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ある者にとっては大事なことでも他の者にとっては些細なこと

塩に関する戦争では、必ずしも全ての人が兵士である必要はない、

と何人かの専門家は言う

Mountain for Some, Molehill for Others

In the War on Salt, Not Everyone Need Be a Soldier, Some Experts Say

By Alexia Elejalde-Ruiz

Chicago Tribune, November 17, 2011

(訳者注:減塩政策の重要性は人によって異なり、減塩効果をよく認識して取組むことを解説している。原文のナトリウムは塩または塩分に換算した。)

 医者や政府当局から高血圧の犯人である塩を減らすように数十年もうるさく言われてきたにもかかわらず、ほとんどのアメリカ人はあまり注意を払っていない。研究によると、アメリカ人は1日当たり平均して7.62 - 10.16 gの塩分を摂取しており、健康な人に対して政府が勧めている制限値5.84 gよりも明らかに多く、50歳以上の老人、アフリカ系アメリカ人、高血圧、糖尿病、慢性腎臓疾患などの患者を含む高い危険率の人々に対して勧められている目標値3.81 g2倍よりも多い。

 3.81 gよりも少ない摂取量を勧められている人々の99(人口の50 - 70%と推定)はその制限値を超えており、その他の人々のほぼ90%は推奨値の5.84 gを超えている、と疾病予防管理センターは10月に報告した。我々のナトリウム摂取量は10年間以上も変わらなかった。

 非営利団体の国際食品情報協議会が今年行った調査によると、無関心と無意識が高い塩摂取量の裏に潜んでいる主な理由である。アメリカ人の83%が塩摂取量に関心を持つべきであると思っているにもかかわらず、42%しか自分の摂取量に関心を持っておらず、62%は塩ガイドラインがあることすら知らない。

 我々は塩分を意識しないで多く摂取している。塩摂取量の77%は加工食品と外食から来ている。

 アメリカ公衆保健協会は10年以内に75%まで塩分含有量を減らす目標を持って、1年以内に供給食品中の塩分を規制することを始めるように食品医薬品局に今月、要請した。同様の規制は昨年、医学研究所が行動を起こすように要請している。この機関は国立科学アカデミーの一部として大きな影響力のある医療勧告グループで、自発的な減塩努力は失敗であったと言った。

 それでもいくつかの研究はそれがそんなに良い考えかどうか疑っている。今月、アメリカ高血圧学会誌に発表された167研究のレビューの結論は、減塩が幅広く集団の利益になることを研究は支持していない、と言うことであった。減塩は正常血圧の白色人種で1%以下でしか血圧を下げず、実際にはコレステロール、トリグリセライド、いくつかのホルモンを増加させるからである。有名な科学雑誌サイアンティフィック・アメリカンでこの夏の表題の一つは“塩戦争を終える時”であった。

 どれくらいの塩分が多過ぎるのか、塩分はどれくらい血圧に影響を及ぼすのか、塩に対する個人の応答は変化するのに全人口にガイドラインを設定することが賢明であるかどうか、といった長く続いている論争を反映して社会は動揺している。

 

知っていること

 塩(40%のナトリウムと60%の塩化物で出来ているミネラル)を通して主として得ている元素のナトリウムは血液量を調整し、細胞膜を通して栄養素を吸収し、筋肉収縮をつかさどるなど、我々の身体に必須な物である。健康な人々が多く摂取し過ぎたとき、過剰分は尿中に排泄される。

 減塩は血圧を下げることを研究は示してきた。つまり、塩摂取量が多すぎると、アメリカの主要死因である冠状心疾患、脳卒中、心不全、慢性腎臓疾患の危険率が増加する。疾病予防管理センターによると、アメリカ人の約30%は水銀柱で140 - 90 mmHg以上の高血圧であり、別の3分の1はそれよりも低いが120 - 80 mmHgよりも高い前高血圧である。加齢に伴って血圧は上昇するので、結局、アメリカ人の約90%は高血圧になる。

 この問題について今月、公開ミーティングを主催した食品医薬品局は食品中の塩分を制限する規制行動に関して最終決定を行わなかった、と代表者は言った。

 我々の70%は1日当たり3.81 gの塩を摂取することを目標とすべきである、とアメリカ心臓協会は述べている。それは活動している平均的な人に必要な塩を十分に満たしている、と医学研究所が言っている量でもある。(競技者であり、あるいは暑い環境で働いておれば、もっと多くを必要とする。)

 正常血圧で健康な若者については、現在、高い塩分食を食べていても人生の後半で高血圧になることをデータは強く示唆していない、とアメリカ心臓協会会長でジョンズ・ホプキンス・メディカル・センター心臓部長のゴードン・トマセリ博士は言った。なお、減塩は正常血圧者の血圧をほどほどに下げ、心臓にとって良いことである、と彼は言った。“誰にとっても最良の血圧は症状がなくて得られる最低血圧である。”とトマセリは言った。血圧があまりにも低くなれば、めまい、吐き気、疲労などの症状がでる。

 減塩は幅広い集団のガイドラインを正当化するほど十分に血圧を下げないし、ガイドラインは誰にでも同じ効果をもたらすことはない、と何人かの研究者達は言っている。

 ニューヨーク・プレスビテリアン病院/ウェイル・コーネル・メディカル・センターの心臓血管疾患センター長のジョン・ララフ博士は、減塩は特別な高血圧患者について価値のある治療法である、と言ったが、高血圧のわずか40%だけが塩と関係している、と彼は信じている。他の60%は血圧制御に働いている腎臓から分泌されるホルモンのレニンによって引き起こされる。したがって、高血圧者の60%は減塩に応答しないし、それよりも悪い方に応答するかもしれない。減塩はレニンを抑制する原因となり、皮肉にも血圧を上昇させる。

 

減塩し過ぎないように

 人々が極端な減塩のメッセージを守って、危険なことである全ての塩を摂らないように試みることをララフは心配している。減塩が血圧を下げると言ってもわずかな程度である、と彼は述べている。“(アメリカ人の塩摂取)の数値が高いのは本当であるが、摂取量を(下げること)は必ずしも誰にでも当てはまることを意味しないことも同じ様に本当である。減塩で高血圧になることを十分に防げる訳ではない。”とアメリカ高血圧協会の創始者で会長のララフは言った。

 減塩は高血圧患者の血圧を正常化しないが、全人口の血圧を下げ、その結果として全人口にわたって脳卒中や心不全の危険率をさげられるかもしれない、とトマセリは言った。

 1997年に32件の臨床研究のメタアナリシスで、1日当たり5.84 gの減塩は高血圧者で血圧を4.8から2.5 mmHg下げ、正常血圧者で1.9から1.1 mmHg下げると推定された。

 ランセットの2002年の研究は、長期間にわたって収縮期血圧を10 mmHg下げる、または拡張期血圧を5 mmHg下げることは脳卒中による死亡の危険率を40%下げ、冠状心疾患による死亡の危険率を30%下げることを明らかにした。

 減塩は健康に良い食事の主要な要素の一つである、とトマセリは強調している。毎日、果物や野菜を3回から4回食べること、1週間に3回油っこい魚を食べること、トランス脂肪酸や飽和脂肪酸を避けることも重要である。

 

減塩するのであれば

 塩の代わりとなる物はないが、料理でレモン・ジュースやいろいろなハーブやスパイスを使えば、味を良くし、苦味を抑え、口当たりを改善する、とフィラデルフィアにあるモネル・ケミカル・センシズ・センター長のガリー・ビーシャムは言った。ナトリウムをカリウムに替えた塩代替物を使うことも別のオプションであるが、塩化カリウムはある人々にとっては塩味ではない、とビーシャムは言った。少しの塩で強い塩味を示す塩味強化剤の開発については予備段階である。研究者達は気付かせないで減らしていく方法を探している。その方法では、塩は少しずつ減らさせるので、人々は気付かない、とビーシャムは言った。人々は多分、8から10%の減塩を味で判断できないし、気付いた塩味の変化でもしばらくすると慣れてしまう、と彼は言った。30 - 40%減塩した研究で被験者は6 - 7週間後にはあまり塩辛くない食事を実際に好むようになった、とビーシャムは言った。

 高血圧の40%は塩に関係している、とニューヨーク・プレスビテリアン病院/ウェイル・コーネル・メディカル・センターの心臓血管疾患センター長のジョン・ララフ博士は言った。