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塩摂取量政策に基づく科学

The Science upon Which to Base Dietary Sodium Policy

By Alderman MH

Advances in Nutrition 2014;5:764-769

 

要約

栄養摂取量勧告が激した科学的論争事項になることはあまりないが、塩摂取量はその一つである。塩摂取量と健康結果に焦点を置いた科学的臨床試験がない中で、血圧の代わりとなる指標を使った研究が極端な減塩を支持するために使われてきた。厳密に管理された条件下で、最高に達成できる減塩は1-6 mmHgの収縮期血圧を低下させ、それは多分、心血管の罹患率と死亡率低下させる。しかし、結果として血圧ではなく実際の健康状態を使用した観察コホート研究で、6.4 g/d以下の塩摂取量間で当然のことと思われる関係は観察されなかった。したがって、減塩の血圧効果は塩摂取量と関係している健康結果についての代わりとなる指標としてもはや受け入れられない。食事を修正する努力を続けることを正当化するためには、6.4 g/d以下の減塩は健康を改善するというエビデンスが要である。

 

はじめに

 塩摂取量についての論争がどうしてそんなに激しいのだろうか?多分、利害関係が非常に大きいからである。世界の人口の90%は現在の塩摂取量を1/3以上減らすことを多くの関係当局機関は勧告してきた。多くの人々も加工食品の組成を変えることによってこの危険な食事を変えられると思っている。我々が摂取している非常に多く加工食品に塩が入っているからである。食品製造者は彼等の消費者の寿命を縮めるように設計された製品を販売促進していると非難される。加工食品の費用の掛かる実地に立証されていない修正と同時に世界の60億人の最も禁欲的な510%の人々を除いて、全ての人々に劇的な行動変化を呼び掛ける結果であった。そして、それが達成されれば、収縮期血圧はどこでも16 mmHg低下し、したがって、アメリカ合衆国で毎年6090,000人の間で何処かで死亡を予防している。野心的であるが、それは正当化され、あるいは可能性があるのだろうか?

 過去20年以上にわたって、塩摂取量と実際の健康結果との関連付ける研究は今やほぼ30万人の参加者で24件以上もある。しかし、実質的に誰もが塩を摂取する習慣を抑えるべきであると言う考えを支持する代わりに、エビデンスは実際に非常に異なった図を明らかにしてきた。現在、大量のデータによって支持されている一つの結論は、塩摂取量と健康との関係はUまたはJ字型と一番良く合っていると言うことである。したがって、正常な摂取量の髙いまたは低い境界を越えた摂取量と関係している潜在的な有害性によって囲まれた広い範囲で最適摂取量がある。これは他の全ての必須栄養素のパターンと同じである。

 本レビューの目的は論争の発生を手短に述べ、~6.46.8 g/dの塩摂取量が最も好ましい健康結果と関係していると言う“J/U”字型仮説の事例を提供することである。

 

方法

省略

 

結果

初期の頃:1985年以前1970年代まで、文化変容を受けない遊動民の人々は低血圧で、近代的な工業化社会の住人よりも加齢に伴う血圧上昇がないことを示した多くのデータがあった。塩摂取量の差はこの有益な効果を説明していると信じられた。

 1977年に、議会証言中に著名な公衆保健権威者であるジェレミアー・スタムラー教授は次のように言った。“アメリカ人が髙い塩摂取量を続けていることに焦点を置くことは最も重要なことである。正確なデータはなく…関心は高まっており…それはともかく…塩摂取量は…いわゆる調節因子として作用する…高血圧発症のお膳立てとなっている。”これはすぐにそうならなければ、既に一般通念となっており、脳卒中や心臓発作を予防すると言い換えられる。

 事実、塩摂取量9.1 g/dの大きな差は平均的な収縮期血圧に1 – 6 mmHgの低下をもたらすことを100件以上のランダム化された臨床試験は確認した。しかし、正常な腎臓は血圧に影響を及ぼさないで、幅広い塩摂取量に適応できる。したがって、減塩はほとんどの人々について血圧変化をほとんど、または全く起こさない。幾つかの場合に、血圧は減塩に応じて実際に増加する。

 1980年までに、アメリカの食事ガイダンスは欠乏から食事過剰に焦点を広げた。1980年に、過剰な塩摂取量についての関心はアメリカ人の食事ガイドライン(DGA)で表面化したが、DGA2005年版まで特別な勧告は行われなかった。それにもかかわらず、医者達の“特別に幾つかのアカデミー会員と幾つかの保健当局”は既に減塩を勧めていた。例えば、高血圧患者(成人人口の~25)の中で、減塩は標準的な公衆保健と医者の業務となっていた。

中間時期:1985 – 2010。日本人のハワイ移住における上手く設計され実行された研究は、他の栄養素と対比して食事思出法によって推定された塩摂取量は脳卒中と関係していないことを明らかにした。塩摂取量は他のアメリカ人と同様であった。

 7年後、8,600人の台湾住人による第二の前向き研究は塩摂取量と心血管疾患(CVD)イベントとの直接的な関係を明らかにした。塩摂取量はどれくらい頻繁に“塩辛い”食品を食べたかに従って分類された。塩摂取量の定量的な測定はされなかった。台湾の平均塩摂取量は日本のそれを反映していた。

 第三のそのような研究は1995年に発表された。総合的な高血圧治療計画で3,000人の参加者によるこの前向き研究は24時間尿中ナトリウム排泄量とCVDイベントとの間に特別で有意な独立した逆相関を明らかにした。最低の四分位数塩摂取量(5.1 g/d以下)の人々は最高の四分位数摂取量(9.1 g/d以上)の人々と比べてCVDイベントになるのは2倍であった(図1省略)

 その後、DGA2005年版は初めて全てのアメリカ人に5.8 g/d以下塩摂取量を勧告した。さらに、全ての黒人、中年と老人、全ての高血圧者(アメリカ人口の約半分)について摂取量勧告値を3.8 g/dとした。これらの摂取量で実際の健康結果(血圧を含めない)を支持するエビデンスは提示されなかった。しかし、コクラン共同研究は低塩摂取量による幾つかの他の生理学的結果を早くも明らかにしていた。

 2007年に当時新しいと考えられていたレビューは14件の塩摂取量研究を含んでいた。その中で8件は関係がないことが明らかにされ、4件ではポジティブな関係が示され、5件では逆相関であることが分かった。研究は幾つか関係がないことを明らかにしながら、直接的な関係があることから疾患率と死亡率とに逆相関があることまで全領域に広がっていた。塩摂取量が5.8 g/d以下の多くの被験者を含む研究は一般的に逆相関を示した。他方、塩摂取量が12.7 g/d以上の多くの被験者を含む研究では、塩摂取量は通常、健康結果と逆相関を示した。したがって、~3.8 – 5.8 g/dの最適摂取量帯で塩摂取量と健康結果との間にはJ字型関係があると著者らは仮定した。

 対照的に、同じ研究の多くを含むメタアナリシスをストラズロらは2009年に発表した。コックス回帰分析で直線関係を仮定して、彼等は塩摂取量と罹患率および死亡率とのポジティブな関係を検出した。ポジティブな結果は平均塩摂取量が11.4 g/d以上の13研究の中で4件だけであり、5.8 g/d以下の被験者にはほとんどなかった。コックス分析は直線関係を仮定しているので、勾配は高塩摂取量の参加者によって基本的に決定され、そこで塩摂取量は低塩摂取量グループにも同様に適用するように拡大された。さらに、研究の中で1件(高血圧患者で)を分析から除くと、その関係だけが有意になった。

ごく最近の時期:2010年から現在まで。これを書いている時期(20145)で、4件の追加研究が報告された。それらの中で、2件は逆相関で、大規模でもっと多様な人種の1件はJ字型関係で、1研究では、塩摂取量と健康結果との間に直接的な関係があった。J字型研究は尿中ナトリウム排泄量に基づいて大規模で潜在的な混乱因子を考慮した時に顕著であった。J字型研究は大規模な場合に多く、尿中ナトリウム排泄量測定に基づいており、潜在的な混乱因子を考量していた。

 同時に、これらの研究について秘密があった。例えば、北部ヨーロッパ人の研究は結果の妥当性に挑戦した敬意を払われている当局からの多くの手紙で支持された。幾つかはさらなる分析を行うことを示唆しており、それらの結果は最初に発表された結論と一致していた。

 さらに、他の分析は異なった結論を導き出した。14件の観察研究と5件のランダム化された試験のコクラン・レビューは減塩と低血圧および脳卒中低下との有意な関係を明らかにした。全ての死因または全てのCVD死亡率とのいずれか一つとの関係はなかった。交感神経活動または脂質に及ぼす有意な効果は観察されなかった。血漿レニン活性は報告されなかった。

 低い塩摂取量範囲では有害性がないとした唯一の研究はニューヨークの北部マンハッタンに住んでいる多くのアフリカ系アメリカ人とヒスパニックの2,657人で行われた。塩摂取量は自己申告による食事頻度によって調査された。驚いたことに、塩摂取平均値と摂取量中央値(それぞれ7.77.1 g/d)は国民の結果よりはるかに低く、塩摂取量調査の妥当性に疑問を呼び起こした。320人の参加者は3.8 g/d以下の塩摂取量で、558人は10.2 g/d以上の摂取量であった。摂取量が3.8 g/d以下の人々は6.4 g/d以上の人々よりも長生きであった。

 2013年のIOM(医学研究所)レビューはDGA2010年版の推奨値に挑戦した幾つかの結論に達した。第一に、血圧変化は塩摂取量と関係している実際の健康結果についての適正な指標と言う記述を避けた。減塩は幾つかの生理学的な結果をもたらすことが認識されていた。ある結果は有益であり(血圧)、他は有益ではない(アルドステロンとトリグリセライドの増加と同様に、血漿レニン活性、インシュリン抵抗、交感神経活性の増加)。要するに、減塩に関係した単一の生理学的変化は将来の心血管の罹患や死亡を予測できない。

 それにもかかわらず、2013年のIOM報告書は、“過剰な”(未定義)塩摂取量は有害であると結論を下した。5.8 g/d以下の塩摂取量は“有益か有害か”を決めるにはエビデンスが不十分であることを彼等は明らかにした。しかし、3.8 g/d以下の塩摂取量は有害であるかもしれないと関心を表した。

 2014年にグラウダルらは274,683人の参加者で25件の研究のメタアナリシスを発表し、低塩摂取量と高塩摂取量の両方とも死亡率増加と関係していたと結論を下した。これは塩摂取量と健康結果との間U字型関係と一致している。JまたはU字型関係が塩摂取量と健康結果との間の関係を述べているかどうかを決定するために、通常の摂取量範囲内、以下、以上の人々について死亡率を決定した。その後、以上と通常範囲グループと他の関係リスク要因について管理しながら、以下の両方グループを比較した。さらに、通常の範囲内の2つのサブグループを中央値で分けて比較した。死亡率は6.5 – 12.6 g/dの範囲内では異なっていなかった。対照的に、その結果、範囲内以上と以下の両方の人々は通常範囲の人々よりも有意に大きな死亡率であった。リスク効果は高塩摂取量の人々よりも低塩摂取量の人々についてより強かった(2 – 4省略)。これは非線形リスク曲線が存在することを示唆した前のレビューの結論を支持した(5省略)

 新しいエビデンスにもかかわらず、CDCの代表者はほとんど修正しないで長年にわたる勧告を再考する理由を見出せなかった。AHA(アメリカ高血圧協会)の専門委員会は塩摂取量と健康結果とを関係付けた観察研究の批判を発表し、塩摂取量と血圧とを関係付けた多くのデータは塩摂取量を決定するための根拠であるべきとほのめかした。このAHAのドキュメントは、“現在の5.8 g/dと言うDGA勧告についてのエビデンスは強要されていたと結論付けたとしてIOM報告書を間違って引用した。”IOMは実際に反対の結論に達した:“直接的な健康結果に関する研究からのエビデンスは不十分で、5.8 g/d以下の塩摂取量と全アメリカ合衆国人口で有益性またはCVD、脳卒中、CVD死亡率または全ての死因との関係について一致していなかった。”

 

考察

 塩摂取量と健康結果とを関係付けた最初の報告書から30年後の今、IOM報告書やグラウダルらのメタアナリシスは、塩摂取量が健康とどのくらい関係しているかと言う首尾一貫した理解を提供している。正味の健康効果は如何なる単一の生理学的変数に関する結果によって予言されない。血圧と低塩食と関係した死亡結果は異なると言う事実はIOMの結論を確認している(6省略)。減塩の血圧効果は塩摂取量と関係した健康結果についての指標としてもはや受け入れられない。

 さらに、研究結果間の異質性は周囲のまたは最初の血圧に関連していることをIOMは認識した。それにもかかわらず、“過剰な塩摂取量は心血管疾患危険率と関係している”と彼等は結論を下した。しかし、“過剰な量”は定義されなかった。IOM3.8 g/d以下の塩摂取量について関心を表し、5.8 g/d以下の塩摂取量が有害であるか、あるいは有益であるかを決定するには利用できるデータが不十分であると述べた。全ての他の栄養素のように、危険性が増大する以上と以下の塩摂取量の安全領域または最適量があるとIOMは暗に認めている。IOMは安全領域の範囲を特定しなかった。

 IOM報告書の発表後、幾つかのニュースが塩摂取量についての目標について保健当局間の不一致を強調しており、専門家達は血圧の重要性について意見が異なることを報告した。さらに、幾つかのIOM委員会のメンバー達は報告書の限られた解釈を示唆しているコメントを発表した。“アメリカ人口の10%以下に現在影響を及ぼしている特別な目標についての不一致(すなわち、5.8 g/d以下対3.8 g/d以下の塩摂取量)に焦点を当てるよりもむしろIOMAHAWHODGAは過剰の塩摂取量を減らすべきであると言う示唆で一致しており、これは大きな公衆保健効果を持っているらしい。”

 2014年に、第二の批判的な発表が安全領域の特別な範囲を定義した。25件の研究のメタアナリシスは6.4 – 12.7 g/dと言う最適中央範囲とこれらの領域の以上と以下で死亡率が増加する塩摂取量のU字型関係を適切に明らかにした。

 エビデンスは説得力があると私は思っているが、この分野の十分に尊敬されている当局は利用できるエビデンスのこの解釈に挑戦している。CDCAHA(これを書いている時点で)矛盾するエビデンスがないにもかかわらず、これらのパラダイム・シフトした結果をまだ受け入れていない。要するに観察研究の方法論的限界は保健政策を決定するそのようなデータを使うことを排除することを彼等は主張している。手近な問題に取り組むように前向きに設計された研究でも全ての観察研究には限界がある。CVDの危険因子として血圧、コレステロール、タバコ、グルコースを確立した研究の品質から、この膨大なデータを無視することを示唆しており、血圧からの外挿は現在のガイドラインを正当化していると彼等は主張している。

 エビデンスを無視することは政策立案に対して危険な手法である。多くの矛盾する変数の1における変化は劇的な健康結果をもたらすと信じることも予測できないビジネスである。脂肪摂取量勧告の経験は有益である。1980年に、全てのアメリカ人は脂肪摂取量を抑制するようにDGAは勧告した。20年後、その指導は廃止された。前の勧告は思いがけない悪い結果、特に肥満と糖尿病の増加をもたらしたことをDGAも述べた。

 単一の栄養素の摂取量を修正するために世界人口の90%の食事を変えようとする試みは実質的に論争の余地のないエビデンスに基づくべきである。6.4 g/d以下の塩摂取量が6.4 – 12.7 g/dの塩摂取量よりも良い健康結果をもたらす科学的エビデンスはない。

 要するに、利用できるデータは塩摂取量と健康結果とのU字型関係を支持している。これが正しければ、6.4 – 12.7 g/d内で現在、塩を摂取している世界人口の90%については塩摂取量を変える必要性はない。今や多くの権威者達は通常の塩摂取量の低い境界線以下に減塩することの健康に対する有害性または有益性を決定するためにさらにランダム化された試験を要求している。それらの研究結果はまだない中で、現在の塩摂取量政策は存在する科学的エビデンスを適応して調整すべきである。