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たばこ塩産業 塩事業版  2016.3.25

塩・話・解・題 132 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

「粟国の塩」作りに迫る──㈱沖縄塩研究所を訪ねて

採かんタワーで立体濃縮

 

 那覇市の泊港から北西に向かって60 km離れた粟国島の最北端で「粟国の塩」は作られている。強固なコンクリート製の彩かんタワーによる立体濃縮で海水を濃縮し、主として平釜で木材を焚きながら煮詰めて商品「粟国の塩」を生産している。工場見学の機会を得たので、その概要を紹介する。

 

高さ10mから15千本の竹をつるした枝条架で採かん

 海水を濃縮して濃い塩水を作る工程を製塩では採かん工程と言い、できた濃い塩水のことをかん水という。そのかん水をさらに蒸発させて煮詰めると塩が出来る。この工程をせんごう工程という。せんごう工程では燃料を使うので、かん水の濃度は濃いほど良い。濃いかん水を効率よく安いコストで作るためにはいろいろな工夫が必要である。産業的には入浜式塩田から始まった採かん工程は立体濃縮装置を付設した流下式塩田を経て、現在ではイオン交換膜を用いた電気透析槽で行われている。

 入浜式塩田から流下式塩田になったとき、立体濃縮装置により採かん能力は飛躍的に向上した。粟国の塩では流下式塩田の流下盤を除いた立体濃縮部分の枝条架を利用している。

その構造は枝条架とは異なり写真1に示す独特な形をしている。毎年たびたび台風に襲われる現地ではこのような構造にならざるを得ない。コンクリートで構築した強固な枠内に風が通り抜けられるように側面がくり抜かれた特殊な形状のコンクリートブロックを詰め込んで作られた幅15m、奥行き6m、高さ10 mの採かんタワー(立体濃縮装置)でかん水作りをしている。タワーの中には15千本もの竹(布袋竹と思われる)が高さ8m程度で4段にわたって吊り下げられており、竹を伝って上から海水が滴り落ちている。海水はポンプで循環され、パンフレットによれば1週間以上をかけて海水の67(塩分20%前後)まで濃縮されるという。

図1 採かんタワー


        写真1 採かんタワー

 採かんタワーには天井がなく、雨が降れば操業を止める。蒸発した水分はタワー側面の穴や天井から出ていく。濃縮された海水は竹を伝って滴り落ちるが、風の強さによっては濃縮された海水まで吹き飛ばされ、採かんの歩留まりが低下するので、タワー側面の開口面積をどの位にするかが重要な問題となり、最初に建設したタワーで最適な開口部の面積を割り出して写真に示すタワーが建設された。

 塩田における海水蒸発は太陽熱により大きな影響を受ける。しかし、立体濃縮装置のタワーでは蒸発量は大気の相対湿度に支配される。風速が速く相対湿度が低いほど濃縮効率は向上する。従って、相対湿度の高い夏場より低い冬場の方が採かん量は多い。実際に夏場ではかなりうすい濃度のかん水しか採れないという。海水は夜間でも効率よく濃縮されるので、雨が降らない限り昼夜連続で操業される。

 パンフレットの謳い文句によるとかん水濃度は海水の6倍以上になるという。海水がここまで濃縮されると硫酸カルシウム(石こう)が析出し、竹に付着する。しかし、観察した限りでは石こうの付着はないことから、その濃度まで濃縮されていないと判断された。塩の生産量を確保するため、濃度が低いかん水でもせんごうしなければならないとの話であったので、石こう付着がないことが納得された。

 

柄ぶりでかき混ぜながら30時間以上かけせんごう

 かん水は煮詰めによるせんごう工程かまたは天日濃縮によって塩製品とされる。天日濃縮は写真2に示すガラス張りの温室内で行われる。二段に配置されたタイル張りの水盤にかん水を張り込み、塩結晶が大きくならないようにときどき撹拌しながら塩を析出させる。塩を収穫するまでに夏場で20日間、冬場で60日間ほどかかるという。

図2 天日塩を生産する温室

       写真2 天日塩を生産する温室

 ほとんどのかん水は写真3に示す平釜で煮詰められる。採塩する時に塩をかき揚げ易いように傾斜を付けた縁取りで深さ20cm2m平方の平釜が炉の上に設置されている。木材(廃材)を燃料として昼夜、木製の柄ぶりでかき混ぜながら30時間以上をかけてゆっくりとせんごうする。かん水濃度がうすい時には途中でかん水を追加し、1回のせんごうで100から150kgの塩を採取するという。柄ぶりでかき混ぜる理由は塩の焦げ付きを防ぐためと塩の結晶が大きくならないようにするためで、母液であるにがりが塩によくなじんで付着しやすくするためであるようだ。結晶が小さければその表面積は大きくなり、それだけ付着するにがり(ミネラル)の量も多くなる。

図3 平釜によるかん水煮詰め

     写真3 平釜によるかん水煮詰め

 炉の焚口は中央に1ヵ所あり、平釜全体に炎を広がらせるには木材燃料の方が良いと考えている。平釜が設置されている奥(煙突側)には熱回収のためにかん水を入れた水槽が設置されている。最初に製作した平釜素材の肉厚は3mmであったが、その後8mmにしている。平釜の材質については側面をステンレスで、底板を鉄板としている。底板をステンレスにすると亀裂が入るという。鉄板では赤さびが心配されるが、かん水中の酸素濃度は低いので、心配するほどの影響はなく、上手く管理しているようだ。

熱膨張によって側板は曲がってしまう。写真3で一番火当たりの強い焚口が大きく上に反り曲がっていることがよく分かる。他の3辺には曲がりは見られない。熱膨張によるゆがみは側板だけでなく底板もゆがんで凸凹になるという。従って、塩が焦げ付かないように混ぜていても凹んでいる部分を混ぜることはできない。塩が焦げ付くとは、塩が固まってしまうことを指しているようだ。実は、石こうの溶解度は高い温度で低くなるので、加熱されて温度が高くなっている底板の部分で石こうの析出が生ずる。つまり、釜底に石こうが付着し、かき混ぜないでおくと塩の析出と一緒になって分厚く固まってしまう。石こうの付着は熱を伝えにくくするので、出来るだけ付着させないようにしなければならない。これはイオン交換膜製塩法による真空蒸発缶でも同じで、伝熱管に石こうが付着しない工夫が様々にされている。

 平釜製塩では伝熱面に石こうを付着させないようにすることはできない。採塩した後で底に付着している石こうがひび割れて底板から浮き上がっている時には、隙間にヘラを差し込んで剥がしてから新しいかん水を張り込む。剥がされた厚さ5,6mm程度の石こう片が幾つかざるの中にあった。月に二回は付着した石こうをハンマーで叩き壊してきれいに掃除するという。

 

数少ない「本当のにがり」商品

 採塩された塩は写真3の右側にある水切り槽に移されて4日間以上自然の状態でにがりを落とし、その後、塩を山型に整えて扇風機で3日間以上をかけて自然乾燥させる。目視で塩の異物除去をしながら袋詰め、計量する工程はすべて手作業であった。

 製品に表示されている塩とにがりの主要成分は表1に示す通りである。参考までに塩事業センターが発表しているデータを付記した(*印)が、袋に表示されている数値とほぼ同等であった。天日塩は平釜塩と比べて少し純度が高く、粒径が大きいので粗塩の感じである。いずれも水分表示はないが、塩化ナトリウムの純度からかなり高い水分量と推察される。

表1 「粟国の塩」の品質 100g当たりのg数
主要成分 平釜塩 天日塩 平釜塩 *
ナトリウム 28.2 29.6 28.36
マグネシウム 1.53 1.7 1.63
カルシウム 0.55 0.514 0.5
カリウム 0.56 1.42 0.54
塩化ナトリウム 71.7 75.2 72.08
*:市販食用塩データーブックより

 採塩した後に残る液はにがりである。表1のナトリウムとマグネシウムの比を計算すると0.33となる。この値はにがり領域にあることを示している。多くの市販されているにがりともいえない製品の中で本当のにがりである数少ない商品の一つである。

 

 長らくのご愛読ありがとうございました。塩に関する情報を紙面で提供することが出来なくなりましたが、ホームページ「橋本壽夫の塩の世界」

http://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/で引き続き提供していきたいと思っています。

 引き続きのご愛読をお願い致します。