戻る

塩摂取行動評価における簡単な質問:

日本成人の尿中ナトリウム排泄量との比較

Simple Questions in Salt Behavior Assessment: Comparison with Urinary Sodium Excretion in Japanese Adults

By Ken Uechi, Keiko Asakura, Yuki Sasaki, Shizuko Masayasu, Satoshi Sasaki

Asia Pac J Clin Nutr 2017;26:769-780   2017.08.18

 

要約

背景と目的:塩含有量の多い食品の摂取頻度などの単純な推測によって捉えられた過剰な塩摂取量に対する6つの従来の「ハイリスク」行動が実際の塩摂取量に関連しているかどうかを明らかにする。また、栄養知識、食品表示の使用、および食品の準備と実際の塩摂取量との関係を調べる。

方法と設計:研究参加者は日本の20地域から2069歳の742人の被験者(男性370人と女性372)であった。塩摂取量と知識/行動は、それぞれ2回の24時間採尿と質問票で評価された。性別による多変量線形回帰分析には、従属変数としてのナトリウム排泄量、独立変数としての各知識/行動項目、および共変量としての年齢、体重指数、教育、および喫煙が含まれていた。

結果4つの「ハイリスク」行動(味噌汁と塩辛い食べ物の摂取頻度、消費されたヌードル・スープの割合、調味料の量/使用頻度)は、男性のナトリウム排泄量が多いことと関連しており、女性ではわずかに関連していた。これらの行動の組み合わせにより、過剰な塩摂取量のオッズ比が上昇した。他の9つの食事要因のほとんどはナトリウム排泄量とは関連していなかった。興味深いことに、食品表示の塩/ナトリウム含有量情報を参照して食品を購入することを決定した女性は、他の女性よりもナトリウム排泄量が有意に低かった。

結論:簡単な質問によって捉えられた過剰な塩摂取量を防ぐためのリスクの高い行動は、実際には過剰な塩摂取量に関連していた。これらの質問への回答に基づく具体的かつ実践的なアドバイスは日本人人口の塩摂取量削減に貢献する可能性がある。

 

はじめに

 塩摂取量の削減は高血圧および関連疾患を予防するための重要な公衆衛生戦略である。しかし、ほとんどの国の人口の塩摂取量は非感染性疾患を予防するために成人の1日当たりの塩摂取量として世界保健機関(WHO)が目標とする5 g/dを超えている。したがって、人口の塩摂取量を減らすための効果的な戦略を開発することを目的とした公衆衛生の取り組みが世界的に強く求められている。日本は、塩摂取量が最も多い国の1つとして知られている。日本北部の人口塩摂取量は1950年代に20 g/dを超えていたが、日本の国民栄養調査は、日本人の人口平均ナトリウム摂取量が減少していることを示し、2012年の人口平均ナトリウム摂取量は1所帯当たりの食事記録を使用した推定として、男性で4,239 mg/d、女性で3,658 mg/dであることを報告した。しかし、2013年に実施された全国的な調査では、24時間尿収集での推定値として男性と女性でそれぞれ206.0 mmol/d173 mmol/dのナトリウム排泄量が報告された。これらの結果は、日本人の実際のナトリウム摂取量が国民栄養調査で報告されたものよりも高く、その摂取量はインター・マップ研究(1990年代後半)およびインターソルト研究(1980年代半ば)の時から変わっていない可能性がある。

 日本人の塩摂取量のこの潜在的に変化しない傾向は、塩を摂取する方法によって保持される可能性がある。塩摂取の主な供給源は日本人の日常の食事に一般的に添加される醤油であったが、イギリスとアメリカでは加工食品(レストランの食事を含む)とパンガ主な供給源である。醤油などの塩辛い調味料は、一般的に消費される多くの調理済み食品に添加されているため、日本人は特定の塩辛い食べ物を摂取しないことで塩摂取量を制御するのが難しいと感じるかもしれない。減塩戦略にそって、健康の専門家達は根拠に基づいた教育として日本人の塩摂取量を減らすための効果的で実践的な食事行動を示す必要がある。実際に「薄味の食べ物を食べる」、「醤油などの塩辛い調味料を使わない」、「味噌汁や塩漬けなどの塩辛い物を食べ過ぎない」などが実用的なメッセージとして愛用されてきた。臨床および教育環境での塩摂取量を減らすために、さらに、これらのメッセージは質問になり、これらの設定で過剰な塩摂取量につながる食生活を簡単に把握するために一般的に使用されている。しかし、予期せぬことに、これらの従来の質問が実際に塩摂取量に関連しているかどうかを確認した研究はほとんどない。ここでは、ナトリウム摂取量を推定するための標準的な方法と考えられている24時間尿収集によって測定されたナトリウム排泄量とナトリウム摂取量に関連する食事知識/行動に関する簡単な質問の関係を調査した。また、過剰な塩摂取量のための教育ツールとして、これらの簡単な質問の潜在的な有用性について議論することも目的とした。

 

材料と方法

調査対象者

24時間尿収集

食事行動についてのアンケート

他の測定値

統計解析

 

結果

以上の章・節は省略。

 

考察

 塩摂取量と24時間尿中ナトリウム排泄量に関連する食事知識/行動の関係を調査した。塩辛い食べ物の消費頻度が高く、調味料使用頻度/使用量が高いほど、男性ではナトリウム排泄量が多く、時勢ではわずかに関連していた。これらの「高リスク」の食事行動は実際にはナトリウム摂取量が増えるにつれてリスクを高めた。これは136 mmol/dを超えるナトリウム排泄量によって定義された。塩含有量の多い食品や塩の過剰摂取量によって引き起こされる病気についての知識程度は、ナトリウム排泄量とは関連していなかった。女性参加者のわずか8%がしばしば/常に塩含有量に関する表示情報に基づいて特定の食品を購入するかどうかを決定し、これらの女性は他の女性よりもナトリウム排泄量が有意に低かった。我々の結果は塩摂取行動に関するこれらの質問は、健康専門家達が過剰な塩摂取量に関連する行動を簡単に評価するのに役立ち、これらの行動は減塩プログラムで使用するための良いターゲットになり得ることを示唆した。さらに、食品を購入するために食品表示に塩含有量情報を使用することは、日本の女性人口の減塩に対する知識と態度のマーカーとなる可能性がある。塩含有量に関する食品表示に基づく食品選択の奨励は、食事の知識、態度、および減少に対する行動を改善するための良い手段になる可能性がある。

 塩含有量の高い食品の摂取頻度と任意の調味料使用頻度/使用量の増加はナトリウム排泄量増加と関連しており、塩含有量の高い食品の摂取量を減らすための具体的な提案が塩摂取量を減らすのに役立つ可能性があることを示唆している。一方、したがって塩摂取量を減らすための努力は頻繁に消費される食品の塩含有量についての知識から始める必要がある。インター・マップ研究の調査によると、日本の塩摂取の主な供給源は醤油、塩漬け野菜、味噌汁、魚、その他のスープ、調理済みまたはレストランの食事に加えられた塩である。過剰な塩摂取量に関連する病気につては、男性でも女性でもナトリウム排泄量とは関連していなかった。考えられる理由の1つは、塩辛い食べ物についての知識の程度を評価知る質問は、単に被験者に彼等の知識については尋ねなかったと言うことであった。さらに、より良い知識と健康志向の行動取り除く関係は、塩味の好みによって変更される可能性がある。被験者は塩辛い食べ物についての知識を持っていたが、その知識を塩摂取量の低下法に関連付けることができなかった可能性もある。もしそうなら、特定の行動の推奨事項(例えば、「味噌汁の摂取量を減らす」または「食卓で醤油を使用しない」)が効果的である可能性がある。知識とナトリウム排泄量の関係は不明なままであるが、我々の結果は、減塩のための特定行動の提案が有用であり、日常食品の塩分に限定された食品教育よりも優れていることを示唆した。

 他方、食品表示の塩含有量情報を参考にした習慣的な食品選択は、女性のナトリウム排泄量の低下と関連しており、知識だけでなく態度もより良い行動をサポートすることで間接的に減塩に寄与する可能性があることを示唆している。この研究では、塩含有量の表示情報を使用して食品を購入することが多い/常にあるのは、男性の6%と女性の8%のみであった。この割合は他の国で報告されているよりも著しく低い。奥田らの研究によると、この表示使用率の低さは塩に対する実践的な知識/態度が不十分であり、減塩した結果である可能性がある。奥田らは、被験者は食品教育に興味を持っていたが、1,000 mgのナトリウムを正しい塩分に変換できるのは25.5%に過ぎないと報告した。日本では、加工食品の栄養表示は必須ではなく、表示にはナトリウム含有量を表示する必要がある。食品表示が提供されている場合でも、塩ではない。それにもかかわらず、食品表示の塩含有量情報を使用して食品を選択することが多い/常にある本研究の女性は、他の女性よりもナトリウム排泄量が少なかった。グリムズらが示したように、食事の塩を減らす意図がある被験者は、食品表示を見てから食品を購入する傾向がある。「塩分」削減の表示にある「ナトリウム」含有量に関する情報と、減塩に対する前向きな姿勢を確認するため、言い換えれば、塩/ナトリウム含有量の食品表示の使用に関する質問は、それらが減塩のための十分な実践的知識/態度を持っているかどうかを簡単に評価するのに役立つかもしれない。さらに、これらの実践的な知識と態度が男性よりも女性の方が大きければ、女性の減塩を促進することは、彼等と同居している男性と子供達の塩摂取量を減らす可能性がある。女性は家族のために食事を準備して調理する役割を担うことが多く、他の家族も減させたり、低塩摂取量を維持できるかもしれない。

 我々の結果は、塩摂取量の自己報告頻度とスポット尿法で推定された毎日のナトリウム排泄量との間に正の関係を示した日本の以前の研究と一致している。多くの研究が塩摂取量に関する知識、態度、行動を調査した。しかし、ランドらが行った研究では、24時間尿収集で測定した塩摂取量を使用してこれらの関係を評価しただけであった。塩摂取量に関する知識の程度はナトリウム排泄量と関連していなかったため、我々の結果は彼等の結果と一致していた。

 我々の結果には幾つかの長所があった。先ず、24時間尿中ナトリウム排泄量を2回測定することにより、塩摂取量を個別に評価した。2回の採尿でナトリウム排泄量の個人内変動が補正されたため、この研究の「ナトリウム排泄量」の値は。1回の採尿を使用した研究よりも正確に習慣的な摂取量を反映していた。調査は冬期に実施されたため、発汗によるナトリウム損失は最小限に抑えられた可能性があり、ナトリウム排泄量の測定精度を高めるのに役立った可能性がある。第二に、試料サイズは24時間尿収集を使用した同様の研究と比較して大きかった。質問には分析のための十分な参加者が含まれていたので、食事行動の違いとナトリウム排泄量との関連を詳細に調査することができた。最後に、同数の男性と女性が幅広い年齢層(20代から60)と調査地域(日本の47都道府県のうち23都道府県)から採用された。したがって、我々の研究結果は、日本の成人集団の減塩戦略の開発に広く役立つ可能性がある。

 我々の研究の幾つかの制限も言及する必要がある。第一に、募集は日本人集団の無作為抽出によるものではなかった。研究プロトコールには2回の24時間尿収集が含まれていたが、応答効率は高かった(86.7)。これは我々の調査集団が一般集団よりも協力的で健康志向であった可能性を示唆した。それにもかかわらず、我々の研究対象集団は、以前の研究で述べたように、第二に日本の代表的な集団と同様の特徴を持っていた。これは、ナトリウム排泄量の過少評価または過大評価を引き起こした可能性がある。それにもかかわらず、彼等は福祉施設で働くのに十分健康であった。さらに、ナトリウム排泄量の測定値は、合併症のある被験者や薬を服用している被験者を除外しても一貫性があった。第三に、横断的研究の性質上、食事の知識/行動とナトリウム排泄量との間に十分な因果関係を検出できなかった。ナトリウム摂取量が多い被験者は高血圧に苦しむ傾向があり、それに応じてナトリウム摂取量についてより多くの栄養教育を受ける可能性がある。もしそうであれば、ナトリウム摂取量が多い被験者は、ナトリウムや他の栄養素についてより多くの知識を持っているだろう。したがって、逆因果関係があったとしても、本研究で観察された関係は確かに存在していたと言っても過言ではない。第四に、塩に関する食事の知識と行動を評価するための一般的な方法はない。したがって、他の研究取り除く比較を可能にするために、以前の研究からの質問と検証済みの食事履歴質問票の一部を採用した。質問票の妥当性が確認されていないこと、最後に、以前の幾つかの研究に従って交絡因子を際よしたにもかかわらず、この研究で考慮されなかった他の潜在的な交絡因子の可能性を否定することはできない。

 結論として、従来の簡単な質問によって捉えられた過剰な塩摂取量に対するリスクの高い行動は、実際には過剰な塩摂取量に関連していた。これらの質問に対する回答に基づく具体的かつ実践的なアドバイスは、日本人人口の減塩に貢献する可能性がある。日本と同様の食文化を持つ他のアジア諸国におけるこのアプローチの可能性を検討する必要がある。一方、この研究で使用された質問票には、食事環境、行動、および態度が塩摂取量に与える影響を評価するのに十分な数または種類の質問が含まれていなかった。より包括的な教育への未発見の視点にさらに光を当てることができる。