塩の摂り過ぎはどのくらいなのか?答はあなたが
思っているほど明確ではない
How Much Salt Is Too Much? The Answer Isn’t as Clear as You May Think.
National Geographic 2025.03.28
塩-あの愛され、どこにでも存在する、なくてはならない調味料。
必須栄養素である塩であるが、過剰摂取は深刻な病気の原因となる。しかし、何を過剰と見なすかは、一部の科学者達の間で激しい論議の的となっている。
塩を日常的に過剰に摂取すると、高血圧につながる可能性がある。世界保健機関(WHO)は、ほとんどの健康な成人に対し、1日2 gを超えるナトリウム摂取量を推奨していない。また、アメリカ心臓病学会(AHA)は、1日2.3 gという厳格なナトリウム摂取上限を推奨している。この上限は、この量以下であれば血圧が上昇しないという主張に基づいている。AHAは、特に高血圧の人は、理想的にはナトリウム摂取量をこの量の3分の2に抑えるべきであると提言している。
しかし、この上限を超えてしまうのは容易である。チーズバーガーを通常の調味料で味付けしたもの、スープ缶1個、ピザ2切れなど、それぞれ1日の塩摂取量を食い潰してしまう。
アメリカ人1日の平均ナトリウム摂取量は現在、3.4 gである。世界全体では、豊かな料理で知られる東アジアと中央アジア諸国がその数値を支えており、その数値は4.3 gである。
血圧に関しては、過剰な塩分摂取の弊害について異論を唱える科学者はいない。しかし、議論の的となっているのは、どの程度の塩分が過剰になるかという閾値である。
塩は体にどのような影響を与えるのだろうか?
塩はナトリウムと塩化物という正反対の電荷を持つ2つのイオンで構成されている。この2つのうち、より悪影響を及ぼしているのはナトリウムである。ナトリウム・イオンは体に対し、ナトリウム濃度を一定に保つために水分を放出または保持するように指示する。しかし、慢性的に過剰なナトリウムを摂取すると、体に過度の負担がかかる。
体内のナトリウム濃度が急上昇すると、体は水分を保持することで対抗し、血液量を増加させる。心臓は大量の血液を送り出すためにフル稼働する。血管は血流が活発になると硬くなり、壁にかかる圧力が高まる。腎臓も、血流から余分な塩分をろ過するために懸命に働き、尿として排出される。
こうしたことが心臓と腎臓に負担をかける。摩耗して溝がなくなったタイヤのように、血圧の第一応答者であるこれらの臓器は、時間の経過と共に衰弱していく。長期にわたる塩分の過剰摂取は、腎不全、心臓病、脳卒中を引き起こす可能性がある。
体の他の部分では、塩分を多く摂取する生活習慣は胃潰瘍や癌のリスクを高める可能性がある。さらに、塩分は骨からカルシウムを奪い、骨粗鬆症を引き起こす可能性があるとする研究もあるが、この影響は異なる集団において一様に観察されているわけではない。
塩を巡る議論
塩辛い食物は、我々の体が塩を欲がるようにできているため、特に制限が難しい場合がある。
塩は健康に不可欠である。食事中の塩分が不足すると、筋肉の痙攣、インスリン抵抗性、動脈硬化(脳卒中の前兆となる動脈の収縮状態)といったより深刻な症状を引き起こす可能性がある。塩分が少なくすぎると致命的となることもあるが、今日では稀で、アメリカでは塩摂取不足乃リスクがある人はわずか2%である。
この限定的なリスクにもかかわらず、一部の研究者達は健康増進のための減塩運動に難色を示し、塩分に関する警告は厳しすぎると主張している。2013年、非営利の科学諮問機関である医学研究所(現在は米国医学アカデミー)が発表した評価報告書は、2.3 gと言う厳格な基準を裏付ける証拠が不足しているとして、調査を再開した。この反発は、医学界で「塩戦争」として知られる論争を激化させた。
この報告書の後、AHAは証拠が不完全であると主張し、調査結果に異論を唱えた。
スイスのベルン大学医学部のFranz Messerli教授は、既存の医療ガイドラインを遵守することは実際には困難であると指摘している。まず、主要な保健機関が推奨するナトリウム摂取量の上限値を下回っている国は世界中どこにもない。Messerli教授は、塩分に対する厳しい批判は行き過ぎである考える陣営に属している。
彼の主張の一つは、塩分と血圧の関係は、個人の病歴、ストレス・レベル、職業(例えば、屋外で日常的に熱にさらされる労働者は、塩分を多く含む食事でも問題ない)、日々の習慣と言った他の要因によって分かりにくくなる可能性があるという点である。また、運動によって血圧が下がるため、身体的に活動的なライフスタイルを送る人は、より高い塩摂取量に耐えられる場合もある。
Messerliを含む、現在の塩摂取量の推奨に批判的な研究者達は、塩摂取量と心血管疾患の相関関係はJ字型の曲線を描いており、一部の科学者達はこれに異論を唱えている。
Messerliによると、塩分と血圧係はほぼ比例関係にあるという点に焦点を当てているが、このニュアンスを見落とし、塩摂取量が少な過ぎる場合にのみ明らかになる、塩分が体に及ぼす他の重要な影響を無視しているということである。
医療ガイドラインによると、1日の最低ナトリウム必要量は0.5 gである。
塩感受性、つまり塩摂取量に対する血圧の上昇度合いも個人差がある。例えば、アフリカ系アメリカ人は白人に比べて高血圧の有病率がほぼ2倍であるが、これは遺伝的要因と社会経済的要因が原因と考えられる。
「塩は強力な電解質として損傷を引き起こすと考えられているが、どの程度、そしていつ、どこで損傷を引き起こすのか、正確な状況はまだ分かっていない。」とMesserliは述べている。
新薬の試験手順であるランダム化比較試験を実施することは、塩分を巡る論争に終止符を打つ最良の方法と言えるであろう。
しかし、大規模な参加者集団を対象とし、数年にわたるこのような研究は、すぐに現実的な課題に直面する。減塩食は受け入れがたいものであり、アメリカでは既に多くの人が6ヶ月を超えて減塩を続けるのに苦労している。2019年、ある研究グループは、このような実験に最適な環境は、食事が囚人の日常生活と同様に厳しく管理されている刑務所であると示唆した。しかし、このような研究は倫理的なジレンマを引き起こす。
厳密な人間研究は行われていないものの、新たな研究により、塩摂取量が血圧以外のさまざまな影響をもたらすこの取り組みにおけるが明らかになっている。
Max Delbrück Centerの心臓血管科学者Dominik Müllerの研究によると、科学者達は塩が細胞の代謝に影響を与え、免疫細胞を活性化させて体内の病原体を排除する働きがあることを観察した。Müllerの研究チームはまた、体が防御機構として皮膚の傷口の周りに塩分を自然に蓄積する可能性があることも発見した。しかし、塩分の過剰摂取は炎症を引き起こし、心血管機能の低下や自己免疫疾患につながる可能性がある。
「塩感受性の定義は、そちらかと言えば血圧中心である。」とMüllerは言う。「塩感受性の定義をもっと広く捉えるべきかもしれない。血圧との関連性だけでなく、細胞機能との関連性も考慮する必要があるであろう。」
塩摂取量を減らす方法
我々が毎日摂取するナトリウムのうち、ごくわずかな割合が日常の調理で加えられる塩に由来している。残りの70%以上は、超加工食品に由来している。塩は防腐剤として作用し、食品の構造を変え、肉の水分を保持し、加工食品では安定剤として機能する。パンのように、塩辛くない主食でさえ、食事中のナトリウムの主要な供給源となり得る。
食料品に塩分が過剰に含まれていること、そしてアメリカ人の成人の48%が高血圧を患っていることを考えると、たとえわずかでも塩摂取量を減らすことで恩恵を受ける可能性は十分にある。国のガイドラインとして塩摂取量を減らすことは、国民がより健康的なライフスタイルを実現するための確実な手段でもある。
さらに、車に依存し、比較的座りがちな生活を送っているアメリカ人は、ナトリウムの摂取不足よりも過剰摂取のリスクが高いと、腎臓専門医でスポーツ腎臓学クリニックの創設者であるRaeeda Gheewalaは述べている。推奨されるナトリウム摂取量3.3 gについては、「この国では厳しすぎるとは思わない。」とGheewalaは付け加える。自宅で食事をすることは、食事に含まれる塩分量をコントロールする最も簡単な方法である。そのため、「食料品の買物は、このプロセス中で重要な部分である。」とGheewalaは言う。彼女は患者に対し、1週間分の食事をすべて事前に計画し、塩辛いスナックを家に置かないようにアドバイスしている。
「間食が人を過剰摂取に追い込むことが多い。」とGheewalaは言う。チップスやクラッカーなどの軽食ではなく、果物、野菜、無塩ナッツといった自然由来の代替食品を推奨している。
塩代替品は、味をあまり損なうことなくナトリウム摂取量を減らすもう一つの方法である。基本的には、塩のナトリウム・イオンをカリウム・イオンに置き換えたものである。塩化カリウムも塩辛いが、苦味があると言われている。ナトリウムと同様に、カリウムの過剰摂取は健康に有害であるが、ほとんどのアメリカ人がすでに十分なカリウムを摂取していないという事実を考えると、塩代替品を使用することで、医療従事者がカリウム過剰摂取のリスクに直面することはない。
中国で行なわれた、これまでで最大規模の無作為化臨床試験では、1日のナトリウム摂取量の4分の1をカリウムに置き換えると、脳卒中が12%、心臓発作が13%減少することが分った。こうした代替食品は、味気なさの問題を回避できる。さらに、カリウムは血管を弛緩させ、体外へのナトリウムの排出を促進することで、ナトリウムの作用を打ち消す。
Gheewala、Müller、Messerliは皆、毎日の塩摂取量には気を付けているものの、過剰にこだわる必要はないと述べている。塩制限には健康上のメリットが数多くあるとは言え、たまにチップスやサラミ、クラッカーなどを食べてしまうのは、それほど気にするほどのことではない。スニーカーを履いてジムでトレーニングすれば、バランスは取れる。