たばこ塩産業 塩事業版  1998.08.25

塩なんでもQ&A 

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

市販塩のキャッチフレーズと成分組成との

相関関係は?!

−東京都消費生活総合センターの調査結果から−

 

これまで海水を濃縮して塩を作れば、得られる塩の成分組成はほぼ一定で、ナトリウム以外のミネラル摂取を期待することは出来ないし、塩の味が変わるほどマグネシウムやカリウムは含まれていないことを、このQ&Aで答えてきました。

 東京都消費生活総合センタ−には消費者から「塩事業センタ−の塩と特殊製法塩などとは何がちがうのか」、「キャッチフレ−ズは本当か」といった問い合わせや相談が寄せられ、それらに答える資料として、「ミネラル・バランスがよい」のミネラルは、何がどのくらい入っているのか、「おいしい塩」は本当においしいかなど、「家庭用塩」と「特殊製法塩など」の違いを調べて、[いろいろな「塩」−塩とミネラルとキャッチフレ−ズ−]と題する88ぺ−ジの小冊子を商品テスト課が出しました。この資料からいくつかの話題になっている塩の成分組成とキャッチフレ−ズを抜粋し、また、典型的な成分の違いがある塩で食味テストを行った結果を紹介します。

塩の成分分析結果

 テストされた塩は塩事業センタ−の塩が9銘柄、特殊製法塩が37銘柄、輸入されている塩が6銘柄です。食味の比較調査を行っている6銘柄を含めていくつかの特殊製法塩と輸入品の成分分析結果をキャッチフレ−ズの一部とともに表1に示しました。

 表1 塩の成分分析結果 (%表示)
食味テスト試料No 商品名 乾燥減量 食塩 カルシウム マグネシウム カリウム 硫酸イオン 臭化物イオン キャッチフレ-ズの一部
@ 精製塩 0 99.7 0.01 0.07 0 0.01 0.01 0 (原塩を精製した塩)
A 食塩 0.2 99.4 0.04 0.02 0.09 0.03 0.07 0 (イオン交換塩)
粟国の塩 8.5 84 0.57 0.76 0.25 2.75 0.06 0.0002 いのちは海から
B 自然海塩海の精 10.2 82.5 0.48 0.77 0.25 2.09 0.06 0 母なる海のエキス
フル-ルドセル 8 86.6 0.17 0.56 0.15 1.26 0.04 0.0013 ミネラル豊富な自然海塩
シチリア天然海塩 1.2 95.7 0.12 0.31 0.09 0.56 0.03 0.0007 ミネラル豊富
C 赤穂の天塩 4.2 92.9 0.03 0.34 0.01 0.1 0.01 0.0001 “海の母液”ニガリを含んだ粗塩です
D 赤穂あらなみ料理塩 0.1 99 0.15 0.01 0 0.01 0.01 0 精製された天日塩にカルシウムを加えました
伯方の塩(粗塩) 3.7 94.1 0.09 0.09 0.02 0.23 0.01 0 にがり(ミネラル)を残した自然の風味
瀬戸のほんじお 5.1 85.6 0.16 0.29 3.54 0.01 0.23 0 ミネラル(にがり)たっぷりの海の粗塩
ヨネマ-ス おきなわの塩 6.4 92.1 0.03 0.03 0.03 0.05 0.02 0.0002 自然の味、自然のS、長寿の塩
エンリッチ塩 0.1 98.3 0.3 0.02 0.05 0.06 0.06 0.0002 おいしくまろやか
シママ-ス 沖縄の塩 3.2 94.6 0.09 0.04 0.01 0.25 0.01 0 昔ながらの自然の風味
E 長者のうまい塩 1.4 95.9 0.04 0.3 0.02 0.79 0.02 0.0003 自然の恵みと味へのこだわりから生まれました
アルペンザルツ 0 97.8 0.39 0.09 0.05 0.03 0.02 0.0003 ドイツ産アルプスの岩塩

乾燥減量は水分と考えて良いと思います。表から水分がずいぶん多く入っている塩があることが分かります。乾燥すれば水分は0.数パ−セント以下になりますので、1パ−セント以上もある塩は未乾燥塩です。カルシウムは通常、硫酸カルシウムとして入っており、水に溶けませんが、中には炭酸カルシウムとして添加されているものもあります。味にはいずれも影響を及ぼさないと考えて良いと思います。マグネシウム塩はにがりの主要成分の一つでもあり、水に良く溶けるので味に影響を及ぼします。カリウム塩も水に良く溶けるので味に影響を及ぼします。カリウムの多い塩が一点ありますが、これはカリウム塩を添加した塩と考えられます。硫酸イオンは硫酸カルシウムとして入っています。
 海水を原料とし、自然をうたった塩は大体水分が多いのが特徴です。また、カルシウム、マグネシウムも多いのですが、カルシウムは体内に吸収されません。問題はこれくらいのマグネシウム濃度で味が見分けられるかどうかです。

塩の食味テスト

 都民200 人について塩の購入アンケ−ト調査をして特殊製法塩などを使用している148人の購入理由を見ると、カルシウム、マグネシウム等のミネラルを含むから(39%)、味がよい(34%)など成分や味覚に関する理由を約3/4 の人があげています。そこで30人で食味テストを行いました。
 塩の違いを見分けるテスト方法は、外見上見分けにくい試料を3点用意し、その内の2試料は同じ塩を使った物で、1試料だけ違う塩を使って行われました。3試料を食べ比べ違う塩を使った試料を見分ける方法です。2種類の塩を使った試料のどちらを好ましく感じたか、それぞれの試料をどう感じたかも尋ねました。このテストで見分けられた人が多いほど、味の違いがはっきりしていることになります。
 好ましい塩を選んでもらうテスト方法は、外見上見分けにくい試料を3点用意し、3点とも違った塩を使った試料とし、好ましさの順位(1〜3)を付けてもらい、好ましさの感想も尋ねました。各回答者の順位の合計(または平均点)が小さいほど好まれ、順位の合計(または平均点)の差が大きいほど、各回答者が同じような順位付けをしたことになり、好みに明らかな違いがあることになります。

塩の違いを見分けるテスト結果

 食味テストをした試料は表1に丸数字で示した6点です。食味テストの調理品は表2に示したものです。塩の濃度は同じになるように調整されています。食味テストに使用した塩の組み合わせは@とBの組み合わせ、および@とCの組み合わせですが、Bが一番マグネシウム濃度が高く、味に違いがあると思われます。

表2 食味テストに用いた調理品
調理品 調理の方法 塩分
ごはん 味つけごはん風に、米1合、酒大さじ1、塩2.5g(注)の割合で炊いた 約0.7%
すまし汁 だし汁1.5 ?、醤油小さじ2、塩10 g(注)の割合で作った 約0.9%
白菜の漬物 干した白菜に重量の3%の塩(注)をまんべんなく振り、重しをのせ、さらに白菜の重量を3割量の3%食塩水(注)を注ぎ入れ、ふたをして冷蔵庫に1週間入れておいた 約0.3%
(注)乾燥した塩に換算してはかりとった。例えば水分(乾燥原料)が10%の塩では、10 gの塩のうち1gは水分なので、乾燥した塩として10gになるように11.1g計りとった。

@とBの組み合わせで味の違いを見分けられたかどうかの結果は図1に示す通りで、“塩”“ごはん”“すまし汁”では、味に違いがあると正しく感じた人は少なく、見分けられたとは言えませんでした。“漬物”は27人中19人が味に違いがあると感じ、見分けられたと言えます。Bよりもマグネシウム濃度が約半分になり、カリウムが1/25になっているにがり入りの塩Cと@の組み合わせで味の違いを見分けられたかどうかの結果は、塩といずれの調理でも見分けられた人は半分以下で、にがりが入った塩と入らない塩で明確に味の違いを感じとれなかったようです。
 味の違いが分かった人の味の評価を@とBの組み合わせで見ると、“漬物”で味の違いが分かった人の味の感じ方は、@の塩は「塩辛い」、「甘い」がほぼ同数でしたが、Bの塩は「塩辛い」が多めでした。また、Bは「苦い」が2人、「うすい」が1人いましたが、まろやかな美味しさを感じた人はそれほど多くありませんでした。 “漬物”について好ましい方を選んでもらった結果は19人中@を選んだ人が9人、Bを選んだ人が8人で無回答が2人でした。ほぼ半々に分かれており、どちらの塩が好ましいと言うことはできませんでした。
 @とCの組み合わせでは、味の違いを見分けられた人が少なかったため、両者に特段の傾向があるとは言えませんでした。

好ましい塩を選ぶテスト結果

 好ましい塩を選んでもらうテストでは、AとBとCの組み合わせとAとDとEの組み合わせで行いました。最初の組み合わせは、にがりの量に差がありますので、味の点で一番よく言われる問題点が浮き彫りにされると考えられます。後の組み合わせは食塩とカルシウム含有の調理用の塩とミネラル含有の「うまい」をうたった塩の比較です。
 この場合には成分的に見るとさほど違いが出るようにも思えませんが、はたしてどうでしょうか。
 さて結果を見ると、AとBとCの組み合わせでは、図2に示すようになり、“塩”では点差が大きく、BとCの塩に比べるとAの塩は点数が大きく、BとCの塩は好まれ、Aの純度の高い塩は好まれなかったと言うことができます。しかし、調理した試料になると各塩とも大きな点差はなく同じようで、特に好まれると言える塩はありませんでした。
 味の評価では、“塩”ではAの塩に「塩辛い」が多く、BとCの塩に「甘い」と「まろやか」が多くなりました。これがよく塩を舐めてのコメントの違いを裏付けています。“ごはん”ではAの塩に「塩辛い」が多く、BとCの塩には「うすい」という感想がありました。“すまし汁”ではAの塩に「塩辛い」が多く、Bの塩には「うすい」という感想がありました。“漬物”ではA、B、Cの塩とも「塩辛い」が多くなりました。
 AとDとEの組み合わせでは、図3に示すようになり、平均値にバラツキが出ました。
 私にとっては前の組合わせで調理品の点差が少なかったのは意外でしたが、この組合わせでも特に調理品で点差が大きくバラツイたのは意外でした。点差の大きいものを見ると、“ごはん”ではAの塩が好まれ、Dの塩が好まれませんでした。“漬物”では逆にDの塩が好まれ、Aの塩が好まれませんでした。試料によって評価が違っており、すべての調理で好まれる塩はありませんでした。 味の評価では、“塩”ではA、D、Eの塩とも同じような傾向でした。“ごはん”ではEの塩に「塩辛い」が多く、Aの塩で「まろやか」が多めでした。“すまし汁”ではDの塩に「塩辛い」が多く、Eの塩で「まろやか」が多くなりました。“漬物”ではAとDの塩に「塩辛い」が多く、Eの塩で「甘い」の割合が多くなりました。
                        ◇    ◇    ◇
 カリウム含有量の多い塩は味が違うと思われますし、フランスから輸入されている評判の塩もはたして効能書き通りの効果があるのか興味のあるところですが、残念ながら食味テストは行われませんでした。

適正表示の環境整備へ

 平成10年4月1日より「栄養表示基準制度」が本格的に実施され、ミネラルやカルシウムを含む、あるいは豊富などと記載する場合、ミネラルの種類とその量の表示が義務づけられるようになりましたので、表示を確認して適切な商品を選択するように、消費者に呼掛けています。また、「自然・天然」」という表現が根拠のないままに安易に使われていることから、適切な表示基準の検討を国に要望すると記載されております。
 消費生活総合センタ−の塩に関する商品テストの結果を紹介しましたが、かなりの商品の姿がはっきりと示されましたし、消費者に正しく適切な情報を提供していく環境が整えられてきました。これから次第に適正に表示されてくるようになると思います。


   図−1 @とBの組み合わせの判別結果

   図−2 A、B、Cの組み合わせの嗜好結果(平均点)

    図−3 A、D、Eの組み合わせの嗜好結果(平均点)