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塩、血圧、そして人間の健康

Salt, Blood Pressure, and Human Health

By Michael H. Alderman

Hypertension 2000:36;890-893

 

要約

要約 1世紀前に最初に認識された塩摂取量と血圧のポジティブな関係は生態学的、疫学的、実験的な人の研究で十分に確立されてきた。同程度に十分に確立されていることは血圧上昇と心血管疾患の罹患率および死亡率との関係である。事実、血圧を下げる薬理学的能力は20世紀の大きな公衆衛生業績の一つとなった。これら二つの事実-血圧と脳卒中および心臓発作とのポジティブな関係そして塩摂取量と血圧とのポジティブな関係-は、仮説効果によって減塩が脳卒中や心臓発作を予防するかもしれないと言う仮説の基礎となっている。さらに、血圧に及ぼす効果が塩摂取量4.4 – 5.9 g/dの違い毎に血圧で1 – 2mmHgの範囲であるとすれば、全人口に適用されるそのような変化の影響は桁外れとなろう。この興味をそそる可能性を持つ問題は、この程度の減塩は他の-そしてしばしば逆の-健康結果をもたらす。したがって、減塩の有益な血圧低下効果がその害を一層重くするかどうかが疑問である。残念ながら、塩摂取量と健康結果を関係付けるデータは少なく、利用できるデータは矛盾している。減塩食の多様な効果の総合知識がないので、塩摂取量について単一の普遍的な処方箋は科学的に正当化されない。

 

 塩摂取量の差が血圧に関係しており多分、変化を生じさせるかもしれないことを示した最初のデータは異文化間の研究から得られた。非工業化社会では、血圧は低い傾向にあり、加齢に伴う血圧上昇はないように思われた。これはほとんどの工業化国家の経験と際立って対照的であった。多くの他の要因の中で、塩摂取量は先進諸国と未開発国との間では非常に異なっていた。事実、人々が狩猟採取経済にほとんど閉じ込められている社会では、ほとんど塩を採取できず、その結果として、日々の塩摂取量はしばしば1.2 – 2.4 g/dに限られた。対照的に、自由に塩が得られる先進社会の人々は5.5 – 11.8 g/dの間で一定の塩摂取量であった。これらの塩摂取量の差は非常に異なった血圧パターンと関係していた。

 生態学的研究は塩摂取量と血圧との関係を明らかにしたので、塩摂取量の変化は血圧を変えると自然に推測された。その仮説をテストするために、研究者達は血圧に及ぼす移住によって生ずる塩摂取量の変化の影響を最初に調査した。通常、非工業化社会から都会に定住した移住者は定住しないで残された人々と比較して明らかに血圧上昇を示した。移住に関係した変化を示した無数の人々の中で、移住国の国際的な集団が摂取している高摂取量まで塩摂取量は一般的に増加することが明らかにされた。したがって、移住者の研究は、塩摂取量の増加が血圧上昇の原因であるという見解を強化する傾向であった。

 しかし最近、パナマ沖のサン・ブラス諸島で最初の居住者であったクナ・インディアンによる結果は、塩が文化適応に関係した血圧変化の原因要因であるという概念に疑問を投げかけた。約50年前、全てのクナの人々が塩をあまり摂取できない島々に閉じ込められていたとき、塩摂取量と生涯の血圧は両方とも低かった。その時以来、同じクナの人々が本土との交易関係を確立すると、塩摂取量は本土のパナマ人の摂取量まで増加した。しかし驚くべきことに、塩摂取量を除いて彼等の伝統的な文化パターンをほとんど維持していたこれらの島々の人々は低血圧パターンを維持し、加齢に伴う血圧上昇の傾向も示さなかった。

 

塩と血圧の観察研究

 生態学的研究固有の弱点を認識して、個人の特性を明らかにする疫学研究で塩摂取量と血圧を関係付ける試みが行われてきた。多分、これらの研究で最も大規模なものはインターソルト・スタディで、世界中の52カ所で10,000人以上の横断的調査であった。その研究で、自由に摂取すると、大多数の人々は必ず5.8 – 11..8 g/dの塩摂取量になることを再び明らかにした。結局、5.8 g/d以上の塩摂取量である48ヶ所に限った解析で塩摂取量と血圧との関係はないことがインターソルト研究者達によって明らかにされた。0.1 – 2.9 g/dの塩摂取量である4センターを含めると、塩摂取量と血圧との有意な関係が現われた。さらに、年齢別に分けると、塩摂取量の多い社会では、ほとんど塩摂取量のない社会と比較して加齢に伴って血圧が上昇した。インターソルトは前向きの長期間研究ではないので、加齢に伴う血圧上昇の概念は横断的データからの外挿である。

 

塩摂取量と血圧の実験研究

 塩と血圧の関係を分類する最近の努力は実験研究に焦点を置いてきた。減塩は血圧を下げ、逆に12匹のチンパンジーを含む研究の場合のように、加塩は動脈血圧に大きな差を生じさせることを動物研究は示してきた。ヒトでは、塩摂取量の変化-一般的に4.8 – 5.8 g/dの差を生じさせることを目的として、または通常の塩摂取量の50 – 75%に等しい量-が血圧に測定できる差をもたらすかどうかが問題であった。しかし、血圧に及ぼす塩の効果に関して個人間で大きな差があった。このことは集団には“塩感受性者”と“塩非感受性者”がいるという概念をもたらした。

 これらの臨床試験の結果は矛盾していた。これは、集団の塩摂取量の最もありそうな総合効果を調べるために設計されたメタアナリシスの道筋をもたらした。全てのメタアナリシスは含まれている研究の特性によって制限される。残念ながら、上手く設計され上手く行われた研究は塩摂取量に著しい変化を含み、多くは短期間の試験である;それにもかかわらず、最も厳格なメタアナリシスは一般的に一致している。ごく最近のメタアナリシスは、高血圧者と老人の被験者で、血圧で3 – 5 mmHg収縮期血圧と1-mmHg拡張期血圧変化は塩摂取量で4.4 – 5.8 g/dの差と関係していることを示している。若者や正常血圧者に及ぼす効果はもっと小さく:収縮期血圧で2 – 3 mmHg、拡張期血圧で1 mmHg以下である。小さな被験者グループが短期間研究された時、最大の傾斜が達成されたように思われる。1年以上に渡って美食家で血圧または塩摂取量のいずれかを維持することは難しい。しかし、減塩しても害はないと仮定しても、2,3mmHgでも低下を維持することは、現在、高血圧治療によって達成されているよりも罹患率や死亡率をもっと下げることは注目すべきである。この可能性は減主張者を勇気付ける。

 したがって、塩摂取量の大きな低下は血圧に認められるべき低下をもたらす。しかし、減塩に対する個別の血圧応答はこれらの研究では幅広く変化した。

 

減塩の他の効果

 もちろん次の疑問は“この中程度の血圧変化にどれくらいの代価を支払うか?”である。ランダム化比較試験からのデータはいくつかの潜在的に重要な減塩の非血圧効果を定義している。特に血漿レニン活性(PRA)、交感神経活性、インスリン抵抗性、空腹時グルコースの各増加が記述されてきた。これらは心血管疾患(CVD)発症と逆相関しているかもしれない。もちろん、心血管の健康にポジティブなまたはネガティブな影響を及ぼすことをまだ認識されていない他の効果もありそうである。

 医療介入の正味の効果を明らかにするために、減塩による多数の効果の全てを考察しなければならない。何か一つ-例えば血圧-に対する限定的な考察は他の不必要な効果を見落とす結果となるかもしれない。10 gから5 gへの塩摂取量を半減させることに適応させる唯一の目的で毎日の食事を変えることによって、どんな効果が生じてくるかを予測することは不可能である。

 したがって、医療介入は、介入が目的とする効果を起こさせられるかどうかを明らかにすることに加えて、ヒトの健康に及ぼす介入効果についてテストしなければならない。例えば、類似した状況下で、血圧上昇と痙攣の危険性を下げるために妊娠中の体重増加を20ポンド以下制限することがかつて妊婦にアドバイスされた。事実、これは妊婦達に2つの望ましい結果をもたらした。残念なことに、そして予想外に妊娠中の体重増加を制限することは致命的な罹患率と死亡率を増加させた。婦人は妊娠中にもはや体重増加を制限するアドバイスはされない。

 

減塩の総合的な健康効果

 健康に及ぼす塩の効果を調査する唯一の方法は人類の罹患率と死亡率を調査することである。残念なことに、塩摂取量と寿命または生活の質を関係付けるデータは現在のところほとんどない。塩摂取量と寿命を関係付けた生態学的データはむしろ弱く、個人の経験に関するガイダンスの基礎を説明することは難しい。しかし、低い塩摂取量の非工業化社会は寿命が短いと言えるかもしれない。対照的に、むしろ均一な塩摂取量(5.8 g/d – 11.6 g/d)である先進社会では、寿命は約2倍長い。したがって、生態学的データは、減塩が寿命を伸し、高塩摂取量は長寿と矛盾しないことを示唆していない。

 個人の塩摂取量と健康結果が関係している所の疫学データは、塩摂取量が寿命または生活の質に影響を及ぼすかもしれないと言う記述を支持するエビデンスの次の段階となろう。残念ながら、この問題に強い関心があるにもかかわらず、残念にも確かなデータはほとんどない。その後の罹患率と死亡率に対して基準として測定された個人特性の多様性との関連性を調査するために設計された10,000人の集団に基づいた長期間研究であるスコットランド心臓研究はアンケート調査による塩摂取量を含めていた。この研究で、塩摂取量と心血管疾患死亡率または全死因死亡率との関係は明らかでなかった。

 5日間過剰な塩摂取量を控えるようにアドバイスされた後に測定された前処理24時間塩摂取量と基準の血漿レニン活性が測定された3000人の治療中高血圧患者のその後の研究で、24時間尿中塩排泄量とその後の脳卒中や心臓発作との間に段階的で有意な独立した関係があった。この関係は全体としてグループについて維持されたけれども、層別化に疾患の75%を占める男性だけに関係は有意であった。男性の間では、この関係は年齢、心室量、人種によって層別化後でも存続した()。意外でもなく、塩摂取量と血漿レニン活性との逆相関を考慮して、塩摂取量と疾患との関係付けは血漿レニン活性値によって説明された。それにもかかわらず、血漿レニン活性について説明後でも塩摂取量は心血管疾患と無関係を維持した。

 我々のグループは塩摂取量とCVDや全死因死亡率との関係をさらに調理するために国民保健栄養実験調査(NHANES)Ⅰの疫学的追跡データも解析した。全アメリカ人口を代表させるためにランダムに選ばれたこ14,000人の成人調査で、塩摂取量は24時間思い出し法に基づいて推定された。再び、塩摂取量はCVD死亡率と逆相関にあることを証明した。塩摂取量が最低の四分位数の人々は最高塩摂取量の人々よりも心血管疾患の原因による死亡が20%以上多かった。

 

          Figure 1.

 

1 年齢、人種、左心室肥大について示した尿中ナトリウム排泄量

 

 彼と同僚達は同じNHANESⅠ疫学的追跡データを再解析した。多分、延べられてはいないが、全データセットについての彼等の解析は既に発表されているものとは異なっていなかった。多分、塩摂取量だけが全ての人々にとって最適ではなく、環境、遺伝、行動の結果としての異質性は塩摂取量と健康結果との関係を特徴付けているようだと我々が前に述べた提案を調べるために、これらの研究者達はサブグループ調査についてのデータを詳細に分析した。CVDの前のエビデンスを持った参加者を除き、心血管疾患終末点の大部分を考察から排除することによって、残っているサブグループ被験者の28%は肥満者であったが、塩摂取量と罹患率や死亡率との直接的な関係を表していることを研究者達は明らかにした。肥満者でないこの部分集合の72%について、塩摂取量とCVD罹患率と死亡率の限られた定義との間には関係がないことが明らかにされた(表:省略)。これらのデータは、塩摂取量と健康結果との関係に異質性があると言う予測と一致している。

 最後に要約だけを利用し多数危険因子介入試験データの解析は、一晩中の尿収集で推定した塩摂取量とその後のCVD罹患率や死亡率との間に関係を見出せなかった。しかし、最少塩摂取量の人々は最高の罹患率である傾向をデータは示唆しているように思える。

 これらの疫学研究のそれぞれは非実験的技術に関係した弱さを持っている。外観の変化と結果の両方に影響を及ぼす認識されていない混乱因子が結果をゆがめてきたかもしれない。全ての研究は認識されている混乱因子についてコントロールしようと試みている。しかし、どんなに入念にしようと、これは不完全であるかもしれない。その上、全てそれらの研究は一回の塩摂取量測定に基づいている。そのような測定で不可避の個人内変動が現われた結果間の関係を消してしまう傾向にする。塩摂取量と結果との間の5件の利用できる研究中の3件で有意で独立した関係が明らかにされた事実は、利用できるデータが塩摂取量と罹患率や死亡率との関係の本当の強さを過少評価しているかもしれないことを示唆している。要するに、利用できるデータは、罹患率と死亡率で反映される塩摂取量と健康結果との関係はほどほどで矛盾していることを示唆している。したがって、既存のエビデンスに基づいて、一回の塩摂取量が全集団の各人について適正または望ましいことは非常にあり得ないように思える。

 

どんなデータがさらに必要か

 医療介入または健康介入の価値を調査するための黄金基準はランダム化比較試験である。本法では参加者は研究の実験群とコントロール群にランダムに割り当てられる。目標は問題となっている介入事項だけを変えた療法を受けた同様の被験者をバイアスなく選んで得ることである。心血管疾患の罹患率と死亡率に及ぼす塩摂取量の効果を調査するために設計された研究はない。しかし、いくつかのランダム化された研究はいくつかの健康結果を報告してきた。ウェルトンと他の研究者達は軽症高血圧者の間で低塩摂取量/減量グループとコントロール・グループ都市と農村における前向き疫学調査間に頭痛、入院、等々に差がないことを報告した。この研究で8人が死亡したが、これらの死亡の区分は報告されなかった。

 

結論

 要約すると、塩摂取量の効果について知られていることの多くはほとんど論争されていない。塩摂取量(4.4 – 5.8 g/d)の実質的な変動は測定できるが、血圧変化はわずかであった。しかし、その効果は変動し、被験者は塩感受性者と塩抵抗性者として任意に分類される。効果は老人と高血圧者でより実質的であるように思われる。しかし、血圧を下げるこの方法は究極的な健康結果という点で安全か、またはいくつかの薬剤治療で証明されてきたと同じほど心臓保護をもたらす効果あるかのいずれかであるエビデンスはないとの警告を持って低塩食を採用する決定をすべきである。

 塩摂取量勧告は生活の質と寿命に関して様々な結果の概要と言う知識を反映すべきであると私は思っている。そのような知識がなければ、単一で一律の食事勧告は科学的に正当化されない。