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塩と健康のコクラン・レビュー

The Cochrane Review of Sodium and Health

By Michael H. Alderman

American Journal of Hypertension 2011;24;854-856

 

  死亡率または心臓血管疾患死亡率に及ぼす減塩の臨床的に重要な効果を排除するにはまだ力は十分ではない。この明らかな声明はコクラン共同研究レビューと6,257人の参加者と665人の死亡(心臓血管疾患による死亡293)を述べている7件の研究解析を要約している。この学究的なレビューはこれまでの報告書のタイムリーな更新を提供しただけでなく、塩摂取量と心臓血管疾患、およびそれを政策に反映させることとを関係させた仮定にも挑戦している。

 コクラン共同研究レビューは信頼性、総合性、正確な方法を厳しく適用していることで正しく注目されている。しかし、全てのメタアナリシスのように、このメタアナリシスは調査された原材料に依存している。この解析に用いた7件の研究のそれぞれは調査された集団、研究設計、方法、利用できるデータの範囲を異にしている。事実、7件の研究の一つだけが異なった塩摂取量の健康への影響を調査するために選んだ。すなわち、それは良く設計されたランダム化比較試験で主目的をテストするに十分な力を持っていた。目標は心不全患者で1日当たり4.6 gまたは6.9 gの塩摂取量が優れた心臓血管疾患予防となるかどうかを調べることであった。多量の利尿薬使用を含めた薬剤治療と飲料摂取が二つのグループ間で塩摂取量だけを違えることを確実にするために標準化された。偽薬か塩錠剤補給のいずれか一方にランダムに配置することはコントロール・グループに高い塩摂取量を達成させ、注意深くモニターしてプロトコールの厳守を確認した。死亡と入院、あらかじめ定義された終点は6.9 gの塩摂取量グループに割り当てられた人々で25%低下した。本報は、減塩が、少なくともこの一つの特別な設定で有害性を引き起こすと言う確かなエビデンスを提供している。結果は同じグループによるその後の2件の研究によって確認された。この研究は高い死亡率や入院と塩摂取量に関して逆相関を示したが、その結果は他のどの集団にも外挿されなかった。

 このコクラン解析を構成している残り6件の研究についてはどうだろうか?5件は、減塩が血圧を下げるかどうかを調べるために行われた。少数であるため、ランダム化された比較内で死亡率効果を示さなかった。高血圧予防試験研究の参加者(サブグループからのデータはランダム化によって守られなかった)の部分集合について研究後の追跡研究を含めてもコクラン結果を変えなかった。台湾の研究で、通常の塩摂取量またはナトリウムの50%をカリウムで置き換えた塩摂取量のいずれか一つを摂取するように台所がランダム化された。この研究は全てのメタアナリシス参加者の50(3,827/5,808)とコクラン解析で発症の58(504/594)に寄与した。全ての死因による死亡率には差はなかったが、高血圧者集団は提供された多くの比較の中で、減塩に関係した唯一の有意でポジティブな結果(35%の心臓血管疾患の低下)を提供した。しかし、比較されたグループはナトリウムとカリウムの両方の摂取量で違っていた。したがって、カリウムの増加またはナトリウムの減少が結果に責任を持っているかどうかを決められない。要するに、このコクラン解析は有意な結果を示した一つの研究と、少ない試料数による混乱因子またはコクランの疑問に答えるように設計されていない、または不完全なデータ解析のいずれかで強要された6件の研究を含んでいる。

 コクラン解析に含まれるそれぞれの研究のメリットを論ずることは可能である。他方、減塩がそれでも臨床的に有意でネガティブなまたはポジティブな健康結果を生ずると言う結論に挑戦することは難しい。追加的な関心はコクラン解析でどのようにして疑問が生まれてくるのかに関係しているのかも知れない。心臓血管疾患を予防するために減塩する事例は二つの根拠の確実な主張に基づいていると著者らは説明する:(i) 減塩は血圧を下げる、(ii) 実質的にどの血圧レベルでも心臓血管疾患の危険率は低い。コクランは適正に主張している、“減塩が心臓血管疾患発症と死亡の低下させる結果をもたらすのであれば、血圧低下だけが重要である。”しかし、コクランのメタアナリシスは、血圧低下効果があるにもかかわらず、血圧低下は心臓血管疾患死亡を予防しないことを明らかにした。血圧と心臓血管疾患発症との間のこの乖離は、減塩してもこの単一の生理的な効果だけが心臓血管疾患発症の決定因子でないかもしれないことを示している。減塩は多くの生理学的な結果をもたらす事実をこれらの結果は反映している。正に血圧と同じように、ランダム化比較試験は減塩はレニンーアンジオテンシン系と交感神経系も活性化させ、アルドステロン分泌を増加させ、インシュリン抵抗を刺激することを証明した。減塩による心臓血管疾患発症はこれらの多様な矛盾する中間の変数の最終的な結果であるに違いなく、あるいは他の予期しない結果をもたらす。

 コクランの結果は、減塩によって起こるわずかな血圧低下は必ず心臓血管疾患の予防に生かされると言う魅力的な仮定を傷付けている。多分、血圧と違って、塩摂取量は心臓血管疾患発症と直線関係ではない。仮にビタミンDのように健康的な生活と両立できる塩摂取量の実質的な中間範囲があれば、この安全範囲以上または以下になると有害になる、言い換えればJ字型を示す。さらなる研究で先ずこの安全範囲を明らかにし、その後、少な過ぎるまたは多過ぎる塩摂取量の悪い結果を逆転させられるかどうかを調べる。

 J曲線は塩/健康関係の本当の性質を実際に述べているかもしれないことを信じる理由はあるのだろうか?ナトリウムのような多くの必須栄養素は高能率パターンに従う。事実、必須栄養素の安全性の限界が広い種が生存に好ましいように進化して来た。理論的な主張に加えて、観察データはJ仮説を支持している。ランダム化された試験からのエビデンスがないこととは対照的に、20万人以上の参加者で約1万人の死亡を示した20件以上の信頼できる確認研究がある。もちろん、観察研究は塩摂取量を自由に摂取している人々でたまたま起こったことを述べているだけである。塩摂取量が自由裁量レベルに減らされれば、それらの研究は起こるかも知れないことについて何の情報も提供しない。結果として、観察研究は因果関係を確立する手段よりもむしろ生じてくる仮説を通常考察する。

 この事例で関連した観察研究は矛盾を生じさせるだけでなく、結果の論争を生じさせた。しかし、これらの多様な研究はランダムに配置されていない。事実、減塩と比較的良い結果との直接的な関係を報告している研究は、実際に誰もが毎日12.7 g以上の塩を摂取している社会で全て行われた。対称的に参加者の毎日の塩摂取量が5.1 g – 10.2 gの時、最低の塩摂取量の人々の死亡率が高いことをほとんどの研究は示した。事実、ごく最近発表された3件の研究、全てが比較的低い塩摂取量(糖尿病患者2人と大規模集団の1)ですが、各研究は罹患率と死亡率に対して塩摂取量の独立した有意な逆相関を報告した。1件は非常に高い塩摂取量と非常に低い塩摂取量の両方で増加した心臓血管疾患危険率のJ字関係を明らかにした。したがって、この論文を書いている時点で、結果に対して逆相関を示した低塩摂取量設定で7件の研究があり、ポジティブな関係が現れた高塩摂取量設定で4件の研究がある。これらの一致しない結果は、健康に対する塩摂取量の関係がJ字型であるかどうかを一番理解させるものと私は信じている。

 J字型関係が健康に対して塩摂取量とどのように関係しているかを一番良く述べているとすれば、研究計画は変わるだろう。ここでコクランが述べている簡単な疑問は、減塩が誰にでも有益であるかどうかである。答えは“ノー”であることを彼等の結果は示している。“J字型”パラダイムは疑問を塩摂取量の“安全”範囲を定義する方へ動かすだろう。異なった環境におけるさらなる観察研究が有用となる。限界値で、ランダム化試験が決定的となる。塩摂取量の安全範囲が5.1 g12.7 gの間にあることが証明されれば、浮かび上がってくる一つの疑問は、塩補給が実質的に1日当たり5.1 g以下の塩摂取量と関係した悪い結果を逆転させられるかどうかとなろう。しかし、過剰な塩摂取量の悪い効果の可逆性と言う疑問の最初の手掛かりとなりそうだ。この調査は高塩摂取量社会で行われた。これは塩摂取量が12.7 gを超える所で行われ、参加者は全て“安全”範囲以上であるので、減塩は科学的にも倫理的にも適切である。

 コクラン解析は、人口の大部分に3.8 g/dと言う最終目標をはるかに少なくする減塩を万人に勧める公衆保健勧告を支持する科学的エビデンスは不十分であると言う事実に注意を喚起している。塩摂取量が中程度であるアメリカ合衆国のような社会で減塩と心臓血管疾患による死亡率増加との関連についてのエビデンスが多くなっていることを知らされると、勧告が存在するエビデンスと存在しないエビデンスの両方を反映していることを確かめようとガイドライン委員会は勧告を再検討するかもしれない。“J字型”曲線仮説は健康に及ぼす塩摂取量効果に関する活発な論争が両陣営からの寄与を統合することによって解決されるかもしれない。

 要するに、この優れたコクラン報告は“ゲームを変更させるもの”ではないが、塩と健康を関係付けるエビデンスにふさわしい政策を作り、実行する必要性を強調している。ますます生物学的にもっともらしく思えるように、西欧社会における現在の長年にわたる塩摂取量、約9.1 g/dがほとんどの人々にちょうど良いことが明らかになれば、次には特別で臨床的なサブグループ、または正常範囲を外れた人々が多かれ少なかれ食事中の塩から利益を得るかどうかを決定することの必要性が残っている。