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ナトリウム・イオン電池陽極:現状と将来の傾向

Sodium-Ion Battery Anodes: Status and Future Trends

By Wenli Zhang, Fan Zhang, Fangwang Ming, Husam N. Alshareef

EnergyChem 2019;1:     2019.09.

 

要約

 リチウム・イオン電池は電気自動車や携帯型電子器機のエネルギー貯蔵モジュールで主導的な役割を果たしてきた。将来の大規模な再生可能エネルギー貯蔵におけるリチウム・イオン電池の適用は地殻内のコストと限られたリチウム資源のために妨げられる可能性がある。ナトリウム・イオン電池は豊富なナトリウム資源と同様の電気化学的メカニズムにより、大規模な再生可能エネルギー貯蔵アプリケーションにおけるリチウム・イオン電池の代替品と見做される。陰極と比較してナトリウム・イオン電池の陽極は不安定な性能と限られた容量を示し、ナトリウム・イオン電池の開発と商業化を妨げてきた。本レビューでは材料合成、電気化学的性能、ナトリウム貯蔵メカニズムなど、ナトリウム・イオン電池の陽極の最近の開発について説明する。さらに、ナトリウム・イオン電池の研究、開発および傾向を分析する。

 

はじめに

 エネルギー需要の増加は化石燃料から風力や太陽光エネルギーなどの再生可能エネルギー源へのパラダイム・シフトを引き起こした。しかし、これらの再生可能エネルギー源は基本的に断続的であるため、持続可能なエネルギー貯蔵装置を開発することが不可欠である。電気化学エネルギー貯蔵はその高いエネルギー変換効率、比較的コンパクトなサイズ、および高速応答のために効率的なエネルギー貯蔵技術であると考えられている。様々な電気化学エネルギー貯蔵装置の中でリチウム・イオン電池が現在、主要なエネルギー貯蔵解決策である。

 リチウム・イオン電池は前世紀の1970年から1980年代に調査され、1991年にソニーが商品化して以来成功を収めてきた。リチウム・イオン電池は電子器機、電気自動車、ハイブリッド電気自動車に広く導入されている。しかし、特に大規模な再生可能エネルギー貯蔵を考慮すると、リチウム供給の制限とリチウム・イオン電池の高いエネルギー貯蔵コストについて大きな懸念がある。地球に豊富な元素(ナトリウム、カリウム、亜鉛など)を使用した二次電池の開発に向けた新たな取り組みが行われている。ナトリウムは地殻にリチウムよりもはるかに豊富に含まれている(23,600 ppm20 ppm)。ナトリウムとカリウムのメリットをリチウムと比較すると、費用対効果の高いナトリウム・イオン電池や再生可能エネルギー貯蔵用のカリウム・イオン電池の開発には大きな可能性がある。ナトリウムはカリウムよりも原子半径が小さいため、適切なNaホスティング陰極およびナトリウム・イオン電池の陰極を簡単に探索できる。商業的な観点から、ナトリウムはアルミニウムと合金化しないため、リチウム・イオン電池の陽極材料の不可欠な銅集電体をナトリウム・イオン電池のはるかに安価なアルミニウムに置き換えられる。ナトリウム・イオン電池とリチウム・イオン電池の間の同様の化学的性質、および製造技術を考慮すると、ナトリウム・イオン電池は既存のインフラストラクチャーと成熟したリチウム・イオン電池製造技術の利点を活用できる。Na/Na+(-2.71 V)レドックス対の電位はLi/Li+(-3.04 V)よりわずか330 mV高いため、高電圧ナトリウム・イオン電池の開発が可能になる。しかし、研究開発の観点からは、Naのシャノン・イオン半径(1.02 )Liのイオン半径(0.76 )よりもはるかに大きいため、十分な容量と良いサイクリング安全性を持ったNa+に適した結晶性ホスト材料を見つけることが難しくなる可能性がある。リチウム・イオン電池の出版物は依然としてナトリウム・イオン電池をはるかに上回っているが、ナトリウム・イオン電池に関する出版物は近年大幅に増加している。

 陰極と比較してナトリウム・イオン電池の陽極は不安定な性能と限られた容量を示す。ナトリウム金属自体は1,165 mAhg-1と言う高い理論容量を持っている。しかし、不安定な固体電解質中間相の問題、およびナトリウム・デンドライトの成長により、ナトリウム金属陽極のエネルギー効率が低くなり、実際の用途では安全ではない。リチウム・イオン電池のグラファイト陽極と同様にナトリウム・イオン電池陽極側には安定した低電位の充放電安定を備えたナトリウム・イオン・ホストが必要である。過去10年間で、ナトリウム・イオン電池の陽極材料は効果的な進歩を遂げた。これらの開発におけるマイルストーンはスキーム1(省略)に示されている。成功したリチウム・イオン電池陽極は理論容量が372 mAhg-1であり、ステージ1Li飽和LiC6化合物を形成する。それにもかかわらず、19988年にGeFouletierは電気化学的にグラファイトおよびナトリウム・イオンがステージVIIINaC64化合物しか形成できないことを明らかにした。その後、2001年にDahnらは、グラファイトは35 mAhg-1の限られた容量しか提供しないことを実証した。ナトリウム・イオン電池のグラファイトの障害は非グラファイト炭素材料やその他の合金化/変換陽極材料の研究のきっかけとなった。幸いなことに、層間間隔がはるかいに大きい硬質炭素は2000年にDhanらによって効果的な陽極であることが実証された。硬質炭素陽極を使用して300 mAhg-1の大容量を実現し、グラファイトへのリチウムの挿入と同様の挿入メカニズムを提案した。その時点から2010年まで、ナトリウム・イオン電池用の硬質炭素陽極に焦点を当てた研究はほとんど僅かであった。しかし、最近の10年間でナトリウム・イオン電池の陽極として多数の硬質炭素、軟質炭素およびグラフェン・ベースの陽極が調査された。これらの炭素材料は200から500 mAhg-1までの容量を達成した。2011年にジョンソンらは150 mAhg-1の容量を持つナトリウム・イオン電池の効果的な陽極としてアモルファスTiO2ナノチューブを示した。一方、タラスコンはNaTi3O7が低い平均電位で200 mAhg-1の容量に対応する式単位あたり2 molのナトリウム・イオンを取り込むことができることを実証した。その後、2011年にChen, HongおよびAmineらは有機カルボン酸塩ベースの材料をナトリウム・イオン電池の陽極として使用できることを実証した。テレフタレート2ナトリウムは295 mAhg-1の可逆容量を示している。2012年には錫とアンチモンがナトリウム・イオン電池の陽極として報告された。錫は完全にナトリウム化された状態でNa15Sn4が形成されると仮定すると、理論容量は847 mAhg-1である。アンチモンの理論容量は660 mAhg-1であり、完全にナトリウム化された状態としてNa3Sbが形成されると仮定している。2012年には、1890 mAhg-1の超高可逆容量を持つ赤リンがナトリウム・イオン電池の変換陽極として報告された。合金化/変換陽極はサイクル安定性が劣っているが高い容量を示す。2014年後半にケントおよびGogotsiらは実験的および計算的にナトリウム・イオン電池の陽極としてTi3C2MXeneを調査した。そこでTi3C2は約100 mAhg-1という可逆容量を示した。2014年と2015年には、Adelhelm, ChenおよびKangらは、溶媒とナトリウム・イオンがグラファイトに共挿入するエーテル・ベースの電解質におけるグラファイト陽極の実現可能性を発見した。2018年にAlshareefらは、13%の高窒素ドーピングと3.8 Åの拡大層間間隔を備えたポリイミドから誘導されたレーザー・スクライブされたグラフェンが425 mAhg-1の高容量を示すことを明らかにした。

 様々な陽極を探索する努力にもかかわらず、ナトリウム・イオン電池陽極は依然としてナトリウム・イオン電池の開発と商業化を制限している。ナトリウム・イオン電池の陽極はナトリウム・デンドライトの形成を回避しながら高容量、高サイクル安定性、高速能力、高初期クーロン効率および十分に低い充放電電位プラトーを備えている必要がある。本レビューではナトリウム・イオン電池用の陽極の最近の開発に焦点を当てる。ナトリウム・イオン電池用の高度な陽極の将来の開発に光を当てることである。先ず、これらの様々な陽極とそれらの電荷蓄積メカニズムを確認した。次に、ナトリウム・イオン電池用の各種類の陽極について徹底的な批判的レビューを行った。最後に、ナトリウム・イオン電池陽極の課題と機会を提案した。