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司会者の意見:臨床診断用の塩、心血管危険、観察研究と勧告値

Moderator’s View: Salt, Cardiovascular Risk, Observational Research and Recommendations for Clinical Practice

By Carmine Zoccali and Francesca Mallamaci

Nephrology Dialysis Transplantation 2016;31:1405-1408  2016.09

 

要約

 観察研究で、血圧、コレステロールと塩摂取量を含む栄養状態バイオマーカーは首尾一貫して健康結果とJ-またはU-字型関係を示す。けれどもこれらのデータは合併症または合併疾患、または意識的な減塩のために安定的な塩摂取量または減らされ摂取量を反映しているかもしれない。合併症と危険因子について調整することは混乱因子を排除することに失敗するかもしれない。コレステロールと血圧について、我々は予防のための勧告値や介入(実験)研究に基づく治療に基づいている。ナトリウムについて、我々は必要とする完全な大規模試験を欠いているが、介入研究から得られたその後の詳細な情報は無視されない。血圧に及ぼす食塩制限の効果に基づく心血管疾患発症のための過剰塩摂取量の危険性をモデル化することは正当化されない目的は、適用された介入とは無関係に、あまり意図的でない治療(140/81 mmHg)と比較して意図的に血圧低下治療(平均血圧133/76 mmHg)は主要な心血管疾患のために14%の危険率低下と関係している。この知識の文脈では、不活発すなわち、‘母となる試験’を待っていることは正当化されない。この試験はまだ必要であり、モデル化されたデータではなく実際のデータが理想的な解決であることを認識しながら、今のところ成人で5 g/d以下に減塩するWHOの勧告が有効である。

 

 塩論争は1世紀にわたる古い討論である。1904年に2人の洞察に満ちたフランスの医者であるアンバードとボジャードが比較的小さな臨床シリーズで塩と高血圧との関係を観察した。ブルックヘブン国立研究所のレビス・ダールと同僚達によって行われたラット・モデルの実験が、非常に高に塩摂取量が高血圧を引き起こすと言う人を動かさずにはおれないエビデンスを出したとき、環境的な毒物として塩についての関心が強まった。かくしてダールらによる動物モデルからの結果に主として基づいて、栄養とヒトの必要量に関するアメリカ合衆国上院特別委員会は、幅広い医学的、社会的関連に伴う厳しい勧告でアメリカ人は少なくとも50%減塩することを1977年に勧めた。信頼できる非営利医療研究機関であるコクラン共同研究は次のように結論した。一次医療または人口予防計画には不向きな‘厳しい介入’は長期間試験中にほんのわずかな血圧低下をもたらす。そのことは4週間以上の期間の中程度の減塩はかなりで人口の観点から正常血圧者と高血圧者の両方で血圧に重要な効果をもたらすことを報告している同年に発表された同機関による他のメタアナリシスと比較した場合である。このメタアナリシスは2013年の34試験(全部で参加者3,230)を含めて繰り返し更新されて来ており、同じ結論が絶えず確認されてきた。他方、2つのメタアナリシス、最初のは心血管危険の代替指標に基づいており、塩摂取量と観察研究および臨床試験における死亡の危険性との関係を第二は見ているが、低塩摂取量と高塩摂取量の両方はヒトの健康に有害であるかもしれない、と結論を下した。

 2010年にNDT (Nephrology Dialysis Transplantation) の名誉編集者ノーバート・ラメイレは塩に関する議論のある論評を発表し、表題は塩戦争で、問題が対立的で二極化しているとどれだけ認識されているかに関する疑問である。私がNDTに新しい論争討論の場を作り、‘NDT-中心的な意見’としてこれを新しい特集記事として指定したとき、私はこの論争の的となっている話題を念頭に置いていた。この新しい‘塩戦争’話題のための2人の論争者は両側の優れた主唱者である。世界で最も強硬な意見を述べる塩反対者であるグラハム・マグレガーによって指導を受けた堅実な研究者で、ナポリの内科で教育された塩反対拠点者であるフランセスコ・カプチーオはヒトの栄養で塩の限界について改革運動で最もリーダーの1人である。反対陣営ではニールス・グラウダルが、塩は重要な公衆衛生問題であるという意見に反対する先鋭的で頭脳明晰な研究者である。彼のよく議論された論文で、フランセスコ・カプチーオは、疑問は論争中であることを拒否しており、今日、ヒトの健康に及ぼす塩の悪い効果は非常に明らかで、明確に示されているので問題は解決していると考えられる、として確認している。彼は論争を50年代と60年代の過去の問題として喫煙論争に例えている。それでも問題がまだ論争を続けていることは否定できない。20155月に、NDTのもう1人の名誉編集者で明敏で洞察に満ちた臨床研究者のチルマン・ドゥリュッケはロンドンのERA-EDTA会議で優れた基調講演を行い、食料品中の大規模な塩の低下や減塩はヒトの健康に有害であるかもしれないと言う立場を大々的に支持した。グラウダルとドゥリュッケだけが塩を毒物と考えるべきであると言う意見に反対しているのではなく、彼等の陣営には多分、人口レベルの減塩すら保証された公衆衛生介入であると言う考えの最も不屈な反対者であるミカエル・アルダーマンと、今では国際的に尊敬されている心血管疫学者でありランセット専務取締役鬼最近発表された非常に大きなコホート研究の共著者であるサリム・ユスフがいる。

 最初から私は (非財政的な) 利益相反を言明すべきであった、何故ならほとんど40年間、私は塩反対者の陣営にテントを張ってきて、まだ同じ陣営に残っているからであった。私の背景姿勢によって課せられた制限で、2人のライバルによって発展してきた論拠に私は一時的に焦点を置き、メンテとユスフによる2人のライバルがNDTで彼等の正反対の意見と反論を起草した後で発表されたランセットの論文を考察することによって最終コメントをする。これは妥当である、というのは、実験研究よりもむしろ観察研究に主として基づいて人口レベルの減塩を目的とした運動に反対して、反対陣営は最近批判を新たにしたからである。

 賛成側のライバルであるフランセスコ・カプチーオは、ヒトの健康に対する大きな脅威のタイムリーな認識で過去の失敗を思い出しながら一般的な主張で始め、19世紀のコレラ流行と20世紀に喫煙の広がりと惑星の地球温暖化の危険により失われた生命を引用している。塩は新生児でも血圧を上昇させることを強調し、2015年に発表された塩摂取量と血圧との関係に関して存在するメタアナリシスのメタアナリシスに焦点を置いている。高塩摂取量は心血管疾患、死亡、脳卒中のそれぞれ危険性を上昇させることを示す2つのメタアナリシスを彼はテーブルの上に置いている。塩摂取量が減らされたとき、運動中の反規制応答は有害となるかもしれないと言う主張を彼は明確に拒否している。何故なら、塩摂取量が非常に低いレベルでは、すなわち、主要な保健当局によって現在勧められている塩摂取量の中程度の低下に合わないレベルで、この主張を支持するメタアナリシスも短期間の研究を含んでいるからである。アメリカ心臓協会による声明から引き出された表を作成することによって彼の反対者の主な主張の幾つか、グラウダル意見の最重要項目である塩摂取量と心血管疾患発症を関係付けている観察研究の解釈で方法論的な間違いを列挙して彼は巧妙に弱めようと試みている。過去数十年間に集められた世界中の科学的エビデンスは、死亡と心血管疾患を減らすための公衆衛生優先事項として平均5 g/dの塩摂取量を勧めるためにWHOによって十分であると思われたことと、問題は非常に人を動かさずにはおかないので、減塩を目標にした人口政策は世界中の国家レベルですでに確立されていることをカプチーオは強調している。

 ニールス・グラウダルはカプチーオが提唱している一般的な主張を拒否しており、塩産業による圧力は正に永続する神話であると一言いい、WHOあるいは医学研究所のような有名な機関による審議は、彼等が彼等の勧告値の基礎となっている研究の科学的価値によってよりもむしろ彼等の権威によって進められるかもしれない、と言うことによって反撃している。これらの研究所によって積み上げられた研究は自主と科学的均衡の砦と見做されるべきであると言う考えに彼は挑戦しており、ナトリウムと栄養に関する研究は最適に設計、解析されているかもしれないことを強調している。減塩を主張する臨床医/研究者はアメリカ合衆国政府によって資金援助された研究プログラムを選択している同じ学術ネットワークの一員であるからである。減塩介入テストをした(高血圧予防(DASH))国立心臓・肺・血液研究所による資金で行われた試験で、高血圧肥満者、比較的高齢者、アフリカ系アメリカ人-すなわち、塩感受性がじっと多い人口-は過剰に現われてきた事実に彼は注意を引き付けている。したがって、DASH-ナトリウム試験の設計は血圧に及ぼす減塩の効果を過剰評価する方向に本来的に適応された。その後、低塩摂取量の人々で死亡の上昇を示す観察研究の偏向は誇張されているかもしれないことを彼は主張している。彼の論点を支持して、彼はPURE研究を引用している。世界中の100,000人以上を登録した研究で、血圧と塩摂取量の関係は直線的で、低塩摂取量の人々で死亡に増加を示している大規模な試験で確認している。

 学術的な独立性はきちんと評価されていないと均衡は要求し、この点で学術的な偏向は見落とされるべきではないと言うニールス・グラウダルに私は同意する。非営利関係は政治、イデオロギー/宗教関連の利益、すなわち、学術共同研究ネットワークと個人的な利益を守ることの利益を含んでいる。科学研究評価は一般的な評価よりも中立的で客観的ではない。他方、PURE研究からの結果およびPUREと臨床試験から得られた3つのコホ-トからのデータを組み合わせた追加的な解析は何も驚くような物ではなかった、と私は思っている。全人口レベルで非常に大きな観察的データベースで、血圧、コレステロール、体格指数で推定される栄養状態、そしてタンパク尿のような基本的な生物現象を反映させる生物指標は死亡と他の健康結果と低い摂取量で危険率上昇を示すJ字またはU字型関係を示す。したがって、同様の関係が塩摂取量でも予測される。オドンネルらによるPURE研究、同じグループによるその後の4コホート研究、グラウダルらによるメタアナリシスを含む幾つかの前の研究で規則的に確かめられていたからである。しかし、そのような種類の観察データは健常な人々で安定した塩摂取量あるいは健常な人々と病気の人々で合併症または併発症または作為的な減塩のための摂取量低下を反映しているかもしれないことを我々は明確に記憶しておく必要がある。合併症と危険因子について調整した統計方法は交絡効果を満足できるほどには排除できないかもしれないことを過大に強調されない。コレステロールと血圧について、我々は観察データに基づく予防や治療についての勧告値ではなく、介入(実験)研究から得られたデータに基づいている。ナトリウムについて、疫学者達が夢見るかもしれない完全な大規模試験を我々はまだ欠いているが、介入試験から得られた状況的な情報は集まってくる。過剰な塩摂取量は特に高血圧者で血圧の直線的な上昇と関係していることはもはや疑問はなく、4コホート研究で再び確認された(1)2014年のメタアナリシスは約70,000人の被験者で1週間から3年間以上続いた107件の比較介入を含め、幅広い年齢範囲(13歳から73歳まで)にわたる103試験を順序正しくまとめた。1.3 gから16.7gまでの範囲で塩摂取量の低下とこの範囲にわたるメタアナリシスは、5.8 gの塩摂取量低下について3.8 mmHgに相当する収縮期血圧低下を示した。このメタアナリシス(2)で、線形モデルは非線形モデルよりも良くデータに合っており、血圧に及ぼす減塩効果について域値がないことを示唆している。この相関とこのメタアナリシスの著者らによる前のプールした解析で血圧と心血管死亡との間の平行した線形相関に基づいて、5.1 g/d以上の塩摂取量は2010年に心血管疾患で165万人の死亡を引き起こしたと推定された。心血管疾患危険性をモデル化するこの方法は合理的でないとメンテらは異議を唱えた。4コホート研究で塩摂取量と心血管疾患発症の関係は線形ではないからで、140/90 mmHg以上の基準血圧の人々に限られているからである。さらに、SPRINT研究を除いて、臨床試験は140/90 mmHg以下の基準血圧の人々の血圧を下げることは有益であることを証明できなかったことを彼等は付け加えた。長期間、大規模な減塩試験が公衆衛生用の根拠の確実な勧告値を作るために必須であることをメンテらは擁護した。グラウダルは同じ発現をしており、その種の試験は本当に必要で、それが行われることを疑っているが、‘全ての試験の母’は価値ある企てであることに原則としてカプチーオも同意しているように思える。めんて、オドンネル、ユスフ、そしてハミルトンの人口健康研究所の研究者達、カナダは塩論争と減塩を全ての人々に強制すべきか、あるいは高血圧者だけに制限すべきかどうかと言う疑問に決定的な答えを提供することを約束している。問題を決定的に調査するために長期間、大規模研究の可能性を探るパイロット試験は同じ研究者達によって既に発表されている。

      図1 正常血圧者と高血圧者のナトリウム摂取量と血圧との関係 Menteらから作成

 

         図2 D. モザファリアンによるメタ回帰分析でナトリウム摂取量と血圧との関係

           マサチューセッツ医学協会から作成

 

 ‘試験が必要’と言う文言は論争問題について議論で常に現われるが、我々が医療行為に直面しなければならない今日の問題の解決のどこにも繋がらない。それでは今何をすべきか?イタリアの平均塩摂取量-ヨーロッパで最高の塩摂取量国-は11.2 g/dで、イギリスでは10.1 g/d、フランスでは9.6 g/dで、残りのヨーロッパ諸国では8.3 g/d(デンマーク)10.7 g/d(スロバキアとスロベニア)の厳しい範囲内である。アメリカでは、成人の平均塩摂取量は9 g/dで、10人中9人が6 g/dを超えた塩摂取量である。そのような塩摂取量はその後に高血圧を引き起こす原因となると言う事実(1)は否定できなかった。血圧に及ぼす塩摂取量の効果を心血管疾患発症や死亡まで外挿することは適性ではないかもしれないことを何人かの研究者達は主張しているが、低塩摂取量で心血管危険率の明らかな上昇は因果関係を反映していると言う仮設は、因果関係についてのヒルの基準の総合的な適用によって試されたとき、はるかにあり得ないように思える。140/90 mmHg以下の血圧低下が有益であるかどうかを我々はまだ分っていないというメンテらによる異論はメタアナリシスを考察していない。そのメタアナリシスは同じ著者らによるニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンの論文と19試験(1.0 – 8.4年間の追跡で参加者44,989人と主要な心血管発症2,496)を含む論文とほとんど同時期の物で、それらが示していることは、あまり積極的でない治療グループ(140/81 mmHg)と比較して、より積極的に血圧低下治療を受けているグループ(平均血圧133/76 mmHg)では主要な心血管発症について14%の危険率低下が得られた。それには13%の心筋梗塞低下、22%の脳卒中危険率低下、19%の網膜症進行の危険率低下が含まれていた。この知識の文脈では、不活動すなわち、‘マザー試験’を待つことは正当化されないことはこの司会者の意見である。これはまだ必要であるかもしれないし、モデル化されたデータよりも実際のデータが理想的な解決になることは認識されているが、今までは成人で5 g/d以下に減塩するWHOの勧告が続いている。