たばこ塩産業 塩事業版 1999.08.25
塩なんでもQ&A
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
《塩の添加物と成分》あれこれ
先日、オーストリアに出張してきましたが、オーストリアは岩塩の産出国とのことで、いろいろと興味を持っていくつか塩を買ってきました。成分表示を見るとカルシウム、カリウムなどの他にカーボネイト、ヨードなど書いてあるのですが、実物を差し上げますので成分表示の解説をして頂けませんか。また、日本の食卓塩には「塩基性炭酸マグネシウム」が添加されていますが、これについても解説して下さい。
(新聞編集室)
塩の試料ありがとうございます。塩専売制度が廃止されてからいろいろな塩が外国から輸入されて販売されるようになりました。この機会に添加物と成分について解説し、お答えとします。
オーストリアの塩の添加物表示
戴いたオーストラリアの塩には添加物について表-1に示す内容が表示されていました。成分については表示されておりません。
表-1 オーストリアの塩の表示添加物 (mg/100 g) |
|
炭酸塩 |
カリウム |
カルシウム |
ケイ酸塩 |
ヨード |
フッ素 |
Freinkristall Salz |
600 |
450 |
400 |
200 |
1.5 |
- |
Spezial Salz |
600 |
500 |
400 |
200 |
1.5 |
20-25 |
Salinesalz |
ヨウ化カリウム0.0025%添加表示だけ |
Tafel Salt |
ヨウ化カリウム添加表示だけ |
カーボネイト(炭酸)はカルシウムと結びついた炭酸カルシウムとして入っております。その働きは塩を固まりににくくしたり、塩結晶の流動性をよくしてサラサラと出やすいようにすることです。ケイ酸塩も同じ働きをします。
ヨードはヨウ化カリウムとしてヨード欠乏症を防止するために添加されます。ヨード欠乏は甲状腺腫、バセドウ病、クレチン病を起こし特にクレチン病は新生児、乳幼児で発育不良、知能障害を起こす恐ろしい病気です。土壌中にヨードが含まれていない地域に住んでいる人々はヨード欠乏症になり、その昔、風土病として恐れられていましたが、今ではヨードを摂取すれば防止されることが分かっておりますので、ほぼ決まった量を必ず摂らなければならない塩に添加する方法が一番よい方法として世界中で取られています。近年、中国の食用塩には必ずヨードを入れるようになりました。
日本ではヨードが沢山含まれている海草を食べる習慣がありますので、この病気が起こることはありませんから塩にヨードを添加することもありません。
フッ素は虫歯予防のために添加されているものです。ヨーロッパではフランスなどいくつかの国でフッ素が添加された塩があります。日本では食品添加物ではありませんので添加されておりません。
外国食用塩の添加物に注意を
海外の塩にはいろいろな添加物が加えられています。ハーブなどの天然物はともかく、塩に加えられる食品添加物は国によってそれぞれ決められています。その国で決められていない食品添加物の入った商品は流通させることができない非関税障壁となっておりますので、国際的に流通できるように食用塩の国際規格案が検討されております。
その中には塩の固結防止剤として塩結晶表面の被覆剤(炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、二酸化珪素など)、疎水性被覆剤(パルミチン酸、ステアリン酸などのカルシウムやマグネシウム塩など)、晶癖剤(フェロシアン化物)の3種類と乳化剤(ポリソルベート80)、加工助剤(ジメチルポリシロキサン)があります。日本で食品添加物として認められていない物も食品添加物として使えるようになっております。そのような食品添加物が入った商品を輸入して販売することはできません。食品添加物は安全性が確認された上で認められている物ですが、塩の固結防止剤として非常に効果の大きいフェロシアン化物については、安全性が確認されておりませんが経験的に安全な物とされて多くの国々で食用塩に添加されています。
しかし、日本ではもちろんこのような塩を輸入して販売することはできません。外国製品については表示をよく見て添加物に注意する必要があります。
日本で使われている食品添加物
(財)塩事業センターが販売している塩の中で、食品添加物が入っているのはサラサラ性を持たせるために塩基性炭酸マグネシウムが食卓塩、ニュークッキングソルト、キッチンソルト、クッキングソルト、精製塩1kgに入っております。
「つけもの塩」には乳酸発酵を促進させるためにリンゴ酸、クエン酸が添加されております。
その他に使える食品添加物としては、主に固結防止剤に限るとクエン酸鉄アンモニウム、無水リン酸ソーダ、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素などがあります。
輸入されている食用塩の成分
海外から自然塩、岩塩としていろいろと多くの塩が輸入されて販売されています。しかし、それらの塩の品質保証、安全性については食品衛生法とか薬事法の観点からしかるべき官庁が監督することになりますが、どれだけ実効を上げているのか疑問です。表-2に海外から輸入して販売されている塩の成分を示します。
表-2 外国から輸入販売されている食用塩 (新野ほか、日本調理科学会誌、32, 39 (1999)より) |
製 品 名 |
原産国 |
主 成 分 (%) |
|
|
水分 |
不溶解物 |
NaCl |
MgCl2 |
CaCl2 |
MgSO4 |
CaSO4 |
KCl |
フルールデセル・塩の花 |
フランス |
9.76 |
0.08 |
84.56 |
2.62 |
- |
1.86 |
0.66 |
0.47 |
ゲランドの塩「塩の花」 |
フランス |
9.81 |
0.08 |
86.88 |
1.37 |
- |
1.16 |
0.53 |
0.28 |
ゲランドの塩(あら塩) |
フランス |
6.52 |
0.45 |
90.96 |
0.73 |
- |
0.64 |
0.58 |
0.16 |
ゲランドの塩(顆粒) |
フランス |
2.63 |
0.42 |
93.94 |
1.12 |
- |
1.07 |
0.56 |
0.21 |
ブルターニュの海塩 |
フランス |
1.92 |
0.66 |
94.87 |
0.89 |
- |
0.84 |
0.70 |
0.22 |
ゲランドの塩(粗粒) |
フランス |
6.99 |
0.33 |
89.64 |
1.13 |
- |
1.09 |
0.55 |
0.22 |
アンティカ・サリナ細粒 |
イタリア |
1.14 |
0.03 |
98.05 |
0.19 |
- |
0.11 |
0.23 |
0.05 |
シチリア天然海塩(細粒) |
イタリア |
2.04 |
0.04 |
96.09 |
0.74 |
- |
0.05 |
0.37 |
0.19 |
低鈉塩 |
中国 |
4.86 |
0.00 |
69.36 |
0.22 |
- |
4.08 |
0.08 |
21.37 |
浜菱 |
中国 |
2.72 |
0.03 |
96.78 |
0.11 |
- |
0.05 |
0.27 |
0.03 |
浜菱焼き塩 |
中国 |
1.21 |
0.00 |
97.39 |
0.00 |
- |
1.07 |
0.23 |
0.15 |
サレディロチャ |
イタリア |
0.02 |
0.00 |
99.86 |
0.000 |
- |
- |
0.061 |
0.068 |
クリスタル塩 |
アメリカ |
0.15 |
0.00 |
99.54 |
0.019 |
- |
0.006 |
0.095 |
0.038 |
アルペンザルツ① |
ドイツ |
0.02 |
- |
98.19 |
0.04 |
- |
0.00 |
0.03 |
0.09 |
ライトソルト② |
アメリカ |
0.06 |
- |
45.81 |
0.00 |
0.02 |
- |
0.07 |
53.29 |
クロイターアルペンザルツ③ |
ドイツ |
1.88 |
- |
79.58 |
0.24 |
0.09 |
- |
0.44 |
1.09 |
パンソルト④ |
フィンランド |
1.45 |
- |
58.64 |
0.01 |
- |
6.14 |
0.02 |
29.39 |
グロセルマランオザルグ⑤ |
フランス |
1.68 |
0.33 |
97.48 |
0.04 |
0.01 |
- |
0.10 |
0.06 |
製 品 名 |
微 量 成 分 (mg・kg:ppm) |
|
Br |
PO4 |
B |
As |
Hg |
Pb |
Cd |
Cu |
Li |
Al |
Cr |
Mn |
Fe |
Zn |
Sr |
フルールデセル・塩の花 |
495 |
2.5 |
26 |
0.08 |
ND |
ND |
ND |
ND |
1.3 |
12 |
ND |
7.4 |
24 |
0.7 |
54 |
ゲランドの塩「塩の花」 |
329 |
3.1 |
16 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.7 |
14 |
ND |
3.7 |
23 |
ND |
53 |
ゲランドの塩(あら塩) |
234 |
5.9 |
10 |
0.04 |
ND |
0.8 |
ND |
ND |
0.5 |
64 |
ND |
2.4 |
116 |
0.4 |
54 |
ゲランドの塩(顆粒) |
273 |
5.7 |
17 |
0.04 |
ND |
0.6 |
ND |
ND |
0.7 |
65 |
0.8 |
5.3 |
114 |
0.4 |
61 |
ブルターニュの海塩 |
239 |
7.3 |
12 |
0.05 |
ND |
0.8 |
ND |
ND |
0.7 |
104 |
0.9 |
3.3 |
158 |
0.6 |
55 |
ゲランドの塩(粗粒) |
304 |
5.0 |
16 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.7 |
58 |
ND |
4.9 |
98 |
0.4 |
68 |
アンティカ・サリナ細粒 |
120 |
ND |
1.5 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
6.3 |
ND |
4.3 |
8.1 |
ND |
25 |
シチリア天然海塩(細粒) |
305 |
ND |
8.5 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.4 |
2.5 |
ND |
0.5 |
9.6 |
ND |
42 |
低鈉塩 |
343 |
ND |
0.6 |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.9 |
ND |
ND |
ND |
4.8 |
3.5 |
ND |
11 |
浜菱 |
88 |
ND |
1.8 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
5.1 |
ND |
4.8 |
7.9 |
ND |
30 |
浜菱焼き塩 |
101 |
ND |
2.7 |
ND |
ND |
ND |
ND |
2.2 |
ND |
5.3 |
ND |
5.3 |
8.5 |
ND |
55 |
サレディロチャ |
97 |
ND |
4.8 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
1.0 |
ND |
1.3 |
1.3 |
ND |
2.8 |
クリスタル塩 |
137 |
ND |
0.5 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.2 |
0.4 |
ND |
18 |
アルペンザルツ① |
127 |
ND |
0.7 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.8 |
4.9 |
ND |
ND |
2.7 |
ND |
1.6 |
ライトソルト② |
297 |
3,410 |
0.6 |
ND |
ND |
0.07 |
ND |
ND |
ND |
2.1 |
ND |
0.7 |
1.7 |
ND |
1.4 |
クロイターアルペンザルツ③ |
114 |
- |
5.1 |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.9 |
0.3 |
14 |
ND |
2.5 |
31 |
1.3 |
5.6 |
パンソルト④ |
123 |
- |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
1.6 |
ND |
0.2 |
2.4 |
ND |
0.5 |
グロセルマランオザルグ⑤ |
91 |
9.7 |
0.7 |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
ND |
0.8 |
ND |
0.6 |
3.7 |
0.3 |
17 |
添加物:①炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、: ②燐酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム: ③炭酸カルシウム、ハーブ、ケイ酸: |
④塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、リジン塩酸塩、: ⑤海草 (ND:測定限界未満) |
微量成分の中でAs(ヒ素)、Hg(水銀)、Pb(鉛)、Cd(カドミウム)、Cu(銅)、は有害汚染物として食用塩の国際規格案の中で許容される汚染濃度が決められています。それらの許容濃度はそれぞれの元素と
して0.5, 0.1, 2, 0.5, 2 ppm以下となっております。Cr(クロム)が有害汚染物に入っていないのは通常、塩に入ってくることは考えられないからかと思います。
フランスから輸入されている塩に水銀、カドミウム、銅以外の物質が検出されていますが、いずれも単独では許容濃度以下ですので国際規格上は問題ないと言えますが、複数の物質を合わせた場合には濃度が高くなります。
日本の食品添加物公定書では食品添加物中の重金属を鉛として表現し10 ppm以下としています。有害汚染物は重金属ですし、鉄も重金属に入りますのでフランスの塩には10 ppm以上となっている製品が見受けられます。
また、フランスから自然塩として輸入されている塩の中には鉄、アルミニウム、鉛が他の塩の何倍もの濃度を示している物があります。鉄はごく低い濃度で検出されることはありますが、アルミニウム、鉛は通常、塩の中には検出されないので非常に不自然です。
塩田の土壌がこれらの物質で汚染されているのか、製造上何らかの人工的な手が加えられているのではないかと考えられます。
フランスから輸入されている塩の中には、見るからに灰色で不純物が多く入った塩があります。この塩は灰色のあら塩と呼ばれるそうです。
自然にできた塩であるが故の証拠で、塩焼き、吸物、漬け物、天ぷら、刺身と工夫すれば美味しく健康的な料理にして食べられると記載されていますが、食品衛生上大丈夫かな思われるような代物です。塩とは本来真っ白な物です。この塩を見ると、かつて特殊用塩で三温糖のような赤い塩があり、その正体は泥であるとさる特殊用塩製造者がけなしたことを思い出します。その効果かどうか分かりませんが、今ではその塩はすっかり色が薄くなっております。成分の中の不溶解物は泥の場合が多いのです。
なお、三温糖の赤い色は砂糖が焦げた色が付いているためです。なお砂糖の焦げた物はカラメルといって食品の色付けに使われます。
◇ ◇ ◇
塩も自由化されていろいろな塩が入ってきて販売されますが、消費者は塩に関する正しい商品知識を持つ必要がありますし、塩事業に携わっている人達は消費者に正しい塩の知識を持たせる必要があると思います。
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