減塩に依存しない塩誘発性高血圧を予防するための戦略が必要
Strategies Are Needed to Prevent Salt-Induced Hypertension That Do Not Depend on Reducing Salt Intake
By Theodore W Kurtz, Michal Pravenec, Stehpen E Dicarlo
Am J Hypertens 2020;33:116-118 2020.02
医療当局は高塩摂取量(5~6 g/d以上)による心血管への悪影響が懸念されるため、食品製造者が加工食品に添加する塩の量を減らすことを長い間推奨してきた。人口全体の減塩による潜在的なリスクと利益に関する議論はさておき、加工食品の塩含有量を減らすことが平均塩摂取量を5または6 g/d以下に減らすことに成功すると言う証拠は何か?最近、イギリスでの加工食品の塩含有量の大幅な低下は、主に女性を対象とした公衆衛生意識向上キャンペーンと相まって、女性の平均塩摂取量を大幅に減らすことが出来なかった。イギリスの食品改革プログラムの結果、および過去10年間にイギリスとアメリカで塩摂取量が減少しなかったことは、塩誘発性高血圧を予防するための、人口の平均塩摂取量を下げることに依存しない新しいアプローチが必要であることを示唆している。
食品塩含有量削減の影響
2006年3月にイギリス食品標準局は、食事中のほとんどの塩分を占める食品の減塩目標の公表を開始した。Heと同僚達によると、「2006年に目標が設定されて以来、ほぼすべての製造業者と小売業者が食品に添加される塩を大幅に削減した。」さらに、「2007年以降、イギリス食品標準局の減塩目標の対象となる食品から1,100万キログラムを超える塩が除去された。」と述べている。
しかし、公衆衛生イングランドの直感に反する調査結果によると、加工食品中の塩の減少は、イギリスの成人女性の平均塩摂取量の有意な減少とは関連していなかった。具体的には2005年6月から2014年にかけて女性の平均塩摂取量は大幅に減少しなかった(図1)。しかし、2008年9月から2014年(イギリスの塩摂取量に関する最近完了した調査の日付)の間に、男性または女性の塩摂取量に有意な減少傾向またはさらに有意な段階的変化はなかった(図1)。2004年10月から2009年10月にかけて実施された塩と健康に関する公衆衛生意識向上キャンペーンが主に成人女性を対象としていたことを考えると、女性の塩摂取量が減少することは特に驚くべきことである。
加工食品中の塩含有量が減少したにもかかわらず、2005年6月から2014年の間に女性で、2008年9月から2014年の間に男性で平均塩摂取量が大幅に減少しなかったのは何故か?MacGregorと同僚達は、2010年に結成されたイギリス連合政府による減塩プログラムでの政治的干渉が女性と男性の両方で塩摂取量の大幅な減少に失敗したと考えているかも
イギリス政府が推奨する加工食品の塩の目標値の最初の設定が2006年に発表
される前後のイギリスの男性と女性の塩摂取量の算術平均値と95%信頼区間。
一点鎖線は、世界保健機関が推奨する塩摂取量を表している。公衆衛生イング
ランドの報告によると、塩摂取量の統計的に有意な減少は男性のみで、2005年
6月から2008年9月の間のみである。女性では2006年6月と2008年9月の
間に、統計的に有意な下降ステップの変化はなかった。公衆衛生イングランド
によって報告された傾向分析は、生データの歪んだ性質のために、対数変換さ
れたデータと幾何学的平均を使用して実行された。
しれない。しかし、政治的干渉は、男性の塩摂取量が大幅に減少したように見える2005年6月から2008年9月の間に女性の塩摂取量が大幅に減少しなかった理由を説明できない。多分、減塩目標を達成した食品の消費量は、男性よりも女性の方が少ないのではなかろうか。もしそうなら、関心のあるすべての食品カテゴリーの減塩目標を達成するためのより積極的な努力により、女性と男性の両方で平均塩摂取量を6 g/dに大幅に減らすことが可能になる。しかし、我々が消費する塩の量に影響を与える生理学的メカニズムに関心のある科学者達による分析は、別の可能性を示唆している。
生理学的メカニズムは、塩摂取量を減らすための食品再処方プログラムの能力を制限するか?
マッカロンと同僚達によると、塩が広く利用できる社会における平均塩摂取量の通常の生理学的下限は約120 mmol/d(7 g/d)であり、平均塩摂取量でこのレベルよりはるかに低くしようとする試みは無駄かもしれない。女性が男性よりも約25%少ない塩を摂取することを考えると、マッカロンと同僚達の分析は、平均塩摂取量の通常の生理学的下限は、女性では約6~7 g/d、男性では約8~9 g/dである可能性がある。食品中の塩含有量の減少は平均塩摂取量をこれらのレベルに近付けるので、塩探索行動を決定する生物学的システムは、平均塩摂取量のさらなる減少を引き起こすために食品中の塩含有量の減少の能力を弱める可能性がある。すべての加工食品の塩含有量の漸進的な減少に応じたある時点で、個人は食事に塩を追加し始めるか、塩を含む加工食品をより多く消費し始めるか、またはその両方を開始する可能性がある。
2006年に減塩目標が最後に発表されたとき、イギリスの女性の平均塩摂取量はすでに7 g/dに近づいており、マッカロンらによって提示された平均塩摂取量の通常の生理学的下限に近いレベルであった。したがって、マッカロンらの見解は、2006年に加工食品の塩含有量を下げることによって女性の塩摂取量をさらに減らす能力が、消費される塩の量に影響を与える要因の生理学的活性化によって相殺された可能性がある。対照的に、男性の平均塩摂取量は2006年に約10 g/dであり、マッカロンらによって提案された平均塩摂取量の通常の生理学的下限よりもからり高いレベルであった。男性の塩摂取量は当時の平均塩摂取量の通常の生理学的下限をはるかに上回っていたため、男性の塩摂取量を適度に減らすことに成功した可能性がある。
製造食品の消費量が比較的少ない中国の農村部では、家庭で自主的に大量の塩を加えるため、平均塩摂取量は1日当たり6 gを超えている。消費者(食品製造者ではない)が主に食品に添加する塩の量を決定する場合、保健当局が推奨する量よりも多い量の塩を添加することを選択できる。
塩誘因性高血圧を予防するための新しい戦略
過去10年間の塩摂取量の削減における食品中の塩含有量削減プログラムと教育キャンペーンの限られた成功は、塩誘因性高血圧を予防するための新しいアプローチの必要性を示唆している。塩摂取量を決定する生物学的要因の理解を深めることで、教育的および規制的アプローチを超えた新しい戦略の発見が容易になることを提案する。さらに、そもそも人口の一部を高塩食の高血圧の影響を受けやすくなる栄養不足や生物学的異常を是正するために、より大きな努力を払うことを提案する。塩からの保護に通常関与するメカニズムを利用することによって正常な個人(耐塩性正常血圧の被験者)の血圧上昇によって誘発される、塩感受性を媒介する一般的な異常を予防または修正することが可能であるはずである。
一方、世界中の政策立案者達は加工食品の塩含有量を40%減らすことで、人口の塩摂取量を40%以上(平均6 g/d以下)減らすことが出来ると想定して、食品中の塩含有量削減プログラムを推進している。多分、政府の規制当局はアルコール摂取量を減らし、肝疾患や認知症のリスクを減らすために、飲料メーカーがビール、ワイン、スピリッツのアルコール量を40%減らすことを何時か提案するであろう。もしそうなら、アルコール摂取量を決定する複雑な要因に関心のある科学者達は、その戦略の背後にある仮定にも疑問を投げかけることが期待できる。