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 論説

塩、科学そして政策

Salt, Science and Politics

IJ Perry

J Hum Hypertens 2003;17:1-3

 

 19世紀最初の10年間に、アンバードとビージャードは、小規模ではあるが注意深く行われた給食試験で、食塩摂取量と高血圧との関係を示した。百年後に、食塩摂取量は加齢に伴う血圧上昇と本態性高血圧の発症に原因となる役割を演じていると言う仮説は論争を巻き起こし続いている。先進諸国の食塩摂取量を現在のレベルの約10 g/dayから5 g/day(生理学的必要量よりも十分に過剰)へ中程度に低下させることを勧める勧告は激しく論議されている。この論争の激しさは、少なくとも今日まで5件の血圧に及ぼすナトリウム制限の影響を発表しているランダム化されコントロールのあるメタアナリシスによって前兆を見せている。フェンとマックレーガーは最近出版されたJ Hum Hypertensにさらなるメタアナリシスを加えて壷の中を掻き回した。

 マックレガーらのグループは、20年間以上にわたる重要な文献を調べて、本態性高血圧に伴う塩と他の逆効果を結びつけた主張の強力な提案者である。残念ながら、そのようなことは「塩戦争」の効力であり、そこでは何人かは「見せ掛けの科学的一致」を作り出す一層の努力でもって本論文をパルチザン論文として排除しようとしている。しかし、ほとんどの合理的観察者達は、高血圧者で中程度に減塩した17試験と正常血圧者で同じ様な11試験に基づくこのメタアナリシスが文献に重要な寄与をしていることを受け入れている、と私は思う。非常に短期間(1週間以下)の試験と急性食塩負荷や食塩欠乏試験をメタアナリシスから除いた場合は反駁できなくなる。後者の試験や実験は生理学的なメカニズムを明らかにすることと十分に関係しているが、彼等は因果関係の推論について限られた根拠でもって公衆保健政策勧告を作成している。このメタアナリシスからの結果は、細菌の10年間で報告されたロウらやカトラーらの結果と一致している。試験における食塩摂取量の中間的な低下は約5 g/dであり、これは高血圧者で4.96/2.73 mmHg、正常血圧者で2.03/0.97 mmHgの平均血圧低下と関係していた。直線加重回帰分析では、100 mmol/day(6 g)の低下は高血圧者で7.1/3.9 mmHg、正常血圧者で3.6/1.6 mmHgの血圧低下を予測できた。これらの効果は健康集団で実際にあり、集団レベルで平均食塩摂取量を比較的中程度に低下させることは、脳卒中や冠状心疾患死亡率の実質的な低下をもたらすという仮説と一致している。

 短期間試験を除いているにもかかわらず、このメタアナリシスに含まれている試験の中間減塩期間は高血圧者でわずかに6週間、正常血圧者で4週間であった。したがって、我々が持っている血圧に及ぼす長期間連続ナトリウム制限の効果に関する臨床試験データは限られている。これは、多く食べられている加工食品にかなりの量の塩が加えられている環境で、食塩摂取量の継続的な低下を達成させる難しさを反映している。しかし、血圧に及ぼす食塩摂取量の長期間(理想的には生涯)の低減効果は、今日までの試験で観察された効果よりも大きそうである。ポルトガル社会の介入試験では、主として加工食品中の塩消費量を低減させることにより介入村で約50%の食塩摂取量低減が達成され、2年間以上の追跡調査で血圧に有意で持続した低下があったことは注目に値する。さらに、中程度の減塩は健康に悪い影響を及ぼすと言う事実はなかった。

 公衆の健康を守り促進する公衆政策は現在利用できる事実のバランスに基づいて必要なことである。FengMacGregorが彼等の論文で簡潔にレビューしたように、食塩と血圧に関するバランスまたは事実全体は、今やこの食事添加物に公衆が曝されることを減らす運動側に圧倒的になっている。塩に関する作用についての場合は逆の情報源(広範囲にレビューされてきた)からのデータに基づいており、それらには観察による疫学研究(生態学的研究、横断的研究、移住研究)、動物モデルや遺伝モデル、正常血圧者と高血圧者で介入調査との組合わせ、中年集団試料と老齢集団試料を含む調査における介入調査との組合わせ、長期間追跡できる幼児での試験、ポルトガル社会介入調査などがある。食塩摂取量と高血圧症とを関係づけた圧倒的な事実に加えて、高食塩摂取量が左心室肥大を予言させる実質的な事実や、食塩摂取量と心臓血管疾患の危険率増加を結びつける観察的研究からのデータを今や我々は持っている。反対に、実際問題として、集団、特に子供で高食塩摂取量や食塩摂取量の増加に対しての耐性を意味する現状維持についての場合は弱く、公衆保健問題に関わるので些細なこととして捨て置けない境界線上にある。現在推奨されている中程度の減塩に対する場合は、例外的な集団(クナインディアンとイタリアの尼僧)を含む隔離調査に大部分基づいており、2つの重要な欠陥のある観察的研究は減塩を心臓血管疾患死や2つのメタアナリシスからの危険率増加と結び付けている。意見を異にするメタアナリシスでは、血圧に及ぼす減塩の重要な効果は高血圧者と正常血圧者の両方で検出されているが、正常血圧者における効果は公衆保健上の重要性は不十分であると判断されていることは注意に値する。

 異なった集団と患者グループにおける方法論上の厳格さを変えた試験に基づいた観察的疫学調査とメタアナリシスは、塩産業界と食塩と血圧に関する論争を継続したいと思っている他の人々に対して豊富な根拠を与えている。これに関連してDASH-ナトリウム研究(高血圧予防食事療法)からの結果が特に重要である。DASH研究は非常に良くコントロールされてランダム化された交絡給食試験で、412人の参加者で12週間以上行われた。それは明らかな投与応答を示し、高血圧症と正常血圧者の両方で減塩に関連した血圧低下を示した。コントロール食の非高血圧者 (伝えられる所では、減塩から利益を得ることが何もない人々) の中では、低食塩摂取量(50 mmol Na/d)対高食塩摂取量(150 mmol Na/d)は、45歳以上の高齢者では7.0/3.8 mmHg45歳以下の若い人々では3.7/1.5 mmHgだけ血圧を下げた。この研究で特に重要なことは、DASH研究食(果物野菜の摂取量を増やし飽和脂肪の摂取量を下げることを特徴としている)と減塩との組合せが高血圧者と正常血圧者の両方において血圧に及ぼす付加的な効果をもたらした結果である。高ナトリウム食とコントロール食を比較すると、低ナトリウム食のDASH食は高血圧症のない患者で7.1 mmHg、高血圧患者で11.5 mmHgの平均収縮期血圧を下げた。

 問題は、我々がどのようにして塩、血圧、健康に関する議論を前進させられるか、特に望んでいる減塩を達成させられる公衆保健にどのようにして影響させられるかと言うことである。食塩摂取量は重要で潜在的に可能性のある因子であるが、本態性高血圧の発症における要因の一つに過ぎないことをDASH研究からの結果は我々に気付かせている。我々は塩のデータを、高血圧発症における食事や生活様式の効果や、Ⅱ型糖尿病や心臓血管疾患について関連した公衆保健の災難について、現在の知識の幅広い概念内に置いておく必要がある。本質において、本態性高血圧症、心臓血管疾患、Ⅱ型糖尿病の主原因が今ではほぼ理解されてきて、集団におけるこれらの相互関係にある疾患は食事や生活様式を変えることにより、特に肥満を避け、運動量を増やし、果物野菜を多くし飽和脂肪、精製された砂糖や塩を少なくする方向に食事を大きく変更し、喫煙を避け、アルコールの飲み過ぎないように適度に抑える、と言ったことで大いに予防できることを我々は強調する必要がある。これは、我々の仲間、政策立案者、一般の集団に簡単で筋の通った科学的に信頼できるメッセージについての根拠を与える。これに関連して、血圧に及ぼす食塩摂取量効果の正確さについて進行中の論争は科学的に些細なことのレベルに追いやられ、商業的に既得の利益によって実質的な範囲に押し込まれている。集団レベルで平均血圧値の比較的小さな変化(と他の心臓血管疾患危険因子)が心不全や脳卒中の発病率や絶対数に及ぼす実質的な効果に翻訳されていると言う主張が組織化されてきたことも重要である。

 結局、高血圧、心臓血管疾患、関連した状態は、集団レベルで解決を要する集団レベルの問題である。加工食品の食塩含有量の低下を達成することは実効的に可能で、本態性高血圧症の管理において重要な集団レベルの手段である。いつものように挑戦が説得力で実現させることにある。高血圧の原因や機構に関する研究に対する動機はこの問題を予防し管理することである。残念ながら、科学的データは公衆の自覚まで浸透しておらず、浸透によって公衆政策を変えていない。個々の実行者や科学者達が共に職業的に連携して、公衆、政治家、食品産業界、農業政策者と幅広い議論を進めて、世界化と健康を図っていかない限り、我々はこの問題に進展しないと思っている。次の世紀に高血圧(と心臓血管疾患)の流行を管理する上での進行または、病態生理学的機構の詳細を解明する遺伝子/分子生物学の進歩以上にこの議論と我々の連携を成功させられるかどうかにかかっている。例えば、子供達を対象にした塩や砂糖、飽和脂肪の多い冷酷な食品市場を考えてみよう。1980年代には、イギリスでは4-5歳の小学生の子供達が1日当たり4-5 gの塩を食べていたと思われ、身長を基準に大人にそれを換算すると15-20 g/dに当たる。先進諸国の子供達の間で食塩摂取量は今や著しく高くなっているようである。現在の食品表示法では、ほとんどの親や他の消費者(最も健康な職業人を含めて)は加工食品中の食塩含有量を推定できない。食品表示の不明瞭は自然の不変な法律ではない。集団の高血圧を管理に関心を持った我々の提案した表示が政治的主張を勝ち取れれば、表示を変えられる。

 中国の皇帝Yuが塩に課税して以来4000千年以上になる。多分、我々は同じ様な手段を考える時代である。我々は100 g当たり0.5 g以上の食塩含有量を持つ、すなわち海水中にある半分よりも多い食塩濃度の食品に税金を掛け始めてもよいかもしれない。