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世界中の塩を味わう旅

A Tasting Tour of Salts Around the World

By Mimi Sheraton

Smithsonian Magazine   2012.06

食品批評家ミミ・シェラトンは様々な種類の世界中で最も古い基本的な成分を味見する

 

 私が塩を取り扱うときは何時でも-食品に味付ける、きゅうりを漬物にする、魚を保存処理する、まな板をこすり洗いする、目の前ある銅製ポットまたは解氷容器を磨く-私が訪れた幾つかの塩源に一瞬映画のフラッシュバックを経験する。それぞれの壮観さとそれに係わる人の労働に驚いた。30年前に恐ろしい経験をした。私はルイジアナ州アベリー・アイランド塩鉱山に入るエレベーターに乗ったときであった。アベリー・アイランドは猛烈に辛いタバスコの産地で、巨大な古代のソルト・ドームも集中していた。ヘルメットをかぶり、ゴーグルを付け、つま先を保護した靴をはき、死んでも文句を言わないと言う誓約書に署名し、ゴシック様の冬の午後を思わせる陰鬱な灰色のもやの中に居るような地下の岩塩層を採鉱して作られた洞窟のような部屋を結ぶ道を走るジープに私は乗った。

 はるかに明るい所はシシリー、トラパニの地中海沿岸に沿ってレイアウトされた白く輝く白い塩平原であった。光り輝く太陽の下で海水は蒸発し、凍ったミルクの巨大なスケート・リンクに似た長い長方形の層から出来た塩結晶を掻き起こした。

 イスラエルでは、死海でコルクのようにプカプカと浮くように私は塩水の中に浸かった。治療効果のあるミネラルとして評価されているこの塩は、浴用結晶として痛みを和らげると言われている。その比重の大きい水は塩で飽和されているので、その中で長くは生きられず、したがって、塩が保存剤として作用するプロセスの鍵となる:バクテリアを含む生物から水分を引き出し、それらを殺すので食品は腐らない。

 どんなに印象的でも、これらの場所は世界最大で全くの塩平原であるボリビアのウユニ湖(私はまだ見ていない)にはかなわない。ここの写真は地平線から地平線まで地球上で最も純水な汚染が少ない場所の1つと考えられている塩で覆われた丘、浅瀬、地面のドラマを暗示しているだけである。塩はほとんど粉のような柔らかさの細かい粒である。塩湖は世界のリチウムの50 – 70%を含む約4,086平方マイルのヴァーチャルなかん水で覆われている。この果てしない広がりは空を反映し、青いベールを被ったようになる。この塩湖の100億トンの塩の中で、毎年25,000トンが収穫され、コルチャニのような近くの村の大人や子供のために骨の折れる仕事と断続的な遊び場を提供している。放課後、子供達は1 kgの袋に塩を入れてわずかな現金を稼ぎ、15ドルは2,500 kgの塩を収穫するための料金である。

 ニューヨークでは、多分、最大の驚き-失望-は、私が少なくとも十数の高級食料品店を探したにもかかわらず、また独特の細かい食卓塩の粒とウユニの評判にもかかわらず、誰もボリビアの塩を置いていなかった。私はラパツからそれを注文した。それが届いたとき、触ってみるとすごく気持ちよく、ゴッサマ-のように指の間を流れた。その濃厚で深海の塩辛い味は口の中にほんの少し苦味を残した。

 塩は風味強化剤、保存剤、生命維持剤そして古代にさかのぼり恐らくその前から、神話、迷信、宗教で執り行われてきた清める物として必須な物であり、歴史でマーク・カーランスキーにより塩:世界史に興味深い物語として記録されている。塩の多くの様々な用途と関係にもかかわらず、塩-塩化ナトリウム-は我々が食べる全ての物、ケーキやデザートも含めた物に加えるために食品愛好家によって最も評価されており、使い捨ての紙包み、あるいは金、エナメル、ウィーンのクンストヒストリッシェ博物館にある16世紀のベンベヌート・セリーニの塩壺のような宝飾された容器にも使われている。

 ハイファッション食品世界では、世界の様々な場所からの塩をチーズやワインを味見するように塩の味自身がますます注意を引くようになっている。塩は結晶形が異なり、ミネラル、苦味、塩味、刺激に微妙な違いがある。色-海泡グリーン、藤色、桃色、赤、褐色、黒-は特別な人気がある(白色は伝統的な色で本当は除けなかった“汚れ”によるものであるとカーランスキーは述べている)。そのような味見は約15年前にトーマス・ケラーによって導入された。ナパ・バレーのフレンチランドリーで味見の部分として始まり、そこで続き、彼のニューヨークでのレストランのパセでも行われ、そこではスタッフが最近、私のためにそのような比較を行った。

 それは家庭のより大きな試料、合計で13個について補完した:ボリビア塩湖からのキラキラ光る粉;ヒマラヤのミネラル・ソルト;ブルターニュからの灰色塩-セル・グリス-;イギリスのマルドン;ハワイからのチャーコール・ブラックと赤煉瓦色の塩;そしてトラパニ、キプロス、カリフォルニアからの試料、ユタ州からのジュラシック塩、そしてスペインのイビザ、フランスのカマルグとブルターニュからの有名なフルール・ド・セル-塩の花-である。最後の物はパルーディアーと呼ばれる採集人によって収穫されると言われている。彼等は日没時に手で掻き集め、約80種類のミネラルを含んだ最も海塩らしい軽くて非常に繊細な風味の良い塩が得られる。

 食品と一緒に塩を味わうことは塩だけを味わうよりも良く分らなく、そのことは味覚を麻痺させる。私はそのような問題について指導者、フロリダ大学の嗅覚・味覚センターの感覚科学教授であるリンダM. バルトシュクにアドバイスを求めた。それぞれを味見する間に体温の水で口をゆすぎ、1,2分待つことを彼女はアドバイスしてくれた。私は1週間に味見を繰り返し、何時も同じ結論になった。これらの塩は全て高価で、風味があり、調理ではなく料理を仕上げるための物である。そのためプロのシェフは純粋なコーシャ粗塩を好む。

 山の鉱山から収穫されたヒマラヤのミネラル・ソルトは私の明らかな好物で、一部は銀色のピンク色に輝き、穏やかで新鮮な塩分と組み合わされた粉砕されたローズ・クォーツを思わせた。

 色はともかく、ブルターニュとカマルグからのフルール・ド・セルは、実質的にそれは同じ物で、美しく光り輝き、白い粒のダイアモンドで典型的な海塩風味があり、苦味を最小限に抑えていることで首位を争っている。粒は非常に軟らかいので、多分、焼き肉や焼き鳥のような最も好まれる食品に振り掛けられ、そしてサラダや魚にはもっと適している。イビザからのフルール・ド・セルはもう少し辛みが強く、軟らかであるが、それでもまだかなり美味しい。

 ブルターニュからのセル・グリスはフルール・ド・セルとほとんど同じほどデリケートであるが、口当たりが少し柔らかい。パセのシェフであるエリ・カイメが使っているように、それは肉をより効果的に味付けするために十分なミネラルを持っている。

 美しくガラスのように輝いているマルドン・ソルトは強い苦味を持っているが、その大きなフレーク(薄片)の砕けやすい性質は生のホタテやマグロの薄い切り身を美味しく引き立てる。

 ハワイの黒と朱色の塩は辛さはあるが、他の色の塩よりも特別な差異はない。カリフォルニア州とユタ州からの塩は他の塩とほとんど区別できなく、わずかにミネラルのアクセントがあるが、それでも加工された食卓塩には好ましい。

 トラパニ・ソルトは特に雪のように細かい粒で、キプロスからの大きくてわずかに曇ったフレークのようにトマトや生のキュウリに非常に上手く振り掛けられる。

 幸いにも我々はまだそのジレンマに直面していない。しかし、リンダ・バルトシュクや他の人々によって行われた研究によると、我々それぞれは異なった基準で塩辛さを感じていることを考えるように。私にとって辛いことは貴方にとっては辛くないかもしれない。このためレシピで一般的な表示“塩、味わう”は全くいい加減な言葉である。ディナーの味付けをしているシェフがいるにもかかわらず、食卓に何時も塩を置くべきであるとするそれが理由でもある。