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                      論説

塩と子供の血圧

Salt and Blood Pressure in Children

By MH Alderman

J Hum Hypertens 2008;22:1-3

 

成人の塩摂取量と血圧との関係は病態生理学的研究ではもちろん実質的な疫学と臨床データによっても十分に確立されている。当然のことながら、子供達における関係についてはほとんど分かっていない。

The Journal of Human Hypertensionの本論文では、ヒーらはイギリスの子供達の多数の代表的な参加者の横断的な研究で塩と血圧との関係を解析した。4 – 18歳の子供達で、ナトリウム、カリウム、エネルギーなどの摂取量、体格指数、腕回り、全ての血圧測定値は年齢とともに増加していると彼等は明らかにした。全体としてのグループでは、多くの潜在的な混乱因子について調整後でも、塩摂取量と血圧との間に重要な直接的な関係が明らかにされた。特に、1 gの塩摂取量の差は0.4 mmHgの血圧上昇と関係していた。しかし、この関係の重要性はエネルギー摂取量について補正後に消えた。5歳毎に層別化すると、各グループ内で塩と血圧とにポジティブな関係に向けて同様の傾向が示唆された。興味深いことに、食卓または調理のいずれかで自由に塩を使うことはこれらの若者の血圧と関係なかった。

正常な状態の腎臓は補償的な排泄を通して幅広い塩摂取量の変化に適応している。健常な人では、これは全身の血圧に変化なく生ずる。実際に個々人の短期間血圧応答は塩摂取量によって実質的に変わる。したがって、当然のこととして塩摂取量と血圧との意味あるまたは一定の関係を示すことは観察研究では難しい。

それにもかかわらず、観察研究のこれらの限界はほとんどない。因果関係を確立し臨床的な推論を引き出すには明らかに望ましい方法であるランダム化比較試験は減塩の集団影響を明らかにしてきた。事実、血圧と塩摂取量の関係はかなり強い資料に基づいている。100件以上もの上手く設計され実行されたランダム化比較試験やそれについてのメタアナリシスは成人で1日当たりの塩摂取量4.4 – 5.8 gの減塩は老人、高血圧者、黒人で平均して3 – 4/1 mmHg以下の血圧低下をもたらすと明確に示してきた。

塩摂取量の変化に対する血圧応答はほとんど首尾一貫していないことも述べられるべきである。ある人々では血圧は実際に上昇するが、ほとんどの人々で血圧変化は検出できない。さらに、減塩による実質的で継続的な低下の血圧効果は時間と共に減衰する傾向があり、3年間のランダム化比較試験では研究を終えた時には実質的に消えた。要するに、何点か警告すると、塩摂取量が血圧の変動に寄与し、この関係は遺伝、体質、環境によって変わると言う主張の屁理屈は通らない。ここでの結果はこの確立されたドグマと一致している。

 研究は塩摂取量を推定するために日々の食事記録の数、代表性、多様性に強みを持っている。その控えめな結果は横断的研究で塩摂取量と血圧との強い関係を明らかにすることの難しさを反映している。例えば、エネルギー摂取量と塩摂取量との強い関係は、不可能でないかもしれないが、これらの要因(ほとんど全ての栄養素のような)の影響を分けることを難しくしてきた。興味深いことに、シカゴで73人の黒人と白人の小学生に関するクーパーによる1980年の臨床研究は、著者らが‘定量的に弱い’(2.5 g当たりの塩摂取量増加で1 mmHgと言う彼等の結果はここで報告されているよりも大きいが)として述べたこと認めたが、塩摂取量と血圧との関係は有意であった(P=0.045)。現在の研究に反対しているようにシカゴでは、塩摂取量の推定根拠として食事思出法に換えて尿収集とした。初期の研究はエネルギー摂取量を補足しておらず、それの潜在的な混乱因子の影響を調査できなかった。他方、クレアチニン排泄量は利用できた。解析にそれを含めると、これらの子供達で塩摂取量と血圧との関係の有意性はなくなった。ヒーらは、エネルギー摂取量または塩摂取量が血圧に対して弱い関係を示すかどうかを調べられないと適切に指摘した。

 残念ながら、塩摂取量の変動と関係しているかもしれない他の特性値の変動あるいは血圧と他の関連に関してはほとんど情報を提供していない。より大きな子供達は筋肉質か肥満しているかもしれない。激しく運動している子供達はエネルギー摂取量(と塩摂取量)を多く摂るかもしれず、同じ体格指数で異なった生活様式の若者よりも背が高く、痩せているかもしれない。クレアチニンと血圧との強い関係は筋肉量を反映しているかもしれず、多分、体格の指標となるとクーパーらは仮定した。次にはこれは年齢や塩摂取量よりももっと重要な子供達の血圧の最も強力な決定要因であるかもしれない。多分、ここで利用できる成長や発達の一番良い測定は中間の腕回りである。強い腕と血圧との関係は筋肉量を反映しているかもしれず、エネルギーの高い食事(と他の者の中で塩)はわずかに高い血圧と身体の成熟とつながっているかもしれない。要するに、これが原因となる経路であれば、高い血圧は子供達にとって望ましい兆候であるかもしれない。

 食事摂取は複雑で、一つの要素に基づいて食事の特性を述べることは食事の価値の調査を十分に単純化するかもしれない。例えば、エネルギーと実質的に全ての他の栄養素との間に高度の相関関係があるとすると、より多くの塩(とエネルギー)を摂取する人々は他の重要な食事要素(既知の物と分からない物の両方)をより十分に摂取することができる。如何なる場合でも、血圧は子供達の健康の唯一の尺度ではない。若者のイギリス調査は身体と生理学的なデータに加えて、他の社会的、経済的、発達的な特性値に関する情報も多分含んでいる。特性値の説明は若者の血圧、食事、発達との関係を我々に十分理解させるであろう。注書きの中で、ヒーらは他の興味あるいくつかの情報も提供している。例えば、1997年に18歳のイギリス居住者は1日当たり~6.6 gの塩を摂取していた。それは10年前のシカゴで調べた摂取量と同様で、世界中のほとんどの国々で見られる成人の塩摂取量の範囲内に入り、12年前のこれらに近い成人はその範囲内であったことを示唆している。

 自由に塩を使った時の測定値は血圧と関係していなかったことを述べることも興味深い。これは、食事勧告が減塩を勧めている十分な証拠がなかったと言うコクラン共同研究の結論を支持している。挿話的に、東アジアのいくつかの所のようにほとんどの塩摂取量が自由である諸国で、塩摂取量がイギリスよりもずっと多いことを述べることも興味深い。イギリスではほとんどの塩摂取量は自由ではないが、食品中で摂取されている!

 本報告の限られた焦点はヒーらによる注意深い解析と分かり易い発表を貶してはいない。しかし、それはイギリスの若者に減塩を呼び掛ける私の異見を説明している。観察データは若者集団について何かを語っており、データが特に確かな時でも罪悪感に苛まされさえする。しかし、この状態はここではない。成人の結果、すなわち、大きな減塩は血圧に検出できる低下をもたらすことは多分、若者でも同様に真実である、と私は推測している。しかし、減塩が交感神経活動を増加させ、インスリン感受性を減らし、レニンーアンジオテンシン系の活性を増加させ、アルドステロン分泌を増加させることを成人のランダム化臨床比較試験が示してきたことも真実である。

 これらまたは他の変化が子供達で生じるか?これは重要である。もちろん、何らかの介入の健康に及ぼす影響が全ての介入結果の合計となるからだ。その点数に関して私は不可知論者でありながら、特に扶養している子供達のことになると、利益と危険のエビデンスに基づく確かな知識は何らかの臨床または公衆衛生介入よりも先行されなければならない、と私は固く信じ続けている。この論文のように良い観察研究は仮説を生む。仮説は臨床試験でテストされる必要がある。そのようなエビデンスがなく、公衆衛生に挑戦することがなければ、健康維持に役立つ禁止が一番良く、害になることを避ける一番安全な方法であるかもしれない。