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多くの保健研究があるにもかかわらず、

塩を振り掛けることは難しい

Joe Schwarcz: Despite Ample Health Research, It’s Hard to Shake the Salt

By Joe Schwarcz

Montreal Gazette September 4, 2014

 

モントリオール-減塩は数十年間栄養学的なマントラとなってきた。減塩は血圧を下げ、それにより心臓発作や脳卒中の危険率を下げると繰り返し言われてきた。しかし、今日、塩摂取量を含めて保健権威者達によって実施されてきたほとんどあらゆる種類の食事勧告に異議を唱えることが流行してきたように思える。もちろん、結局、現在のドグマに異議を唱えることは悪いことではない。これが科学の進歩の仕方である。しばしば勧告のためのエビデンスがエビデンスになるほど堅固ではなく、新しいデータが現れるにつれて、我々が食事中の飽和脂肪酸、卵、砂糖の嗜好について意見の変化を見てきたことが真実である。今日、非常に激しいペースで研究が進められており、ほとんどの手持ちの見方についてのエビデンスを見つけることは可能であるが、特に食事のことになると、決定的なエビデンスは分かり難くなる。食事のことになると、黄金基準であるランダム化二重盲検試験の設計と実行は極端に難しくなる。

 塩の場合、意味のある試験は何年もの間、被験者グループを追跡し、食事中の塩含有量の違うグループ間の差だけで心血管疾患の発症率に注目することを意味している。短期間でこれを十分に行うことは難しいが、実際には行われてきた。高血圧と戦うための有名な食事研究であるDASH試験は全食事を提供する被験者を3段階の塩摂取量に分けてテストするように管理された。3.8, 5.8, 8.9 g/dの塩摂取量のいずれかを彼等は食べ、結果は血圧と塩摂取量との間に明らかな関係を示した。8.9 g/dは人口の平均値の塩摂取量を表しているので選ばれた。そのほとんどは加工食品から来ていた。

 試験はわずか16週間だけ続けられたが、疾患パターンの差を述べるには短すぎた。批判が指摘しているように、減塩で血圧低下を示すことは心臓発作や脳卒中の危険率低下を示すことと同じではない。しかし、高血圧が心血管疾患と関係していると言う集団研究からの圧倒的なエビデンスがあるとすると、減塩を勧めることは合理的である。問題はどれくらいかである。

 その疑問が生じたのは、最近の研究が3.8 – 5.8 g/dの範囲の塩摂取量と悪い健康結果の危険率増加が関係していることを示したからである。しかし、これは塩摂取量だけの勢ではないかもしれない。塩摂取量を劇的に減らすように勧告された心血管疾患者がこの範囲内に入り、減塩よりもむしろ既往症の問題で悩むことはあり得ることである。兎に角、全人口について5.8 g/dの目標値は妥当である。危険性を示す低塩摂取量についての論争は学術的関心はあるかもしれないが、実質的な価値はほとんどない。3.8 g/dの目標値はほとんどの人々にとって達成できないが、我々の平均摂取量が8.9 g/dの範囲にあるとすれば、少なすぎる塩摂取量について悩むよりもむしろ8.9 g/dを減らすことに力点を置かなければならない。

 減塩は容易なことではない。製造者達は幅広い食品に自由に塩を加えることによって我々の塩好きを満たしている。一皿のセリアルは約0.8g、ホットドッグ1個は2.0 g、一切れのパンは0.6 g、一杯のコテッジ・チーズは2.3 g、プロセス・チーズ2枚は1.8 g、コップ半分の市販トマトソースは1.5 gの塩を含んでいる。一切れのピザは1.5 – 3.8 gの塩をどの切れでも含んでいる。明らかに、5.8 gを容易に超えてしまう。

 したがって、少なすぎる塩摂取量について心配することは何もなく、現実の世界ではそんなことは起こらない。低塩食を支持するエビデンスは非常に弱いと主張する反対者を退けられる別の理由がある。

 減塩は加工食品の低下と果物や野菜の増加で達成できる。そしてそれに対しては論争はない。

 しばしば栄養論争のように、偽科学はずるずると論争の場に入って来る。この場合、健康利益を暗示して食卓塩の“自然”代替物の形となる。パキスタンで採鉱された大粒の岩塩である“ヒマラヤン・ソルト”は健康に良い塩として上手く売り付けられる。それは痕跡量のカリウム、シリコン、リン、ヴァナジウム、鉄を含んでいるからだ。その量は結晶を色付けるには十分で、より“自然な”見栄えを与えるが、栄養的には無関係である。何人かの推奨者は笑われるような主張をしている。彼等が言うには、日光を蓄積しているヒマラヤン・ソルトは肺から痰を除き、瘻の詰まりを取り除き、静脈瘤を予防し、不整脈を安定させ、血圧を制御し、脳細胞の過剰な酸性度を中和させる。そのような出鱈目を信じるには、脳細胞に欠陥がなければならない。

 食卓塩は添加物と“塩の化学構造を根本的に有害に変える”温度で乾燥されることで貶され、攻撃された。塩はナトリウム・イオンと塩化物イオンからできており、溶ければ“化学構造”を持っていない。

 添加物に関する限り、容易に振り掛けられるように少量のフェロシアン化物、リン酸塩、ケイ酸塩が使われており、ヨウ化カリウムは甲状腺がホルモンを合成するために必要なヨードを体に供給するために加えられる。事実、北アメリカでは、ヨード欠乏症によるゴイターは実質的に撲滅された。

 ヨウ化カリウムは比較的安定であるが、ゆっくりと酸素と反応してヨーソ酸塩になる。塩に加えたわずかな量の砂糖は酸素反応によるヨー化物を保護するように働き、酸化からヨー化物を阻止するために砂糖は犠牲となる。

 食品中の塩は“中和”されるか?酢を加えることによってフレンチ・フライ上の塩を“中和する”可能性について尋ねられたので、このことを述べる。酢は冬靴から塩を除くことができると言う観察によって質問は明らかに誘発された。塩を“中和する”唯一の方法は最初の場所に塩を加えないことである。しかし、塩振出器から加えられた塩は我々の全摂取量のわずかに約14%しかないことを思い出してほしい。サラミのような加工食品が本当の問題である。事実、サラミと言う言葉はラテン語の“塩漬けされた物”を意味することに由来している。そして我々は非常に多くの塩漬けされた物を食べている。