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2019年日本化学会の創造的研究賞

受賞内容のハイライト・レビュー

ナトリウム駆動充電式電池:将来のエネルギー貯蔵に向けた取り組み

Sodium-Driven Rechargeable Batteries: An Effort towards Future Energy Storage

By Shinichi Komaba(駒場慎一)

                                                                  Chem Lett 2020;49:1507-1516   2020.10.02 

 

駒場慎一は1998年に早稲田大学から博士号を受け、1998年から 2005年まで岩手大学助手で勤務。2003年から2004年まで博士研究者としてフランスのボルドー凝縮物質化学研究所でも研究。2005年に教員として東京理科大学に就職。カリフォルニア工科大学から2014年度共鳴賞、2014年に日本学術振興会賞、2019年に日本化学会の創造的研究賞(Award for Creative Work)、等々を受賞。現在の研究は充電式Li-Na-、およびKイオン電池、コンデンサー、センサー、およびバイオ燃料電池の材料化学と電気化学に集中している。

要約

 1991年に商業化されたリチウム・イオン電池の重大な影響のために、1991年に始めたリチウム電池材料の研究開発に携わる機会を得た。これらの研究経験はさらに動機を提供し、経歴の後半で非溶液姓ナトリウム・イオン電池の証明を目標にする新しい研究分野を開いた。2009年に、著者の研究グループはナトリウム・イオン電池で3ボルト級の充放電を示すことに成功し、動機の向上により新しい4ボルト級のカリウム・イオン電池ができた。本論文はリチウム、ナトリウム、およびカリウムで駆動されるレドックス系の系統的な我々の調査の概要を述べ、このことは次世代充電式電池用の新しい素材の開発を相乗的に加速させる。層状酸化物と硬質炭素電極材料と言う我々の最新の成果は高エネルギーのナトリウム・イオン電池への取り組みとしても述べられている。

 

1.はじめに

 充電式電池は陽極と陰極として電気化学的酸化還元反応の組み合わせに基づいて電気エネルギーを蓄えられる。リチウム電池は最高のエネルギー密度と現在利用できる実用的な充電式電池の中で優れたサイクル寿命を提供し、高性能リチウム・イオン電池の需要は近年でもまだ増加している。充電式電池は携帯電気器機、ドローンや電気自動車、および大規模定置型蓄電装置向けにさらに採用されている。したがって、電池材料と反応の研究開発は技術的・科学的な両方の観点から非常に重要である。

 2005年に東京理科大学で発足した我々の研究グループはリチウム、ナトリウム、およびカリウム電池、電気化学コンデンサー、イオンセンサー、バイオセンサー、およびバイオ燃料電池の高度な電気化学器機用の材料と反応を研究している。図1に示す3つの異なった電池での我々の成果は著者の個人的なエピソードに沿ってレビューされ、著者として最近の論文歴が名誉を与えられ、20193月に日本電気化学会による科学的業績賞の受賞者として選ばれるために謙虚になった。さらに、20203月に発表された日本化学会の創造的研究賞の受賞者としてこの論文を提出する機会を得たことは著者の名誉と喜びである。著者が受賞講演を行う予定であった第100回日本化学会総会はCOVID-19パンデミックのために残念ながら中止された。本論文で、ナトリウム・イオン電池用の高活性材料に向けた最近の進歩と共に受賞研究成果を紹介する。

Figure

 

1 次世代充電式電池の応用用のリチウム-、ナトリウム-、カリウム-駆動の挿入材料に関する系統的研究の

   研究方向。ナトリウム・イオンとカリウム・イオン電池に関する2件のレビュー論文も代表的な発表として

   示す。

 

2.リチウム・イオン電池

省略

 

3.ナトリウム・イオン電池

 ナトリウム挿入材料とそのナトリウム金属電池への応用は1970年代に提案された。事実、ナトリウム金属とナトリウム・イオン電池の充電/放電操作は我々のレビュー論文で述べたように示されており、長寿命ナトリウム・イオン電池は、リチウム・イオン電池商業化よりも早い1980年代に達成された。1991年に開始された市場での実用的なリチウム・イオン電池の成功のために、ナトリウム・イオン電池の研究は1990年代に衰退した。リチウム・イオン電池でLi+Na+Kイオンで置き換える考えは簡単に思えるが、化学や材料に及ぼす影響はかなり複雑で挑戦的である。よく知られている問題は、我々がナトリウム挿入材料を研究しようと決めたとき、誰も充電式ナトリウム・イオン電池用に使用できる炭素材料を報告しなかった、と言う事実であった。スティーブンスとダーンによる最初の研究は、Na+/Naに対する0.0 – 1.0ボルトの範囲の低電圧で約300 mAhg-1の高い可逆容量を提供する硬質炭素電極を述べたことを我々は注意する必要がある。しかし、短いサイクル寿命と硬質炭素//ナトリウム電池の不可逆性の問題はまだ解決されなかった。この問題はリチウム電池とは異なり、不動態化、すなわち、固体電解質中間層(SEI)の形成に失敗に起因すると我々は考えた。さらに、著者が2003年度にデルマスのグループで博士研究者であったとき、著者はこの研究分野の始まりと彼が電極としてのNaMeO2LiMeO2の材料科学への道を開いたときにリチウム/ナトリウム遷移金属酸化物の最先端の科学であることを理解した。層状NaMeO2電極のテストは、層状LiMeO2と比較して常にはるかに深刻な電解質分解に悩まされ、深刻な分解の背後にある理由は、層状のNaxMeO2内の隣接するMeO2スラブ間の隙間の広がりであり、電解質分解を引き起こす溶媒分子の同時挿入を可能にする可能性があるとデルマス博士は説明した。

 電極問題は非溶液姓ナトリウム電池でナトリウム挿入材料をテストするために解決されなければならないと著者は信じた。したがって、我々は電解質溶媒、ナトリウム塩、それらの純度とナトリウム抽出やNaMeO2と硬質炭素の挿入に及ぼすナトリウム・イオン電池への汚染の影響を徹底的に調査した。Li電極の電極皮膜は、リチウム電池を扱った著者の最初の経験によれば、電解質に溶解した添加物に常に依存していること著者は理解していたからである。最後に、我々はNa//硬質炭素電池の満足できる性能に適した電解質組成と添加物を発見した。

 ナトリウムの電気化学的挿入に関する実験研究を始めるために、我々はLiCoO2よりもMnO2板間の非常に幅広い内層空間を持った層状二酸化マンガン水和物を先ず調べた。その幅広い内層空間はリチウム・イオンよりも大きいナトリウム・イオンを組み込むのに有益であると推定されたけれど、酸化物中の水分子はナトリウム電池内の非溶液姓電解質溶液の水質汚染をもたらし、対ナトリウム電極の損傷はビーカー型ナトリウム電池で視覚的に確認された。ナトリウム電池を処理するための組立手順と実験室の安全手順を確立するための継続的な努力の後、我々は最初に、陽極用途の2つのナトリウム層状酸化物、O3タイプのNaNi1/2O2NaCrO2を報告した。その中のアイデアはKangらと我々のグループによる以前の報告に基づいてそれぞれ作成された。

 2011年に、炭素//NaNi1/2Mn1/2O2構成のナトリウム・イオン燃料電池についての我々の最初の発表は前に説明したように長い査読時間後に掲載された。原子量、結晶イオン・サイズおよびナトリウムの標準電極電位は図12で比較すると、リチウムのそれらよりもそれぞれ重く、大きく、高い。したがって、Li+Na+イオンで置き換えることは、可動イオンのタイプを除いて、陽極と陰極で同じ酸化還元反応を想定することにより、結果として生じる電池の電圧、容量、および蓄積エネルギーを必然的に減少させる。正直に言って、我々はナトリウム挿入材料の科学的な目新しさだけを期待して、ナトリウムの性質上、研究の方向性が実用化するとは考えていなかった。幸運にも、我々はリチウム・イオン電池と比較して実用化の顕著な利点を偶然発見した.すなわち、陰極の現在の集電体としてのアルミホイルの適合性、Na+イオンの移動度の高さ、電解質溶液の粘度の低さ、ナトリウム挿入材料の豊富な化学的性質などであり、それらは極性原子/分子とのクーロン相互作用が弱く、ナトリウムと鉄やマンガンなどの遷移金属イオン間のサイズの対比に起因する。持続可能なエネルギー技術は今世紀の世界的な関心事と見做されているので、Li-空気、Li-SMn,そしてナトリウム電池など「リチウム・イオンに優る」新しいエネルギー貯蔵装置に関する研究は研究者達を新しい材料に引き付けた。リチウム資源の不均一な分布のために、非リチウム挿入材料が積極的に研究され、ナトリウム・イオン電池に関する多くの科学論文が2010年以来、驚くほど増加してきた。

 

Figure

 

 図2.固体のイオン・サイズと水中でのストークス半径とLi+Na+

K+,おとびMg2+イオンの比較(a)とリチウム・イオン電池の

実用的な陽極領域を考慮した炭酸エステル溶媒を含む非水溶性

電解質溶液を仮定したLi-Na-、およびKベース電池の利用

可能な電位領域の比較(b)

 

以下、専門的すぎるので省略。

 

4.カリウム・イオン電池

省略

 

5.要約と展望

 3つの異なるアルカリ金属挿入系の我々の系統的研究は相乗的により深い理解と次世代充電式電池用の新しい材料のより早い開発をもたらした。1991年にリチウム・イオン電池の最初の商業化以来、リチウ挿入化学は最高の比エネルギー貯蔵を提供する最も洗練された成功した充電式電池技術の1つとなった。同じ分野で働く研究者にノーベル化学賞が授与されたことを著者は非常に喜んでいる。リチウム挿入材料とそれらの電気化学的特性に関する多くの研究は、より高いエネルギー密度、比較的長いサイクル寿命、およびより安全なリチウム・イオン電池を達成させた。リチウム・イオン化学の研究経歴と知識を採用および更新することにより、個人的な歴史とインスピレーションが非水溶液性NaイオンとKイオン電池のデモンストレーションを成功させるように著者を導いたことは非常に幸運である。ここに述べた3つの異なったアルカリ金属挿入系の系統的研究は、相乗的に効率的な開発を促進し、新しい電池系用材料に関する独自の科学を提示する。効率的電極反応と新素材をベースに、次世代電池や分子機能電極の研究に我々は貢献していく。

 

 藪内直明教授、久保田圭准教授、Mouad Dahbi准教授、堀場達雄博士、山際清史教授、Yoshinari Abe教授、多々良涼一准教授および多くの同僚、学生、博士研究者、スタッフそして共同研究者の貢献、継続的な激励、および協力に対して謝意を表する。文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構、日本学術振興会、新エネルギー・産業技術総合開発機構、および関連する全ての組織からの財政支援も高く評価されている。