リチウム・イオン電池は数十年にわたって主流であった。
今、挑戦者がいる。
ナトリウム・イオン電池が代替品として登場している。
Lithium-Ion Batteries Have Ruled for Decades. Now They Have a Challenger.
By Sarah Raza
Washington Post 2024.11.03
数十年にわたりリチウム・イオン電池が市場を独占してきたが、新たな選択肢が出現した。ナトリウム・イオンで作られた電池である。
科学者達は何年もリチウムの代替品を研究してきた。世界の大部分はこの種の電池に依存しているが、その材料の採掘と加工は労働者、地域社会、環境に悪影響を及ぼす可能性がある。
ナトリウムは最近、より有望な選択肢の1つとして浮上しており、専門家は、この材料はリチウムよりも安価で環境に優しい代替品になる可能性がある、と述べている。
過去数年間、アメリカではナトリウム・イオン電池の生産が増加している。先月、ナトリウム・イオン電池メーカーのNatron Energyは、ノースカロライナ州に「ギガファクトリー」を開設し、年間24ギガワット時の電池を生産すると発表した。これは電気自動車24,000台を充電するのに十分なエネルギーである。
しかし、ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池に比べるとまだ開発の初期段階にあり、まだ大規模に市場に出回っていない。「近いうちにナトリウム・イオンがリチウム・イオンに取って代わることはまずないであろう。」と、技術コンサルタント会社Exponentのポリマー科学および材料化学主任エンジニアであるKeith Beersは述べている。
これらの電池について知っておくべきことは次の通りである。
ナトリウム・イオン電池の仕組み
ナトリウム・イオン電池は多くの種類があるが、ノースカロライナ州で製造されるものは、原料が異なるだけで、リチウム・イオン電池と同じ方法で製造される。リチウム、ニッケル、コバルトなどの高価な材料を使用する代わりに、ナトリウム、鉄、マンガンで作られる。
電池では、充電と放電の過程でイオンが電極間を移動して電気を生成する、と太陽光発電開発会社Lightsource bp.のシニア・ディレクターAlvaro Acostaは説明する。ナトリウム・イオン電池では、ナトリウム・イオンが電荷を運び、負極は鉄、炭素、窒素などの一般的な材料でできている。ナトロン社の電池は、負極に鉄とマンガンを使用している。
ナトリウム・イオン電池の最大の制約は重量である。ナトリウムはリチウムのほぼ3倍の重さがあり、同じ量のエネルギーを蓄えることができない。その結果、ナトリウム・イオン電池は大きくなる傾向がある。
マドリードのアルカラ大学の経済学教授Jens Petersは、ナトリウム・イオン電池のエネルギー密度は時間の経過と共に向上する可能性があると述べた。しかし、同氏は「これまでの評価で分かったことは、それがゲームチェンジャーになるわけではないということである。」と付け加えた。
より持続可能か?
ナトリウム・イオン電池は原材料のおかげで、リチウム・イオン電池の環境に優しい代替品として宣伝されている。ナトリウム、鉄、マンガンはいずれも地球上に豊富に存在すうる元素であるため、抽出に必要なエネルギーが少なく、コストも低い。
「リチウム・イオン電池が携帯電話や交通機関の動脈であることは誰もが知っている。」と、ソウルの漢陽大学のエネルギー工学教授Yang-Kook Sunは言う。
「リチウム・イオン電池の問題は、リチウム、ニッケル、コバルトなど非常に高価な材料を使用していることである。」
採掘に伴う環境および人的コストも問題である。また、これらの材料でさらに作られた電池は、寿命が尽きたときに不適切に廃棄されると、環境に毒素を浸出させる可能性がある。
Natron Energyの共同CEOであるWendell Brooksは、ナトリウム・イオン電池はより多くの充電サイクルに耐えられるため、リチウム・イオン電池よりも長持ちすると述べている。
「当社の製品は数百万サイクルのサイクルが可能である。」とBrooksは言う。「一方、リチウム・イオンは3000~5000サイクルで、消耗がずっと早い。」しかし、Beeraは、ナトリウム・イオン電池はすべて同じように作られているわけではなく、同じように機能するわけでもないと言う。また、ナトリウム・イオンがリチウム・イオン電池に含まれる重金属
を使用した場合、環境への影響はおそらく同様になるであろう。
リチウムに取って代わることになるか?
専門家によると、スマートフォンから電動工具、太陽光発電のバックアップ蓄電まで、現在我々の生活の多くの技術に電力を供給しているリチウム・イオン電池と比較すると、ナトリウム・イオン電池の用途は限られている。
ナトリウム・イオン電池の最大のセールスポイントは、その小型さとエネルギー密度である。カメラに収まるほどに小型で、電気自動車の大型電池は数百マイル走行するのに十分な充電量を保持できる。
ナトリウム・イオン電池は、大量のエネルギーが蓄える必要があるスマートフォンや」電気自動車には最適ではない。しかし、低コストであることは利点の1つである。また、エネルギー貯蔵のように電池のサイズが問題にならない状況では、ナトリウム・イオン電池は有力な候補となる可能性がある。「送電網やバックアップ蓄電をサポートするために何かを構築する場合、密度を高くする必要はない。そのままでよい。」と、Beersaは言う。