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大いなる塩論争:そんなに悪い?

The Great Salt Debate: So Bad?

By Travis M. Andrews

The Atlantic 2013.05.16

 今週、専門家達は行き過ぎた減塩食の危険性を警告した。そのことは“ソルト・グル”のような塩擁護者モルトン・サティンが数年間にわたって禁じられてきたことへの足取り。

 

 私が初めてモルトン・サティン氏に会った時、火曜日の朝、彼はコンピューターの画面に頭を振りながら椅子に座っていた。彼は一目見て、ため息をつき、モニターを示した。表示されていたのはScience Dailyからのプレス・リリースで、塩は体内のカルシウムの蓄えを減らすと、主張していた。“毎朝、新しいヘッドラインが表示される。”と論文で使われている恐らくまやかしの科学について酷評する前に、彼は悲しそうに言う。“しばしば、空回りしているように感じるでしょう。前に進まないで、誤報を防ごうと努めている。”

 我々の日常生活でどこにでもある物質の一つの関心事について彼が心配している誤報は塩である。今週、医学研究所によって招集された専門家達は、“直接的な健康結果に関するエビデンスはナトリウム摂取量を減らす…1日当たり1,500 mg以下にする勧告を支持しない”と結論を下した。現在の勧告値は1日当たり2,300 mgを超えないことで、ほとんどのアメリカ人は超えている。このわずかなパラダイム・シフト(減塩は必ずしも良いわけではないと言う考えで、それは既に論争されてきたことで、受け入れられるには時間がかかる。)は、サティン氏のような人々が主張し始めてから何年も経ってから起こっている。

分子生物学者のサティン氏は嫌がりながらも“ソルト・グル(塩の権威者)”と言うあだ名を受け入れた。退職してヴァージニア州のアレクザンドリアにある非営利同業組合である塩協会で科学研究副会長になった時に付けられた。それまでは国連食糧農業機構のアグリビジネス計画ディレクターとして16年間過ごした。そこで彼は最も重要な二つの成功を成し遂げた。ココナッツ水の特許とグルテンのないパンの製造特許である。

彼の事務所は、公共の保健機関が嘘のことを書いていると思っている分子生物学者と言うよりもコーヒーに関する豪華な絵や写真を載せた本を書いている所である。しかし、彼は嘘の報道のことを考えている。2,300 mgはあまりにも低すぎる、と言っているが、それは彼一人だけではない。

塩擁護者で「良いカロリー、悪いカロリー」や「どうして脂肪が付くの」の著者であるサイエンス・ライターのガリー・トーブス氏はニューヨーク・タイムズにコラムを書いた。その中で彼は塩の保健特性を述べている。しかし、熱心な塩擁護者としてのサティン氏の問題は、綿密にデータを見ると彼の主張に信用を与えているように見えても、塩会社を支える塩協会のために彼が働いていることである。信頼性は窓から出て行き、どんなに大声で言おうとも、誰も聞こうとしないので問題にならない、トーブス氏は言う。

サティン氏には彼一生の物語にゆっくりと進んで行く癖があり、彼はこれらの気まぐれな物語にのらくらとさまようように、目は部屋の周りを走り回る。これらの物語を語るとき、彼は安心して穏やかに見える。彼は塩の反響について話すまで、そのような状態が続いた。塩の話になると彼の目は小さくなり、口は狭くなり、声は高くなって、怒りの形相となって燃えるようになる。“通常の塩が入っている食事を食べている時よりも低い塩摂取量になると、多くの人々が死ぬ。”と彼は言いふらす。“本当に心を開いてこの事を見なければならない。我々を騙し、強要する公共機関の考えを我々は本当に好きではないし、嘘を正当化する物は何もないので、心を開くことは難しい。誇張を正当化する物は何もない。社会を欺くことを正当化する物は何もない。”

 そしてそれは正に彼が考えていることであり、アメリカ合衆国農務省や疾患管理予防センターのようなほとんどの公共保健機関が考えている。アメリカ心臓協会は2,300 mgが高過ぎると主張してきた。高いナトリウム摂取量は血圧を上昇させ、心臓血管疾患、脳卒中、腎臓疾患を発症させる、と主張している。アメリカ心臓協会によると、多くても2,300 mgを摂取することはチェックしてこれを守ることに役立つ。

 しかし、これらのガイドラインに同意しないが、正しい摂取量がいくらかは分からない、とサティン氏は直ぐに認めた。彼の聖書は食事参考摂取量で、それは国立科学アカデミー、国立保健研究所の国立心肺血液研究所、米国保健福祉サービスの疾病予防健康増進、その他機関が支持する医学研究所の報告書である。報告書にはいろいろな成分やミネラルの推定平均要求量がある。サティン氏は270ページの上部にある次の添加物を熱心に指摘している。“投与量応答試験からの不十分なデータのために、推定平均要求量は設定されず、したがって、推奨食事許容量も推定できない。したがって、十分な摂取量が提供される。”

 分かり易く言えば、どれくらい多くの塩を摂取すべきかを決定することは不可能であった。我々はどれくらい多くを食べてはいけないか知ることを誰が主張しているかにサティン氏は関心を持った。“彼等がエビデンスを持っていれば、そこにエビデンスがある、と保証できる。”と彼は言う。2,300 mg限界についての彼の意見は、薄い空気の外を作り出すことであった。“それは嘘だった。私は科学者達を知っており、彼等の考え方も知っている:エビデンスがなければ、彼等はそれを作り出した。”と彼は言っている。

 もちろん、これは疑問を引き起こす:どうして塩に対して国民運動を誰が始めたのか?それは怠惰、安楽、科学的人気への安易な道の混ざり合った物とサティン氏は考えている。何かに対して運動を始めることは容易であり、健康に悪いと人々が考えるほど容易になる。サティン氏はミカエル・ジャコブソン氏を挙げている。彼は公益のD.C.-based科学センターの共同創立者であり、反塩運動リーダーの一人である。彼の機関のウェブサイトは次のように述べている、“世界中のほとんどの人々の食事で現在の含有量である塩は多分、供給される食品の中で唯一の最も有害な物質である。”と“塩:忘れられた殺し屋で食品医薬品局が公衆保健の保護に失敗”と題する扇動的な論文を彼は書いた。

 “私はあらゆる悪い理由から彼を評価する。”とサティン氏はジャコブソン氏について言う。“彼は学校を卒業以来、ちょっとした宿題をした、とは私は思わない。上手く行いたいと望んでいる人々は問題を持っていても、宿題をする時間がない。”

 しかし、ジャコブソン氏は白でも黒でも科学はそこにあると言う。減塩は寿命を伸ばす。“塩またはナトリウムで鍵となる事項は、それが高血圧を発症させ、高血圧は心臓発作、脳卒中を発症させ、長寿につながらない。”と彼は言う。“これは部屋の中の象である。”

 塩擁護者達はもちろん同意しない。トーブス死は次のように書いてきた。“塩を摂取した結果、一時的に血圧を上昇させる…科学的な疑問は、一時的な現象が慢性的な問題に変わるかどうかである。”

 サティン氏のようにトーブス氏はそう考えない。事実、彼はこれまでも次のように言ってきた。“アメリカ農務省や疾病予防管理センターが勧めているほどの少ない塩を摂取すれば、健康に良いと言うよりもむしろ悪くなる、という可能性が出てくる。”彼も反塩運動のリーダーとしてのジャコブソン氏を挙げ、良かれと思ってやっても、結局は間違った方向へ導いている。

 “減塩は一種の興味ある現象である。健康に関心を持っている人々は常に関心を持ってきた。反塩の人々は、塩は悪いと確信しており、世界を変えなければならないと、自分だけで確信している。しかし、医学研究社会は、科学をどう適正に使っていくかを本当に知らない。”その代わり、減塩は理論的ではなくても、理論的だと思えて、人々は塩を単に悪者と信じている、と彼は仮定している。“塩の贈り物は、早くから塩を高血圧の潜在的な原因として我々が飛びついたことである。塩が明白な高血圧の原因のように見えたからだ。減塩運動だけがそれを信じる理由となっている。喫煙が大きな問題となっているが、それには火がなければならない。”

 塩が我々の集団的な健康に悪いと言う事実を実際に支持する科学がほとんどなければ、より多くの人々がこれを指摘する理由に固執する。結局、ほとんど誰もが塩摂取量を減らそうと試みるように思える(または少なくとも減塩を試みているようによそおう)。しかし、トーブス氏は次のように指摘した。“誰かの科学が間違っていることを証明しようと試みることで生涯を過ごすことには大きな喜びがない。”

 たとえそうであっても、タイム誌にトーブス氏の論文が掲載された後で、ジャコブソン氏は自分自身に代わって編集者と7人の医学博士に手紙を送った。学者にはノースウエスタン大学医学部の准教授で前アメリカ医学協会副会長のスティーブ・ハヴァスがいた。6ページの手紙はトーブス論文に異議を唱えて、真剣に取り上げなければ、“将来に高血圧、心疾患、死亡、苦痛、医療費が一層多くなる”ことになると結論を下していた。

 塩産業界は減塩運動に対して自分の立場を擁護する必要がある、とトーブス氏が考えた声明の的確な種類がこれだ。結局、科学的な社会が特別な食料品の欠陥に気付いたこれが最初の時ではなかったか。1970年代に砂糖は大きな犯罪者であった。それで砂糖業界は非難をかわそうと試みた。“砂糖業界が70年代に作り上げた別の攻撃法の一つは、砂糖は無害であることを証明するために痩せた人々を雇うことであった。元気であれば、何をしようと必要なことだ。”とトーブス氏は言う。

 この事例では、塩協会はサティン氏を雇い、トーブス氏と接触しようとしてきた。サティン氏を“ソルト・グル”として主演させた一連のビデオを作り始めた。それらのビデオの中で、塩についての事実を長々と説明して“誤解”に対して彼は戦っている。塩協会は塩を守ろうとメディア運動を始め、トーブス氏は彼の論文で論争となる要素を抗弁してきた。

 “塩産業界は業界自身を守らなければならないが、業界は間違っている科学で叩かれ続けてきた。”とトーブス氏は言う。一方で彼は次のように続ける。“塩協会が何かしてもらおうと私にお金を出せば、私は断っただろう。”彼は自分の信頼性を心配し、彼はこれを否定しないけれども、塩協会の呼び掛けに彼は応えなかった、とサティン氏は言っている。“トーブス氏は我々のもくろみに乗ろうとはしなかった。落胆した。私は麻薬の売人になったような感じになり、彼は我々とは何もしようとはしなかった。”と昼食を食べながらサティン氏は言う。

 彼は一切れのパンを取り上げ、それは大きな塩の結晶で適当に覆われている。“あなたは塩協会または個人を信頼している訳ではないでしょう、エビデンスを信頼しているのでしょう。”とサティン氏は言う。

 しかし、塩協会は評判になっている。例え評判になっても名声を博さない。ノースウエスタンのハバス博士はアメリカ人の塩摂取量による健康被害を毎日ジャンボ・ジェット機の墜落と比較して、“塩協会の利益は塩販売量を多くすることに気付かなければならない。それはタバコ会社の社員を信じろと言うようなものだ。会社は商業利益を得てきた。”

 私がこの考えを述べる時、まるでそれがサティン氏を苦しめるように、彼は頭を振っている。“誰かが病気になることが我々の利益ではない。業界は自分で面倒を見ている。”とサティン氏は言う。事実、“食用の塩は塩産業の塩の約15%だけである。”動物用の塩、道路用の塩、工業用塩、医薬用の塩もある。サティン氏とトーブス氏は同じモットーを持っている:彼等は塩で利益を得るために戦っている訳ではない。塩がなければ、何がそんなに多くの人々を早く死なせてしまうのだろうか…何か他の物があるために、彼等は戦っている。塩から目を離さないでいることは何が本当の犯罪者であるかを探し続けることを意味する。

 “彼等が塩は悪者と言おうとも、私は塩問題を解決させたい。私は塩問題を解決させたいだけだ。”とサティン氏は疲れたように言う。