たばこ産業 塩専売版 1995.08.25
「塩と健康の科学」シリーズ
(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与
橋本壽夫
食塩摂取量と平均余命
日本はいまや世界一の長寿国である。平成6年の簡易生命表による平均余命の統計では、男性が76.57歳、女性が82.98歳で、前年よりそれぞれ0.32年と0.47年だけ延び、相変わらず長寿に向けて進んでいる。それにもかかわらず、減塩、禁煙、減糖、減コレステロールの声は強く、それに反すれば、健康を維持できなくなるような恐怖を煽っているように思われる。普段の生活の中で、これらのことがどうも少しおかしいのではないかと思っている人もあろう。とりわけ食塩については生命維持に不可欠な物であり、食生活の基礎物資である。日本人の食塩摂取量が多いことから国民栄養調査の中で毎年の動向が話題になっている。今回は食塩摂取量と平均余命の関係について述べる。
一般的な考え方からの推論
一般的には、食塩摂取量が多いと成人病になる危険率が高くなり、したがって、いろいろな成人病による死亡率が高くなるので、平均余命は短くなると考えられる。
しかし、これまでに述べたように、食塩摂取量と成人病疾患率との関係はなく死亡率では脳血管疾患だけに関係がみられた。
そこで、平均余命との関係は疾患率から考えると関係なさそうであるし、死亡率から考えると若干関係がありそうにも思われる。食塩摂取量という単一の指標で寿命が整理されるはずはないのであるが、減塩の声が強いと関係を整理してみたくもなる。果たして結果はどうであろうか。
平均余命
平均余命は毎年、厚生省統計情報部から簡易生命表として各年齢毎に発表される。
それぞれの年齢の人が平均してあと何年生きられるかということを平均余命と称し、年齢が0歳の人の平均余命を特に平均寿命と称している。すなわち、調査した年に生まれた人が平均的に生き延びられる年齢である。
したがって例えば、すでに83歳の女性は8年余りの平均余命があるので、平均的には90歳以上まで生き延びられるということになる。
食塩摂取量と平均余命
食塩摂取量と平均余命の関係を0歳と60歳の男女について1980年から5年毎に整理して図1,2にしした。男子の平均余命はいずれの年も同じような傾向示し、昔は食塩摂取量の増加に伴って若干平均余命が低下する傾向にあったが、1990年では逆に増加する傾向になっている。また、食塩摂取量は成人病と関係があるといわれていることから、60歳の平均余命の方が右下がりの勾配が大きくなりそうなものであるが、実際には逆でゆるやかになっている。つまり、食塩摂取量が平均余命を縮めることはなさそうに思われる。
図1 男子の平均余命
図2 女子の平均余命
女子の平均余命については、男子と少し違って、いずれの年も食塩摂取量の増加に伴って平均余命が若干低下する傾向を示しているし、高齢の場合の食塩摂取量と平均余命との関係は0歳の場合とほぼ同じである。
以上、食塩摂取量と平均余命との関係は若干負の関係にある傾向がみられる場合もあるが、正の関係がみられる場合もあり、また、負の関係があると仮定して考えた場合、影響の現れやすい高齢の関係を説明できない場合もあり、食塩摂取量の多さが平均余命を縮めるとは明確にいえない。
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