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塩による蓄電技術の価値

A Battery Technology Worth Its Salt

By Nina Notman

https://www.chemistryworld.com/より

2019.10.28    

 

リチウム含有電池が含んでいるおおくの金属に関する制約に直面して、ニナ・ノットマンは、リチウムのグループ1にある隣のナトリウムが解決策を提供できるかどうかを考察する。

 

 リチウム・イオン電池は我々の近代的な生活の多くに動力を供給しており、事実は今年のノーベル賞に反映した。携帯電話や小型の電気器機といった非常に小さな着用電子器機から電気自動車や‘世界最大の蓄電池’-2017年にオーストラリアの風力発電所に建設された巨大な100MW/129MWhテスラ蓄電池までの範囲の装置で使われている。

 ‘リチウム・イオンには広範囲な用途がある、’とオーストラリア、ウロンゴン大学のエネルギー貯蔵研究者であるジョナサン・ノットは説明している。‘あらゆるナッツを砕くハンマーとしても使われており、我々は仕事に最適な道具として使用するにはもう少し洗練された物にする必要がある。’

 数百万ポンドのリチウム・イオン市場のシェアーを奪うために、多くの破裂電池技術は競争している-現在の価値では370億ドル以上で、5年以内に900億ドルに達することを計画している。ナトリウム・イオン電池については、その開発者達は主に(排他的ではないが)大規模な固定市場-例えば、テスラのオーストラリア基地に照準を合わせている。

 

大きさの問題

 2019年ノーベル賞受賞者の1人であるジョン・グッデナフは1980年代当初にオックスフォード大学で再充電可能なリチウム・イオン電池陽極の開発で鍵となる役割を演じた。リチウム・イオン電荷キャリア-が解決される前に、グッデナフは周期表でリチウムの直ぐ下にある元素のナトリウムからのイオンを使うことを考えた。‘しかし、Li+挿入はNa+挿入よりも早いので、我々の対応はLi+挿入を示す再充電可能な陽極に向けられた、’と彼はChemistry Worldで語っている。

 コバルト酸リチウム陽極が作られ、黒鉛陰極が考案され、彼等が言っている残りは歴史である。‘リチウム・イオン技術は1991年にソニーによって見出され、その使用で爆発が起こった、’とイギリス、オックスフォード大学の蓄電池研究者のマウロ・パスタは言っている。

 しかし、近年、ナトリウムがその有用性のお陰で幾分、復活してきている。‘地球上では十分なリチウム供給はあるが、必ずしも便利な場所にあるわけではない、’とグッデナフは説明している。さらに、リチウム・イオン電池の電極はコバルトを含んでいる。ナトリウム・イオン電池の電極にはコバルトが要らない。コバルトは高価で、その採鉱工程に関する重要な倫理的な問題がある。それはしばしば元素の血のダイアモンド(訳者注:貴重であるが血を伴う危険性がある)として言及される。安定性は別の潜在的な利益である。電池は完全に放電され、ゼロボルトになり、リチウム・イオン電池を被覆するますます厳しい輸送規制を回避している。

 しかし、他の破壊的な蓄電池技術に関する利点の点で、ナトリウム・イオン電池とこれまで最大のセールスポイントを持ったリチウム・イオン電池との間には類似性があり、市場への導入を容易にする。‘ナトリウム・イオンはリチウム・イオンに対して同様の挿入化学性等を持っており、驚くまでもなくナトリウム・イオン電池のためにテストされた多くの材料はリチウム用に使われた材料と類似している、’とイギリス、バース大学の材料化学者であるサイフル・イスラムは説明している。製造工程も類似している。‘リチウム・イオン電池を製造している[テスラ] Gigafactoriesの何処でもナトリウム・イオン電池製造に対して十分に対応できる、’とパスタは言っている。

 しかし、2つの間の相違は1980年代にグッデナフが述べた挿入-充電-速度に優っている。ナトリウム・イオンはリチウム・イオンよりも大きいので、それらのイオンを含む蓄電池のエネルギー密度-与えられた容量内に蓄えられるエネルギー量-は自然に低くなることが鍵となる問題である。このことはナトリウム・イオン電池技術を蓄電池の大きさが大きな問題とならない定置用途に向けられる。

 余剰の再生可能エネルギー貯蔵が主要な事例である。更新エネルギーの幾つかの形は、風が吹いたとき、あるいは太陽が輝いている時だけ発電出来る断続的問題を持っている。蓄電池は後で使用するために局地的に過剰なエネルギーを蓄える手段として流行している。例えば、オーストラリアでテスラの巨大なリチウム・イオン電池は州全体の長い停電に対応することで建設され、風力発電でグリッド24/7にエネルギーを供給出来るようにした。過程や商業施設で太陽光発電に併設して蓄電池の使用も世界の幾つかの場所で増加している。

 総エネルギーに占める更新エネルギーの割合も上昇しており、ナトリウム・イオン電池の開発者達はこの市場を彼等の技術が踏み込める空白の場所として見ている。そして彼等の概念が現在入手できないので、現在、世界中で塩を使って実験するナトリウム・イオン電池を示す数が次第に増えている。

 

最も密接な模倣

 蓄電池は、パンの部分が電極で挟み物を電解質とするサンドウィッチに似ている。リチウム・イオン電池では、電極と電解質の組成は必要な動作特性に応じて変化する。大抵の場合、陽極はコバルト酸リチウムで、しばしばニッケル、マンガン、アルミニウムのような元素で被覆された。陰極は一般的に黒鉛である。環状炭酸塩と脂肪族炭酸塩の混合物中のリチウム・ヘキサフロロホスフェイト(LiPF6)は最も良く使われる電解質である。

 ‘ちょうどリチウム・イオン電池のように、ナトリウム・イオン電池の大きな傘の下に全てが入る多くの異なった性質がある、’とノットは説明している。しかし、最も一般的なデザインは最も一般的なリチウム対照物のデザインと緊密に調整される:ナトリウム酸化物陽極、炭素ベースの陰極そして非溶液姓溶媒電解質である。

 イギリスのシェフィールドにあるファラディオンはナトリウム・イオン電池に関する最初の会社の1つである。‘我々は特許取得済みの一連の陽極材料を持っている、’とファラディオンの技術主任であるジェリー・バーカーは説明している。黒鉛はナトリウム・イオン電池では陰極として使えない;個別の層間にナトリウムを置くことはエネルギー的に好ましくない。ファラディオンは硬質炭素陰極とNaPF6電解質を使っており、前者はナトリウム・イオン電池開発者達の間では普通の選択である。

 再生可能エネルギー貯蔵用蓄電池と一緒に、ファラディオンは-バイク、スクーター、輪タクのような-安価な電気輸送機と車両のスターター、照明、点火の目的用の両方で鉛蓄電池と置き換えることも開発している。‘この技術が実用されることを示すために家庭用蓄電池、電動バイク、ゴルフ場のトロリーを含めて50 kWh以上のプロトタイプを作った、’とバーカーは言う。‘我々は現在のリチウム・イオン電池製造者やこの分野の新規参入者に新しい技術を再許可している。’彼等がかなり早くに市場に出てくることを彼は望んでいる。

 ファラデイ蓄電池挑戦にイギリス政府の2.46億ポンドが新しいファラデイ研究所を通してファラディオンの移動用蓄電池研究の一部に財政援助している。会社はナトリウム・イオン点火蓄電池の製造工程を開発するためにイギリスのバーミンガム大学でエネルギー材料教授をしているエマ・ケンドリックと一緒に現在研究している。ナトリウム・イオン電池は彼等のリチウム・イオン電池製造と同じ製造ラインで生産されるが、様々な材料形態や他の物性に適合させるために工程を微調整する必要がある。‘たまたま新しい材料を生産できれば、それらを半分の電池に置き、テストして雑誌に発表できる幻の結果を得る。しかし、製造工程の拡大を通して材料が採用されると、問題が生ずる、’とケンドリックは説明している。

 ファラデイ蓄電池挑戦はナトリウム・イオン電池用陰極のエネルギー密度を改善するためにCaerphilly-based Deregalleraにも財政援助をしている。‘いくつか高容量候補の材料があるが、極端な体積膨張を含む問題のために残念ながら、それらだけでは使えない、’とDeregalleraの主任科学者であるペーター・カランは説明している。‘我々は硬質単相芯の上に高容量ナノ粒子を支持することによりこれらの問題を乗り越えた。’会社は通常の製造工程のコスト低減のために低エネルギーで拡大可能な電極材料合成法も開発している。‘18ヶ月以内に、我々は商業的に実行可能な小型電池を持ちたい、’とカランは言っている。

 ナトリウム・イオン電池の公式なデモンストレーションを始めた第3番目の会社はBridgend-based DST Innovationsである。そこは層になっている酸化物陽極材と主として再生エネルギー貯蔵を目的とした他の電池技術を開発してきた。彼等の蓄電池の1つは‘過酷な環境で作動できるために設計されており、その環境では、温度は-30℃まで低下し、その後夏には高温に達する、’とDST Innovations研究と共同研究者達のマネジャーであるベン・マッシェダーは説明している。‘それは標準的なリチウム・イオン・システムを使って現在達成されている物ではない。’マッシェダーによると、会社の技術は‘かなりの時間、個人のデモンストレーションで紹介されてきた。我々は2019年の残っている時期に様々なデモンストレーション・ユニットを公開する予定である。’

 

さらに遠くに

 大陸で多くのグループが酸化物をベースにした陽極を受け入れるナトリウム・イオン電池も前進させている。例えば、フランスではAmiens-based Tiamatが電動スクーター用のプロトタイプ蓄電池を持っており、今日までに数百回の再充電可能な18650タイプの蓄電池を製造してきた。そしてドイツ政府は商業的に実行可能なプロトタイプの実験室サイズのナトリウム・イオン電池をスケールアップするために3年間115万ユーロを学術協力団体に最近財政援助した。‘我々はリチウム・イオンに近い性能を強化するためにナトリウム・イオン電池内の化学を最適化したいので、全寿命についてナトリウム・イオン電池のコストはリチウム・イオン電池のコストよりも安くなる、’とプロジェクト・パートナーでドイツのカールスルーエ技術研究所の電気化学者であるステファノ・パッセリーニは説明している。彼のチームの陰極は特に革新的で-リンゴ廃棄物から作られた硬質炭素である。

 アジアで著名なナトリウム・イオンに焦点を置いた学者には、日本では東京理科大学の駒場慎一と北京の中国科学院物理研究所のYong-Sheng Huがいる。2017年に、Huは彼の学術研究-HiNa電池技術を商品化するために子会社を発表した。その蓄電池には層状にしたNa-Cu-Fe-Mn-O酸化物電極、熱分解した無煙炭陰極、電解質として炭酸塩中にNaPF6があった。Huによると、両電極の製造コストは非常に安い。

 ‘我々はナトリウム・イオン電池を作るために陽極および陰極材料と他のプラントを作るための材料プラントを今建設している、’とHuは言っている。会社はこれまでに10,000個のプロトタイプを製造してきた。2017年に電動バイクのデモンストレーションが現われ、2018年にミニ電気自動車と家庭蓄電装置が現われた。‘今年はグリッドアプリケーション用に100 kWhのナトリウム・イオン電池エネルギー貯蔵装置を作った、’とHuは言っている。それは6,000個以上のナトリウム・イオン電池を一緒に結合して成っており、1つはLiyang市のYangtze River Delta Physics Research Centerで現在フィールド・テストされている。電池は閑散時の安い電力時に電力網から充電し、繁忙時に研究センターへ電力を供給する。‘繁忙期と閑散期との間の現在の電気価格差に基づいて1 MWh蓄電システム用の初期投資を回収するために約3年を要し、その後はこのエネルギー貯蔵装置から利益が得られることが計算で示している、’とHuは言う。同じ電池が更新エネルギー貯蔵にも使え、HiNa電池技術は2020年に市場に出すことを望んでいると彼は言う。

 ナトリウム・イオン電池はオーストラリアでも活発になっている。例えば、ノットとウロンゴン大学の同僚達はフィールド・テスト用のナトリウム・イオン電池を最近建設し始めた。この1050万オーストラリア・ドルのプロジェクトはAustralian Renewable Energy Agencyから資金提供を受け、チームは電池組成については無言である。最初の建設はソーラーエネルギーで運転されるテスト・ハウス内にある。第二の比較的大きい電池はBondi BeachSydney Waterポンプ・ステイションで2020年に建設される。‘これは軽工業用途で再生可能なエネルギーの取り込み増加にどれくらい役立つかを示すことである、’とノットは言う。

 

ブルーな気分

 層状に重ねた酸化物と炭素はナトリウム・イオン電池用の最も多用な電極組成であるかもしれないが、それらだけが可能な物ではない。例えば、アメリカ、カリフォルニア州のNatron Energyはプルシアン・ブルーとして知られている第二シアン化鉄塩を使っている。‘プルシアン・ブルーはあらゆる種類の消費者製品に使われる色素である、’と会社の共設立者で社長のコリン・ウェッセルズは説明する。パスタは第二共設立者であるが、もはや会社にはいない。‘我々はプルシアン・ブルーの2つの異なったグレードを使い、1つは陽極用で他は陰極用である、’とウェッセルズは付け加える。

 Natron Energyはデータ・センターでバックアップ電源用の電池を現在事前販売している。これらの電池はそれぞれ約8 kWの電力を供給し、データ・センターの各サーバー・ラックに設置するように設計されている。この電池は今日販売されており、商業生産は2,3ヶ月で始まる、とウェッセルズは言う。会社はカリフォルニア大学サンディエゴで幾つかの電力網に関係したエネルギー貯蔵装置用のナトリウム・イオン電池技術もテストしている。それは2020年始めにキャンパスで迅速電気自動車充電ポイントにも設置される。これらのユニットに電力を供給することは大規模な物として悪名高い問題で、必要な電力の急速充電はグリッドの手段を超えている。その代わり固定リチウム・イオン電池が現在使われている。グリッドまたは更新技術からのこれらはゆっくりと充電し、その後、自動車電池に非常に急速に放電する。‘プルシアン・ブルーは蓄電で非常に良く、ナトリウム・イオンを素早く放出し、可逆性的に働く。各電極は十分に充電でき、2,3分で放電し、数十万回十分に充放電できる。我々はまた来年計画されている2つの別の実証プロジェクトも持っている、’とウェッセルズは言う。

 

海の景色

 現在までにナトリウム・イオン電池だけが商業生産規模のAquion Energy生産ラインで製造されてきた-Aquion Energyによって製造されたソーラーインテグレーション用の塩水を用いた電池である。アメリカ、ピッツバーグのカーネギー・メロン大学のJay Whitacreの研究室で開発された電池は、同社が2017年に破産を申請するまで2014年から市場に出されていた。‘我々は世界中に多くのmWh装置を出荷し、まだ稼働中の多くの装置を持っている、’とWhitacreは説明する。Aquion Energyは‘中国資本によって買収され、現在、中国の工場に設置されている、’と彼は付け加えた。

 塩水を使う電池の可能性は他の一握りの会社でも探求されている。Whitacreによると、液体電解質は多くの理由から望ましい。‘液体電解質は完全に優しく、溶液中のイオン移動は有機溶媒中のイオン移動よりもずっと速いので、電極をもっと厚くできる、’と彼は説明する。より厚い電極はそれだけ安くなり、製造が容易になる、と彼は付け加える。

 Aquion Energy電池の陰極は炭素を被覆したナトリウム・チタン・リン組成物であり、陽極は酸化マンガンである。Whitacreの研究グループは高容量の次世代電極を開発するために現在研究中である。

 

固形物

 固体イオン伝導体はナトリウム・イオン電池電解質用に考えられる別のオプションである。Nasiconとして知られているナトリウム・ジルコニウム・シリコン・リン酸化物の一族は現在までにこの目的のために一番探索されている。固体電解質はリチウム・イオン電池技術用の強力な研究関心分野でもある。‘我々はナトリウム・イオン電解質用の新しい個体材料を調べている、’とIslamは説明する。固体が液体と同様にしばしば伝導しない事実を含めて、多くの課題がここにはある、と彼は言う;電池中の全ての固体成分間の界面問題もある。

 Passeriniのドイツ共同研究、Pastaのオックスフォード研究グループそしてHuのチームは固体ナトリウムを使う電解質も調べている。後者はイオン性液体電解質も探査し始めた。開発初期段階の他のナトリウム・イオン技術はナトリウム-硫黄(リチウム-硫黄と同じ)とナトリウム-酸素(リチウム-空気と類似)を含んでいる。周期表で次の元素マグネシウムに進む可能性も考えられている。

 しかし、ナトリウム・イオン電池が主流になるかどうかはまだ分らない。‘市場の牽引と技術の推進が必要なので、予測は難しい。その一押しは現時点では実際にはない、’とKendrickは言う。他の研究者達はこの分野についてずっと積極的である。‘ナトリウム・イオン電池の研究で活気に満ちた時である。しかし、電池の将来がどちらの方向と取るか、大きなブレークスルーが新しい材料、新しい概念、そしてそれらの性能を十分に理解することにかかっている、’とIslamは熱弁する。