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ナトリウム摂取量、心血管疾患、そして生理学

Sodium Intake, Cardiovascular Disease, and Physiology

By Simon N. Thornton

Nature Reviews Cardiology 2018;15:497      2021.02.24

 

 私は、HeMacGregorによる総説(心血管疾患の予防における塩摂取量の役割:論争と課題。Nat. Rev. Cardiol. 15,371-377;2018)を非常に興味深く読んだ。この中で、彼等は非常に説得力のある事例を提案している。記事で引用されている多くの臨床試験で実証されているように、心血管疾患のリスクを軽減するために、世界のすべての国の国民が塩、つまりナトリウムの摂取量を減らす必要がある。この総説は非常に包括的であるが、生理学は見落とされているようである。

 

 A.C. ガイトンは、「無傷の状態でのナトリウム濃度の制御は主に[抗利尿ホルモン](ADH)-喉の渇きのフィードバック機構によって達成される。」と述べている。さらに、「塩摂取量が増えると喉の渇きがます。したがって、塩に見合った量の水が消費される。」ガイトンらはナトリウムを摂取しながら水を飲む必要性について話はしているが、ガイトンとマクレガーによるレビューでは水分摂取について言及されていない。ナトリウムの血漿レベルの増加(つまり浸透圧の増加)に対する適切な生理学的反応は、喉の渇きとADH(バソプレシンとしても知られる)の放出である。喉の渇きによる水分摂取量の増加は、最初は血液量の増加をもたらすが、この増加は、ADHとナトリウム保持ホルモンであるアルドステロンの放出が減少し、尿とナトリウムの排泄量と浸透圧が正常範囲に戻るまで続く。ガイトンの研究はイヌを対象としたものであったが、水ミネラル・バランスの調節が哺乳類の種間、特にラットとイヌ(この複雑な調節のメカニズムを理解するために多くの研究が行われてきた)と人間の間で異なることは知られていない。

 臨床試験では、塩を多く含む食事は通常、血圧を上昇させ、血液および尿中の血漿レニン活性とアルドステロン量を低下させることが示された。適切な水分摂取量による同様の結果がラットでも観察されている。しかし、ヒトではナトリウム摂取量の増加によって水分摂取量の増加は起こらないようであり、これらの水分不足は細胞内および特に細胞外液コンパートメントの両方に影響を及ぼし、後者は血液量減少と関連している。体積の減少を調節する生理学的メカニズムは喉の渇き; ADH、アンジオテンシン、アルドステロンの放出であり、塩欲求は放出されたアンジオテンシンとアルドステロンの中心的な相乗作用によって媒介される。飲水量を増やして血液量を回復しない限り、これら2つのホルモンは放出され続け、塩は消費され続ける。

 興味深いことに、心血管疾患と戦うために使用される薬剤の大部分は、レニンーアンジオテンシン系の遮断薬であり、最近ではアルドステロンの拮抗薬である。しかし、通常の生理学によれば、塩摂取量の増加により、これら2つのホルモンのレベルは既に低下しているはずである。水分ミネラル・バランス調節の生理機能はほとんどの哺乳類で同様であることが分かっているので、この観察は人間が慢性的ではあるが軽度の水分不足であることを示唆している。

 結論として、生理学的調節は、食事からのナトリウム摂取量がどれだけ減っても、血液量が回復しない限り、アンジオテンシンとアルドステロンが放出され続け、塩摂取量と心血管疾患が伝播し続けることを示唆している。生理学的調節の見落とされがちな部分は、適切な量の水を飲むことによって血液量が非常に効果的に回復できるということである。ということである。