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ナトリウム()摂取量:公共政策の科学的根拠

Dietary Sodium Intake: Scientific Basis for Public Policy

By Whelton P.K.

Blood Purification 2015;39:16-20  2015.01.20

 

要約

 

背景/目的:国家機関と国際機関は減塩を勧めている。しかし、ある人々はこれらの政策の知識に疑問を持っている。本報告の目標は、塩摂取量と血圧および心血管疾患の両方との関係を調査してきた研究の結果と品質を調査することであった。

方法:総合的なレビューとメタアナリシスを含めて利用できる観察研究とランダム化比較試験の文献レビュー。

結果:政策が通常の塩摂取量を減らさせる科学的根拠は強い。アメリカ合衆国と多くの他の諸国では、食品製造中の塩添加で非常に高い平均塩摂取量となり、ほとんど全ての人々が推奨目標値を超えている。自発的、自主的方法を利用した国家プログラムは減塩に成功した結果となった。わずかな塩摂取量の低下でも人口の健康に相当大きな改善を得られる。

 

塩摂取量ガイドライン

 40ヶ国以上の国家衛生当局とWHOを含む様々な国際機関は減塩を勧めている。WHOは大人と子供の両方に5.1 g/dの塩摂取量を勧めている。アメリカ合衆国では、連邦政府がアフリカ系アメリカ人の成人と51歳以上、高血圧者、慢性腎臓疾患または糖尿病患者には3.8 g/d以下、その他の人々には5.8 g/d以下を勧めている。アメリカ心臓協会は全てのアメリカ人に3.8 g/d以下の塩摂取量を勧めている。話題をレビューした全ての医学研究所委員会は減塩を勧めてきた。2005年の医学研究所食品参考摂取量委員会は十分な摂取量として3.8 g/dを、ほとんどの成人についての許容上限摂取量として5.8 g/dを勧めた。低い方の十分な摂取量が50歳以上の成人について勧められ、低い方の許容上限摂取量が老人、アフリカ系アメリカ人、高血圧者、糖尿病者、慢性腎臓疾患者を含めて塩摂取量の血圧効果に感受性のあるらしい人々について勧められた。2013年の医学研究所委員会は塩摂取量と心血管疾患、脳卒中、死亡率とを関係させた研究に焦点を置くように変わった。前の報告書に合わせて、委員会は‘方法論的な品質で非常に変わりやすい’利用できる報告書を見出し、データ収集方法論の変動性が研究間の結果を比較する委員会の能力を制限している、と確定した。‘ひとまとめにして考えると、それは高い塩摂取量と心血管疾患の危険率との間にポジティブな関係を示している。このエビデンスは心血管疾患危険率の代表的な指標である血圧に基づく既存のエビデンスとこのエビデンスは一致している’と委員会は結論を下した。イギリス連邦では、英国国立医療技術評価機構(NICE)3.0 g/dまで塩摂取量を次第に低下させることを勧めている。

 

ガイドライン勧告値についての科学的根拠

 塩摂取量勧告値は腎臓生理学、他の栄養素のための要求量と合わせる必要量、塩摂取量と高い血圧値、心血管疾患、他の健康結果とを関係付ける情報(1)に一般的に基づいてきた。人の腎臓はナトリウムを保持するために著しい能力を持っている。腎疾患がない、またはナトリウム輸送に影響を及ぼす薬剤の場合に、成人では200 mg/d以下のナトリウム(0.5 g/d以下の塩)が必要である。塩について十分高めの塩摂取量を勧める第一の理由は他の栄養素についての要求量に合わせた食事摂取量を促進するためである。2005年の医学研究所の上限塩摂取量とガイドラインの塩摂取量は塩摂取量増加と悪い健康結果、特に高血圧や心血管疾患とを関係付ける動物と人における大量のデータに基づいていた。その後の研究は2005年委員会の結論と一致している。

 

1 塩摂取量、血圧、心血管疾患との間の関係を調べてきた研究からの主な結果である

動物研究

過剰の塩摂取量は高血圧、降圧剤治療の効果低減、左心室肥大、拡張機能障害、冠動脈の血管周囲線維症、

塩感受性も促進させる進行性腎障害を起こす。

観察研究

十分な力を持った研究は塩摂取量と血圧との直接的な関係を明らかにした。塩摂取量が心血管疾患危険率

と逆関係しているとの習慣的な考えと大多数のエビデンスは一致している。全ての報告書はこの関係を調

査するために設計されていない研究からのデータセットの二次的な解析に基づいていた。測定誤差、説明の

つかない混乱因子そして逆の因果関係がこれらの報告書の解釈を複雑にしている。比較的品質の高い最近の

研究は3.8 g/dと言う塩摂取量まで低下させたとき、塩摂取量と心血管疾患との直接的な関係の存在を支持

している。

臨床試験

メタアナリシスは、高血圧者、アフリカ系アメリカ人、老人そして成功した介入の人々で大きな効果を持って

減塩が血圧を下げることを一貫して示してきた。心血管疾患に及ぼす減塩の効果を明らかにする統計力は限ら

れているが、それぞれの研究で一貫した利益傾向とメタアナリシスで統計的に有意な20%低下があった。

全集団の塩摂取量

アメリカ合衆国と全世界の塩摂取量はガイドライン勧告値より十分に過剰である。アメリカ合衆国で経時的に

低下してきたエビデンスはないが、自発的、強制的な政策変化はその他の諸国で十分な低下をもたらした。モ

デル研究は、わずかな塩摂取量低下でも心血管疾患罹患率と死亡率に重要な減少となる結果を示すべきである

ことを示している。アメリカ合衆国の典型的な摂取量よりもずっと少ない塩摂取量を達成させるために総合的

な栄養を充足させることは容易で、低塩含有量食品を高塩食品選択の代わりに選ぶとき、3.8 g/d以下の塩摂取

量で達成させられる。

 

 高血圧と心血管疾患は両方とも重要な健康結果である。2010年のGlobal Burden of Disease Studyで、高血圧は世界中の罹患率と疾患調整寿命についての67件の研究の中で主要な危険因子であった。高血圧は合併された主要危険因子の第二(タバコ製品)と第三(急性呼吸器感染)よりも高い死亡率であった。これは血圧と心血管疾患、全集団の高い発症率と不十分な高血圧治療との強い危険な関係を反映している。心血管疾患はアメリカ合衆国と世界中の主要な死因である。2010年に、虚血性心疾患と脳卒中は世界中の死亡の約25(1,290万人と1990年以来25%の増加)を占め、虚血性心疾患と脳卒中は死亡率と年間の死亡数に対する主要で第三の最重要寄与疾患としてランク付けされた。

 

観察研究における塩摂取量、血圧、そして心血管疾患

 動物研究とヒトの関係移住研究、生態学的研究、そしてコホ-ト解析は全て塩摂取量と血圧との強いポジティブな関係を明らかにした。インターソルト・スタディは32ヶ国から10,079人の成人で‘黄金標準’である24時間尿中ナトリウム推定値の収集と注意深い血圧測定をする標準化されたプロトコールを採用し、幅広い塩摂取量範囲を提供した。重要でポジティブな関係が集団内と集団間解析の両方について塩摂取量と血圧との間で述べられた。参加者年齢20 – 39歳と40 – 59歳で24時間尿中ナトリウム排泄量の高い100 mmolレベルについて、集団解析は年齢、性、尿中カリウム排泄量、アルコール摂取量と体格指数、回帰希釈偏向についての修正後に、それぞれ1.8 4.6 mmHg高い収縮期血圧を明らかにした。集団間解析についての対応する差はそれぞれ1.97.0 mmHgで、塩摂取量の30年間で5.8gの差は収縮期血圧で10 mmHg以上の差と関係していた。早朝のスポット尿試料を採用し、あまり厳密な品質管理をしなかった大規模試料(n=102,216)の最近報告された研究は塩摂取量と血圧との簡易ついて幾分急勾配で同様の結果を報告した。インターソルト・スタディのように、塩摂取量と血圧との関係は若い参加者と比較して老人では大きかった。同様に、予想されるように、関係の勾配は低血圧者よりも高血圧者で急であった。

 観察研究の塩摂取量と血圧結果の一貫性と比較して、塩摂取量と心血管疾患(Na-CVD)との関係の観察的な解析からの結果はより異質的となった。Na-CVD研究は、Na-CVD関係を調べるために元々設計されていない研究の二次解析に基づいていた。多くは、不正確で潜在的に偏向のある塩摂取量推定値の使用、逆因果関係について高い可能性、関係の潜在的な混乱因子について調整する不十分な能力を含む重大な方法論的欠点を持っていた。アメリカ心臓協会の援助の下で行われた最近の31件のNa-CVD研究の総合的なレビューは最も一般的な結果(調査の42)として直接的でポジティブな関係を明らかにしたが、J字型曲線(6)、無関係(26)、そして逆関係(26)も頻繁にあった。事前に指定された標準化された方法を使うと、研究当たり平均3,4件の方法論的欠点が認められた。間違ったネガティブな結果を得る可能性の問題は研究の88%で述べられていた。関係の方向を変える実質的な可能性の問題は解析の96%で述べられており、研究の69%で述べられている関係を変える少ない可能性の問題も加わる。少数の研究(35)だけが黄金標準の24時間尿中ナトリウム排泄量に関する塩摂取量の推定値に基づいているが、これらの中で2(8)を除いた全ては一回の24時間尿収集を採用した。結果として、ほとんどは塩摂取量における既知の大きな日間変動を上手く取り扱う能力を欠いていた。最近報告されているNa収支研究は塩摂取量における驚くほどの日間変動量を明らかにした。Na-CVD関係を研究するために使われたコホ-ト研究の多くは高血圧患者、心不全、慢性腎臓疾患、冠状心疾患、糖尿病、そして他の疾患者を含んでおり、そこでは低塩摂取量はそれらの疾患の原因よりも結果である(逆因果関係)であるらしい。しばしば確実な塩摂取推定量は評価をゆがめる利尿剤や他の薬剤によってさらに大きくされた。大きな研究試料数を持ち異なった研究からの結果をプールすることはより正確な推定値を提供するが、不正確な塩摂取量推定値または逆因果関係からの偏向した結果を修正するために何もできない。しかし、これらのタイプの報告書は高い品質の小規模研究からの結果よりもより競合する結果を提供するとして不注意に解釈されるかもしれない。レビューした委員はNa-CVD関係の研究で観察されたデータの品質に関して重要な関心を繰り返し表明してきた。例えば、2012年のWHO Naガイドライン報告書は、Na-CVDの間には有意な直線関係が存在するが、GRADE方法論の使用は利用できる観察研究からのエビデンスの品質を‘非常に低い’として分類した。医学研究所委員会はNa-CVD関係の観察研究を‘方法論の品質、特に塩摂取量の評価で非常に不安定’として明らかにし、さらに次のように述べた。‘様々な集団グループの典型的な摂取量範囲の上下末端の両方で塩摂取量を決めるために使われる方法において研究間で一貫性がないことは、その結果と結論で高低摂取量についての数字的な決定を導き出せなかった。’

 アメリカ心臓協会、WHO、そして医学研究所の総合的なレビューが行われたとき、まだ発表されていない最近の2つの研究は前の解析のどれよりもずっと高い品質である。クックらは、試験の減塩構成要素を登録されていない高血圧予防試験の2,275人の参加者でNa-CVD関係を調べた。この解析の特別な確実さは次の事実を含んでいた。(1) 参加者は若く、健常で、降圧治療を受けていないことは逆因果関係をありそうになくする、(2) 注意深く集められた24時間尿試料3 – 7点の平均値が塩摂取量を推定するために利用できるが、塩摂取量推定で系統誤差とランダム誤差がありそうなことを消せない、(3) 塩摂取量の分布はアメリカ合衆国の全人口で述べられたものと同様であった、(4) 使われた塩摂取量の範疇はパブリックドメインの勧告値に基づいた、(5) 追跡は10 - 15年以上行われた、(6) CVDの結果は参加者の塩摂取量を知らされず、標準化された診断プロトコールを採用した委員会によって調査された。塩摂取量を3.8 g/dまで広げると、Na-CVD関係に明らかな直線関係の傾向があり、塩摂取量の増加5.8 g/dCVD危険率の17%増加と関係していた。

 

ランダム化比較試験における塩摂取量、血圧、心血管疾患

 ランダム化比較試験(RTC)は塩摂取量、血圧、心血管疾患との間の関係を調査するために最も確実な機会を提供する。メタアナリシスは減塩の血圧低下効果を繰り返し一貫して照明し、アフリカ系アメリカ人、普段の高い血者、老人で平均的な低下よりも大きかった。(1) 高血圧ではあるが他の疾患はない、(2) 4週間以上の期間、(3) 付随する介入はない、(4) 介入効果を照明している成人に限られたランダム化比較試験のメタアナリシスで、収縮期血圧の総合的な低下は約4mmHgで、脂質またはカテコラミン値で悪い効果のエビデンスはなかった。心血管疾患予防で減塩効果をテストするように明快に設計されたランダム化比較試験だけが、通常の塩摂取量と比較して減塩するように割り当てられたグループについて0.59と言う心血管疾患死亡ハザード比を報告した。さらに、著者らは入院患者の治療費低下と寿命の改善を報告した。しかし、解析はクラスター設計の使用については説明せず、介入はナトリウムの約50%をカリウムで置き換えた塩代替物の使用に基づいた。減塩で血圧低下させるランダム化比較試験のどれも心血管疾患に及ぼす効果を認めなかった。しかし、減塩に対してランダム化された老人の非薬物介入試験(TONE)の参加者は29ヶ月という中間追跡期間中に通常の治療と比較して有意でない23%の低い心血管疾患率を経験した。TOHPのフェーッズⅠとⅡは18ヶ月以上と3 – 4年の追跡で減塩をテストした。治験後の追跡延長の10 – 15年期間中に、心血管疾患発症で有意な30%低下と心血管疾患死亡の有意でない20%低下が通常の治療と比較して元々ランダム化された減塩者で述べられた。血圧低下ランダム化比較試験からの臨床的な発症経験のメタアナリシスはコントロール・グループと比較して減塩に割り当てられた人々で心血管疾患発症に有意な20%低下を明らかにした。心血管疾患発症率と死亡率に及ぼす減塩の効果を認めるために強化されたより決定的なランダム化比較試験からの経験で我々の現在の知識を補うことは理想的であるが、実行上と財政的な障害がこれを見込みのない展望とする。臨床的発症のランダム化比較試験は高危険率設定で治療の価値をテストするのに上手く適合するが、減塩、コレステロール低下、減量、運動量そして低い危険率設定で一般的に実行されない他の非薬物療介入のような予防戦略の評価のためには実際的ではない。臨床的な発症の予防のために減量の有効性をテストするように設計された伝統的な2群ランダム化比較試験は成人約30,000人の試料数で5年間の経験を要求する。

 

人口の塩摂取量推定値

 食事思出法と24時間尿収集に基づく推定値はアメリカ合衆国や世界中で高い平均塩摂取量を明らかにしている。2003 – 2008年のNHANESで塩摂取量の推定平均値は男子で10.2 mg/d、女子で6.4 mg/dであった。これらの値は24時間食事思い出しに基づいており、本当の塩摂取量より約25%低く評価された。そうであっても、2010年のアメリカ人の食事ガイドラインが5.8 g/d以下の塩摂取量を勧めた人々の95.2%と3.8 g/d以下を勧めた人々の98.8%は目標値を超えていた。5.1 g/d以上の塩摂取量は毎年世界中で165万人の心血管疾患による死亡を占めているらしいことをモデル研究は示唆している。わずかな減塩でも大きな健康利益をもたらすようである。アメリカ合衆国と他の諸国では、塩の大半は食品加工中に加えられた塩から来る。この‘計画されていない実験’は食品加工工程に深く根ざしている。アメリカ合衆国とカナダの調査は最近の数十年で食品製品やレストランの食事からの塩低減のエビデンスはほとんどか全くないことを示している。しかし、製造における自発的と政策に基づく強制的の両方による変化は意味のある減塩を得られない。総合的な十分な栄養はアメリカ合衆国の一般的な塩摂取量よりもずっと少ない塩摂取量で容易に達成され、高塩含有量の食品選択の代わりに低塩含有量食品が選ばれたとき、3.8 g/d以下の塩摂取量が達成される。