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塩:健康にとって大したことはない

Salt: No Great Shakes for Your Health

By David Kohn

Guardian  2015.03.15

(訳者注: 2013.4.15にNatureに発表された論文の結果は塩の過剰摂取と自己免疫疾患を関係付けており、それを紹介した記事である。減塩推進に向けた新しい事実であるが、それを裏付ける再現性のある結果が必要であろう。表題と内容が一致していなかった。)

 

塩の摂り過ぎは健康に悪いことを我々は知っていたが、今や研究者達は塩摂取量の増加と自己免疫疾患の上昇とを結び付けている。

 

何年間ものあいだ、高い塩摂取量は健康に悪いと認識されてきた。塩の食べ過ぎは高血圧、心疾患、脳卒中、胃癌、腎臓結石、骨粗鬆症の危険率を増加させる。減塩は心臓血管疾患だけでイングランドとウェールズで毎年数千人の死亡を防げられよう。

しかし最近、新しい軽い慢性的な病気のグループに塩が関係していることが分かってきた。イェール、ハーバード、その他主要研究所からの研究は、塩分の高い食事は多発性硬化症や慢性関節リュウマチのような自己免疫疾患の症状を悪くすることを明らかにした。最初に関係を明らかにした科学者達にとっても、その関係は驚きであった。“この関係があるとは考えも、思いもしなかった。”と多発性硬化症に及ぼす塩の影響を研究していたハーバード大学の科学者であるVijay Kuchrooは言った。

過去30年間、自己免疫疾患は年間5%から7%の間でいたるところで増加してきた。増加は遺伝では説明できなかった-DNAはそんなに急に変わらない。研究者達はいくつか可能性のある説明を模索してきた。例えば、環境の毒物、喫煙、少ないビタミンD摂取量、いくつかの感染症である。しかし、これらの理論のどれも十分な答えを提供できなかった。

 “塩はこのミステリーの多くを説明できる。”とイェール大学の神経学と免疫生物学教授でこの関係を最初に見つけた一人であるDavid Haflerは言う。自己免疫疾患は塩摂取量が一番高い先進諸国で最も増加してきた、と彼は述べている。

 免疫システムに及ぼす塩の効果はもっと幅広いのかもしれない。近年、高血圧が免疫過大反応によって引き起こされる証拠を科学者達は発見した。高い塩摂取量で生ずる慢性水貯留の結果として高血圧は発症する、と科学者達はこれまで考えてきた。塩と自己免疫とを関係付けた最初の手掛かりはバーガーとフライからであった。

2011年に、腸内細菌が自己免疫疾患の進行を変えるのかもしれないことに関心を持ってHafler1年間にわたって80人以上のグループの食事習慣を調べた。細菌研究を進行中に彼と同僚は何か別のことに気付いた。“驚いたことに、ファーストフードを頻繁に食べると、血液中に炎症性の免疫細胞(TH17細胞として知られている)が多くなることが分かった。これらのレストランは彼らの食物に何を入れているのか?多くの塩か。”と彼は言った。興味を持ったHaflerは、脳や神経システムを損傷する疾患である多発性硬化症の動物バージョンを持ったラットに塩がどう影響を及ぼすかと言う研究を始めた。結果は印象的であった。高い塩含有量の食事をしている動物は通常食の動物よりも10倍もTH17細胞を持っていた。もっと重要なことに、それらの動物はずっと病気になり易かった。高い塩含有量の食事をしている動物のほとんどは麻痺した。一方、より少ない塩摂取量の動物はずっと運動できる状態を維持し続けた。そこでHaflerはヒトの免疫細胞に対象を変えて、高い塩濃度に晒された免疫細胞は炎症性細胞に大きな増加を来すことに気付いた。

昨年、ハーバード医学校とアルゼンチンのRaul Carrea Institute for Neurological Researchからの研究者達は122人の多発性硬化症患者で塩摂取量を調べた。多くの塩を摂取した患者は少ない塩を摂取した患者よりも4倍も多くより重症な症状を発症させることを彼らは知った。高い塩グループは疾患に関連した新しい脳障害を発症させるチャンスが3倍も高かった。

自己免疫疾患における塩の役割のさらなるエビデンスは昨年発表されたスェーデンの研究で示された。多くの塩を摂取する喫煙者はリューマチ性関節炎を発症させる危険率が2倍であることを研究は示した。塩と過活動免疫細胞との関係はSGK1として知られている遺伝子であるように思えた。その遺伝子は体に塩を吸収させる鍵となる役割を演じていた。塩を多く食べるほど、それだけSGK1は活性になる。Aviv Regevと一緒にボストンのBroad Instituteのコンピューター生物学者であるKuchrooは、遺伝子が別の機能も持っていることを知った。それはTH17細胞をコントロールする。高濃度のSGK1は免疫システムを制御できないほどTH17をあふれさせるほど出す、と彼らは理論づけている。

塩の過剰摂取は最近のことである。人類が存在した2百万年間のほとんどで、人類は多分、非常に少量の塩を摂取してきた。しかし、過去2,300年で貿易や製造法の進歩は塩を安くふんだんに摂取できるようにした。今日、ほとんどの人々は必要以上にずっと多く摂取している。ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに昨年発表された研究は187ヶ国の塩摂取量を調べた。6ヶ所を除いてすべての国で、人々は塩を食べ過ぎていた。国民保健サービスによると、イギリスの平均的な成人は一日に約8 gの塩を摂取しており、当局が勧めている上限よりも2 g多い。Kuchrooはさらに次のように言っている。“我々は必要とする塩の10倍も摂取している。我々は高い塩摂取量で進化して来たのではない。”同時に、漬物、ベーコン、ポテト・チップスの食べ過ぎから誰でも免疫を暴走させる危険性を持っていることに彼らは気付いた。多分、塩の高い感受性のある人、または自己免疫疾患の素因を持った人々はずっと罹りやすいかもしれない。塩は自己免疫疾患の罹患率を上昇させる役割を演ずるいくつかの要因の一つであろうことも彼らは強調している。

同時に、塩が自己免疫で鍵となる引き金であることが分かれば、これらの疾患を予防し治療する新しい比較的簡単な方法が見えてくる。Haflerは彼の多発性硬化症患者に塩摂取量を減らすように既に勧めている。“自己免疫疾患になっておれば、私は明らかに減塩するだろう。確かに下限はない。低塩食に対して論争することは難しい。”と彼は言う。