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塩に関する一般通念を整理

Shaking up the Conventional Wisdom on Salt

By Michelle Minton

Competitive Enterprise Institute 2017.01.24

 

塩摂取量と高血圧について科学が本当に言っていること

 

 塩を食べ過ぎれば血圧が上昇するという通念は、本著者を含めてほとんどの人々が過去30年間信じられてきた医学的真実として受け入れられてきた。しかし近年、かつて受け入れられていた真実に挑戦する研究が発表された。“塩は本当に血圧に悪いか?”と尋ねる表題や“塩に関する論争を終える時”と宣言する表題は、塩についての事実や健康に及ぼす塩の影響がかつて信じられていたほど明確な真実ではないかもしれない、と言う疑いを人々の間で広げてきた。

 世界中で慢性的な高い血圧は成人人口の約40%に影響を及ぼしている。アメリカ合衆国では、成人のほぼ1/3が高血圧と見なされている。高血圧は心臓発作、心不全、脳卒中を含め多くの重大な健康状態について人々を大きな危険性にさらす。

 医療費を考えると、病気に苦しんでいる人々と医療制度に負荷をかけている両方の意味で、政府機関は高血圧罹患率を下げることを最重点事項としてきた。高血圧率を連続的に下げる公衆衛生戦略には、数百万人の生活を改善し、数百万ドルを節約できる可能性がある。他方、間違って導かれたアプローチは高血圧を減らすことにせいぜい失敗するだけだが;悪くすれば、害を増加する行動変化を奨励し、危険率低下のより有効な手段を不明瞭にし、政府機関に対する公共の信頼性を侵害する。

 これらの理由のために全人口への勧告は素晴らしく、厳しい基準を守るべきである。最低限下記のような勧告であるべきである:

  範囲を限定し、確かで高品質なエビデンスに基づく;

  意図しない結果を評価し、綿密に考察する;

  考えられる代替案よりも効果的で、害が少ない。

 科学文献のレビューに基づくと、政府努力の約40年間の結果は減塩と本論文で述べられているような高血圧低下の他の手段-可能性のあるより効果的な手段-の存在に焦点を置いており、塩摂取量に関する現在の政府勧告はこの基準に合わせることに失敗している。

本研究の鍵となる結果は下記の通りである:

  人間は身体が体液ホメオスタシスを調節するためにある量の塩を必要とする。塩が少なすぎると身体の機能が停止し、一方、多すぎれば緊張や死亡を引き起こす結果となる。しかし、科学界は塩摂取量の最適範囲に関してまだ一致していない。

  少なくとも部分的に、人がどれだけの塩量を要求する(“塩欲求”)しているかを決定する要因は生物学的に決定され、気付かない方法で人々の摂食行動に影響を及ぼす。このことが減塩に対する公衆衛生努力の抵抗となっている(減塩は望ましくない生理学的応答と促し、行動を変える)

  現在、アメリカ保健福祉省、アメリカ農務省、疾患管理予防センターのような政府の保健機関は5.8 g/d以下の塩摂取量を成人に勧めている。この限界値は科学界に相談して決めたものではなく、政府の決断、政治家による後押し、官僚、産業界により決められた。

  ほとんどの人間集団はアメリカ政府が勧告値以上の塩摂取量で比較的同じ様な量を摂取しているが、一方、いくつかの孤立した部族やサハラ以南のほんの一握りの集団だけが5.8 g/d以下の塩を摂取している。

  アメリカ人は1950年代に調査が始まって以来、それほど塩摂取量を増加していない。加工食品の摂取量増加、加工食品中の塩含有量増加、カロリー摂取量と平均体重の両方のかなりの増加にもかかわらず塩摂取量は増加していない。

  減塩はある人々については血圧を下げるが、その応答はある極端な摂取量で見られるだけで、不均一である。減塩したとき、ある人々は血圧低下を経験するが、ある人々の血圧は変化せず、そしてある人々は血圧上昇を見る。

  科学的エビデンスは高血圧でない人々については中程度減量の健康利益に関して一致していない。

  人々は高血圧の結果として死ぬことはないが、むしろ関連した合併症で死に、必ずしも高い血圧によって死ぬわけではない。推論として、血圧低下は必ずしも健康結果を改善する結果とはならない。

  推奨値以下の塩含有量の食事はネガティブな健康結果と関係しているが、この関係の原因は不明である。

  減量やカリウム摂取量増加のような他の食事要因が血圧低下に減塩と同様に効果的であるという科学文献内ではほぼ全般的な同意がある。そのような代替戦略も集団の大部分について利益があり、守れる可能性は高く、意図しない結果をもたらすことはあまりない。

世界中で勧められている限界値以下に集団の塩摂取量を下げる政府の試みは40年間の努力にもかかわらず失敗してきた。この失敗と全人口に及ぼす減塩の生物学的影響について我々が現在知っていること-そして知らないこと-を考えると、高血圧率を低下させる努力に従事している政府の保健機関は塩に関する近視眼的で無駄な論争を最終的に止めるべきである。

高血圧の発症は個別で、多くの要因からなり、単一の遺伝要因や生活様式の要因によって影響されない;減塩はある人々には勧める価値があるが、他の人々には効果がないか逆効果になることがある。危険率低下についての最も効果的なアプローチは患者と医療提供者による個別の根拠に基づいてのみ行われる。しかし、政府が人口の高血圧率を減らす試みを続けるのであれば、人々の減量に役立て、果物や野菜の摂取量増加による食事でカリウム摂取量を増加させることに向けた努力に重点方向を変えるべきである。塩を中心にしたアプローチと比較して、この戦略はよりしっかりとした科学的根拠を持っており、予期しない害を引き起こすことは少なく、血圧低下に加えて健康利益さえ持っているかもしれない。