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塩と高血圧:どうしてまだ論争しているのか?

Salt and Hypertension: Why Is There Still a Debate?

By Vecihi Batuman

Kidney International Supplements 2013;3(4):316-320

 

要約

 現在、人口の1/4以上が最近の数十年間中に塩摂取量の著しい増加に並行した高血圧で苦しんでいる。圧倒的に多くの実験的エビデンスと疫学的エビデンスがあるにもかかわらず、塩と高血圧との関係をまだ論争している。2,3の弱点のある研究の矛盾したいくつかのデータを指摘して、減塩に対する政策介入は時期尚早で、さらなる研究が無ければもしかすると危険であるかもしれないと彼等は主張している。歴史的で進化論的なタイムスケールに基づくヒトの食事に塩が入ってきた歴史の概観に沿って、塩摂取量と高血圧との関係に関連したデータの短いレビューは低塩食の有効性と安全性に関する疑いを晴らすことに役立つべきである。記録されている歴史は最近の時代まで塩を得ることは非常に難しかったことを確認している。全ての他の陸上の生命体のように、人類は塩保持遺伝子の選択について強力な進化論的圧力の下で塩のない環境で進化してきた。高血圧は近代人の基本的な進化不適応症である。低塩条件に上手く巧妙に適応した近代人は突然、塩過剰に直面させられた。世界保健機関と多くの政府は結局、減塩行動を取ってきた。減塩は既に高血圧症と心血管疾患罹患率や死亡率に関係している苦しみを減らすために始められてきた。この短いレビューは疫学的データや実験データを調べると同時に歴史的、進化論的展望から塩と高血圧との関係に関するエビデンスを幅広く調べている。

 

 最近の数十年間に、塩摂取量は世界中で18 g/dに向けて次第に上昇し、それに伴って高血圧発症率も著しく増加し、25歳以上の成人の25%以上が世界的に高血圧である。世界保健機関は心血管疾患死亡率の主原因として高血圧をランク付け、高塩摂取量と高血圧を関係付ける圧倒的なエビデンスを引用して、心疾患や脳卒中による死亡数を減らすために塩摂取量を減らす行動を取るように多くの国々に促してきた。高血圧の病因についての我々の理解は高血圧の発症で主演者として明らかに塩を上げており、血圧に及ぼす減塩の有益な効果を確認している多くの実験データと疫学データがある。エビデンスにもかかわらず、科学メディアと商業メディアのある者は減塩の利益を論じており、いくつかの観察研究で述べられている矛盾した結果を指摘している。歴史的で進化的なタイムスケールでヒトの食事における塩の歴史や研究データの幅広いレビューは塩と高血圧との強い関係をより良く理解するのに役立つだろう。

 

歴史的概観

 塩は世界の記録された歴史で重要な役割を演じた。純粋な塩の研究は何千年間も人類に関与し、様々な分野で歴史に影響を及ぼした。その代表的な性質は冷凍保存が出来るまで食物を保存できるようにし、狩猟採取生活から定住生活様式に移行できるようにした歴史に極めて大きな影響を及ぼし、主要な経済的日用品として塩を設定した。古代中国のテキストは2000年以上も前に塩を製造する二つの異なった方法を記述し、異なった40種類の塩を述べ、食物保存で塩の使用法を述べている。古代エジプト人はミイラ作りや食品の保存に塩を使った。塩税は古代中国政府にとって、そして後には世界中の多くの他の政府でも重要な歳入源であった。ローマ兵士は塩のお金、ラテン語のサラリウムとして毎月支払いで配給された。古代リビアでは、塩は同重量の金と取引された。塩は冷酷に課税された。フランスの塩税であるガベルはフランス革命に駆り立てた。塩は諸国間で戦争を引き起こし、古代ローマの塩街道のように交易路の確定に影響を及ぼし、今日のイタリアで近代的ないくつかの高速道路の元となっている。塩鉱山のある多くの市は塩にちなんだ名前が付けられた。例えば、ザルツブルグ、ハルシュタット、ツズラなどである。イギリスの塩条例の反抗であるガンジーの塩の行進はインドでイギリス支配を終わらせたインド独立運動で中枢の瞬間であった。したがって、記録されている歴史が述べていることは、ほぼ5000年間、人類は塩を知っており、価値を認め、塩を尊び、神聖な物としてきた。その理由は食物を保存するのに塩が必要であり、非常に乏しく、極度に欲しがり、最近まで普通の人々は入手できなかったからであった。安くて精製された食卓塩はごく最近、様々な方法でヒトの食事に不適切に加えられるようになった。近代の地質学の助けで世界中に多くの塩鉱床があることが分かってからわずか2世紀も経たないうちに塩は幅広く利用されるようになった。その後、近代技術の助けで効率よく大量に生産されるようになった。

 

進化論者の背景

 近代人類の進化と我々哺乳類の祖先は200万年の期間にわたって実質的に塩を得られない環境に置かれていた。これは進化では数百万年に広げるとほとんどの陸上動物について実際に真実である。

 海水で生まれた生命にとって海水環境から離れて陸上環境へ移動すると、‘我々の体内に海水’を運び込む能力が重要であった。したがって、人類や我々の遠い祖先が進化した環境で(適合環境)、自然食で摂取できる非常に少ない塩の量-かろうじて0.25 g/dの塩を保持できる機構と遺伝子のために強力で厳しい選択圧力があった。事実、今日までに血圧に関係している全ての遺伝子はナトリウム輸送と関係している。塩を保持する効率の良い機構がなければ、塩は我々の血漿量の基本的な成分であるので、身体排泄物中の塩損失が致命的な結果をもたらす。数百万年にわたって進化してきた生理のために、全ての陸上の動物生命体は塩欠乏に巧妙に上手く適応し、下痢や嘔吐のような大量の塩損失に直面しなければ、通常の塩補給がなくても生き延びられる。全てこれらの生命体は食事中に塩を加えなくても上手く生存できる。人類だけが食事への添加物として塩を発見した。そして10 – 18 g/d以上の塩(我々の自然の旧石器時代の食事よりも50 – 70倍高い)を含む近代の食事のように塩を食べ過ぎる状態に押し込まれた時、その結果は高血圧、腎不全、脳卒中、心疾患である。

 世界中で高血圧発症率は近代的な食事で塩摂取量の増加と並行して今や26%に達した。砂糖入りの飲料水を多く飲むことによる肥満、胃がん、腎臓結石、骨粗鬆症の高い危険率と高い塩含有量の食事を関係付けるエビデンスもある。高い塩摂取量は塩と水保留の増加、糸球体濾過量の増加、圧利尿応答の鈍化(高血圧の発症に進む生理学的工程)と明らかに関係している。これは、進化論医学が進化論の不適合として特徴付けたことであり、高血圧は基本的な不適合障害である。

 今日の無塩社会における観察は塩と高血圧との関係を確認するだけでなく、人類の進化で塩のない環境に上手く適応したエビデンスも提供している。例えば、オーストラリアのアボリジニ、アフリカのブッシュマン、またはアマゾンのヤノマミは最近まで食事で塩を摂らなかった。彼等の全塩摂取量は典型的な狩猟採取食に基づく自然食源から得られる量、わずかに約0.25 g/dよりも多くないことが分かった。そのような社会では高血圧は全く存在しない。それでも、そのような社会が都市化して塩辛い今日の食事に曝されると、残りの人口よりも不釣り合いに高い比率でいくつかの事例で、彼等は高血圧とその合併症で苦しむ。

 

実験的なエビデンス

 デレク・デントンは我々の一番近い進化上の生物であるチンパンジーを使って1995年に行った驚くべき実験は、高塩食(12 g/d)を食べさせたチンパンジーは高血圧を発症し、通常の低塩食(0.25 – 0.5 g/d)を再び食べさせると逆になることを示した。数多くの動物実験は高血圧における塩の役割を確認し、いくつかの研究も、過剰な塩は高血圧とは関係なく心血管の健康に有害な影響を及ぼすかもしれないことを示唆している。例えば、そのような研究の一つが示したことは、正常血圧のウィスター京都ラットで、高塩摂取量は血圧にわずかな中程度の上昇(ウィスター・ラットの高血圧対照である自然発症高血圧ラットで見られたのとほとんど同じ程度)があるにもかかわらず、心臓や腎臓に繊維組織が生成してくる結果をもたらした。

  高血圧を治療できる薬がなかった1940年代に、ウォルター・ケンプナーは何週間も米、果物ジュース、ビタミン類を基にした(ケンプナーのライス・ダイエット)厳しい低塩食(0.25g/d)を数百人の高血圧重症者に与えて治療した。何人かは1年以上も行なわれ、医学文献で最長の減塩研究の一つであった。ケンプナー博士が綴った注意深い記録は、著しく血圧を改善した食事はこれらの患者で心臓肥大を逆転させ、腎機能を改善し、網膜脈管構造における高血圧性変化も逆転させたことを述べている。

 期間は短いけれども、もっと最近の研究は、低塩食が正常血圧者と高血圧患者の両方で血圧を下げることを確認した。多分、一番知られていることは高血圧予防(DASH)試験である。この12週間管理された試験は、‘通常’塩摂取量(8 g/d)から中間(6 g)、低(4 g)摂取量に減塩することは高血圧者と正常血圧者の両方で血圧を下げた。

 

疫学研究

 最近のコクラン・レビューと減塩の健康効果に関するデータの総合的なメタアナリシスは、慢性病の成人で塩の有益な効果を納得の行くように記録しており、非常な低塩食の効力と安全性にも焦点を置いている(図1、省略)WHOの栄養政策と科学的勧告部の科学者によって行われたこの系統的なレビューは次のように結論を下した。慢性病の成人によるエビデンスは、減塩は血圧を下げ、血液脂質、カテコラミン濃度、または腎機能に及ぼす逆効果はないことを示している。低塩摂取量は成人で脳卒中と致命的な冠状心疾患の危険率低下とも関係していた。この研究で、エビデンスの全体性は、ほとんどの人々が減塩で利益を得ることを示唆した。減塩の有益な効果は5 g/d以下で始まることをほとんどの高血圧専門家の間で今やコンセンサスが出来てきた。そして低塩食の比較的高いカリウム含有量は血圧に付加的な有益効果を持っているようだ。最高の利益について、減塩は生涯の早い時期に始める必要があるらしく、継続的な高塩摂取量の心血管効果の幾つかは不可逆的であるかもしれないことをエビデンスも示唆している。

 

論争

 それでは、どうしてまだ論争と減塩が不測の健康障害を起こすかも知れず、付加的なエビデンスを探すと言う警告があるのか?非常に低い塩摂取量グループで悪い心血管結果を示すいくつかの観察研究の結果は、非常に低い量まで塩摂取量を下げることを勧めることに対しての論争を強調してきた。例えば、Stolarz-Skrzypekらによる報告は心血管死亡率と通常時の24時間尿中ナトリウム排泄量との間に弱いけれど一定の逆相関にあると言う彼等の結果に多くの注意を払った。それにもかかわらず、拡張期血圧ではなく収縮期血圧は尿中ナトリウム排泄量と並行して変化していると著者らは述べた。しかし、この観察研究にも多くの限界があった。第一に、長期間の塩摂取量は研究期間中、一回の24時間の尿収集から推定された。第二に、高血圧者と心血管疾患患者は全て解析から除かれた。高血圧や心血管疾患の高い発症率と関係していることが分かっているので、潜在的に高い塩摂取量の三位一体に有利になるような結論に偏向するからである。そして第三に、高い塩摂取量文化で異常に低い塩摂取量(6.3 g/d)を摂らせているコホ-トの結果は十分に説明されていない。

 主要な危険は活性化した交感神経活動に沿ってレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の期待される活性化に寄与している。それらのホルモンは実際にナトリウムを保持し、さらなるナトリウム損失を阻止するように活性化される。これらのホルモンのメカニズムは、自然食で摂取できるわずかな塩摂取量を保持するための圧力下で陸上の生命体の進化中に発生してきた精密な道具である。この塩摂取量は人類と同様に動物でも正常な生理に対応できる。論議はあるが、高塩摂取量でない時のレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の活動または交感神経活動の増加は、無塩集団で観察されたように、そして利尿剤を服用している高血圧患者と同様に、健常人で心臓に悪い効果をもたらさないことを示唆している。これらのホルモンが高塩摂取量、または心臓、肝臓、腎疾患のために塩収支が損なわれた時が危険である。心不全の患者で、通常、尿中のナトリウム濃度が非常に低く、そのことは塩摂取量の代表としては間違っているが、塩を欲しがる不健康な人々から悪い結果は一般的に生ずる。

 塩収支が損なわれたこれらの患者は全身のナトリウムを減らす明確な目的のためにナトリウム利尿剤、すなわち利尿剤でしばしば治療されるので、減塩に関する警告についての論争は失敗する。公然とは述べられていないが、これらの批判が示唆していると思えることは、利尿剤を使って全身のナトリウムを下げることが減塩するよりも安全であると言うことである。塩摂取量の多い集団でより悪い結果は減塩によって説明できないが、彼等に塩摂取量を多くさせる彼等の生理の重要性にずっと関係しているようである。

 アブルートらによるメタアナリシスは特に価値がある。彼等は病人を含めない高品質の研究に対して彼等の解析を限定し、1.2 g/d以下の低塩摂取量が有益で安全であることを示した(図1)からであった。注目すべきことに、非常に低い3 gと言う塩摂取量の特徴は任意で現在の状態に関係している。およそ150 – 200年前まで、世界人口の大多数は食事で今日のように多くの塩を得られなかった。塩のない人口で、平均塩摂取量はわずかに250 – 500 mg/dで、そのような人口は高血圧症そして低血圧または低血漿量もなく良い心血管健康状態で生きている。ヒトの腎臓は非常に効率的にナトリウムを保持でき、そのような人々の平均尿中ナトリウム量は通常、非常に低い(1 – 2 mmol/d)理由がこれである。塩と高血圧との関係はもはや論争すべきでない。実質的に病気でない人々の介入研究と観察研究の両方は明らかにこれを示している。腎臓生理と心血管生理の我々の理解と塩のない環境における生理の進化も十分なエビデンスである。

 

結論

 高血圧の損害によって引き起こされる経済的負担とそれに関連した心血管罹患率に直面している世界の政府は今や行動を起こし始めた。塩摂取量を~5 g/dまで減らす世界的な運動に取り掛かった。フィンランドやイングランドは、食品に加えるしおの量を減らすように食品業界にさせ、食品製品に塩含有量を表示させ、健康に及ぼす塩の有害効果の社会警告を増加させる組合せ政策により摂取される塩の量を既に減らしてきた。世界的なアプローチは世界の高血圧関連疾患の約80%が存在する発展途上国にこれらの方法を広げることを要求している。中程度の減塩でも公衆保健に大きな改善をもたらし、保健関係費の低下をもたらすことを経験は示してきた。世界的な連合である塩と健康に関する世界行動(WASH)が最近始まり、この努力に加わるために高血圧、腎臓、心疾患に関心を持っている他の諸国や保健介護の専門家を励ましている。

 塩のない環境で数百万年と言う我々と関連した種の続いている存在は、低塩食がヒトの元々で自然な食事であり、通常の生理で生存でき、安全であることの十分な証明である。近代のヒトが低塩食に上手く適応することはほとんど備えられなくて、今日のヒトを騙す塩摂り過ぎに上手く対処できない。高血圧で塩の役割に関する実験データは多くの側面を持っており、明々白々である。今日の文明の産物である不自然に高い塩摂取量は高血圧と高血圧によって引き起こされる心血管疾患罹患率と死亡率の増加に寄与している。塩摂取量を約5 g/d以下まで下げることは血圧を有意に下げ、高血圧の合併症を減らす。これは基本的に費用のかからない介入で、保健介護費を削減でき、世界中で数百万人の命を救う。