用を推奨しているのは中国とヨーロッパの2つのガイドラインだけである。
ガイドラインが最近の証拠を反映できるように、オーストラリアおよび世界中で採用
できる具体的な文言を提案した。
なぜそれほど多くの人が使用しないのか?
ほとんどの人は、自分がどれだけの塩を摂取しているか、またはそれが健康にどのような問題を引き起こす可能性があるかを認識していない。カリウム強化塩に簡単に切り替えれば、血圧を下げ、脳卒中や心臓病のリスクを減らすことができることを知っている人はほとんどいない、
入手が限られていることももう1つの課題である。オーストラリアの小売店ではカリウム強化塩を扱っているが、通常は1つのブランドしかなく、一番下の棚や食品専用売り場に置かれることが多い。
カリウム強化塩は通常の塩よりも高価であるが、他のほとんどの食品と比較するとまだ安価であり、現在入手可能な多くの高級塩ほど高価ではない。
2021年のレビューによると、カリウム強化塩は47ヶ国でのみ販売されており、そのほとんどは高所得国であった。価格は通常の塩と同じからほぼ15倍までの範囲であった。
一般的に高価であるが、カリウム強化塩は病気の予防に非常に費用対効果が高い可能性がある。
害を防ぐ
カリウム強化塩の使用に関して頻繁に懸念されるのは、重度の腎臓病を患う人口の約2%に高カリウム血症のリスクがあるという点である。重度の腎臓病を患う人は、通常の塩を避け、カリウムを多く含む食品を避けるよう既にアドバイスされている。
高齢者までに行なわれた同様の試験でもカリウム強化塩による害は記録されていないが、すべての研究は腎臓病患者向けの特別なガイドラインに基づいて臨床環境で行なわれた。我々の現在の優先事項は、高血圧の管理を受けている人々にカリウム強化塩を使用してもらうことである。医療従事者は高カリウム血症のリスクがある人にはカリウム強化塩を使用しないようアドバイスできるからである。
一部の国では、カリウム強化塩は潜在的なメリットが非常に大きいため、コミュニティ全体に推奨されている。モデル化研究によると、中国では国民がカリウム強化塩に切り替えれば、毎年約50万件の脳卒中と心臓発作が回避されることが分った。
次に何が起こるか?
2022年、保健大臣はオーストラリアの高血圧対策タスクフォースを立ち上げ、2030年までに血圧管理率を32%から70%に改善することを目指している。カリウム強化塩はこれを達成する上で重要な役割を果たすことができる。我々はタスクフォースと協力して、オーストラリアの高血圧管理ガイドラインを更新し、新しいガイドラインを医療専門家に推進している。
それと並行して、カリウム強化塩をより入手し易くする必要がある。我々は、これらの製品の全国的な入手性を高めるために関係者と協力する。
世界は既に一度、塩の供給を普通の塩からヨード添加塩に変えている。ヨード添加塩の取り組みは1920年代に始まり、成果が出るまでに100年近くかかった。塩のヨード添加は、前世紀の重要な公衆衛生上の成果であり、甲状腺腫(甲状腺が肥大する病気)を予防し、ヨードが正常な成長と脳の発達に不可欠であるため、世界で最も貧しい何百万人もの子供達の教育成果を向上させた。
ヨード添加塩とカリウム強化塩への次の切り替えは、少なくとも同様の世界的な健康増進の可能性を秘めている。しかし、我々はそれをほんのわずかな時間で実現する必要がある。