戻る

塩戦争の歴史

The History of the Salt Wars

By James J. DiNicolantonio and James H. O’Keefe

                          The American Journal of Medicine 2017;130:1011-1014                         

 

要旨

 “塩-血圧仮説”は、塩摂取量の増加が血圧上昇とその後の心血管疾患危険率増加に導き、そのことは数十年間の論争点であったことを述べている。本論文は、ヨーロッパとアメリカ合衆国の両方で1900年代の最初の50年間に“塩戦争”に関係していた何人かの鍵となるプレーヤーと歴史を扱う。高血圧者で減塩利益を見出した初期の研究は条件が整理されていない事例報告に基づいていた。1900年代の最初の50年間における総合的なエビデンスは、低塩食が高血圧治療の合理的な戦略ではなかったことを示唆している。

 

 1800年代の後期に、塩は水貯留、浮腫、腎臓疾患の原因として悪者にされていなかった。事実、減塩はこれらの状態のいくつかを引き起こすと実際に考えられていた。1885年にブランシェが発表した論文によると、塩欠乏は極端な虚弱、貧血、アルブミン尿そして浮腫を起こし、早くも1909年に、塩欠乏による熱痙攣と筋肉痙攣は十分に認識されていた症状であった。減塩の別の側の効果は、めまい、頭痛、無感動、食欲不振、吐き気、筋肉の弱い痙攣、腹部痙攣、そして乏尿症を含んでいた。もっと厳しい副作用は血管虚脱、手足の冷え、そして血圧の大きな低下(低血圧)であった。

 1899年にカリオンとハリオンは、体内の過剰な塩は体の組織から水を引き出し血液量を増加させることを最初に示唆した。この理論は1901年にアチャードによってまもなく支持された。彼は、ブライトの疾患(慢性腎臓疾患)におる浮腫は、保持されている過剰の塩を薄めるために過剰に水を貯留させることにより起こることを示唆した。その後、アチャードは、塩は熱病、心不全、そして腎炎(腎臓の炎症)でも保持されることを確認するに至った。病状によって引き起こされる水貯留よりもむしろ塩貯留が数多くの疾患の原因であることがこのように主張された。これが塩についての実質的に終わりの始まりであった。塩は最も重要な2つのミネラル(ナトリウムと塩化物)を提供する健康に良い自然物質ではなく、むしろ食べると血圧を上昇させる悪魔と考えられている。

 1903年にワイダルと1904年にストラウスは浮腫の治療として低塩食を最初にテストした。食事に塩を加えて“末端浮腫、肺浮腫、大脳浮腫”を述べ、一方、塩摂取量を制限し“しばしば比較的急速に浮腫が消えた”ことを述べている。ワイダルによると、“ブライトの疾患のいくつかの事例で…塩は食事の危険な物質である”;そしてワイダルとアーチャードの両者は、塩貯留は心臓と腎臓の浮腫を引き起こすと言う考えについて是認を主張した。

 1904年にアンバードとボジャードと名乗る二人のフランス人科学者が、塩貯留は浮腫と高血圧の推進要因である考えをさらに促進させた。これらの著者は塩—高血圧仮説を信じ、突然に塩戦争を始めた最初の科学者であった。しかし、当時に圧倒的な矛盾があった。つまり“…一般的なドイツ人の経験は塩貯留と血圧上昇との厳密な関係に反対した。”1907年にローエンスタインは、腎臓高血圧患者で塩貯留と血圧との関係を示すことはできなかった、つまり“血圧低下と体から塩を排除した時の決定的な関係”を示したのは10件の内わずか1件だけであった。

 この時期、アンバードとボジャードは高血圧患者で減塩をテストし、高血圧患者で塩貯留を明らかにした。彼等は3 g/dと言う塩摂取量の低塩食を食べさせた6人の高血圧患者を調査し、14 g/dと言う高塩食の患者と比較した。通常塩摂取量食と比較して(14.7 g/d8.6 g/d)2倍の塩摂取量であるにもかかわらず、“血圧変化は起こらなかったが、低塩食が与えられた時には低下し、高塩食が与えられた時には上昇する傾向であった。”

 アンバードとボジャードは、浮腫と高血圧は両方とも体に塩が満ちていることによって引き起こされると信じていたが、これらの著者達でも減塩が高血圧者の血圧を完全に正常化できなかったことを理解していた。しかし、減塩が永続する重症の高血圧に進展していくことから腎臓疾患者を防ぐと言う考えは論理的な常識を作った。その後まもなく、ローファーは、アンバードとボジャードが勧めた低塩食と比較してもっと低い食事を提案してきた。食事は0.25 – 1.83 gの塩しか含んでいないが、十分なカロリー量とタンパク質を提供していた。ローファーの食事は米200 g、小麦粉300 g、ポテト500 g、白いチーズ100 g、砂糖100 g、水1リットルであった。この食事は40年後にウォルター・ケンプナーが勧めた食事に非常に似ていた。しかし、“低塩ライス食”はローファーによって1904年に実際に最初に創作された(ウォルター・ケンプナーのライス食より40年前)。興味深いことに、両食事はかなり高い量の砂糖を含んでいた。当時に遡ると、砂糖は無害と考えられていた。しかし、エビデンスはついに砂糖の害に光を当て始めている。我々はずっと悪い白い結晶を非難し始めたのかもしれないことを示唆している。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

臨床的な重要性

  高血圧患者の減塩利益を明らかにした初期の研究は、条件が整理されていない事例報告に基づいていた。

  上手く設計された比較試験からの結果は、低塩食の結果は高血圧者のわずかに約25%に有効であったことを示した。

  1900年代の最初の50年間の総合的なエビデンスは、低塩食が高血圧治療のために合理的な戦略ではなかったことを示唆している。

  この期間中、低塩食は多くの臨床家によってまずいと考えられ、重要な悪い結果に導くことを明らかにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 1909年に、ブラムは、 (塩化物よりもむしろ) ナトリウムが水貯留を引き起こすことを始めて示唆し、1921年に、アウベルとハウスネットと共にブラムは水貯留に及ぼすナトリウムとカリウムの効果を研究し、次のように結論を下した。“したがって主要な元素はナトリウムで、;それは腎臓が除去するのに難しいミネラルである。体重増加を決定するのはナトリウムの貯留である。ナトリウム除去は体重減少になる…塩化物についてのように、塩化物の役割はナトリウムの役割に次ぐものである。”

 1920年にマグナス‐レビーは腎臓疾患患者の水貯留におけるナトリウムの重要性を実験的に証明した最初の人と考えられた。塩戦争が行われ、1920年代を通して、ナトリウムまたは塩化物の欠乏が高血圧治療として重要であるかどうかを多くの著者らが論争し続けた。

 アメリカ合衆国では、ミーラによって1918年まで減塩は高血圧治療に勧められなかった。彼は“高血圧患者の調味料として塩の使用を勧めなかった。”1920年代初期に、アレンらは高血圧の可能性のある治療法として減塩に関心を持たせるために最も大きな影響を及ぼした。彼等の発表は、アメリカを“塩戦争”に導いた発端であった。アレンは次のように述べた。“…高血圧治療における減塩の最も率直な推進者の一人である。”アレンとシェリルの事例報告によると、本態性高血圧患者の約60%が減塩による臨床的に関連した利益を持っていた。しかし、同時にマクレスター、ストロウス、オハレとウォルカー、そしてモーセンタールとショートは“高血圧治療における減塩の有効性に疑いを投じた。”これらの結果は低塩食を勧めることから明らかにアレンを思い止まらせなかった。彼が“徹底的に積極的な方法で減塩を擁護し続けた”からである。

 アレンとシェリルは低塩食が食欲不振、疲労(エネルギー欠乏)、そして乏尿症のような悪い症状を引き起こしたいくつかの事例を記録し、これらの副作用を実際に治療するために塩溶液を与えることまで述べた。ギボンズとチャップマンは次のように述べた。“‘高血圧の無塩治療で死ぬことを誰も知らない’と言うアレンの声明は…ソロフとザッチニが多分承認されていない塩枯渇のために4人の死亡を報告した時、減塩の有効性を最近否定した。”さらに、減塩の有効性を最初に発見した初期の研究は予備治療で比較観察を欠いていた。ランダム化比較試験はなく、むしろ主に入院患者による事例報告だけで、入院中の行動はこれらの研究で減塩による血圧低下の“利益”の多くを提供していると考えられた。したがって、これらの研究の多くは減塩でかなりの血圧低下を報告したが、1929年のバーガーとファインベルグが行った“より重要な研究”は、低塩食にあまり効果がないことを示した。これらの著者らは (ランダムな血圧低下を避けるために) 6 – 4日間の前処理コントロール期間を施した11人の本態性高血圧患者でいろいろな塩摂取量をテストした。低塩食(1g/d以下の塩を含む)27%の患者だけに収縮期血圧低下を示し、“高塩摂取量を研究したとき、血圧に及ぼす一定の効果は観察されなかった。”したがって、コントロール期間がもっと十分であれば、低塩食は前に報告されたことと比較した効果として半分以下であった。

 1930年までにアメリカ医学協会誌はこの期間の論争を要約して、“…有害なのはナトリウムか塩化物のどちらかと言う知識がないため”塩代替物の使用に反対を勧めた。その同じ年に、減塩は尿毒症のような重要な悪い結果に導くことをストロウスは述べた。

 他の研究者達は減塩や人気を失った高血圧治療法として低塩食による印象的でない結果を報告し続けた。事実、“1944年までに、減塩に関して発表されたコメントはアメリカの医学文献から全て消えていた。”すなわち、1944年にウォルター・ケンプナーが医学文献で彼のライス・ダイエットについて発表し始めるまで:“高血圧の減塩治療についてアメリカ合衆国で減塩は第二の熱狂の大きな頂点を刺激した。”

 低塩ケンプナー時代は20年前のアレンとシェリル時代に起こったことのほとんど正確な複製であった。この時代を除いて、減塩はもっと大きな規模で、多くの患者がテストされた(ケンプナーは500事例を報告した)。さらに、この時代を反映した発表はケンプナーのライス・ダイエットの有益性をしきりに報告した。彼の前のアレンのようなケンプナーは、酷使された腎臓が高血圧を引き起こし、減塩が高血圧を予防する腎臓の働きを軽減させると信じた。この考えは多くの医者によって今日でもまだ広く支持されている。ケンプナーについて書いたギボンズとチャップマンは次のように述べた。“何らかの理由で十分な酸素を受けていないヒトの腎臓組織は血液中に血圧を上昇させる物質を放出する可能性は全てのタイプの高血圧を発症させる工程として決して確立されていないが、著者らの原理が変わるのはこの可能性に基づいている。”“ケンプナーが提供した実験的なエビデンスの強さに基づくそのような意見の受け入れは不可能である。”言い換えれば、ケンプナーが信じていることは科学文献によって支持されなかった。

 1948年に、ゴールドリングは高血圧患者で減塩による有効性を血圧で示さなかったので、高血圧治療として減塩に反対した。再び、低塩食は悪い効果を引き起こすことが分かった:この度は腎臓への血流を減らし、濾過速度を低下し、腎臓虚血の危険性を増加させた。さらに、ライス・ダイエット(ナトリウムとタンパク質が少ない)を食べた5人の患者は30 g/dの塩を与えた時、彼等の腎臓濾過速度は回復した。

 ペレラとブロッドは“正常血圧患者は…塩を否定したとき、関係なくなり、危険な症状にもなると述べた。”論争にもかかわらず、ほとんどの人は、ライス・ダイエットが高血圧治療に効いていると信じ;そしてこのことは幾分、低塩食が高血圧治療に有効であると言う考えに移ってきた。しかし、より良い前処理のコントロール期間を確実にしたシュローダーがライス・ダイエットをテストした時、減塩の利益はあまり好ましくなかった。ケンプナーが報告した64%と比較して41%だけが低塩食でかなりの血圧低下を明らかにした。

 シュローダーのように他の人々は、ケンプナーが報告したことと比較したライス・ダイエットによる効果をほとんど見出せなかった。シュワルツは追加的な上手くコントロールされた臨床研究を行い、ケンプナーのライス・ダイエットだけが14人の高血圧患者で4人だけ(29)に有効であることを明らかにし;そしてチャシスらは12人の高血圧患者で実質的に食事の有効性を報告しなかった。これらの著者も、腎機能を改善する代わりに、食事は実際に腎機能を傷つけたことを示唆した。最後に、ルーフボウローらは、ケンプナーのライス・ダイエットだけが高血圧患者の19%に有効であった。したがって、ケンプナーのライス・ダイエットは、他の人々でテストされた時、最初に報告された効果の半分以下であった。

 興味深いことに、ケンプナーによるとまさに高血圧の原因(すなわち、腎臓への酸素欠乏)は低塩食によって引き起こされる。ギボンズとチャップマンは次のように述べた。“最終解析で、ライス-フルーツ・ダイエットはアレンのダイエットと比較される 高血圧の原因論に関してほとんど同じ仮説に基づくだけでなく、十分に確信のある根本的な理由が減塩について確立されていない。”ケンプナーの実験は制御されていなかったので、結果の全ては減塩自体で何も効果がない多くの要因のためであった。次のことが記録された、“環境自身、厳しい規律、全ての治療を行ってきた、あるいは実行中の他の患者との密接な接触は、ルールを守っておれば、近い将来成功する患者を納得させることと結びついている…ケンプナーの結果の別の説明として、示唆は多分、二番目にランクされる。”言い換えれば、ケンプナーの食事からの利益の多くは食事自身にはほとんど効果はなく、ケンプナーと彼の患者との密接な接触がずっと効果を発揮していると考えられたが、入院中の治療によっても利益やランダムな血圧測定値の変動を示唆している。ケンプナーは彼の患者の何人かに彼のライス・ダイエットを守らせ続けるように強制したことで知られている(食事を守ることには難しさがあった)。チャップマンとギボンズは次のように書いた、“これらの変化(網膜症、心臓サイズの低下、心電図の変化)は全く食事によるもので、それは腎臓の代謝機能負荷を軽減するように作用した、とケンプナーは結論を下す。”彼のデータはそのような結論を決して支持してない。

 ケンプナーのライス・ダイエットをテストした他の人々は食事の有効性に疑問を呈した事実がある。多分、重要なことに、これらの利益が一つもないことは直接減塩とは関係ない。事実、カロリー低下と続いて起こる肥満の改善は食事中のカリウム増加と同じ様に確かに血圧を低下させる。

 チャップマンとギボンズも低塩食は危険だと述べた:“哺乳類の生化学構造が作られた基礎は実質的にはナトリウムと塩化物であり、食事からこれらの成分を除くことは望ましくない結果となり、あるいは壊滅的な結果となることは当然のことである。”1900年代初期に塩に関する専門家であったピーターズは次のように書いた、“…塩摂取量の制御は決まりきった規範事項ではなく、それぞれ個別の事例で最も批判的な考察を要求する事項であることを明らかにすべきである。”

 1904年から1949年までの期間の研究を調べたチャップマンとギボンズは、高血圧治療としての低塩食に関して21件の研究が“適正で”7件が“不適正”であることを明らかにした。したがって、エビデンスは明らかでなかった;いくつかの事例で、減塩は高血圧治療のために用いられ、他の機会ではそうではなかった。多くの機会で減塩は重要な悪い結果を引き起こし、減塩を守った患者については極端に悪かった。

 要約すると、高血圧患者において減塩で利益を見出した初期の研究は制御されていない事例報告に基づいていた。より良く制御された研究が低塩食をテストした時、結果は印象的ではなく、高血圧者の約25%だけで有効であった。1944年まで、低塩食についてのエビデンスは非常に弱かったので、高血圧治療として適正ではなかった。したがって、1990年代の最初の半分における総合的なエビデンスは、低塩食が高血圧治療について合理的な戦略ではなかった。事実、低塩食は当時のほとんどの医者から美味しくないと考えられ、重大な悪い結果になることが明らかにされた。