ナトリウム欲求の神経行動学的メカニズム
Neurobehavioral Mechanisms of Sodium Appetite
By Neil E. Rowlamd
Nutrients 2023;15:620 2023.01.25
要約
本論文の目的は、まずナトリウム欲求という独特の動機付け状態の生理学的および生態学的側面を提示し、次に全身生理学と脳のメカニズムに焦点を当てることである。制御された条件下でナトリウム欲求の研究を可能にする実験プロトコルがどのように開発されたかを説明し、特にそのような2つの条件に焦点を当てる。1つ目は、少なくとも1週間のナトリウム欠乏食の提示であり、2つ目は、ナトリウム欠乏食と利尿剤フロセミドを1~2日間併用してナトリウム喪失を促進することである。高濃度のナトリウム溶液の自由摂取からナトリウムを豊富に含む食品やジェル、オペラント・プロトコルに至るまで、摂取の様式も考慮される。これらの欲求におけるアンジオテンシンとアルドステロンの極めて重要な役割について説明し、摂取量や欲求が生理学的欲求の状態と一致しているかどうかについて議論する。いくつかの脳システムは、ごく最近、分子生物学的手法を使用して顕微鏡的に特定されている。これらには、後脳と前脳の両方のクラスターが含まれる。ナトリウム欲求の満足は、多くの場合、高ナトリウム溶液を使用して研究されるが、これらは明らかに過剰に摂取される可能性があり、将来の満足に関する研究では、いずれかのナトリウム欠乏食のみを刺激として使用して、欲求を評価するためのナトリウム豊富な食品を提供するか、または単純なオペラント・タスクを提供することで、過剰摂取が起こらない自然条件を模倣する可能性があることを示唆している。
1.はじめに
1.1. ナトリウム・ホメオスタシス
生物系では、ナトリウム陽イオンは常に陰イオンと対になる。この陰イオンは主に塩化物である。本論文では、特に断りのない限り、ナトリウムという用語は塩化ナトリウムを意味する。ナトリウムは細胞外液成分の主要な陽イオンである。人間を含むほとんどの動物では、細胞外液内のナトリウム濃度は約140 mOsm/kgである。対照的に細胞内液中のナトリウム濃度ははるかに低く、通常は約5 mOsm/kgである。この濃度勾配は、ナトリウム・チャンネルやアクアポリンなどの多数のイオン・チャネルと、細胞膜にまたがるナトリウム・ポンプによって維持される。細胞外液内のナトリウム濃度が増加すると、水が細胞内液から細胞外液に浸透圧的に引き込まれ、その結果、細胞が収縮する。これを支配するプロセスは総称して浸透圧調節として知られており、その変化を脳内または脳に神経信号②変換する細胞が浸透圧受容体である。これらの受容体は、機能的に水に対する特異的な欲求である浸透圧性の渇きとして知られる現象の根底にある。
ナトリウムは、体液成分の容積を維持する上で極めて重要な役割を果たしており、これは、ナトリウム含有塩と分布の一定またはほぼ一定に達するための、正確かつ多くの場合、冗長なメカニズムによって達成される。陸生動物は、尿や汗を介して、また少量ではあるが糞便を通じて環境中にナトリウムを継続的に失う。こうして失われたナトリウムの量は、排泄された体液の体積とナトリウム濃度の積になる。
哺乳類の腎臓は、灌流再吸収原理で動作するネフロンによって構成されている。人間の各腎臓には100万個のネフロンがある。ネフロンによって血液からろ過された細胞外液の99%以上が回収され、その画分は、遠位尿細管でのナトリウムと水の再吸収をそれぞれ増加させるアルドステロンやバゾプレッシンなどのホルモンの作用によって調節される。回収されなかった体液は尿となる。尿中のカリウムとナトリウムの比率が高いことは、血中アルドステロンの上昇を示す非侵襲性マーカーとして使用できる。
ナトリウムの枯渇は、副腎皮質のアルドステロン合成酵素の活性化によって達成される血漿アルドステロン濃度の大幅な増加に関連している。アルドステロン合成酵素を活性化する因子には、ANGll、ACTH、血漿カリウム濃度などがある。ANGllは、アンジオテンシノーゲンがレニンによってデカペプチドANGlに、アンジオテンシン変換酵素1型によってオクタペプチドANGllに連続的に切断されることによって形成される。アンジオテンシノーゲンは肝臓と脳の両方で合成される。末梢系の活動は、ナトリウム欠乏症で上昇するPRAを使用して評価されることがよくある。
人間はまた、発汗によってかなりの水分とナトリウムを失う可能性がある。発汗を仲介するエクリン細胞は、人間の額と手に特に豊富に存在する。汗は各汗腺内の血漿からのイオン輸送と水の移動によって生成される。アルドステロンの血中濃度が上昇すると、汗中のナトリウム濃度が低下する。単位時間当りに生成される汗の量は、交感神経系によって制御される汗管の直径によって制限される。発汗量は、蒸発冷却による暑い環境、または運動中などの内生熱生成が高い場合に高くなる。ラットやマウスなどの一部の種では、通常は飲み込む唾液が毛皮に広がり、発汗の代わりに蒸発冷却が行なわれる。
1.2. ナトリウム嗜好とナトリウム欲求
1.3. 環境中のナトリウム
1..4. ナトリウム欲求を誘発する手順
2. 材料と方法
2.1. 脳のメカニズムとナトリウム欲求
2.2. 後脳のメカニズム
2.3. 前脳のメカニズム
2.4. 脳システムの統合
以上の章と節は省略。
3. 要約と結論
私は動物におけるナトリウム欲求の限定された一連の刺激を指示し、そのメカニズムの発見を導いたいくつかの古い発見を説明し、欲求と欲求の誘導に関与する細胞表現型と亜核のより詳細な分析を可能にした最近の分子生物学的アプローチを提示する。満腹メカニズムは不完全であり、SDD-フロセミド・プロトコルでの過剰摂取量が特徴である。将来の飽食研究では、SDDのみ、ナトリウム豊富な食品、またはオペラント・タスクのいずれかを使用して自然を模倣数rことが推奨される。