戻る
                          レビュー論文

減塩:割引して考える

Dietary Salt Restriction: Take It with a Grain of Salt

By James J. DiNicolantonio, Asfandyar K. Niazi, Rizwana Sadaf, James H. Keefe, Sean C. Lucan, Carl J. Lavie

The American Journal of Medicine 2013;126:951-955 

 

要約

 アメリカ心臓協会は2020年までに“理想的な心血管健康”を達成するために全てのアメリカ人に3.8 g/d以下の塩摂取量を最近強く勧めた。しかし、低塩摂取量は正常血圧者または前高血圧者または高血圧者で心血管疾患を低下させることを示してこなかった。さらに、低塩摂取量は心臓代謝の危険性を持った患者と心血管疾患になっている患者で悪い心血管疾患予測をもたらすかもしれないエビデンスがある。低塩摂取量はインスリン抵抗性、血清脂質、神経ホルモン経路に悪い影響を及ぼすかもしれず、そのことは新しい心血管疾患の発症、既往の心臓代謝疾患の重症化、そしてより大きな心血管疾患と全ての死因の増加をもたらす。高塩摂取量も心身に有害であるかもしれないけれども、塩摂取量が厳密な生理学的範囲内で制御されていることを信ずる良い理由があり、その範囲では、意識的に管理するもっともらしい無駄な試みに反するように塩摂取量を生来の生態にしておく危険率はほとんどない。

 

 栄養政策促進センターによるガイドラインは全員に5.8 g/d以下の塩摂取量と心血管疾患の大きな危険率を持った人々(例えば、50歳以上の人々、アフリカ系アメリカ人、高血圧者、二型糖尿病患者、慢性腎臓疾患患者)では3.8 g/d以下の塩摂取量を勧めている。アメリカ心臓協会は2020年までに“理想的な心血管健康”を達成するための目標を最近強調し、食事目標の一つは3.8 g/d以下の塩摂取量である。

 心血管疾患発症率や心血管疾患死亡率および全ての死因に及ぼす可能性のある利益効果に関するエビデンスはたいてい間接的である。“低塩食”をテストした研究のほとんどは24時間食事思出法、食事アンケート、尿中ナトリウム排泄量のような塩摂取量を検出するための代わりとなる指標を使っている。さらに、低塩食をテストしたほとんどの試験は減塩勧告を提供しており、塩摂取量を減らした差を付けるだけで正確に同じ食事に対してランダム化していない。

 結果側に立つと、心血管に関連した結果に関する塩摂取量の効果についてのほとんどのエビデンスは血圧に関係している。減塩は血圧を下げることを支持する合理的なデータはあるけれども、効果は血圧に逆説的な上昇をもたらす人々がいることで、効果は一時的か矛盾している。血圧低下の程度は平均して正常血圧者で約2 mmHg、高血圧者で約4 mmHgで臨床的に取るに足らないかもしれない。結局、減塩はレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を活性化させ、カテコラミンを増加させ、インシュリンや脂質に逆効果をもたらすと言う逆効果も持っている。代わりとなる何らかの指標の低下が集団の疾患率や死亡率の低下をもたらすかどうかはこれらの代用指標とは無関係に確立される必要があり、そのようなエビデンスはほとんどない。

 決定的な位置に達することはさらに複雑で、低塩食を支持するエビデンスの大部分は観察研究や非ランダム化された試験から得られているからである。ランダム化された研究の中で、多くの研究は短期間について塩摂取量の大きな低下、または長期間について塩摂取量の小さな低下を評価した。これらの両研究設計は実際の生活状況に直接的に適応できない状況を表している。

 本レビューは低塩食のデータを批判的に解析している。それは血圧のような代わりとなる指標や二型糖尿病のような他の危険因子で始め、その後、心血管疾患罹患率や心血管疾患死亡率や総合的な死亡率のような臨床結果に移動した。

 

臨床上の重要性

  減塩の心血管利益に関してデータは結論を出せない。

  減塩の勧めはほとんどの患者に役立つ訳ではなく、何らかの有害性があるかもしれない。

  低塩食は糖尿病または心不全患者に悪い臨床結果をもたらすかもしれない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

代替え指標

塩と血圧

 低塩摂取量が低い血圧をもたらすと言う考えを支持する多くは高血圧予防食(DASH)研究から来ている。この研究は412人の参加者を登録して彼らをコントロール食またはDASH食を食べるようにランダムに割り当てた。両グループで、参加者は連続30日間高塩食(8.8 g/d)、通常塩食(5.8 g/d)、低塩食(2.9 g/d)にランダムに割り当てられ、その後、割り当てられたグループ内で交絡させられた。参加者が高塩食から通常食へ変わった時、コントロール食グループで2.1 mmHg(P<0.01)DASH食グループで1.3 mmHg(P=0.03)の収縮期血圧低下があった。彼等が通常食から低塩食へ変わった時、コントロール食グループで4.6 mmHg(P,0.001)DASH食グループで1.7 mmHg(P<0.01)と言うさらなる収縮期血圧低下があった。コントロールと比較すると、DASH食は正常血圧者で7.1 mmHg、高血圧者で11.5 mmHgの収縮期血圧低下をもたらした。しかし、DASH食は果物、野菜、低脂肪乳製品、全穀粒、家禽、魚、ナッツ、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維、タンパク質をより多く食べ、赤肉、スィーツ、糖分を含む飲料、総脂肪と飽和脂肪、コレステロールを少なく食べることでコントロール食からかなり異なっていた。DASH食グループは尿中ナトリウム排泄量が低かったが、利益が減塩によってだけ得られたことを必ずしも説明していない。さらに、研究は介入の長期間効果や罹患率や死亡率のような臨床的な関連変数を評価しなかった。

塩と二型糖尿病

 二型糖尿病患者では、低塩食は心血管疾患死亡や全死因の増加と関係している。中程度の減塩でも交感神経系とレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系、そしてインスリン抵抗性の活性を増加させるかもしれない。

 コホート研究は9.9年間ずっと治療してきた638人の糖尿病患者を登録した。彼等の日常尿中ナトリウム排泄量は184±73 mmol/24hで、その値は研究期間中いつも維持された。尿中ナトリウム排泄量は全死因死亡率(P<0.001)、心血管疾患罹患率(サブハザード比0.65;信頼区間0.44 – 0.95; P=0.03)と逆相関していた。尿中ナトリウム排泄量の100 mmol増加毎に28%と言う全死因死亡率の低下をもたらした。この研究は、二型糖尿病が広く発症したので、二型糖尿病患者だけでなく全員にも広げて低塩食に対する可能性のある禁忌を説明している。これは疑問をもたらし、全員(二型糖尿病患者も含む)に低塩食を勧める現在の食事ガイドラインは適正か?これらのデータの限界である指標は、結果が塩摂取量を変えただけで、尿中ナトリウム排泄量対理想的な食事を食べている患者のランダム化比較試験を調べたコホート研究に基づいている。

患者主導の結果:罹患率と死亡率

 鬱血性心不全は腎灌流を減らし、交感神経系とレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を活性化する様々なプロセスによって特徴付けられる。これはナトリウムと比較して水の優先的な貯留をもたらし、低ナトリウム症を引き起こす。減塩はこれらのプロセスをさらに悪化させ、したがって低ナトリウム血症を発症させる。

 研究は鬱血性心不全患者410人を登録し、彼等を6ヶ月間追跡してこれらの患者に利尿剤を投与して低塩食と比較した。これらの患者は8グループに分けられた:水1リットルを飲み、120 mmol/dと一日2250 mgの利尿剤を飲むグループA;水1リットルを飲み、120 mmol/dと一日2125 mgの利尿剤を飲むグループB;水1リットルを飲み、80 mmol/dと一日2250 mgの利尿剤を飲むグループC;水1リットルを飲み、80 mmol/dと一日2125 mgの利尿剤を飲むグループD;水2リットルを飲み、120 mmol/dと一日2250 mgの利尿剤を飲むグループE;水2リットルを飲み、120 mmol/dと一日2125 mgの利尿剤を飲むグループF;水2リットルを飲み、80 mmol/dと一日2250 mgの利尿剤を飲むグループG;そして水2リットルを飲み、80 mmol/dと中止後30日間以上とその後180日間一日2125 mgの利尿剤を飲むグループHである。グループAは他のグループと比較して再入院、脳ナトリウム利尿ペプチド、アルドステロン、そして血漿レニン活性に統計的に有意な最大の低下を示した(P<0.001)。したがって、通常塩食(7.1 g/d)と高い利尿剤投与(一日2250 mg)は低塩食(4.6 g/d)と低利尿剤投与(一日2125 mg)に反して最高の結果を得た。

 低塩食は収縮期心不全患者の通常塩食に対して死亡率と心不全入院の増加の原因となった。これらの結果は収縮期心不全患者による多数のランダム化比較試験の全てで証明されてきた。これらの発見はネズミで行われた研究に基づいて部分的に説明される。レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系はアテローム発生で中心的な役割を持っており、塩摂取量はこの系を制御することで重要な役割を演じていることが示されてきた。ラットによる研究は通常塩摂取量食と比較して低塩食でプラク生成に4倍の増加を示し、この効果はアンジオテンシン転換酵素阻止剤の使用によって阻止される。そのことは、効果がレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系によって媒介されることを示唆している。高塩摂取量食で観察される効果は血管の炎症とアテローム発生を減らし、収縮期血圧で中程度の増加(5±1 mmHg)をもたらした。ネズミで得られたこれらのデータは塩摂取量と死亡率との逆相関を説明しているかもしれない。

 塩摂取量と心血管健康とを関係させたデータの大多数は血圧に及ぼす塩摂取量の効果に基づいている。国民健康・栄養試験調査(NHANES)のⅠからⅢまでの3件の疫学研究からのデータは塩摂取量と心臓血管疾患死亡の関係を調査するために解析された。NHANESⅠはインタビューと調査を通して20,729人からの情報を得て、それらをインタビュー、追跡、致命的な疾患登録を使って追跡した。塩摂取量と全死因死亡率および心臓血管疾患死亡との間に逆相関が見られた。さらに、塩摂取量は全死因死亡率および心臓血管疾患死亡との関係で逆相関があった。NHANESⅡは7,154人の同じ集団で13.7年間追跡し、同様の結果を得た。カロリーとナトリウム/カロリー比について調整された塩摂取量は心血管疾患死亡と全死因死亡率とに独立的に両方とも逆相関であった。しかし、これらの結果は55歳以上の参加者、肥満者、非白人参加者について真実ではなかった。NHANESⅢは8,699人に基づくコホート研究で、彼等は全ての死因の結果と心臓血管疾患死亡について国民の生命にかかわる登録を使って追跡された。塩摂取量と心臓血管疾患死亡との間の逆相関が示された。さらに、心臓血管疾患死亡および全死因死亡率と連続塩摂取量の逆相関はそれぞれ0.73から1.0699%信頼区間と0.86から1.0499%信頼区間で観察された。これらの結果は低塩食で何らかの潜在的な生き残りうる利益に疑問を呈し、集団全体の減塩に注意を喚起している。

 逆に幾つかの研究は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)の機能クラス状態に基づく高塩食で低い死亡率と高い死亡率を示唆した。302人の患者による観察研究は、7.6 g/d以上の尿中ナトリウム排泄量の患者はNYHA機能クラスのⅠ/Ⅱ鬱血性心不全について心臓血管疾患の危険率低下を示したが、7.6 g/d以下の尿中ナトリウム排泄量と比較してNYHA機能クラスⅢ/Ⅳ鬱血性心不全については危険率増加を示した。この研究は観察研究で、通常塩摂取量食の利益を示すランダム化比較試験と対比して、塩摂取量測定として尿中ナトリウム排泄量を使った。それは通常塩摂取量者については合理的な代替指標であるかもしれないが、重症の腎臓排泄不全者である鬱血性心不全患者については代替指標ではない。

 28,880人の患者を含む2件のコホート研究の大規模な観察解析は心臓血管疾患の発症率に関するナトリウムとカリウムの効果を調査するために行われた。最初の混成結果測定は心血管原因、心筋梗塞、脳卒中、鬱血性心不全で入院に関連した死亡であった。24時間尿中ナトリウム排泄量の平均推定基準値と標準偏差は参考グループで4.77 gとそれぞれ4 – 5.99 gであった。患者は平均56ヶ月間追跡され、その間に最初の結果は4,729(16.4)で観察され、その内2,057人は心血管疾患死亡、1,412人は心筋梗塞患者、1,282人は脳卒中患者、1,213人は鬱血性心不全で入院患者であった。コントロール食グループでは、6.3%の心血管疾患死亡の発生、4.6%の心筋梗塞、4.2%の脳卒中、3.8%の鬱血性心不全で入院患者の死亡があった。コホ-トでは、高い尿中ナトリウム排泄量と低い尿中ナトリウム排泄量は心臓血管疾患死亡の増加と関係していた。高い基準尿中ナトリウム排泄量は心臓血管疾患死亡、心筋梗塞死亡、脳卒中死亡、鬱血性心不全で入院死亡と統計的に有意に関係していた。同様に、低い尿中ナトリウム排泄量も心血管疾患死亡と鬱血性心不全で入院死亡の危険率増加と統計的に有意に相関していた。このコホート研究は塩摂取量と心血管危険因子との間でJ字型関係を示唆し、したがって、高塩摂取量と低塩摂取量は心血管疾患結果と逆相関しているかもしれない。さらに、最低の心血管疾患率は中程度の塩摂取量グループ(10.2 – 15.2 g/d)と高カリウム摂取量グループ(3 g/d以上)で生じた。したがって、高カリウム摂取量に加えて通常塩食(10.2 – 15.2 g/d)は全集団について一番良いかもしれない。

 高血圧予防試験(TOHP)フェーズⅠとⅡはそれぞれ2,182人と2,382人の患者を登録した2件の大規模ランダム化比較試験であった。TOHPⅠで、患者は3つの介入にランダムに分けられた。その1つは低塩食であった;しかし、低塩食とコントロール食グループは正確に同じ食事を与えられなかった。44 mmol/24hの尿中ナトリウム排泄量で測定された低ナトリウム摂取量は拡張期血圧を0.9 mmHg、収縮期血圧を1.7 mmHg下げられるが、尿中ナトリウムを下げる食事のためではなく、低いナトリウム含有量にする必要性はなかったかもしれない。TOPHⅡでは、テストグループで減塩のためにカウンセリングが行われた。調査期間中、尿中ナトリウム排泄量は6ヶ月と36ケ月でそれぞれ50 mmol/d40 mmol/d低下した。尿中ナトリウム排泄量のこの低下は介入グループで2.9/1.6 mmHgの低下と関係していた。しかし、この研究はコントロール・グループと違って介入グループを取り扱った。そのグループは同じ食事ではなく、介入グループは食事で減塩するように勧められた。さらに、介入グループはスパイスを増やすように勧められた。スパイスだけでも心血管利益を持っているかもしれない。したがって、減塩は、結果が減塩のためではないことを必ずしも示さなかった。

 

心血管健康に関連した他の意図しない結果

 167研究に基づくコクラン・レビューは、白人正常血圧者の低塩食は拡張期血圧には有意な低下はなかった(-0.05 mmHg)が、収縮期血圧で僅かな低下(-1.27 mmHg)をもたらしたことを示した。しかし、低塩食はレニン、アルドステロン、ノルアドレナリン、アドレナリンそしてトリグリセライドの上昇を引き起こした。このメタアナリシスは、わずか2週間でデータ品質についての測定値を良く選別しない研究を含んでいた。塩摂取量の急速な低下を伴った試験を含めることは、その長期間効果を十分に解明していないかもしれない。この事実にもかかわらず、減塩の潜在的な有害効果は、特に一般的に血圧に有意な低下をもたらさなかった人々(白人の正常血圧者とアジア人)で減塩の利益より重要であるかもしれない。

 低塩食の一貫した効力がなく潜在的な害があることで、低塩食への世界的な普及のような費用効果は疑問である。ヨード摂取の主要源は塩からである。したがって、低塩食は甲状腺疾患の悪化をもたらすかもしれない。塩はまた食事に美味しさを与え、数多くの抗菌効果を持っている。少なくとも理論的に、食品中の塩の量を減らすと、食品に起因する感染が増加する可能性がある。

 低塩食は公衆保健展望から逆効果でさえあるかもしれない。悪化させる可能性に加えて、エビデンスでより強い根拠を持っている他のよりやりがいのあるプログラムからの努力をそらしているかもしれない。再びここで、低塩食が心血管疾患で生き延びているラットを悪化させるかもしれない可能性が関心事である。アメリカ心臓協会が全てのアメリカ人に3.8 g/d以下の塩摂取量を勧めると言う極端な介入によるあり得る集団全体の効果は罹患率と死亡率に及ぼす潜在的にネガティブな結果をもたらすことが期待される。

 例え低塩食を勧める価値があっても、それは生理学的に可能か?低塩食は利益があるかもしれないとしても、複雑な神経ホルモンのホメオスタシス機構のため、ヒトの塩摂取量を修正することは出来ないと述べているエビデンスがある。これが全集団に潜在的に逆効果のある減塩に焦点を置く公衆保健プログラムを作成している。塩摂取量が生理学的に決定されるかどうかはまだ分からない。生理学的に最適摂取量範囲で決定されるのであれば、如何なる塩摂取量に対する修正も危険であるかもしれない。

 

結論

 低塩食が正常血圧者と前高血圧者または高血圧者で心血管疾患を減らすと言う確定的なエビデンスはない。対照的に、低塩食は収縮期血圧鬱血性心不全または二型糖尿病患者で悪い心血管疾患予後をもたらすと言う実質的なエビデンスがある。減塩にはインスリン抵抗性に逆効果があるので、世界中の減塩は二型糖尿病の罹患率増加をもたらすかもしれない。潜在的に移動することによって、低塩含有量の製品を製造する食品産業界は加工食品の消費量増加とメタボリック症候群の発症増加をもたらす。減塩を試みることで他の悪い効果もある可能性があり、一方、低塩食自身は生来の生理学的な制御のために、不可能であるかもしれない。低塩食を勧めることはミスガイドで潜在的に危険であるように思え、代替え測定値を使った欠陥のある研究に基づくガイドラインの問題を示している。