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塩感受性高血圧:機構と食事効果および他の生活様式要因

Salt-Sensitive Hypertension: Mechanisms and Effects of Dietary and Other Lifestyle Factors

By Leta Pilic, Charles R. Pedlar, Yiannis Mavrommatis

Nutrition Reviews 2016;74:645-658     2016.08.25

 

要約

 高塩摂取量に応じて血圧が上昇する塩感受性は心血管疾患と死亡の独立した危険要因である。それは生理学的、環境的、人口統計的、遺伝的要因に関連している。本レビューは食事要因と関連させて特に危険性のある集団における塩感受性の生物学的機構に焦点を置く。レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系、内皮機能障害、イオン輸送、および婦人のエストロゲン低下などの機構の相互作用は塩感受性の発症に寄与する。これらの機構に及ぼす効果のために、カリウム、カルシウム、ビタミンD、抗酸化ビタミン類、およびL-アルギニンの豊富なタンパク質の多い摂取量はDASH(高血圧予防)食に類似した食事パターンの順守は塩感受性集団に有益である。対照的に、過剰なアルコール摂取量と共に飽和脂肪、砂糖、果糖の多い典型的な西欧食と同様の食事は血圧の塩感受性変化を悪化させるかもしれない。感受性の高い集団における塩感受性の潜在的な機構を特定し、それらの保護的または有害な食事および生活様式の要因に関連付けることで、高血圧および心血管疾患の予防のためより具体的なガイドラインにつながる可能性がある。

 

はじめに

 高血圧は世界中で心血管疾患の主因の1つであり、血管と全死亡に強く関連している。それは修正可能な主要な寄与因子であり、塩摂取量が主な要因の1つである。塩摂取量と高血圧との関係は十分に確立しており、塩摂取量低減が血圧を下げることが示されている。それにもかかわらず、個々人の塩摂取量に対する応答は異なっており、ある人は塩摂取量増加で血圧上昇を示し、一方、他の人はほとんど血圧変化を示さない。この現象は塩感受性と呼ばれる。多くの塩感受性を決定する方法があり、主な懸念事項の1つは使われる方法の再現性である。ワインバーガーらによって行われた初期の研究で素早い方法が使われた:患者は1日目に塩水を与えられ、2日目に塩摂取量低減条件下で経口的に利尿剤を与えられた。平均動脈血圧を10 mmHg以上低下させた人々が塩感受性と考えられ、5 mmHg以下の低下を示した人は塩抵抗性と考えられた。ごく最近の研究は、高塩食の後で低塩食に人々を置く食事法を採用している。特に、人々は7日間低塩食(3 g/dの塩)を摂取した後、さらに7日間高塩食(18 g/dの塩)を摂取する。その後、患者は低塩食と高塩食期間の間の血圧変化に従って塩感受性または塩抵抗性として分類される。この食事法は再現性があり、これまでで最も信頼できるものとして大多数の研究者に採用されている。塩感受性はしばしばカテゴリー変数として表されるが、塩摂取量に応答した変化を表す連続変数としてある研究者達は塩感受性を表した。様々な研究者達によって使われた方法における不一致を考えると、塩感受性の罹患率を決定することには問題がある。それにもかかわらず、ワインバーガーらは、塩感受性は高血圧者の51%、正常血圧者の26%に存在し、塩抵抗性者よりも塩感受性者で高血圧発症は高いと推定した。さらに、塩感受性は心血管疾患と死亡についての独立した寄与因子と考えられる。正常血圧の塩感受性成人は高血圧成人と同様の累積死亡率を示すが、塩抵抗性の正常血圧成人は生存率が高くなる。

 複雑な現象である塩感受性は数多くの生理学的、環境的、遺伝的および人口統計的要因と関係している。塩感受性の強力な人口統計学的予測因子は性別、人種、および年齢である。今日まで行われた研究は、閉経後の女性、黒人集団、および老人は塩感受性発症危険率の高いグループであることを示している。塩感受性の生物学的背景は複雑で、全く解明されていない。さらに、今日までの研究は、最も重要な環境的寄与因子である塩摂取量の他に、他の食事因子が塩感受性の発症と予防に重要な役割を演じていることを示している。本レビューの目的は、危険性のある集団における塩感受性の考えられる機構と、これらの機構に保護的または有害な影響を与える可能性のある食事および生活様式の要因を特定することである。これは心血管および全体的な健康におけるより成功した治療法の開発につながる可能性がある。この話題に関して行われた研究は3つの章で述べられる。第1章は、黒人、老人および閉経後の女性で塩感受性に関連しているかもしれない最も顕著な生物学的機構を述べる。黒人集団における塩感受性に対する遺伝的素因についても説明する。次にこれらの機構に影響を与える微量栄養素と主要栄養素の研究に関する章が続く。最後に、塩感受性に関連する食事と生活様式の研究に関する章が述べられる。これらの要因の作用機構はまだ探求中である。

 

危険集団における塩感受性の生物学的機構

レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系と原発性アルドステロン症

内皮機能障害

閉経後の女性におけるエストロゲン、レニンーアンジオテンシン系 、および一酸化窒素の相互作用

カリクレイン-キニン系

イオン輸送障害

腎血行動態

心房性ナトリウム利尿ペプチド

交感神経系の活動

塩感受性の遺伝的根拠:黒人集団

 

塩感受性に含まれる系に影響を及ぼす食事因子

微量栄養素

レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系

内皮機能と血管反応性

カリクレイン-キニン系

イオン輸送とナトリウム利尿

腎血行動態

主要栄養素、食事パターンおよびアルコール摂取量

レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系

内皮機能:一酸化窒素の生産

イオン輸送とナトリウム利尿

交感神経系の活動

 

マグネシウム、主要栄養素、および塩感受性に対する運動の寄与

 

以上の章、節は省略。

 

結論

 本レビューの目的は、危険性のある集団における塩感受性の考えられる機構と、これらの機構に保護的または有害な影響を与える可能性のある食事および生活様式の要因を特定することであった。これまで行われた研究結果は、黒人の個人、閉経後の女性、および老人が塩に感受性である傾向があり、したがって、高血圧や心血管疾患を発症する危険性が高いグループであることを示唆している。65歳以上の集団における塩感受性の潜在的な機構を調査した研究はごく僅かであるため、本レビューの焦点は主に黒人集団と閉経後の女性であった。これらの集団における塩感受性の幾つかの機構は徹底的に調査されたが、遺伝子-食事相互作用、塩感受性の発症におけるSNSとその役割、および黒人集団におけるカリクレイン-キニン系の機能などさらなる研究が要求されている。黒人個人の塩感受性を説明する機構の幅広い範囲は、これらの機構の幾つかは閉経後の女性の塩感受性の潜在的な原因ではないことを必ずしも意味する訳ではない。塩感受性の機構に影響を与える食事要因に関する全ての研究がこのレビューの対象集団(黒人個人と閉経後の女性)で実施された訳ではないが、特定の結論を引き出すことができる。高塩摂取量の条件下でこれら2つの人口統計学的グループで観察された血圧上昇は、幾つかの食事成分摂取量に応じて鈍る可能性がある。カリウム、カルシウム、ビタミンD、抗酸化性ビタミン類、およびアミノ酸L-アルギニンの豊富なタンパク質の高い摂取量、およびDASH食と同様の食事パターンの順守は、全てRAAS、内皮機能、腎血行動態、およびイオン輸送に作用するため、特に有益である。対照的に、飽和脂肪、砂糖、および果糖の多い典型的な西欧食と類似の食事は過剰なアルコール摂取量と共に、前述した機構に影響を及ぼすことによりこれらの集団の血圧に塩感受性変化を悪化させるかもしれず、高血圧および/または心血管疾患の早い発症に導く。

 食事と塩感受性に関する将来の研究は、栄養素と栄養素の相互作用が塩感受性に重要な役割を果たすため、食事の複雑な構成t、これらの機構に影響を与える食品グループと食事パターンに焦点を与える必要がある。この話題に関する大多数の研究は動物モデルで行われてきたので、より具体的な推奨を行うには、さらにヒトによる研究が必要である。これらの研究には、主に危険性が高いと記載されている集団を含める必要がある。最後に、塩感受性高血圧をより包括的に理解するために、他の潜在的に関連する生活様式要因に関連した追加研究が推奨される。