ナトリウム・イオン電池の動く標的:
イノベーションと政策が進化する電池技術市場を形作る
The Moving Target for Sodium-Ion Batteries: Innovation and Policies Shape the Evolving Market for Battery Technologies
By Zainab Gilani
https://cleantechnica.com/ 2025.07.24
世界的なサプライチェーンの課題とリチウム供給を巡る不確実性が続く中、ナトリウム・イオン電池は、ナトリウムの豊富さを考えると、引き続き魅力的な解決策となるであろう。しかし、リチウム・イオン電池のコストが下がって行くにつれ、ナトリウム・イオン電池の将来は不透明になる可能性がある。輸送・モビリティ用途では、ナトリウム・イオン電池のエネルギー密度が低いことが課題となる。しかし、定置型蓄電池や長時間駆動用途では、ナトリウム・イオン電池が最終的にコストを削減できれば、耐久性の高い長寿命ソルーションを提供すると言う課題が、より大きなチャンスとなる可能性がある。
ナトリウム・イオン電池というカテゴリー内でも、特定の結果を得るためには、様々な化学組成とセル設計方法がある。ナトリウム・イオン電池メーカーは、様々な正極材料と負極材料を使用しており、中には固体設計を開発しているメーカーもある。例えば、Natron社は正極と負極の両方にプルシアン・ブルー材料を使用し、イオンが通過する大きなチャネルを設けることで急速充放電を可能にしている。これは高速応答が求められるユースケースに最適であり、Natron社はデータ・センター分野の顧客と緊密に連携し、特定のエネルギー貯蔵および電力ニーズに対応してきた。
Peak Energy社は異なるアプローチを選択している。同社のNFPP(Na3(Fe2PO4)3)設計は、送電網規模の定置型ニーズに合わせて最適化されている。リチウム・イオン電池におけるリン酸鉄リチウムの役割は、ナトリウム・イオン電池におかるNFPPの役割とほぼ同等である。NFPPは、部品のサプライチェーンの強化、国内生産体制の構築、そして安全性と信頼性の向上といったメリットを提供する。しかし、エネルギー密度がここでも重要な要素となるため、ナトリウム・イオン電池のコスト削減が不可欠である。
リン酸鉄リチウムとの比較
ナトリウム・イオン電池の進歩に伴い、他の電池化学、特にリン酸鉄リチウム電池の開発も進んでいる。Bedrock Materialsは、広範な経済分析を行なった結果、ナトリウム・イオン電池はリン酸鉄リチウム電池に対してコスト競争力がないという結論に達し、seed rounで調達した900万ドルの大部分を投資家に返還することを決定した。
重要な結論の一つは、Bedrock Materialsの分析によると、楽観的な予測を用いたとしても、ナトリウム正極材料はLFPグラファイトセルのコストと競争できないというものであった。「炭酸リチウムの価格が44,000ドル/gを超えない限り、つまり現在のリチウム価格9.69ドル/kgからは程遠い限りは」現在の炭酸リチウム価格を用いた推定コストでは、セルレベルのコストはNFMとNFPPのナトリウム・イオンで約80~100ドル/kWhとなっている。
Bedrock Materialsもまた、エネルギー密度が極めて重要な役割を果たす電気自動車分野に主眼を置いたことが注目に値する。電気自動車分野にはIRAに関連した税額控除があったが、One Big Beautiful Bill(OBBB)が可決されたことで、クリーン車両税額控除は廃止される。しかし、Peak Energyは米国産材料を用いて米国で製造される蓄電池ユニットの開発に注力しており、クリーン・エネルギー・プロジェクトにおける国産材の使用義務化や、懸念される外国企業からの資材援助に関する規制と言ったOBBBの方針から、より大きな恩恵を受ける可能性がある。
今後の展望
市場が成熟する一方で、ナトリウム・イオン電池メーカーは、より優れた先進的なセルの研究開発に着実に取り組んでいる。CATLとBYDは中国で自社のナトリウム・イオン電池モデルの開発と改良を進めている。イノベーターや研究者は、重量および体積エネルギー密度の向上、高容量電極材料や高電圧電解質の実験、サイクル寿命と耐久性の向上といった方法を模索している。
シカゴ大学などの大学は固体ナトリウム・イオン電池の研究を進めており、フロリダ州立大学は人工知能とロボット・プラットフォームを活用し、材料合成を支援してナトリウム・イオン電池用のより効率的な正極を開発している。また、Moonwatt、Salztrom、Zoolnasm、Guangde Qinga Technologiesが資金調達を行ない、Unigridは生産施設のさらなる開発のための助成金を獲得するなど、今年は多くのスタートアップ企業に資金が投入されている。