減塩は脈拍数を増加させる。
72研究集団を含む63件のランダム化比較試験のメタアナリシス
Reduced Dietary Sodium Intake Increases Heart Rate. A Meta-Analysis of 63 Randomized Controlled Trials Including 72 Study Populations
By Niels A. Graudal, Thorbjorn Hubeck-Graudal and Gesche Jurgens
Front Physiol, 24 March 2016
減塩(ナトリウム摂取量減)は動物とヒトの幾つかの研究で脈拍数を増加させる。脈拍数は心不全の発症と早死の危険率増加に独立して関係しているので、脈拍数の潜在的な増加は減塩の有害な副作用となりうる。本メタアナリシスの目的は脈拍数に及ぼす減塩の効果を調査することで合った。関連した研究は1973 – 2014年の期間に発表された176件のランダム化比較試験の最新プールから検索された。72件の研究集団を含むランダム化比較試験の中で63件は脈拍数に関するデータを報告した。これらのデータのメタアナリシスで、減塩は毎分1.65回の脈拍数を増加させ、基準脈拍数の2.4%に相当した。この効果は基準血圧と関係なかった。結論として、減塩は血圧低下(2.5%)と同じ程度(2.4%)に脈拍数を増加させる。有害な健康効果を引き起こすかもしれないこの副作用は現在の食事ガイドラインの改正の必要性に寄与する。
はじめに
約0.5 g/dの塩摂取量は生命維持に必要な生理学的効果を維持するために十分であるが、毎日の習慣的な塩摂取量は40 gであることが報告された。世界人口の65%は8 – 10 gの塩摂取量で、6 – 12 gでは95%となる。その結果、世界中の塩摂取量は0.5 – 40 gと言う許容区間の低い方に非常に緊密に制御されている。それでも塩摂取量と血圧との仮定された関係のためにこの塩摂取量は健康に悪いと幾つかの保健研究機関は考えており、したがって、5.88 g以下の塩摂取量に下げることを勧めている。しかし、血圧に及ぼす減塩の効果は投与量応答関係を示さない正常血圧者でわずかに1.27/0.05 mmHgであるので、メタアナリシスはこの仮定に疑問を呈している。高血圧者で中程度の効果(5.5/2.7 mmHg)は全人口についての減塩を正当化しない。
減塩中にレニンとアルドステロン、ノルアドレナリンとアドレナリンの増加のように生理学的機構を補償することは血圧を維持することだけでなく、脈拍数を増加させることにも寄与するかもしれない。通常摂取量の1/10まで減塩することはラットで25%脈拍数を増加させることを動物実験は示した。“塩摂取量を変えるとき、ほとんどの人々の血圧変化と脈拍数を悪い方向に変える塩摂取量の潜在的な影響があるとき、これら2つのパラメーターは注意深く連隊的に分析すべきで、”そして“血圧に及ぼす塩摂取量の効果の研究で、左心室と全身の動脈の両方に長期間の負荷が血圧だけに対するよりも脈拍数×血圧の効果に対してたとえ良い結果であろうとも、脈拍数に及ぼす影響は通常無視される、”とフォルコウらは結論を下した。脈拍数の臨床的な重要性のこの兆候は前向き観察研究によってさらに強調された。その観察研究は、脈拍数が血圧と全く同じように死亡率と独立して関係していることを示した。脈拍数に及ぼすそのような効果はいくつかの集団研究で低塩摂取量と死亡率増加の関係の発見に寄与している。
本メタアナリシスの目的は異なった血圧値で脈拍数に及ぼす減塩効果を調査することであった。脈拍数に及ぼす減塩の最高効果を示す時点を明らかにする長期間研究と、塩摂取量と脈拍数との投与量応答関係を確立するために異なった塩摂取量を調べる研究を明らかにすることも我々は目論んでいる。
方法
省略
結果
省略
考察
このメタアナリシスは減塩が脈拍数を増加させることを示している。増加は統計的に非常に意味があるが、2.4%に相当する1.65 bpmと言う増加値の臨床的な意味は論争の余地がある。効果の大きさは調査されたランダム化比較試験で収縮期血圧に及ぼす減塩の効果を定量的に釣り合っている。それは3.4 mmHg(平均基準収縮期血圧=135 mmHg)であり2.5%(3.4/135)に相当している。しかし、高血圧者で中程度で、正常血圧者で低い血圧効果に対比して、脈拍数効果は基準血圧値とは独立している。これは、血圧分布で50%以下の血圧である人々は血圧低下がなくても脈拍数が増加するかもしれないことを意味している。目に見えないようにした研究は効果の大きさに意味のある影響を及ぼさなかった。2件の長期間研究は最高の効率を示す時間を決定するには少なすぎた。4件のランダム化比較試験からの7件の投与量応答関係は、その関係が存在することを示しているが、信頼できる結論のためにはデータは十分でない。民族性だけは血圧にわずかな影響しか及ぼさないことを我々は前に示したが、黒人2人とアジア人4人だけの研究集団が本メタアナリシスで明らかにされたので、民族性が脈拍数に及ぼす減塩効果に影響を及ぼしたかどうかを我々は決定できなかった。
一連の集団研究は低塩摂取量と健康結果との間の有益な関係を示せなかった。最近のIOM報告書(医学研究所報告書)は、“5.8 g/d以下の塩摂取量に下げることが全人口で心血管疾患危険率を減少させるか、あるいは増加させるかのいずれかであることを確立するには科学は不十分で不適当である、”と結論を下した。これらの集団研究の後のメタアナリシスは、12.6 g/d以上の塩摂取量と同じように、6.7 g/d以下の塩摂取量は死亡率増加と関係していることを明らかにした。塩摂取量と死亡率との間のこのU字型関係が幾つかの個人研究集団家で明らかにされた。このU字型関係の理由は、我々の前のメタアナリシスで示したように、減塩には副作用があるからである。メタアナリシスが示したことは、減塩が血漿レニン、血漿アルドステロン、血漿アドレナリン、血漿ノルアドレナリン、血漿コレステロール、そして血漿トリグリセライドを意味ありそうに増加させることである。さらに、脈拍数増加の現在の結果は副作用と考えられる。観察研究で脈拍数が死亡率や心不全の発症と関係していたからである。コペンハーゲン市研究で、休息時脈拍数で10 bpm増加は1変量(約20%)と多変量(約10%)モデルの両方で心血管と全死因増加と関係しており、フラミンガム研究では、休息時脈拍数で11 bpm増加は心血管(18%)と全死因(17%)増加とも関係していた。収縮期血圧で20 mmHg増加は死亡率で約100%増加を導く。これらの関係が直線と仮定すると、約3 bpmの脈拍数増加は1 mmHgの収縮期血圧低下効果よりも大きいと推定される。述べたように、脈拍数の2.4%増の臨床的な意味は疑わしいかもしれない。しかし、保健研究所の減塩推奨は、全人口のわずかな血圧低下死亡率の意味ある低下になるという仮定に基づいている。この概念が正しいとすれば、脈拍数の2.4%増は反対の効果を持つことになる。特にレニン、ノルアドレナリンそしてコレステロールのような他の要因の増加と組み合わせたとき、死亡の予兆となることが知られている。事実、減塩の副作用は血圧効果に優ることを観察集団研究は示している。これは健康な正常血圧者だけでなく、心不全患者でもその事例になるように思える。前兆を持った慢性心不全疾患の最近の研究で、減塩は意味ある高い死亡または心不全入院の危険率と関係していた。これらの結果は、大幅に減らす食事ガイドラインで保健研究所は健康結果に及ぼす減塩効果に関するランダム化比較試験がないこと、減塩の潜在的な副作用と観察研究における低塩摂取量と死亡率増加との関係を認識すべきであることを示している。進行中の論争を考えて、ガイドライン作成の工程には現在の食事推奨値に挑戦している時でも、“十分な透明性”、偏向のないこと、最新の利用できる研究や科学的エビデンスの全てを含め考察することを含めるべきである。現在の塩推奨量はこれらの範疇を満たしていない。結論として、減塩は脈拍数を増加させる。これは全人口に有害な効果をもたらすかもしれない副作用として考えるべきである。この効果は現在、アメリカ議会で始まっている今の食事ガイドライン改訂の必要性に寄与する。