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心不全患者に塩摂取量制限を勧めるのは止めよう

We Need to Stop Telling Heart Failure Patients to Restrict Their Salt Intake

By Tariq Ahmad

JACC Journals        2025.01.06

 

医学の歴史が我々に教えてくれた教訓が一つあるとすれば、それは我々が正しいことよりも間違っていることの方がはるかに多いということである。宗教的な熱意を持って推奨された無数の治療法が、しばしば意図せぬ害を引き起こした後に、証拠の重みで崩壊した。心不全の分野では、塩摂取量制限を推奨するという普遍的な推奨事項がその一例であろう。この慣行を裏付ける確かな証拠がないにもかかわらず、それは疑いようのない熱意を持って広く宣伝されている。

きっとあなたは、それが理にかなっているからそうしているのだ、と答えるであろう。心血管生理学の基本は、血管内容積は主にナトリウム調節に依存するという理解に基づいている。心不全において、心拍出量を維持するために神経ホルモンが活性化されると、ナトリウムと水分が保持され、多くの悪影響のある臨床結果につながる。食事中のナトリウムを制限することは、これらの患者に利益をもたらすはずである。したがって、100年以上にわたって、塩摂取量制限は心不全管理において我々が持つ神学的な宣言に最も近いものであった。これは奇妙な行動である。なぜなら、心臓専門医は単なる理論的に正しい説明に満足しない傾向があるからである。安定狭心症に対する経皮的冠動脈インターベンション、心筋梗塞後の心室性期外収縮の抑制、進行性心不全に対する強心薬の使用と言った合理的な治療法の妥当性を、ランダム化比較試験が次々と覆してきたことに、彼等は恐怖を感じてきた。どう言うわけか、心不全における塩摂取量制限は、その科学的価値に関する厳密な検証を逃れてきた。

データは何を示唆しているのだろうか?慢性心不全と急性心不全に分けられる。慢性外来心不全の場合、この問題を検証した試験は10件ある。最近発表されたSODIUM-HF(心不全における100 mmol未満の食事介入の研究)試験以前には、ほとんどが不十分な設計および実施された試験が9件しか完了しておらず、臨床的利点の明確なエビデンスは1件も見つかっていなかった。SODIUM-HF試験は、806人の患者を通常食と1,500 mg/日未満の低ナトリウム食に無作為に割り付けたオープンラベルの国際試験であり、食事介入が心血管疾患の結果に影響を与えたというさらなるエビデンスは明らかにされなかった。この問題をさらに混乱させるのは、2023年に発表された介入研究と観察研究の両方を含むメタアナリシスで、慢性心不全疾患のナトリウム制限は死亡率と入院リスクの上昇に関連するという結論に至ったことである。2023年に発表された退役軍人省の委託研究によると、この戦略の臨床的影響を検討した小規模研究は、合計381人の患者を対象としたわずか5件のみであった。このうち4件はブラジルで実施されたランダム化比較試験であり、1件は日本で実施された観察研究であった。これらの研究は、データの欠落やランダム化戦略の欠陥など、方法論的な概念を伴っていた。それにもかかわらず、臨床症状、入院期間、または30日以内の再入院リスクに対するベネフィットを示すエビデンスは得られなかった。塩分制限を受けている心不全患者の摂取カロリーが減少し、栄養不足が悪化する可能性があるという懸念すべき兆候があった。急性心不全の入院中の塩分制限が有害である可能性があると言う主張をさらに裏付けるのは、ループ利尿薬の補助として塩化ナトリウムを補給することの多くの臨床的ベネフィットを示す新たなデータである。

臨床研究から、ナトリウム摂取量と心不全の転帰との生理学的関係に関する我々の理解は、これまで考えられていたよりもはるかに複雑であることが極めて明らかである。この不正確な概念に基づく、善意に基づくナトリウム制限の推奨は、今や臨床診療と患者教育に深く根付いており、潜在的に有害事象を引き起こしている。国立心臓・肺・血液研究所が優先すべき、より良いデータが得られるまで、心臓専門医は心不全における塩分制限の推奨を中止しなければならない。同様のエビデンスで持つ他の治療法についても、我々は同様の対応を取るであろう。