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塩と健康:勧告値を再検討する時期

Salt and health: Time to Revisit the Recommendations

By Tilman B. Drüeke

Kidney International 2016;89:259-260

 

塩摂取量と人の健康との関係は過去100年間論争課題であった。この分野の最大の研究は塩摂取量と悪い臨床結果との間にJ字型曲線関係を示しており、全人口に5.1 g/d以下の塩摂取量に制限する現在の勧告値を再評価する必要性を示唆している。

 

 塩化ナトリウムを表すために一般的に使われる言葉の塩は生命に不可欠な栄養素である。塩は古代ギリシァでは神聖な物と考えられた。しかし、ホメオスタシスや様々な病理学上の条件におけるナトリウムの中心的な役割が十分に認識されて来たのはわずか20世紀以来からである。ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンであり、塩化物イオンと共に細胞外液環境の正常な緊張と細胞の正常な水含有量を維持する浸透圧制御システムの基本的な元素である。最近まで体内のナトリウム蓄積は体液の正常な浸透圧を維持するために比例した水保留によって平行されていると仮定されてきた。しかし、過去10年間に、実験データとヒトのナトリウム収支研究は、ナトリウムの無水貯蔵は腸管組織、特に皮膚で起こるかも知れないことを示唆してきて、これはリンパ腺系システムや単核食細胞を含む調節工程である。この調整システムの発見は塩と血圧との関係について影響しているかもしれない。

 生体におけるナトリウムと塩化物の数多くの基本的な役割にもかかわらず、前世紀に塩が毒物でなければ、悪者の立場となった。とりわけ、これについての2つの重要な理由があった (i) 降圧剤が利用できない時代に劇的な塩摂取量の低下(ケンプナーの米と果物食)によって重症動脈高血圧の部分的な管理という1940年代の観察と(ii) 低塩食によって血圧を正常化できる塩感受性高血圧のラットでレビスK. ダールによる1950年代の研究である。

 その後、多くの観察研究やランダム化比較試験が塩摂取量と血圧との関係を評価し、矛盾した結果であった。幾つかのランダム化比較試験-一般的に小さい規模、短期間、あるいはその両方-は、減塩が選択された患者グループで良い血圧管理に導いたことを示したが、他の研究は少なくとも全集団で通常の塩摂取量限界内で、塩摂取量と血圧との間に直接的な関係を見出せなかった。これらの矛盾した結果について幾つかの説明がある。第一に、幾つかの研究はより塩感受性らしい人々のグループに焦点を置いていた。老人あるいは黒人と高血圧者あるいは慢性腎臓疾患者を含んでおり、そのような関係を大いに観察できそうであった。第二に、カリウム摂取量(果物野菜)、運動量、そして過剰なアルコール摂取量を含む他の生活様式要因は塩よりも血圧制御に一層重要であることが長く知られている。

 血圧管理は中間の結果である。最も重要なことは、あるとすれば心血管疾患や死亡のような厳しい結果に及ぼす塩摂取量の効果である。観察研究に依存して我々に残しているこの疑問に答えられるランダム化比較試験はない。ここで再び、非常に議論のある結果が優勢になってくる。その分野で最大の研究は平均して3.7年間追跡した18ヶ国からの都市と農村における前向き疫学研究(PURE) に登録された参加者100,000人以上を含んでいた。著者らは推定された塩摂取量-早朝スポット尿試料に基づく-と血圧および心血管罹患率と死亡率との関係を調べた。彼等は塩摂取量と血圧だけでなく塩摂取量と死亡または心血管疾患の組み合わせ危険率および何らかの原因による死亡危険率との関係にJまたはU字型曲線関係を見出した(1)。特に、死亡危険率は15 g/d以上または7.5 g/d以下の塩摂取量で増加した。

 図1 推定24時間尿中ナトリウム排泄量と死亡危険率との関係

       図は推定ナトリウム排泄量と何らかの原因による死亡との関係の制限された三次元

       スプラインプロットを示す。スプライン曲線は12.00 g/dで切り取られている。ナト

リウム排泄量12.00 g/d以上の参加者の疾患率は参加者305人の中で5件であった。

プロットは年齢、性、地域、教育水準、先祖(アジア系対非アジア系)、アルコール摂

取量、体格指数、糖尿病に関する状態、心血管疾患歴そして現在の喫煙で調整した。

破線は95%信頼区間を示す。中央ナトリウム排泄値(4.72 g/d)は赤線で示した参考基

準であった。推定ナトリウム排泄量を塩摂取量g/dに変換するには2.5倍する。PUR

Eは都市と農村における前向き疫学である。O’Donnell M, Mente A, Rangarajan S

の許可を得て再販。尿中ナトリウムとカリウム排泄量、死亡率、と心血管疾患。

N Engl J Med. 2014;371:612-623

 

 WHOは世界中で通常の塩摂取量9 g/dと比較して、全人口で5 g/d以下の塩摂取量に減らすことを勧め続けている。塩摂取量と厳しい臨床結果との関係に関する限られたエビデンスを行政概要は認めており、勧告値はもっとデータが利用できるようになるにつれて再評価されるべきことを示唆している。医学研究所は2013年にデータを再調査し、現在利用できるエビデンスはアメリカ合衆国で勧められている塩摂取量5.8 g/d以下の影響に関して一致していないと結論し、幾つかの事例によるエビデンスは低い塩摂取量で悪い健康結果の危険率増加を示唆していることを述べている。PURE研究からの新しいエビデンスを考えて、全人口が塩摂取量を5.1 g/d以下に制限する現在の勧告値を再考するときである。