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塩と心疾患:“悪い科学”の第2ラウンド

Salt and Heart Disease: A Second Round of “Bad Science”?

By Franz H Messerli, Louis Hofstetter, Sripal Bangalore

Lancet 2018;392:456-458  August 11, 2018

 

 2年前にアンドリュー・メンテと同僚達は49ヶ国から130,000人以上を調査した後、減塩は心疾患、脳卒中、あるいは高血圧患者だけの死亡の危険率を低下し、塩摂取量があまりに低すぎると減塩は有害であると結論を下した。科学界の反応は速かった。“そのような悪い科学”はランセットによって発表されるべきであると“不信感”が表明された。アメリカ心臓協会はその結果に異議を唱え、“心臓に健康的”であるとして勧めている塩よりも著しく多く含んでいる製品をアメリカ心臓協会は長年保証してきたにもかかわらず、彼等の結果は根拠の確実でないと述べた。

 今、ランセットでメンテと同僚達は8.1年間という中間で18ヶ国から35 – 70歳の成人94,378人を追跡した疫学的コホ-ト研究を報告している。参加者の平均年齢は50歳で、58%は婦人で全てが募集時に心血管疾患歴はなかった。著者らは個別レベルのデータの使用に伴う既知の混乱因子について調整した社会レベルの解析を使用した。意外ではなく、高塩摂取量は脳卒中発症率の増加と関係していたが、この効果は中国と大きく限定され、そこの平均塩摂取量は14.2 g/dであった。しかし、最も挑発的に、369社会で平均収縮期血圧と強く直接的な関係(塩摂取量2.54 g当たり2.8 mmHgの上昇)があるにもかかわらず、塩摂取量と心筋梗塞や死亡との間に逆相関を示した。

 何十年間もの集合データは心筋梗塞についてよりも脳卒中について血圧はずっと強力な危険因子であることを繰り返し示してきたが、逆相関-すなわち、血圧上昇と共に心筋梗塞危険率は低下する-は我々の知識では示されなかった。この結果は、塩摂取量との関係で目標器官に異質性があることを示している。それは血圧上昇、脳卒中や心筋梗塞の危険率の相違、あるいは塩は心臓保護効果を発揮する可能性すらあると言うことである。逆に低塩摂取量で、脳卒中と心筋梗塞の危険率は平行してわずかに増加した。

 注意すべきは、アメリカ心臓協会の勧告値で勧められている量の2倍以上の平均塩摂取量が8 – 9 g/dであるにもかかわらず、香港の婦人の平均寿命は87.3歳と世界一である。2010年の24時間尿中ナトリウム排泄量の皮相的な観察と国内総生産のような潜在的な混乱因子を無視した182ヶ国で2012年の出生時国連健康寿命は非常に高い場合をできる限り除いて塩摂取量は寿命を縮めることを示すようには見えない()。冠状動脈疾患の患者に塩摂取量を増加するように我々は今や動機付けるべきか、あるいはアメリカ心臓協会や世界保健機関が勧めるような(それぞれ53.8 g/d以下と5.1 g/d以下)低塩食を少なくとも避けるべきでることをこれは意味しているか?

1 182ヶ国の年齢標準化推定ナトリウム摂取量と健康平均寿命

破線は毎日の推奨限界摂取量を示す。

AHA:アメリカ心臓協会; ESC:ヨーロッパ心臓協会; NHS:イギリス国民保健サービス

 

 我々は勧告値を変える前に、メンテと同僚達の結果が優勢的にアジア集団の観察データであり、基本の24時間ナトリウム排泄量は早朝空腹時の尿測定値から推定されたことを思い出そう。脳卒中危険性のある患者の減塩または心筋梗塞危険性のある塩摂取量増加のような積極的な介入は有益であることに必ずしも従わない。それにもかかわらず、結果は極端に挑発的で、ランダム化比較試験でテストされるべきである。事実、そのような試験は厳密に管理された環境であるアメリカ合衆国の連邦刑務所囚人について提案されてきた。

 J字型関係のエビデンスに関係なく、主な心血管疾患、脳卒中、心筋梗塞そしてカリウム摂取量の増加に伴う総死亡の低下率間の関係のメンテと同僚達による観察はあまり論争されるものではない。カリウム摂取量と心血管疾患と死亡との間の関係は塩摂取量とは無関係であったことを著者らは示した。果物・野菜の豊富な食事はカリウムが多く、改善された健康結果と一貫して関係していた。したがって、カリウム濃度の上昇は健康的な食事パターンと生活様式の簡単な指標である。多分、減塩提唱者と塩添加自由論者は彼等の辛辣な批判を一時的に横に置いて、カリウムの豊富な食事は積極的な減塩よりも実質的に大きな健康利益をもたらすと言う仮説を支持している。

 減塩を試験的に見てみることが連邦刑務所囚人に提案された単純な事実は、半世紀以上も前にオックスフォード大学医学部の欽定講座担任教授であるジョージ・ピカリング卿によって明白に発言したように、塩摂取量を減らすことはよく知られているように難しいことを示している:“厳密な低塩食は美味しくなく、食欲をそそらなく、単調で受け入れられなく、耐えがたい。それを続けることは熱烈で狂信的な苦行を要求する。”もっと多くの果物や野菜を食べることによって食事のカリウムを多くするように動機付けられた人々はあまり忍耐を必要としないようだと我々は思う。

 塩摂取量と心血管疾患との関係について提唱されている論争は今日の科学者達よりも中世の聖職者によりふさわしいスタンスを反映している。“悪い科学”のような批判の言葉は、結果が見る人の予想された意見と矛盾していることを単に反映している。メンテと同僚達が塩摂取量と血圧との密接な関係を記録した単なる事実は健全な方法論を立証するために選ばれる。弱いとは言え同様の相関は別の集団で24時間歩行時の収縮期血圧と24時間ナトリウム排泄量との間で記録された。方法論的な問題があるにもかかわらず、カリウム摂取量増加の有益性と言う注目すべき例外と共に、メンテと同僚達の結果は再び論争を引き起こすことはほとんど疑いない。しかし、その後“論争は生命と血液の科学であり”そして“科学が進歩するのは論争を通してだけであるので、論争は歓迎されるべきである。”