たばこ産業 塩専売版  1995.03.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

その後の食塩摂取量と疾患死亡率および受療率との関係(1)

疾患別年齢調整死亡率

 5年前に本紙で食塩摂取量と高血圧性疾患、その他疾患死亡率や受療率との関係を述べたことがある。その後、厚生省大臣官房統計情報部から1992年に1990年の疾患別の年齢調整死亡率が発表され、同じく1992年に1990年の患者調査結果が発表された。そこで前の状態からその後どうなったか、追跡整理して述べる。

年齢調整死亡率
 疾患別年齢調整死亡率の詳細な結果は5年毎に行われる国勢調査の年に合わせて報告される。1990年にその調査が行われ、結果は1992年に報告された。この時、基準となる人口構成はより近い現状に合わせるため、前の昭和35年から昭和60年のモデル人口に変更された。これに伴って従来発表されてきた訂正死亡率の数値も新しい人口モデルに合わせて見直し、名称も年齢調整死亡率と変更したが、数値は大幅に上昇した結果となっている。全国平均で高血圧、脳血管疾患、脳出血について図1に示した。報告書では男女別にデータが発表されているが、食塩摂取量との関係をみていく場合には平均する必要があるので男女の積数平均値とした。死亡率はいずれの疾患もほぼ従来の延長線上で低下しており、減塩との関係はますます薄れていくようである。

全国平均患者死亡率の推移
        図1 全国平均疾患死亡率の推移

食塩摂取量の最高(東北)と最低(近畿T)地区の状況
 毎年発表される食塩摂取量の最高地区は東北6県で、最低地区は近畿Tの3県である。両地区の食塩摂取量とあわせて各県の疾患死亡率の推移を図2に示した。食塩摂取量の差は以前に比べると小さくなっているが、だいたい2グラム以上の差は依然としてある。一方、死亡率をみると、高血圧では差はないが、脳血管疾患、脳出血では食塩摂取量の高い地区の方が死亡率は高い。しかし、両地区の差は次第に小さくなってきており1990年では、脳出血には差はなくなり、脳血管疾患でもほとんど差はなくなってきた。このような結果からみると、両地区の食塩摂取量の差はなくなっていないにもかかわらず、脳血管疾患や脳出血の死亡率の差がなくなってきたことは食塩摂取量との関係は少ないように思われる。

県別疾患死亡率の推移
         図2 県別疾患死亡率の推移
         
 また、1990年の3疾患の死亡率は従来の延長線上で低下しており、近年の食塩摂取量の増加傾向を考えると、死亡率の低下は食塩摂取量とは関係していないように思われる。今年1995年には、再び詳細な調査が行われるので、その結果を引き続き解析したい。