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世界高血圧連盟塩の科学:塩と健康アウトカムに関する研究の定期的に更新される体系的レビュー(20199月から202012)

The World Hypertension League Science of Salt: A Regularly Updated Systematic Review of Salt and Health Outcomes Studies (Sept 2029 to Dec 2020)

By Nan Xin Wang, JoAnne Arcand, Norm R. C. Campbell, Claire Johnson, Daniela Malta, Kristina Petersen, Sarah Rae, Joseph Alvin Santos, Bridve Sivakumar, Sudhir Raj Thout & Rachael Mclean

J Hum Hypertens 2022;36:1048-1058    2022.06.10

 

要約

世界高血圧連盟塩の「塩の科学」健康アウトカム・レビュー・シリーズでは、塩摂取量と健康アウトカムに関する質の高い出版物を取り上げている。このレビューでは、以前のレビューで概説され、WHOが開発した方法に基づいた標準化された方法を使用して、食事中の塩摂取量と健康アウトカムに関する発表された論文を特定し、批判的に評価する。20299月から202012月の間に発売された41件の論文を特定した。これらのうち2件の研究が批判的評価のための事前に指定された方法論的品質基準を満たしていた。これらは前向きコホート研究であり、身体能力と複合腎臓アウトカムを健康アウトカムとして調査した。どちらもナトリウム摂取量の増加/増加と健康アウトカムの悪化との関連性を発見した。高品質の方法の基準を満たす研究はほとんどない。このレビューは、食品中の減塩が健康に有益であるというさらなる証拠を追加し、血圧と心血管疾患以外の健康アウトカムに関する証拠を強化する。食事中のナトリウムに関する研究のほとんどには、ナトリウム摂取量と健康アウトカムとの関連性を確実に評価するための適切な方法論がないことが分る。

 

はじめに

 塩の過剰摂取量が血圧、特に収縮期血圧に及ぼす悪影響は、文献によく記載されている。高血圧は心血管疾患の主な修正可能な危険因子であり、塩摂取量を減らすことで予防および管理できる。このため、世界保健機関(WHO)は、成人の慢性疾患予防のために、塩分5 g/d未満、またはナトリウム2 g/d未満の摂取量を推奨している。

 最近、アメリカとカナダのナトリウムの食事摂取基準は、ナトリウム摂取量と慢性疾患リスクに関するエビデンスの広範なレビューに基づいて更新された。この基準では、血圧と心血管疾患に関連する明確なエビデンスに基づいて、慢性疾患リスク低減のためのナトリウム摂取量を1日当たり2300 mg未満にすることを推奨している。慢性腎臓病、骨粗鬆症、全死亡率などの他の健康影響との関連性も調査されたが、ナトリウム摂取量を減らすとリスクが低減することを示唆する強力なエビデンスを提供する適切な品質の研究はほとんどなかった。委員会は、塩摂取量が健康結果に与える影響を研究するには、方法論的に質の高い研究をさらに行なう必要があると結論付けた。

 最近、7.5 g/d(3000 mgナトリウム)未満の塩摂取量は健康に悪影響を与えるリスクの増加と関連している可能性があると言う一部の著者の主張を巡って論争が巻き起こっている。これは、個人および集団の塩摂取量を5 g/d(2000 mgナトリウム)未満に減らすというWHOおよびその他の組織の推奨とは対照的である。最近の観察研究では、塩摂取量と心血管疾患の結果との関連性がJ字型の曲線を示しており、塩摂取量が少ないほどリスクが高くなることが示唆されている。しかし、ベースラインでの塩摂取量の不正確な測定(スポット尿を使用)は、これらの研究の特徴であることが示されている。その他の方法的問題も、塩摂取量に関するエビデンスの解釈における論争の一因となっている。例えば、塩は食品供給に遍在するため、高品質のランダム化比較試験では、グループ間の塩摂取量の長期的な有意な差を達成できないことが良くある。観察研究は、逆因果関係や残余交絡の影響を受ける可能性がある。

 これらの理由から、我々はWHOとアメリカ合衆国保健福祉省医療研究・品質庁の証拠レビューによって開発された基準を採用し、これらの科学による健康アウトカムの系統的レビューにおける研究の質を評価した。この記事の目的は、20199月から202012月の間に発売された。塩摂取量と健康アウトカムに関連する方法論的に質の高い研究を特定し、批判的に評価することである。

 

方法

 

結果

最低限の方法論的品質基準を満たした研究

1.自由な生活を送る成人の身体能力に対する塩摂取量の影響はどのようなものか?

バイアスのリスク

2.食事による塩摂取量は慢性腎臓病患者の腎臓の結果に影響するか?

 上記2件の論文に関する記述は省略。

 

考察

 以前の「塩の科学」レビューと同様に、塩摂取量と重要な健康アウトカムの関係を調べた質の高い研究はほとんど見つからなかった。この「塩の科学」健康アウトカム・レビューでは、20199月から202012月の間に発表された41件の研究を特定した。研究の大部分(41件中22)は血圧または心血管疾患関連アウトカムを評価したが、詳細な批判的評価のための最低限の方法論的品質基準を満たした研究は2件のみであった。2件の研究は前向きコホート研究設計で、身体能力と複合腎臓アウトカムを評価した。全体として、これらの研究はナトリウム摂取量の増加が健康アウトカムの悪化に関連していることを示した。

 一連の「塩の科学」による健康アウトカム・レビューの中で、これが初めて身体能力を健康アウトカムとして特定したレビューである。これは生活の質の重要な指標を扱っているため、高ナトリウム摂取に関連する有害な健康アウトカムの範囲に貴重な追加となる。高ナトリウム摂取は、尿中カルシウム排泄量の増加、骨密度の低下、サルコペニアと関連している。これらの要因は身体能力に寄与する。Lanaは身体能力を測定するために、短期身体能力検査テストを使用した。この方法は、妥当性、信頼性、応答性が高く評価されている。短期身体能力検査スコアが低いと、転倒のリスクが高まり、日常活動を行なうための自立性が失われ、移動性が低下し、死亡することが判明している。身体能力は調査すべき健康の重要な側面であることには同意するが、ナトリウム摂取量評価方法である食事歴には高いバイアスのリスクがある。ナトリウム摂取量を推定するため24時間尿試料を複数回使用すれば、この研究分野が強化されたであろう。

 詳細な批判的分析に含まれた2番目の研究は、慢性腎臓病とナトリウム摂取量の関連性を示す。さらに質の高い証拠を追加している。アメリカとカナダのナトリウムとカリウムの食事摂取基準を見直した2019年の全米科学・工学・医学アカデミー委員会は、慢性腎臓病、骨の健康、二型糖尿病については、これらの健康アウトカムのリスクを軽減するためのナトリウム摂取量の推奨を策定するための証拠が不十分であると報告書で述べている。ナトリウム摂取量とさまざまな健康アウトカムの関係に関する知識が増加すれば、将来のナトリウム摂取量に関するガイドラインの開発に役立つであろう。

 方法論的品質に関する事前定義基準を満たさなかったものの、公衆衛生に影響を与える可能性のある研究が2件あった。Nasserらは、バングラデシュで24時間尿とスポット尿試料によって評価された血圧と推定ナトリウム摂取量との関係を調査した。338人の参加者が2日間尿を採取し、1日間はモンスーン前の期間、もう1日間は同年のモンスーン・シーズン中に採取した。その結果、血圧と24時間尿によって推定された尿中ナトリウム増加の間に線形相関が見られた。対照的に、1回目と2回目の朝のスポット尿試料の両方で逆V字型のプロットが観察された。ナトリウム摂取量の増加が高血圧と関連するという知見は、24時間尿中ナトリウムを使用して心血管疾患と死亡率のリスクを評価した以前の研究と一致しており、スポット尿評価では健康結果との関連が歪められ、信頼できないことが確認されている。

 Elliotらは、イギリス・バイオバンク研究において、心血管疾患と死亡率、およびスポット尿試料を使用して推定された尿中ナトリウムとの関係を調査した。イギリス・バイオバンク研究は、ガン、心臓病、脳卒中、糖尿病、認知症などの疾患の発症リスクを理解することを目的とした大規模コホ-ト研究である。40歳から69歳の参加者は、ベースラインの社会人口統計、生活様式への曝露(喫煙、飲酒、身体活動、食事を含む)、および質問票を通じてさまざまな精神的および一般的な健康結果を提供する。その後、定期的な健康診断と国民健康サービスの集中電子健康記録を通じて追跡調査が行なわれる。この研究には、イギリス・バイオバンク研究の398,268人の参加者が含まれていた。興味深いことに、著者らは、他の大規模コホ-ト研究やスポット尿を使用してベースラインのナトリウム摂取量を測定したメタ分析で見つかったJ字型の関係は、自分達の分析では見つからなかったと報告している。この研究では、スポット尿試料を使用して測定した極端なナトリウム摂取量で、脳卒中と心不全のリスクが高くなることが判明した。ナトリウム摂取量と健康結果の関係を確立するための長期ランダム化比較試験を実施することの難しさ(つまり、倫理問題と低ナトリウム摂取量または高ナトリウム摂取量を維持する実現可能性)を考えると、次善のエビデンスはイギリス・バイオバンクなどの適切に実施された大規模コホ-ト研究によるものである。しかし、スポット尿試料を使用してナトリウム摂取量を推定することは、Heらによって実証されているように、ナトリウム曝露を評価するための信頼性が高く有効な方法ではない。さらに、イギリス・バイオバンクの24時間尿中ナトリウムのスポット尿推定値は「極端な」個人内変動を示しており、ナトリウム摂取量の推定値と疾患の関連性は再現性がない。したがって、最も信頼性の高い方法である24時間尿の複数回測定によるナトリウム摂取量評価が不可欠である。この方法は日内変動や性別、年齢、BMIを使用した計算式によるバイアスがないからである。しかし、ロジスティクスと参加者の負担は大きくなる。

 以前の「塩の科学」のレビューと一致して、ほとんどのランダム化比較試験は短期間(1ヶ月以内)で、中程度の健康アウトカム(血圧)を評価していることが分った。ここでは、患者にとってより重要であると考えられるカテゴリーⅠ(死亡率)またはカテゴリーⅡ(罹患率)のアウトカムを調査する長期ランダム化比較試験はなかった。このレビューでは、カテゴリーⅠおよびカテゴリーⅡのアウトカムはコホート研究で研究され、そのコホート研究では、スポット尿でナトリウム摂取量を測定したが、現在ではスポット尿は個人の摂取量の不十分な測定であることが確認される研究が増えている。全体として、スポット尿をナトリウム摂取量の測定値として使用した研究はわずかしかなく(41件中6)、半数以上(n=21)の研究は24時間尿を使用してナトリウム摂取量を決定した。最後に、ナトリウム摂取量に関連する健康アウトカムを調査した14件の横断的研究が見つかった。これらの研究は比較的簡単に実施できるが、逆因果関係の可能性があるため問題があり、ナトリウム摂取量と健康結果の関係を確立するために使用すべきではない。

 「塩の科学」レビュー・シリーズで特定された研究のうち、品質基準を満たしていない研究の割合が非常に高いことは、塩摂取量に関する研究の完全性を損なう可能性がある。これらの要因は、塩摂取量を減らすことによる健康への影響に関する認識された論争の一因となっている可能性があり、塩摂取量を減らす公衆衛生の取り組みを損なう可能性がある。主要な国際および健康科学組織は、塩摂取量に関する臨床試験の最低基準に関するガイダンスを提供しているが、資金提供者、研究者、およびジャーナルによってほとんど無視されている。ジャーナル編集者と原稿レビューは、信頼性の低い結果を生み出す可能性のある方法と設計を持つ原稿のレビューと受入れには注意する必要がある。

 

結論

 この「塩の科学」レビューでは、ナトリウム摂取量と健康アウトカムとの関連性を調査した。20199月から202012月までに発売された41件の研究が特定され、2件の研究が批判的分析のための方法論的品質に関する事前指定された基準を満たしていた。2件の研究では、身体能力と複合的な腎臓アウトカムを調査した。全体として、このレビューは、食事による減塩が健康に有益であるというさらなる証拠を示し、血圧と心血管疾患以外の健康アウトカムに関連する証拠を強化している。これは、血圧と心血管疾患アウトカムを調査した研究に基づいているが、他の健康アウトカムにも影響を与える可能性がある、塩摂取量を減らすという現代のアドバイスを裏付けている。