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塩、塩化物、漂白、先天的な宿主防御

Salt, Chloride, Bleach, and Innate Host Defence

By Guoshun Wang, William M. Nauseef

Journal of Leukocyte Biology   2015.06.05

 

要約

 塩は生命に必須な2つの元素、ナトリウムと塩化物を提供する。塩素のイオン形の塩化物はもっぱら食物吸収から得られ、人体で最も多い陰イオンであり、体液保持や分泌液から浸透圧維持やpH平衡まで多くの重要な生理学的機能で重要な役割を果たしている。しかし、塩化物の見落とされた役割は感染に対する先天的な宿主防御における機能である。塩化物は刺激された好中球による強力な殺菌剤塩素系漂白剤生成の基質としての役割であり、食作用胞内で最適な殺菌作用のためのイオン性ホメオスタシスの制御にも寄与している。嚢胞性繊維症や他の塩化物チャネル異常におけるような食細胞やそれらの食作用胞へ不十分な塩化物供給は感染に対する宿主の防御を著しく損なう。防御性塩化物チャネル機能と宿主防御における機能不全との間の特別な関係に焦点を置いて、塩化物が正常な先天的免疫で演じている役割の概観を我々は提供する。

 

はじめに

 ヒトは食品やその調味料から腸管吸収を通してだけ塩化物を獲得しており、成人の一日塩摂取量は5 – 11 gである。過剰な塩摂取量と同様に不十分な摂取量の重要な健康結果は中程度の塩摂取量の重要性を過少評価している。塩摂取量と最適健康との間の関係のために、塩の入手可能性と所持していることは社会、経済、人類史の文化的観点に大きな影響を及ぼしてきた。

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歴史における塩

 塩は海水、ミネラル鉱床(岩塩)、地表堆積物、塩湖、そしてかん水泉を含め多様な給源からくる。生存に対するその重要性から、塩は価値ある日用品で富の源となってきた。紀元前6050年まで溯った考古学的エビデンスは、ルーマニアのPrecucuteni分化の新石器時代の人々はブリクタージ工程を通して塩を含んだ湧き水を沸騰させて塩を抽出していたことを示している。最古の製塩場は中国の山西省運城近郷の運城塩湖で少なくとも紀元前6000年に溯っている。そこで塩は湖岸から収穫された。一様でない地域的な分布と古代の限られた輸送手段の結果として、塩の入手可能性、開発、所有はヒトの歴史を通して政治、経済、分化に影響を及ぼした。例えば、古代の宗教儀式には塩の供物が含まれ、古代の政治は塩税を課し、塩の供給を独占した。塩税への反感がフランス革命を引き起こし、イギリスの塩独占はインドの独立戦争を引き起こした。

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 何世紀もの間、開業医は塩の治療上の利点を認識してきた。キリスト教以前の第三千年紀に書かれた古代エジプトのエドウィン・スミスのパピルスは胸部の傷の治療に塩を勧めている。パピルスEbers(紀元前1600)は下剤や抗感染薬の製剤で塩の使用を述べており、西洋医療の父と言われているヒポクラテス(紀元前460)は漁師の傷付いた手に及ぼす海水の治療効果を観察した。ギリシア医療は皮膚の外傷に局所的に塩を適用し、消化器系のトラブルに塩水または無機物を入れた水の飲水を述べ、呼吸器疾患に塩を吸入した。ローマ皇帝の侍医であるガレン(紀元129 – 200)は感染した傷、皮膚病、皮膚肥厚、そして消化不良の治療に塩を使った。19世紀の薬剤師は消化器の不調、甲状腺腫、腺疾患、腸内寄生虫、赤痢、水症、てんかん、および梅毒に塩の内服使用を一般的に勧めた。塩の外部使用は発疹、腫れ、炎症、および火傷の場合にアドバイスされた。多くの塩治療は支援医療から治療的介入に至るまで現代の医療に残っている。塩が臨床的に頻繁に使用されているが、観察されている治療効果の多くで基礎となっている分子機構、特に防腐作用はほとんど明らかにされないままである。

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塩療法の現在の実践

 今日でも、塩は薬物療法の重要な要素を構成しており、注射、吸入、または摂取されている。補液療法として患者に日常的に注入される等張塩化ナトリウム溶液(塩水)は臓器や組織から排液、洗浄、または湿らせるための洗浄液として使われている。歯科用塩は歯肉炎や虫歯のプラークを治療するために使われる。塩浴は乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性湿疹、関節炎を治療するためにしばしば勧められる。過去においては、塩水からの蒸気は上気道と下気道の慢性疾患の治療として吸入された。今日、呼吸器疾患患者は肺の洗浄を促進させるために酸素、圧縮空気、または超音波パワーの使用により霧化された塩蒸気エアロゾルを直接吸収する。高張塩水の吸入は嚢胞性繊維症や他の慢性肺疾患の治療に一般的に使われてきた。生理食塩水摂取は下痢中に失われた電解質を置き換えることができ、消化を調節するために胃液と膵臓液の分泌を増加させられる。

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塩化物と好中球の抗菌作用

HOClの抗菌作用

好中球食作用胞が利用できる塩化物源

CFTRを介した食作用胞への塩化物流入

陽イオン依存性の食作用胞への塩化物流入

食作用胞塩化物獲得のための提案されたモデル

以上の項目は省略

 

CFTR塩化物チャネルと宿主防御

他の塩化物チャネルまたは担体と宿主防御

電位依存性塩化物チャネル

CaCCsと宿主防御

KCCsと宿主防御

以上の項目は省略

 

結びの言葉

 人体内のナトリウムと塩化物は「電解質の王と女王」として例えられる。全陰イオン含有量の70%を占める顕著な塩化物にもかかわらず、この陰イオンは長い間それ自身にはほとんど科学的な注目を集めてこなかったナトリウムとカリウムに対する同伴イオンとしか考えられてこなかった。塩化物担体が欠乏が臨床疾患と因果関係があるとき、塩化物に本当の関心が生じてきた。塩化物の多くの十分に確立された生理学的機能に加えて、塩化物は宿主免疫の重要な要素として活動している。不十分な塩化物供給はヒトの好中球食作用胞内でHOCl産生を損なうことによって最適宿主防御能力を蝕む。これと、塩化物チャネロパチーと宿主防御失敗との間の他の因果関係は長く観察されてきた塩の防腐特性に新しい洞察を提供する。