ナトリウム摂取量と死亡率:どれだけ多くを本当に知っているか?
Dietary Sodium and Mortality: How Much Do We Really Know?
By Demilade A Adedinsewo, Army W Pollak, Rickey E Carter
European Heart Journal 2021;42:2113-2115 2021.06.01
ナトリウム消費量と死亡率との関係は長い間の研究課題であった。しかし、ナトリウムと全死因との関係は個人レベルでまだ不明である。
メッセルリーらはナトリウム摂取量と死亡率との関係の詳細な試験を行い、European Heart Journalの本号で報告したように死亡率との逆相関を明らかにした。著者らの結論は、その様な結果は、より高いナトリウム摂取量がより高い死亡危険率と関係していると言う現在の見解に疑問を持つべきである、と言うことである。地球規模でナトリウム消費量と死亡率との関係を評価すると言う膨大な課題を引き受けた著者らを我々は称賛する。努力は称賛に値するが、この論文の結果をレビューするとき、注意深く考察されなければならない研究設計と解析について幾つかの見方がある。(i) 集合または国レベルのデータを解釈するとき、生態学的に誤った推論が主要な懸念事項となる。生態学的研究は主に仮説を生み出し、個人レベルに関する結果を解釈することは完全に誤解を招く可能性がある。生態学的に誤った推論の極端な事例はサルケルドらによって示された。そこでは、ライム疾患が肥満率およびフライドチキン・レストランの多さと負の相関関係があることが実証された。(ii) ナトリウム消費量の推定値には問題がある。1回の尿中ナトリウム測定値は人の生涯の平均的なナトリウム消費量を反映していないかもしれない、と著者らは正しく述べている。一次データ源は多くの諸国で限られていたか、失われていた。オドンネルらにより最近発表されたレビューで指摘されているように、観察的な集団ベースの研究に特に関連するようになる鍵となる問題は、個人のナトリウム摂取量を客観的に定量する有効で信頼性のある方法がないことである。(iii) 健康的な寿命と全死因はこのコンテキストでは理想的な測定基準ではない。ナトリウム減少とDASH食を評価する複数のランダム化試験は血圧の有意な低下を明確に示しており、ごく最近、血圧低下は心血管疾患罹患率と死亡率の低下と関係していることをSPRINT試験の結果は確認した。ナトリウム摂取量と心血管疾患危険率との間の投与量応答関係を確認した20件の研究からのメタアナリシスを含むごく最近の論文と臨床レビュー論文は、高ナトリウム摂取量(>4.6 g/d)はより高い死亡率と心血管疾患危険率と関係していることを示していることと前向きコホート研究結果はほとんど一致していることを指摘した。現在の研究とは対照的に、24時間尿中ナトリウム排泄量を使用して食事中のナトリウム摂取量を評価したグローバル疾患負荷研究からの体系的な分析は反対の結果を明らかにし、高ナトリウム摂取量と心血管疾患死亡率との関連を示した。この研究は死亡率、特に心血管疾患死亡率に対する他の食事の寄与を評価したという点でより強力であった。この研究は、WHOヨーロッパ地域で、食事危険率は全死因の22.4%、心血管疾患死亡の49.2%を占めている。つまり、食事による危険性は全ての原因による死亡の1/4未満を占めている。66ヶ国からの107件のランダム化された介入試験の他のメタアナリシスは、心血管疾患で年間165万人の死亡が増加したナトリウム摂取量によることを示した。そのような心血管疾患死亡率の評価はメッセルリーらによる研究にとってより適切な研究結果となる。著者らは非感染性疾患による死亡率を評価したが、有意な関連は見られなかった。主要栄養素と心血管疾患との関係を評価する世界的な前向き研究は、脂肪摂取量は総死亡率の低下と関連していたが、脂肪摂取量と心筋梗塞または心血管疾患死亡率との間に関連性は見られなかったことを示した。問題の研究と同様に死亡率との逆相関は予想外である:しかし、心血管疾患による死亡率とは何の関係もないとすれば、脂肪摂取量が少ない人の間で観察された死亡率の増加は非心血管疾患の原因によるものである可能性がある。(iv) 解析の単位は個人ではないため、結果は個人には適用されない。解析の単位はナトリウム量の一ヶ国レベルの推定値であり、国内のナトリウム摂取量の個人間変動は解析に含まれていない。著者らは、「統計的操作による予期せぬ利益の消失はナトリウム制限の結果に関する水の濁りをさらに証明している。」と述べており、これは現在の研究にも当てはまるため誇張できない。非感染性疾患によるナトリウム消費量と死亡との関係は重要ではなく、ナトリウム消費量とその結果としての心血管疾患危険率が感染症による死亡の危険率を高めるとは予想されないため、これは明らかに全死因による死亡よりも適切な結果である。(v) ナトリウム摂取量と人口の健康に関するこの研究の影響は不明のままである。ナトリウム摂取量が寿命に影響を与えるのか、あるいは全死因による死亡率に影響を与えるのかは不明であり、データから推測できないことを著者らは明確に強調している;このように、この研究は文献にそれ以上追加しないが、根本的に欠陥のある研究との意味のある関連を書くことの不確実性を強調する。ナトリウムと研究結果との間のU字型またはJ字型の曲線関係低ナトリウム血症と死亡率を評価する複数の研究で実証されている。栄養失調と心臓悪液質は低ナトリウム血症の潜在的な原因として特定されており、これらの患者に見られる死亡率増加の原因である可能性がある。低ナトリウム血症の患者は塩消耗症候群を除いて尿中ナトリウム量が低い傾向がある;そのように、彼等の尿中ナトリウム量は彼等の食事中のナトリウム摂取量を反映していない可能性があり、これはナトリウム摂取量と死亡率との間に観察されたU字型関係をさらに混乱させる。さらに、尿中ナトリウム濃度から食事中のナトリウム摂取量を推定するために使用される最も一般的な式は、ナトリウムと死亡率の関係を具体的に変えることが報告されており、ナトリウム摂取量のこれらの偏った推定値を使用して、ナトリウム摂取量の人口全体の減少の有益な効果に反論することに対して警告している。
要約すると、心血管疾患は依然として世界の主要な死因である。そのため、心血管疾患危険率を軽減するための介入が最終的に心血管疾患による死亡率を低下させることは大げさではない。メッセルリーらは食事中のナトリウム摂取量と死亡率の逆相関に関する複数の国にわたる世界的なデータを提示する。これらの結果は実質的な交絡および生態学的考察の可能性があるため、慎重に解釈する必要がある。著者が正しく述べているように、これらの結果は個人レベルで解釈できず、患者のケアを導くために使用されるべきではない。心血管疾患の管理に関して、アメリカ心臓協会は確立された健康関連の結果を伴う7つの理想的な心血管健康指標12を提案している。7つのうち1つだけを目標にすることは一般の人々は言うまでもなく、個人の全体的な心血管危険率を減らすには不十分かもしれない。さらに、年齢、人種、性別、腎疾患によって変化する塩感受性など他の要因も関係している。しかし、個人レベルは1つの介入、この場合は食事の変更に焦点を当てることが問題の価値がないことを示唆するものではない。むしろ、それは心血管疾患の負担とその後の死亡率を減らすために、多面的かつ多介入的なアプローチが必要であることを意味する。