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ヒトの健康と疾病における塩に関する国立心臓・肺・血液研究所作業グループ報告書

現在の科学的エビデンスに基づく

National Heart, Lung, and Blood Institute Working Group Report on Salt in Human Health and Sickness

Building on the Current Scientific Evidence  

By Young S. Oh, Lawrence J. Appel, Zorina S. Galis, David A. Hafler, Jiang He, Amanda L. Hernandez, Bina Joe,

 S. Ananth Karumanchi, Christine Maric-Bilkan, David Mattson, Nehal N. Mehta, Gwendolyn Randolph,

Michael Ryan, Kathryn Sandberg, Jens Tize, Eser Tolunay, Glenn M. Toney, and David G. Harrison

Hypertension 2016:68;281-288

 

はじめに

 人類は塩と長く複雑な関係を持ってきた。多くの社会で高く評価されているが、塩摂取量は高血圧とそしてごく最近では他の疾患とも長く関係してきた。ある高血圧者はしばしば塩感受性の血圧変化を示す。それは黒人、老人、腎不全者または糖尿病者で一般的に表れる状態である。一般的に塩感受性高血圧者については過剰な塩摂取量は高血圧と関係しており、一方、低塩食は血圧を下げる。このよく知られた関係にもかかわらず、血圧制御に及ぼす塩の効果の基礎となる基本的な分子と細胞メカニズムはまだ十分に理解されていない。さらに、高血圧者は多くの疾患(すなわち、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、腎疾患)について危険率が増加した状態である。しかし、現在では高い塩摂取量がこれらの (すなわち、高血圧を除く) 疾患に直接的に導くかどうかについては分らない。

 健康に及ぼす塩の効果についての我々の理解は最近、もっともっと複雑になってきた。研究者達は塩と自己免疫との新しい関係を報告してきた:高塩食は多くの硬化症のマウス・モデルで自己免疫活動を促進させることを示した。さらに、高血圧と免疫系との密接な関係は明らかにされてきた。しかし、塩、免疫、そして高血圧との因果関係(例えば、免疫系と脈管構造、脳、あるいは血圧を上昇させる腎臓との間の相互作用を塩はどのようにして媒介するか)は十分に理解されていない。

 国立心臓・肺・血液研究所は高血圧研究でこの新しく持ち上がってきた科学分野を議論するために2014年に作業グループを招集した。作業グループは高血圧、疫学、子癇前症、心血管疾患、腎疾患、そして自己免疫疾患を含む多様な背景からの専門家達をまとめてきた。作業グループは、高血圧と免疫疾患に焦点を置いて塩とヒトの疾患を結び付ける既存と新しく表れた科学的エビデンスをレビューした()(1) 塩摂取量と高血圧、(2) 塩、自己免疫、そして心血管疾患、そして(3) 様々な器官とシステム(脳、腎臓、皮膚、そして脈管構造) における高血圧と免疫との間の関係の基礎を主な考察領域とした。作業グループはまた本質的な要因 (例えば、遺伝学、性、人種) の潜在的な役割とこれらの関係に及ぼす環境を考察した。作業グループ・メンバーは多様な背景を持っているので、会合は学際的な思考や考察のために優れた好機を提供し、将来の共同研究と研究課題についての可能性に重点を置いた。本報告では我々は作業グループ議論の短い要約とこの領域における最近の進歩を提供する。

Figure.

図。 塩、免疫、高血圧の関係。国立心臓・肺・血液研究所作業グループは現在の科学的エビデンスと知識を議論し、動物モデルで実験的にテストされる新しい研究課題と、これらの関係の多様な相互作用や方向(原因-効果)の影響を調べるための初期の臨床研究を明らかにするために開催された。

 

塩とヒトの疾患:どのようか関係か?

 塩とヒト高血圧との関係の発見はレウィス・ダール博士に帰する。第二次世界大戦後、アメリカ原子力委員会は特別な地球の研究場所の集団に関して放射能に関連した研究を行った。ダール博士これらの集団の様々な塩摂取食事習慣を利用して塩と血圧との関係を調べた。得られたデータは、ヒトの塩摂取量と血圧値との直接的な関係を示す最初の報告書の1つで使われた。これらの初期の研究で、ダール博士と同僚達は、高血圧の治療に使われたケンプナーの米・果物食の血圧低下効果は主として低塩含有量の結果であることも示した。川崎らや後のワインバーガーらを含む他の研究者達は塩摂取量に対する血圧応答の多様性を認識し、さらにヒトの塩感受性の概念を発展させた。

 塩感受性の定義は研究間で異なり、低塩摂取量から高塩摂取量になったときの平均動脈血圧で大抵は比例的な変化(すなわち、3%以上から10%以上へ)または絶対的な変化(すなわち、3mmHg以上から10mmHg以上へ)として定義される。多様な定義や塩感受性をテストするために使われる様々なプロトコールにもかかわらず、いくつかの結果が一貫して観察された。第一に、塩摂取量で誘発される血圧変化は集団で標準的に分布しており、2つのピークを持つ分布のエビデンスはない。高血圧を定義するように、塩感受性者または非感受性者として被験者を類別する切点を使用することは自由である。第二に、塩感受性はヒトの通常の生物学的現象である。定義と測定法に依存して塩感受性は正常血圧者の25%、高血圧患者の40 – 75%いると言われてきた。第三に、老人、黒人、肥満と代謝性症候群の人々は一層塩感受性である。さらに、塩感受性は時間経過で再現され心血管疾患や総死亡の危険率増加とも関係している。さらに、遺伝因子と環境因子の両方が個人の心血管疾患を決定する。遺伝因子は血圧塩感受性の変動の中で27 – 42%を占めるようである。しかし、これらの研究のほとんどは短期間(数日から数週間)の実施または塩欠乏の結果であり、長期間(数ヶ月から数年)の実施が全ての被験者に血圧上昇を起こさせるかどうかを我々はまだ知らないことを述べておかなければならない。塩感受性をテストする標準的なプロトコールと定義を発展させるためにさらなる研究を行わなければならない。危険性分類と予測に使える塩感受性の生物指標を明らかにすることも重要である。

 現在、塩感受性に関係する分子機構は明らかでない。シュミドリンらは塩抵抗性黒人ではなく塩感受性黒人だけで塩投与は血圧上昇と総合的な血管抵抗を誘引し、そのことは内生的な血管拡張阻止剤である非対称のジメチルアルギニンの生成増加と関係していた。また、高塩摂取量はヒトでアンジオテンシンⅡの局部的な生成を強化し、そのことは血管の緊張と機能に局部的な影響を及ぼすかもしれないエビデンスがある。他の機構はナトリウム排泄不全により塩貯留の結果をもたらす。塩感受性の分子機構をさらに理解することは塩感受性高血圧のために新しい治療法の開発に役立つ。

 

塩と自己免疫疾患

 最近の研究は塩摂取量、炎症、欠陥のある免疫制御間の強い関係についてのエビデンスを提供してきた。欠陥のある免疫制御では特にTh17Foxp3+制御性T細胞(Treg)個体数で、それらの両方ともCD4+ヘルパーT細胞系統の一部で、自己免疫疾患の誘導に中枢の役割を演じている。自己免疫疾患の原因となる遺伝的成分は、多くの免疫の原因となる遺伝子は自己免疫疾患間で共有されていることを示すために研究されてきたが、これらのデータは環境要因も含まれているらしいことを示唆して、過去数十年間に自己免疫疾患の発症率の連続した増加を十分に説明することに失敗している。

 最近の研究はファーストフードを食べることとTh17細胞の循環増加との間に強い相関も確立してきた。塩に曝されたTregs    Th1型インターフェロン-γ信号に適合している。それは1型糖尿病や多発性硬化症者のような自己免疫疾患患者から分離されたTregsで観察されたものと同じである。高塩摂取量は実験による自己免疫脳脊髄炎の発症を促進させ、ネズミで異種の個体の移植対宿主疾患の厳格性を悪化させることを示した。塩摂取量と先天性免疫との関係を調査する本研究は、高塩摂取量はT細胞応答を抑えるM2マクロファージの能力 を低下させることによって炎症性マクロファージ機能をかなり強化することも明らかにした。関連した研究は、Th17細胞誘導に重要であるインフラマソームは高塩摂取量環境に曝された後に幅広い炎症応答を誘引できることを示した。

 したがって、免疫系に関する最近の研究は健康に及ぼす塩の影響に関する我々の見通しを広げてきた。これらの研究は塩摂取量と免疫系との関係を強く示唆したからである。高塩摂取量は遺伝的に影響を受けやすい個人の自己免疫の誘発を悪化させるか、もしそうであれば、自己免疫疾患患者でこれらの塩摂取量効果を治療出来るか?逆に、塩感受性高血圧の治療で坑炎症剤または免疫抑制剤の利益はあるか?塩摂取量の変化は消化管の構造と免疫プロフィールの変化を引き起こすことによって消化管に幅広い影響を及ぼす。これらや他の疑問を調査することは塩と疾患についての我々の知識を進歩させ、細胞内外のナトリウム量を明らかに出来るMRIの一形態であるナトリウムMRIによって促進される。そのような他の診断器具の開発はこの研究分野を前進させ続けている。さらに、塩摂取量介入が患者の結果に対して利益を提供できるかどうかを調査するために作業が必要で、さらなる研究が免疫疾患の状況で遺伝子と環境との関係を解明できる。我々が直面している最大の挑戦は免疫、炎症、食事、疾患という多くの複雑性を表現できる研究課題を明らかにすることである。この点について、果物・野菜低脂肪乳製品が豊富で飽和脂肪や脂肪を減らした食事であるDASH食は血圧を下げるのに有効であるが、免疫系との相互作用は研究されていない。モリスらは、カリウム摂取量が黒人と白人の両方で塩摂取量に対する血圧上昇を打ち消すことを示した。将来には、DASH食またはカリウム摂取量増加が免疫系に影響を及ぼすかどうかを確定することは興味深い。

 

塩とリンパ系

 間質中に大量のナトリウムが蓄積されることを最近のエビデンスは示唆している。この有り難くない電解質蓄積は代償的な局部調節リンパクリアランス機構と並行した単核性食細胞系細胞とT細胞応答を誘引する。(以下一部省略)

 最近の研究は、ナトリウム保持が加えられた水保持なくして皮膚、筋肉、他の器官で起こっていることを示した。興味深いことに、透析治療と利尿剤治療はヒトの皮膚や筋肉に保持されるナトリウムを移動させられる。皮膚下の高いナトリウム濃度は細菌の皮膚感染によるマクロファージで誘引される自主防衛を強化する。すなわち、皮膚下の高いナトリウム濃度は免疫障壁の生理学的成分である。齧歯類でナトリウム分布の微細構造解析は、ナトリウムがケラチン生成細胞層に濃縮されていることを示唆した。その結果の電解質勾配は電気化学的勾配形成の結果であるかもしれない。ヒトのケラチン生成細胞の上皮ナトリウム・チャンネルは電解質勾配生成の指向性を媒介しているかも知れず、ナトリウムは能動輸送によって皮膚に濃縮されることを示唆している。皮膚の高いナトリウム濃度についての可能な説明は次のように提案されてきた;皮膚の毛細血管と結びついた能動ナトリウム輸送は皮膚下で塩化ナトリウム濃度について機能的な腎臓のような向流系を作り出しているかもしれない。電解質分布の微細解剖学やそれとケラチン生成細胞駆動のナトリウム輸送や血管向流ループとの関係は機能的な向流系様の存在を示唆しているが、この仮説は生理学的研究でまだ発表されていない、と述べることは重要である。

 

塩と脳

 急性高ナトリウム血症は前脳のナトリウム/浸透圧検出神経と視床下部と脳幹下流の神経を効果的に活性化し、交感神経活動を促進し、動脈血圧を上昇させることを研究は示してきた。したがって、通常高塩食を食べている人々は正常なナトリウムと水バランスを連続的に維持することに挑戦する。増加した血漿ナトリウムの神経刺激的な作用が繰り返し示されてきたことに対して、動脈高血圧の塩感受性に付随する交感神経活動の持続された増加にこの機構が寄与する程度を研究はまだしっかりと確立していない。

 未解決である強い疑問は、長期間の血漿ナトリウムを増加させない緩やかな塩摂取量増加がやはり前高血圧者、交感神経刺激神経機構を増加させるかどうかである。これが事例かも知れないが、機構はまだ研究中であることを利用できるエビデンスは示唆している。テストされている魅力的な仮説は、長期間のゆるやかな塩摂取量増加でも神経適応性の状態を増加させ、そのことは交感神経活動と高められた高血圧応答の悪化された上昇を導き出す他の前高血圧刺激(例えば、レニンーアンジオテンシンⅡーアルドステロン系活動)を引き起こすことである。急性高ナトリウム血症に応答する交感神経活動を増加させる神経機構は、血漿ナトリウム濃度を慢性的に上昇させる尿崩症(DI)のような他の疾患に適切であることを述べることは価値がある。神経性DIのあるラットは正常な安静時血圧であるが、アルギニン・バゾプレッシン(AVP)の無傷のコントロールと比較した完全な自律的遮断中に平均動脈血圧に大きな低下をラットは経験している。これがDIラットでより大きな安静時の交感神経の血管運動状態を反映している程度は、血圧低下に反応してAVPを放出できないことに対して、多分持続的な高ナトリウム血症によって動かされるであろうが、明らかにされていない。AVPを放出する能力がないにもかかわらず、神経性のDIを持ったラットは急性腎血管高血圧に対して完全な応答を示した。腎血管高血圧で限られた役割を持つAVPと一致しているとは言え、高ナトリウム血症DIラットで悪化したレニンーアンジオテンシンⅡーアルドステロン系と交感神経活動はAVPの欠乏について潜在的に補償できた。

 末梢免疫細胞(例えば、Tヘルパー細胞)間で炎症誘発性サイトカイニンと自己免疫サイトカイニン(例えば、インターロイキン[IL]-17a)の発現を誘発する塩摂取の能力は塩誘因性交感神経活動の主要部分である。活性化された免疫細胞は前脳や視床下部領域を襲い、交感神経興奮応答やアンジオテンシンⅡとアルドステロンのような前高血圧ホルモンに対する高血圧反応に寄与することを最近のエビデンスは示している。利用できるエビデンスは、塩摂取量が炎症誘発性信号の初期波を誘発する可能性があり、そのことがその後、持続的なミクログリアの活性化を引き起こし、高血圧への高められた神経性寄与で完結すると言う意見とも一致している。

 高血圧の動物モデルが交感神経活動に寄与する多数のシナプスや内因性ニューロンの変化を明らかにした一方で、これらの適応は、脳組織に存在する末梢免疫細胞または活性化されたミクログリアから発する特別な上流サイトカイニン信号経路にまだ直接的に関係していない。これらの機能的な相互作用を確立することは、増加した塩摂取量がどのように動脈高血圧と潜在的に慢性心不全のような他の交感神経興奮性ナトリウム貯留疾患への神経寄与を促進させるかの解明に向けて重要な次の段階を表している。

 

塩と腸内細菌叢

 レビス・ダール博士は、彼がスプラギュー・ダウレイ・ラットから作ったラット・モデルを使って塩が高血圧発症を引き起こすか、あるいは寄与するかどうかについての疑問を提起した。全てのラットに8NaClを給餌したにもかかわらず、それらの一部集団だけが高血圧を発症させた。塩摂取量に対する様々な血圧応答について選択育種戦略を適用して、ダール塩感受性ラットとダール塩抵抗性ラットを開発した。研究でこれらの動物モデルを幅広く使って、高血圧の遺伝的根拠を示しただけでなく、高血圧に関連したラット・ゲノム上に幾つかの場所を特定する結果も出した。ダール塩感受性ラットとダール塩抵抗性ラットとの間の腸内細菌叢の組成は違っていることを最近の研究はさらに示し、塩感受性との潜在的な結び付きを示唆している。

 腸内細菌叢は大腸炎、炎症性腸疾患のような幾つかの炎症や免疫に関連した特性や高血圧、肥満、代謝性症候群のような心血管や代謝性の特性に影響を及ぼす重要な要因として次第に認識されてきている。塩感受性高血圧に対する主役の遺伝的寄与の他に、今までの所では塩感受性高血圧の発症に寄与する他の重要な要因として微生物叢に光を当てるために最近の研究はダールラットを使った。血圧低下で観察された最も重要な変化はテネリキュート門の細菌とファミキュート門に属するバイロネラシエ科の細菌数が低かった。血圧低下と関係して述べられている他の変化はクロストリダイアルとモリキュートの低下であった。塩と免疫系との関係を考えて、(1) 塩と高血圧、(2) 塩と免疫応答、(3) 塩感受性高血圧の遺伝特性と腸内細菌叢との個々の関係のそれぞれが確立されつつある。これらの関係のそれぞれをさらに研究することで、塩摂取量の程度、ホスト微生物遺伝子と後生的なクロストーク、そして免疫系の状態との関係で高血圧発症についての3方向関係を明確に述べることが重要である。このために、免疫系と高血圧を発症させる遺伝的傾向を危険に曝す動物モデルを開発することが重要である。

 

子癇前症と高血圧

 高血圧によって特徴付けられる妊娠合併症である子癇前症は将来の塩感受性高血圧と心血管疾患についての

新たに出てきた危険因子である。これら婦人(肥満や高脂血症のような)の根元的な代謝環境は子癇前症と心血管疾患の両方についての危険性をもたらすと論じられてきた。しかし、子癇前症誘因の血管損傷は妊娠前の心血管疾患危険因子と相互作用する持続性血管機能不全を引き起こす可能性はこの集団で心血管疾患の原因のためのシナリオのように現われてきた。心血管疾患の同様の危険率にあると思われる子癇前症婦人の姉妹で高血圧がないことや再発した子癇前症婦人で高血圧の危険率増加は、本質的に子癇前症は長期間高血圧や心血管疾患に直接的に導くことを示唆している。

(以下一部省略)

 

総合自己免疫疾患と高血圧

 免疫系活動と高血圧との間に関連性がある。本態性高血圧患者は自己抗体の循環濃度を上昇させ、それにより潜在的な根元因子として自己免疫を説明していることをエビデンスは示唆している。全身性ループス、慢性関節リューマチ、硬皮症を含む自己免疫不全患者は高血圧発症の危険率増加にあるが、この危険性に関する機構は幅広く研究されてこなかった。今日まで、免疫機能について学んできたことの多くと高血圧はアンジオテンシンⅡ誘因性と塩感受性高血圧の実験モデルによる研究を通して達成されてきた。これらのモデルは新しい知見を絵続けているが、高血圧を発症させる免疫が媒介する機能不全の追加モデルを研究することが基本である。なぜなら、これは高血圧に対する自己免疫の気候的な重要性の理解をさらに進展させ、特別な臨床集団が血圧を管理する努力の手段として目標としている免疫から利益を得られるかどうか決めるのに役立つからである。既に、免疫系を目標にすることが血圧管理について有益であるかもしれないと言うヒントがある。例えば、免疫抑制はリューマチ性関節炎または類肉腫症患者の血圧を下げることを小さな臨床試験は示した。同様に、難治性高血圧患者で免疫吸着を通して自己抗体を除くことがかなり血圧を下げた。

(以下一部省略)

 

乾癬と高血圧

 乾癬のような総合的な炎症疾患は免疫活動、炎症、身体に及ぼす影響を理解するために生体モデルの信頼性のあるヒトを提供する。乾癬は心筋梗塞のような心血管疾患の危険率増加と同じほど高血圧と関係している。そのように、乾癬は環境の影響(例えば、食事、運動など)と皮膚疾患の臨床状態に依存した免疫応答との間の相互作用に関係する仮説をテストするための枠組みを提供する。

(以下一部省略)

 高血圧は免疫調節剤に対して様々に応答する。例えば、血圧を上昇させる程度が異なることや個人によって異なる効果を持っている。しかし、皮膚疾患が改善されるとき、血圧に直接的な効果があるかどうかは十分に理解されていない。したがって、治療後に皮膚、血液、尿、血圧応答を含む総合的な特性は免疫活動と血圧調節との間の潜在的な関係の理解を促進させるだろう。事実、治療後に皮膚中のレニン量が変われば、これらの結果は皮膚の塩処理による変化ももしかすると知らせているかもしれない。

 

塩感受性高血圧における免疫細胞の役割

 多くの報告書が高血圧、心血管疾患、腎疾患における免疫系の重要性を報告してきた。近年、新しい手段を利用して免疫と高血圧との基本的な関係が調査されてきた。特に、グジクらによる精液の研究は実験的高血圧でTリンパ球の役割を例証するために免疫欠陥のあるネズミに免疫細胞の養子縁組法を使った。彼等の研究はこの分野の研究で非常な関心をもたらしてきた。

 高血圧や腎損傷における免疫機能の役割は塩感受性ヒト高血圧と強い表現型類似性を持っているダールのSSラットで研究されてきた。例えば、ダールのSSラット株とヒト集団の部分集合は、塩摂取量が増加したとき、動脈圧上昇とタンパク尿を示している。また高塩摂取量のダールSSラットと高血圧者は腎臓でマクロファージとCD4+CD8+細胞の浸潤を示している。これらの単核細胞は損傷された血管、糸球体、細管に近い領域で発見されている。塩感受性高血圧と腎疾患の発症で浸潤した免疫細胞の重要性を示すために、高塩摂取量期間中に免疫系の薬物阻止剤をダールSSラットに投与した実験が行われた。免疫抑制剤が治療されている動物の腎臓にT細胞の浸潤を阻止することが出来、塩感受性高血圧や腎損傷の発症を弱める。その後研究は、ダールSSラットの遺伝的背景で再結合活性遺伝子1(成熟したTB細胞の損失を導く)CD247(T細胞損失を導く)を排除するためにジンクフィンガー・ヌクレアーゼ技術を使った。これらの突然変異ラットで行った実験は、T細胞の排除がダールSSラットで塩感受性と腎損傷を弱めることを示した。これらの研究は塩感受性高血圧と腎損傷の増大剤としてのT細胞の重要性を示している。動脈圧の初期増加の結果として、組織損傷が高血圧で不適当な免疫応答の引き金を引くと解釈されてきた。

(以下一部省略)

 

高血圧の性別差

 高血圧の性別差は動物研究とヒト研究で明らかに示されている。多数の種間や種々の遺伝的動物モデルや高血圧誘因動物モデルでオスよりもメスは血圧が低い。疫学的研究は、高血圧の始まりは女性よりも男性で早くから起こり、白人、黒人、ヒスパニックの男性は50台の人生を通して女性よりも高い高血圧発症率であることを示している。これらの研究は、性別差が両血圧値と高血圧罹患率で存在することを明らかに示しているが、これらの差の根拠となる機構についてはほとんど分っていない。

 動物研究は、アンジオテンシンⅡ刺激後のメスネズミと比較してオスで観察されるより高い動脈血圧はT細胞欠損Rag-1-/-ネズミで消えることを示してきた。これは免疫系がこの高血圧モデルで性別差に寄与していることを示唆している。さらに、オスT細胞の養子縁組による移転はオスRag-1-/-ネズミでアンジオテンシンⅡによって誘引される高血圧の程度を復帰させるが、メスRag-1-/-ネズミでは動脈圧を上昇させなかった。このことはメスRag-1-/-ネズミではT細胞媒介組織浸潤が少ないためであるかもしれない。興味深いことに、メスT細胞はオスRag-1-/-ネズミで動脈圧を上昇させなかった。このことは性に特別なT細胞機構が高血圧への抵抗性や罹病性に寄与していることを示唆している。

 高血圧の塩影響に関する生物学的性の影響に関する研究は少なく、論争中である。男性よりも自制が塩に対してより感受性である、と1つの研究は報告した。塩摂取量が15 g/dから3 g/d以下に制限されると、女性の血圧は塩に対して感受性を維持するが、一方、男性では維持されなかった。さらに、女性は低から高への塩摂取量または高から低への塩摂取量変化の応答では男性よりも女性がより大きな血圧変化を示すことを最近の研究は示した。対照的に塩感受性の動物研究では、オスダールSSラットはより血圧が高く、オスがメスよりもナトリウムに対してより感受性であることを示す高塩摂取量に対する応答でメスのダールSSラットよりもより腎臓が損傷されていた。

 国立衛生研究所で重要な生物学的変数として性を考えることは全ての助成研究に関して今や義務的である。生物学的性は治療に対する応答と同様に疾患の発症や進展に大きな影響を及ぼすからである。将来、血圧制御や高血圧と塩感受性の多様な動物モデルで末端器官に及ぼす塩の効果の基礎となる機構に及ぼす生物学的性の影響を研究することは重要となる。塩効果における性別差の原因や結果を理解することは両性の機構を比較した結果として新しい薬の目標発見を通して新しい治療法や多分、性特性に基づく方法に導く。

 

要約と将来の方向

 重要な疾患の要因として塩と関係してきた初期の研究は、塩が寄与しているかもしれない生物学的機構や病因過程をあらに明らかにする必要性を指摘している、と作業グループは結論を下した。塩とヒトの疾患がどのように関係しているかにこの研究を導くために、作業グループのメンバーは幾つかの科学的ギャップと挑戦を明らかにし、科学的質問と技術的発展についての幾つかの機会を強調した。

  存在する実験モデル、性特性動物モデル、そして新しい実験モデルを使った高血圧と免疫疾患(自己免疫疾患を含む)

  塩感受性高血圧;特に:

  幾つかのサイトカイニン(特にIL-17、インターフェロン-γ、腫瘍壊死因子-α、そしてIL-6) の相対的な重要性と相互作用。

  遺伝子と環境(すなわち、後生要因) との関係。

  消化器官細菌叢の役割。

  リンパ系の役割。

  皮膚のナトリウム貯留の基本的な機構。

  前高血圧者神経炎症工程とナトリウムによる末梢免疫細胞活動が健康に影響を及ぼすために如何に相互作用しているか。

  子癇前症歴を持つ婦人における心血管疾患発症。

グループはこの研究課題を前進させるに必要な手段と技術も明らかにした:

  個人レベルで塩感受性を決定する標準化されたプロトコール

  ヒトの組織と動物モデルでナトリウム濃度を測定する新しい技術。

有用な技術の種類には皮膚の微小血管の電解質分布の測定法や容易に利用できるナトリウムMRIがある。伝統的なMRIと違って、ナトリウムMRIは細胞外や細胞内のナトリウム濃度を明らかにでき、それは健康や疾患で塩の役割を理解することに役立つ。これらの技術、プロトコール、そして診断テストが利用できるようになるにつれて、それらを採用することが重要となる。総合的な考察で、作業グループ・メンバーは、免疫や炎症の生理的役割の開発された概念を述べるために新しい用語 (例えば、ホメオスタシスな免疫応答) を採用する必要があるかもしれない、とも述べた。