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Hyme Energy、溶融塩電池技術を進化させる

Thyme Energy Advances Molten Salt Battery Technology

By Steve Hanley

https://cleantechnica.com/        2025.03.31

 

 デンマークのHyme Energy社は、溶融塩を用いて再生可能エネルギーを貯蔵し、後で使用するという新たな方法を開発した。これは、集光型太陽熱発電の考え方を少し応用したものである。サマーキャンプでカウンセラーが虫眼鏡を使って木片にイニシャルを焼き付けたのを覚えていますか?これが集光型太陽熱発電の基本的な考え方である。鏡を並べ、太陽光を同じ方向に反射するように配置すれば、集光点では驚くほど高温になる。

 ここで、理論と現実の乖離という古くからの問題に直面することになる。集光型太陽熱発電は理論上は魅力的に聞こえるが、すべてのミラーを設置して正しい方向に向けるのは非常に困難である。それだけでなく、最終的に生成される電力は、信頼性の高い古き良き太陽光パネルから得られる電力よりも高価になる。蒸気タービンは蒸気の供給源を気にしない。木材、ゴミ、メタン、石油を燃焼させたものでも、原子を衝突させたものでも構わない。発電機が気にするのは、蒸気の温度と圧力が適切かどうかだけである。

 Hyme Energyはより優れたアイデアを持っている。集光型太陽熱発電システムに多額の費用をかける代わりに、日中の最も日照時間の長い時間帯に利用可能な再生可能エネルギーの余剰エネルギーを利用して塩を加熱し、日没後にその溶融塩から蒸気を発生させるのはどうであろうか。これは、再生可能エネルギーの「ディスパッチ可能性」に対する[壽橋1] 潜在的な解決策である。現在の系統規模の蓄電池は、約4時間しか電力を系統に送り返すことができない。Hyme Energyは溶融塩を貯蔵タンクから熱交換器にポンプで送り込み、工業用蒸気を生成する際に回収したエネルギーを放出するために、同社の技術では10時間以上電力を送電できると主張している。これは、プロセス熱の脱炭素化を支援する、コスト競争力があり、環境に優しく信頼性の高い産業用熱電化ソルーションを提供する。

 2024年、Hyme Energyとスイスの流体エンジニアリング専門企業Sulzerは、デンマークのエスビャクに溶融塩実証プラントを共同で建設する。この施設は、最高600 ℃の温度で溶融塩に再生可能エネルギーを貯蔵するという概念を実証した。「当社の技術は既存のインフラと統合できるように設計されており、持続可能なエネルギーへの移行を目指す産業にとって導入を容易にする。」と、Hyme EnergyCEO兼共同創設者であるAsk Emil Løvschall-Jensenは述べている。

 Sulzerは過去20年間、溶融塩ポンプの開発において主導的な役割を果たし、緊密な技術提携を育み、この分野における新たな進歩を切り開いてきた。第三世代集光型太陽熱発電システムの開発、実績のある溶融塩ポンプのラインアップ、そして精密工学部品の迅速な試作能力は、Hyme Energy社との革新的なエネルギー貯蔵技術の商業化に大きく貢献する。

 両社は現在、この実証プロジェクトから得られた教訓を活かし、最大90%の効率で約10万世帯に10時間電力を供給できる1 GWhの溶融塩貯蔵システムの開発を計画している。「溶融塩を用いたエネルギー貯蔵は、熱回収、再生可能エネルギー貯蔵、小型モジュール炉など、産業の脱炭素化とエネルギー転換の加速に貢献する魅力的な機会である。」と、Sulzerのアドバンス・エンジニアリング・マネジャーBenoît Martinは述べている。「Hyme Energy社と協力し、この革新的な技術をさらに検証し、すべての人々の利益につなげられることを大変嬉しく思う。」

 この技術は、塩素製造の安価な副産物である溶融水酸化物塩を利用し、再生可能エネルギー源から回収したエネルギーを貯蔵する。2つのタンクを備えた貯蔵設計と独自の水酸化物腐食制御技術を活用することで、再生可能エネルギー源からの電力を溶融水酸化物塩に最大2週間貯蔵できる。特に重要なのは、この最後の部分である。過熱塩は腐食性が非常に高く、長期間の管理が困難である。Sulzer は溶融塩ポンプ開発において豊富な経験を有しており、中国の100 MW集光型太陽熱発電プロジェクトへのポンプ供給もその1つである。「MOSSプラントは20244月の稼動開始以来、良好な成果を上げている。現在、Hyme Energyと協力してシステムのさらなる最適化、ソルーションの競争力向上、そして強力なサプライチェーンの構築に取り組んでいる。」とMartinは付け加えた。

 Hyme Energy社によると、このシステムは産業用熱用途で約90%、コジェネレーションで80%から90%の効率で達成するとのことである。発電のみの場合、効率は40%と推定されている。「当社の信頼性の高いソルーションは、断続的な再生可能エネルギーを安定的かつ柔軟なグリーン熱に変換し、妥協のない脱炭素化を可能にする。」と同社は述べている。同社は現在、デンマークのホルステブロに世界最大級と謳われる200 MWhの産業用熱エネルギー貯蔵システムを開発中である。完成すれば、デンマークとスェーデンの酪農協同組合であるArla Foodsは、プロセス熱コストを年間300万ユーロ(310万ドル)削減できると見込まれている。「Hymeにとって、Sulzerのような確立されたパートナーと協力することは非常に重要である。両社の強みを組み合わせることで、開発を加速し、このソルーションをより早く市場に投入することができる。」とLøvschall-Jensenは述べている。

 

未来は過去ではない

 化石燃料産業は、数十年前に開発された技術に夢中である。James Wattは、石炭を燃やして蒸気を発生させるプロセスを初めて完成させた人物の1人である。アメリカの新エネルギー長官Chris Wrightは、石炭の効用を称賛し、それが現代社会の発展を可能にしたと人々に説いている。もちろん彼の言うことは正しいが、石炭を燃やすことで何兆トンもの二酸化炭素ガスが大気中に排出され、何百万トンもの有毒ヘドロが周辺の土地や水を汚染してきたという事実は変わらない。Wrightとその同類は、石炭を使い続けることは神への冒涜であり、石炭の使用に反対する者はある種の「目覚めた精神のウイルス」に感染しているかのように振る舞う。

 実際、神に対する真の冒涜とは、地球を共同便所のように扱い、人間の活動による廃棄物が積み上がり続けることであり、それは主に資本主義がそれらの汚染物質に何のコストも課さないためである。溶融塩エネルギー貯蔵のような汚染のない代替手段があるにもかかわらず、地球を傷つけることは、なんと利己的で愚かなことか。化石燃料支持者達は、自分達の富を守るためなら、今日生きている、あるいはこれから生まれるすべての男女、子供を喜んで殺すであろう。人類が地球上からほぼ消滅した後、それだけのお金が彼等に何の役に立つのかは、人生の大きな謎の1つである。

 テキサス州は、併設されている蓄電池が枯渇した際に電力を供給するため、すべての風力・太陽光発電施設にメタン燃料発電所の設置を意義付ける法案を検討している。しかし、環境汚染を増やすことなくこの問題の解決できる、新たな長期エネルギー貯蔵技術が数多く開発されている。それらを無視して、100年前の技術の頼るのは、コストがかかるだけでなく、単純に愚かな行為である。我々はアスベストやフロンなしで生きることを学んだ。化石燃料なしでも生き、繁栄することを学ぶことができるのである。