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尿中ナトリウム排泄量とカリウム排泄量、死亡率、

そして心血管疾患発症

Urinary Sodium and Potassium Excretion, Mortality, and Cardiovascular Events

By Martin ODonnell, Andrew Mente, Sumathy Rangarajan, Matthew J. McQueen,

Xingyu Wang, Lisheng Liu, Hou Yan, Shun Fu Lee, Prem Mony, Anitha Devanath,

Annika Rosengren, Patricio Lopez-Jaramillo, Rafael Diaz, Alvaro Avezum,

Fernando Lanas, Khalid Yusoff, Romaina Iqbal, Rafal Ilow, Noushin Mohammadifard,

Sadi Gulec, Afzal Hussein Yusufali, Lanthe Kruger, Rita Yusuf, Jephat Chifamba,

Conrad Kabali, Gilles Dagenais, Scott A. Lear, Koon Teo, and Salim Yusuf,

for the PURE Investigators*

N Engl J Med  August 14, 2014

 

(現状の塩摂取量が死亡率から考えて最適とするグラウダルらの論文とほぼ同様の結果。方法、結果、図表を除き紹介する。)

 

要約

背景

 心血管疾患の保健のための最適塩摂取量が議論されている。

方法

 17ヶ国の101,945人の早朝空腹時の尿試料を得て、24時間ナトリウムとカリウムの排泄量を推定した(摂取量の代わりとして使用した)。推定した尿中ナトリウムとカリウム排泄量と死亡と主要な心血管疾患発症の複合結果との間の関係を調査した。

結果

 平均推定ナトリウム排泄量とカリウム排泄量はそれぞれ1日当たり4.93 g(塩として12.5 g)であった。平均3.7年間の追跡で、複合した結果は参加者の3,317(3.3)で生じた。推定ナトリウム排泄量4.00 – 5.99 g/d(塩として10.2 – 15.2 g/d、参考範囲)と比較すると、比較的高い推定ナトリウム排泄量(7.00 g/d以上、塩として17.8 g/d)は別に考えられる死亡や心血管疾患発症の危険率増加はもちろん複合した結果の危険率増加と関係していた。高い推定ナトリウム排泄量と複合結果との関係は高血圧者と6.00 g/d以上の推定ナトリウム排泄量(塩として15.2 g/d)の危険率増加者で最強であった。参考範囲と比較すると、3.00 g/d以下(塩として7.6 g/d)の推定ナトリウム排泄量は複合結果の危険率増加とも関係していた。1.50 g/d以下の推定カリウム排泄量と比較すると、比較的高いカリウム排泄量は複合結果の危険率減少と関係していた。

結論

 ナトリウム摂取量が測定された尿排泄量に基づいて推定された本研究では、3 g/dから6 g/dの推定ナトリウム摂取量(塩として7.6 – 15.2 g/d)は高い又は低い推定摂取量のいずれかよりも死亡と心血管疾患発症の危険率減少と関係していた。1.50 g/d以下の推定カリウム排泄量と比較すると、高いカリウム排泄量は死亡と心血管疾患発症の危険率減少と関係していた。

 

 

 世界中の集団のほとんどは3.0 – 6.0 g/d(塩として7.5 – 15.0 g/d)のナトリウムを摂取している。心血管疾患予防に関するガイドラインは1.5 – 2.4 g/d(塩として3.8 – 6.1 g/d)のナトリウム摂取量を勧めているが、この目標達成するにはほとんどの人々の食事を実質的に変えなければならない。

 臨床試験か減塩で血圧低下を示してきたが、我々の知識では、減塩で心血管疾患の危険率低下を述べた大規模なランダム化比較試験はなかった。前向きコホ-ト研究は塩摂取量と心血管疾患発症率および死亡との間に矛盾した関係を示してきた。いくつかの研究は平均摂取量と比較して7.5 g/d以下の塩摂取量の人々で心血管疾患発症または死亡の危険率増加を示してきた。しかし、これらの研究の多くは全集団を代表していない高い心血管疾患危険率の人々を含めていた。塩摂取量と心血管疾患との関係は複雑で、心血管疾患の危険率とも関係しているカリウム摂取量のような他の食事因子によって変更させられるかもしれない。

 全集団で塩摂取量と心血管疾患との関係を調べる大規模研究からのデータを必要とするために、我々は5大陸から101,945人を含む前向きコホート研究を行った。我々は尿中ナトリウムとカリウム排泄量と死亡および起こりやすい心血管疾患発症との関係を調べた。

 

方法  省略

 

結果  省略

 

考察

 この大規模で国際的な前向きコホート研究で、推定したナトリウムとカリウム排泄量(摂取量の代わりとして使用した)および死亡と心血管疾患発症との関係を調査した。死亡と心血管疾患発症の最低リスクは7.6 g/dから15.2 g/dの推定塩摂取量の人々で見られた。推定塩摂取量の高い塩摂取量と低い塩摂取量の両方とも危険率増加と関係しており、J字型関係曲線の結果であった。高血圧参加者だけに有意であった高い推定塩摂取量と危険率増加との関係は血圧について調整後に弱まった。このことは高塩摂取量の悪い効果が血圧に及ぼす塩摂取量の効果によってある程度和らげられるのかもしれないことを示唆している。対照的に、高血圧患者と高血圧でない人々の両方に見られる低い推定塩摂取量と危険率増加との関係は血圧調整によって影響されず、血圧効果以外の機構が役割を演じているらしいことを示唆している。

 3.8 g/d – 6.1 g/dの最高塩摂取量を勧めている現在のガイドラインは、中程度から低塩摂取量の減塩は血圧をわずかに下げることを示した大部分の短期間臨床試験からのエビデンスに基づいている。心血管疾患に関して減塩の明らかにされた利益は、塩摂取量と血圧、そして血圧と心血管疾患発症との間の直線関係を仮定したこれらの血圧試験からのデータモデルから推定されている。これらのガイドラインに暗示されていることは、減塩の低い限界に危険性はないという仮説である。しかし、ナトリウムは正常なヒトの生理で重要な役割を演じていることが知られており、ナトリウム摂取量が3.0 g/d以下に低下すると、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の活性化が生じる。

 塩摂取量と心血管疾患または死亡との間のJ字型関係はこれまでの研究でも示されてきた。しかし、これらの研究のいくつかは高い心血管疾患危険率の参加者を含んでおり、逆の因果関係からの偏向に陥りやすい。既に心血管疾患または増加した心血管疾患危険率にある人々が疾患または医療を勧告されているために減塩しなければならない時には、逆の因果関係が生じるかもしれない。PURE研究で参加者の大多数は心血管疾患履歴を持っていなかった。しかし、糖尿病者と心血管疾患歴を持っている者は低い推定塩摂取量参加者のグループでより一般的であったが、これらの人々は、中程度の推定塩摂取量の人々と比べて同様の総合的な平均INTERHEART Modifiable Risk Scoreを持っていた。さらに、既に心血管疾患、癌、糖尿病者を患っている参加者、または現在喫煙している参加者を除き、追跡期間で最初の2年間に発症した参加者を除くと、我々の結果は著しく変わった。それにもかかわらず、逆の因果関係は完全に除外されないで、低い推定塩摂取量参加者のグループで観察される危険率増加を一部説明しているかもしれない。

 高い推定カリウム摂取量は死亡と大きな心血管疾患発症の複合した危険率を下げることと関係していることにも我々は気付いた。カリウムの多い塩を使って参加者がカリウム摂取量を増やし高いナトリウム摂取量を減らした小規模の集団ランダム化比較試験は高いカリウム摂取量に割り当てられたグループの人々で心血管疾患死亡の低下を示し、大規模で決定的な試験の鋳型として役立った。カリウム摂取量の増加は血圧に及ぼすカリウムの効果を通して死亡と心血管疾患の危険率を減らすかもしれない、あるいはカリウムの豊富な健康的な食事パターン(例えば、果物・野菜摂取量が多い)の単なる徴候となるかもしれない。我々の解析では、カリウム摂取量と複合した結果との関係は果物野菜摂取量と血圧について調整後に弱められた。

 我々の研究の潜在的な一つの限界は、ナトリウムとカリウムの摂取量を推定する我々の方法が実際の24時間尿収集ではなく24時間尿排泄量の慣用推定値を使ったことである。推定ナトリウム摂取量と血圧との関係に関してPURE研究者のメンテらによる研究にも適用されたこの問題はその論文でさらに考察される。尿中に排泄されるナトリウムと比較してカリウム摂取量の比率は低いので、我々の方法はナトリウム摂取量を推定するよりもカリウム摂取量を推定するには多分、信頼性がない。

 我々の研究の潜在的なもう一つの限界は、我々の研究集団を選ぶために本当に妥当性のある試料採取方法を用いていなかったことである。国や場所の幅広い範囲でナトリウム排泄量を調査するという多くの実際的な制約を考えると、そのような方法は可能であるようには思えなかった。我々の結果の一般化を説明する時、試料採取がランダム化されていないという事実を考察すべきであるが、我々の結果の内部的な妥当性に妥協すべきでない。

 全ての観察研究と同様に、我々の研究の追加の潜在的な限界は測定していないまたは不完全に測定された変数からの残りの混乱因子がある可能性である。しかし、我々のアレイアプローチ解析は、混乱因子の効果が一次多変数モデル、特に低塩摂取量の危険率増加について関係の方向を変えるほど大きくなる必要があることを示した。例えば、強い混乱因子効果(オッズ比2.0以上)でもオッズ比を1.0以下に調整する結果となる低塩摂取量と中程度摂取量とのカテゴリー間に著しいインバランス(30%以上のポイント差)にする必要がある。しかし、より小さなインバランス(20%のポイント差)は高塩摂取量についての関係の方向を変えるだろう。

 結局、我々の研究は様々な塩摂取量のグループについて疫学的な比較を提供し、減塩の臨床結果に及ぼす影響に関する情報を提供していない。したがって、我々の結果は意図的な減塩は死亡または心血管疾患の危険率を変えないエビデンスとして解釈されるべきでない。

 結論として、我々は大規模で国際的な前向きコホート研究で推定塩摂取量およびカリウム摂取量と死亡と心血管疾患発症の危険率との関係を調査した。7.6 g/d – 15.2 g/dの推定塩摂取量は高いまたは低い推定塩摂取量のいずれかよりも死亡や心血管疾患発症の危険率低下と関係していた。1.50 g/d以下の推定カリウム摂取量で比較すると、高いカリウム摂取量は複合的な結果の危険率低下と関係していた。