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塩の神話を揺り動かす:ヒトの塩の必要性

Shaking up the Salt Myth: The Human Need for Salt

By Chris Kresser

https://chriskresser.com/specialreports/salt/  on April 13, 2012より

 

私の塩シリーズの最初の部分で、塩の歴史的な重要性と人類の進化における塩の役割について考察した。塩は全ての文化と大陸を横断して数千年間非常に貴重な物質であった。しかし、ここ数十年間、過剰な塩摂取量は心疾患、高血圧、脳卒中のような我々の国を悩ます様々で重大な健康状態について非難されてきた。

多くの論議が最適な健康を維持するために必要な塩摂取量を決めることに集中してきたが、数年間の間に、示唆された上限値は下がり続けてきた。CDC(疾病予防管理センター)によると、アメリカ成人の平均塩摂取量は約8.4 g/dで、それは十分に標準勧告値いじょうである。アメリカ農務省はアメリカ人に5.8 g/d以下の塩を摂取するように促し、アメリカ心臓協会(AHA)は健康全般と疾患予防のために3.8 g/d以下と言うもっと厳しい塩摂取量を示している。

 旧石器時代の食事では塩摂取量は極端に低く(2 g/d)、内陸の狩猟採取民族は通常の生活では食べ物に塩をほとんど、または全く加えないことが理論付けられてきた。これらの狩猟採取食では、我々が今日罹る慢性の西欧疾患に罹らないことを知っている。疑問は、我々の遠い祖先の低塩摂取量は我々の食事に塩を加えることが必ず有害となることを意味するかである。我々はアメリカ心臓協会の塩ガイドラインである3.8 g/d以下に固執すべきか?あるいは、我々の健康を維持するだけでなく最適とする健康に良い塩摂取量の範囲があるか?

 

人体における塩の生理学的役割

 最近の塩の悪いニュースにもかかわらず、良い健康を維持するために疑いもなくヒトの食事で十分な塩を摂取することが必要である。汗や尿で毎日失われる量を補うために、健康な成人は3.8 g/dの塩を摂取することを医学研究所は勧めている。(皮肉なことに、この勧告値は旧石器時代の人の理論的な摂取量のほぼ2倍である。) 単に生命を維持するために生理学的に必要な最少塩量は1.8 g/dと推定されてきた。

 ナトリウムは生命維持に必要な栄養素である。それは細胞外液の主成分であり、十分な組織灌流と正常な細胞代謝を行わせる血漿量を維持するために必須である。ナトリウムは細胞外液陽イオンとして使われるので、一般的に血液やリンパ液中にある。細胞外液量の維持は体内で特に心血管の健康に関してナトリウムの重要な生理学的機能である。

 体液収支と心血管機能を維持するのに役立つ他に、ナトリウム・イオンと塩化物イオンも神経系で重要な役割を演ずる。これらのイオンの濃度変化でニューロンから他のニューロンや細胞に信号を送り、機械的な運動と同様に神経伝達も行う。塩で提供される塩化物イオンは塩酸(HCl)として胃液の中に分泌される。そしてHClは食べ物の消化と胃の中で食べ物から生ずる病原体の破壊に極めて重要である。

 本当にナトリウム欠乏が生ずると、ほ乳動物は低ナトリウム血症の症状、例えば、脳膨張、昏睡、鬱血性心不全、急性血液損失による心血管衰弱、ストレスに対する交感神経の心血管調整不全を経験する。本当にナトリウム欠乏状態の動物は塩辛い食べ物を探し出し、ホメオスタシスを復元するために必要以上のはるかに多くのナトリウムをしばしば摂取する。不十分な塩摂取量に応答するこれらの行動的な変化は生物学的な塩摂取量の重要性を一層示している。

 

腎臓による血漿ナトリウム濃度の制御

 健康な時、腎臓は血流力学入力、神経入力、ホルモンの入力を使ってナトリウムと水の排泄を制御する。これにより幅広い範囲のナトリウム摂取量に適正に応答できる。副腎で分泌されるステロイド・ホルモンのアルドステロンは体内の水と電解質の収支を制御するのに役立つ。

 急な塩摂取量の増加は細胞内から細胞外へ体液の再分布を引き起こす。しかし、23日後、腎臓は摂取量に合わせて特別なナトリウム排泄量で補償できる。したがって、健康な人々はあまり血圧を変えないで幅広い塩摂取量に一般的に適用できる。

 塩摂取量が非常に低くなると、我々の代謝はナトリウム節約モードに変わる。これはレニンーアンジオテンシンーアルドステロンのホルモン系を刺激し、そのことで浸透圧バランスと十分な血圧を維持する。レニンとアルドステロンの大きな増加はナトリウム欠乏の兆候で、塩摂取量が茶さじ1.5杯/日以下に低下した時に生ずることを示してきた。十分興味深いことに、5.8 g/dと言う塩摂取量勧告値は大体茶さじ1(訳者注:この数値は間違っている)の塩に等しい。この低い摂取量はレニンのより急速な上昇と関係している。

 このレニンーアンジオテンシンーアルドステロンのホルモン系の別の重要な決定因子はカリウム摂取量である。我々の生物学的機械(旧石器時代に発展した)は非常に名との少ないだけでなく非常にカリウムの多い植物性の食べ物と結び付いて進化してきた。旧石器時代の祖先と違ってアメリカ人は非常に低いカリウム摂取量である:男性で約3,200 mg/d、女性で2,400 mg/dである。医学研究所によって定義されている十分な摂取量は4,700 mg/dで、農耕以前の人類は10,500 mg/dと十分に摂取していたと推定される。

 この近代の電解質摂取量の逆転は全人口の高血圧発症率増加を決定付ける時の別の重要な考察要因である。カリウム摂取量は、高血圧の前兆のような塩感受性を含めて近代の過剰な塩摂取量と関係する病態生理学的効果と投与量応答的に対抗することを示してきた。したがって、Na/K比に加えてカリウム摂取量は近代的な食事でナトリウムだけが過剰であることと典型的に関係している疾患の発症で決定的な役割を演じているかもしれない。

 

ヒトの塩摂取量につてのエビデンス

 人体はこれらの塩摂取量の変化に対応する血圧変動を防ぐために複雑な生理学的機構に適合してきた。当然のことながら、疫学データは先進国文化では6.1 – 13.1 g/dの平均塩摂取量範囲を示してきた。ブラジル、パプア・ニューギニア、アフリカの田舎社会のような地域のいくつかの隔絶されたグループは2.9 g/dと言う少ない塩摂取量で生活していることが発見されてきた。しかし、これらの隔絶された社会で一般的に低血圧であることが発見されたにもかかわらず、これらの低い塩摂取量社会に存在する小さなエビデンスは、寿命が短く、死亡率が高いことを示唆している。

 幅広い人口で血圧に及ぼす塩摂取量の影響を調べたインターソルトの事例はブラジルの降雨林に住むヤノマモ・インディアンで、彼等は西欧人の平均血圧よりもはるかに低い平均血圧であることが知られている。彼等の生涯を通しての低血圧は極端に低い彼等の塩摂取量のためであり、これはアメリカ食から減塩する努力を一層支持するエビデンスとして使われてきた。

 塩‐高血圧仮説の事例としてヤノマモ・インディアンを使うことから生ずる大きな問題は、彼等の血圧にも影響を及ぼすかもしれない幅広い種類の混乱因子である。インターソルト・スタディの研究者達は次のように述べている:

   低いナトリウム・イオン摂取量とカリウム・イオン摂取量に加えて、ヤノマ

モ・インディアンでは高血圧が存在しないことと加齢に伴う血圧上昇がないこ

とことに寄与するかもしれない他の要因は次のようである:体格指数が低く肥

満がほとんどない、アルコール摂取がない、飽和脂肪酸の摂取量が低い、食物

繊維の摂取量が高い、運動量が比較的多い、文明の心理社会的なストレスがな

く、通貨制度または仕事に依存することがない隔絶された社会に住んでいると

言ういくつかの文化的な結果である。

 このデータは、ヤノマモ・インディアンがそのような低い血圧になった多くの理由を示唆している。データは高カリウム摂取量、多い運動量、低いストレス、アルコール摂取が完全にないことを含んでいる。さらに、ヤノマモ・インディアンは低血圧で心血管疾患はほとんどないが、彼等の総合的な健康結果は恒星より少ない。彼等は低い身長、高い死亡率、29 – 46歳の範囲で短い寿命であるとして民族誌学の文献に述べられている。これらの高い死亡率と混同した生活様式因子にもかかわらず、ヤノマモ・インディアンは塩—高血圧仮説を支持する主要な事例としてまだ使われている。

 インターソルトの結果は研究されたそれらの国々で塩摂取量と血圧との間に明らかなパターンを示さなかった。そして諸国の平均塩摂取量に対して平均寿命がプロットされた時、高い塩摂取量ほど長い寿命と実際に相関している傾向が示された。この相関関係は因果関係を説明していないが、高塩摂取量と高寿命の適合性を述べることは興味深い。

 我々が考察してきたように、世界中の様々な文化の毎日の塩摂取量には全く低い2.9 g/dからかなり高い13.1 g/dまでの非常に広い範囲がある。その上、健康な腎臓は体液ホメオスタシスを維持するために食事中の塩量の変動を調整することができることを我々は知っている。最後に、狩猟採取時代と旧石器時代の食事は非常に低い塩量で、もしかすると食べ物に塩を加えることは希であったことを我々は知っている。したがって、食事中の塩をアメリカ心臓協会やアメリカ農務省が勧める量まで制限することは何の重要な結果をもたらさなく、我々の祖先の食事を真似る時、理想的な食事選択になるように思われる。しかし、それとは反対のエビデンスがある:低塩食は、特に心疾患や糖尿病のような条件では重大な健康結果と高い総合的な死亡率に実際に導かれるかもしれない。

 

 このシリーズ私の次の論文で、あまりに低い塩含有量の食事を食べる潜在的な危険性と同様に、減塩の食事ガイドラインに関する矛盾したエビデンスを考察する。