たばこ塩産業 塩事業版 2015.9.25
塩・話・解・題 126
東海大学海洋学部 元非常勤講師
橋本壽夫
イギリス塩協会の情報発信サイトから
1.減塩の危険性
イギリス塩協会から財政援助を受けて塩に関する様々な情報を発信している「SaltSense」と称するサイトがある。塩に対して正しく認識してもらうための話題をいくつかの分野に分けて記事を掲載している。その中に「塩と健康」分野があり、この度は多くの記事の中で減塩の危険性についての話題を選んで紹介する。
多彩な内容の「SaltSense」
塩と健康について問題が生じたとき、偏向した議論にならないよう均衡を持たせるための情報提供を目的としてこのサイトはイギリスの塩協会(Salt Association)からの資金援助で運営されている。例えば、塩が悪者にされ、減塩を勧める情報ばかりが流されている中で、科学的根拠をもって減塩には危険なこともあり、政府の減塩政策を批判した情報を提供している。
提供している情報分野は「塩と健康」だけではなく、「料理人の台所」、「融氷雪」、「塩の事実」、「塩の歴史」、「塩ニュース」など8項目に分類されており、情報が得られ次第、適宜に発信されている。塩と健康に関して新しい学術論文が発表されればそれを紹介しながら意見を書き、また既に一般化されている塩に関する事実も紹介されている。
数ある分野の中で「塩と健康」の発信件数が一番多く、2012年9月5日付けの記事から始まり現在までに33件ある。「塩ニュース」は2012年7月17日に始まり16件、「調理人の台所」は2012年7月14日に始まり10件、「塩の歴史」は2013年2月19日に始まり3件、「融氷雪」は2012年11月28日に始まり5件、「塩の事実」は2014年1月20日に始まり4件となっている。各分野の専門家が情報を収集しているようであるが、掲載する記事の筆者はSarah Purvis氏だけのようだ。
心不全の危険率が増加
今回は「塩と健康」分野の中で、減塩の危険性や政府の減塩政策に対する批判記事を集めて表題とともに内容を紹介する。掲載時期からイギリスにおける塩に関する関心事項の変遷が分かる。
「減塩食は胸焼けの原因かも」(2012.9.5)。これが最初の投稿。過去30年間、高い塩の摂取量が健康に悪いと言うしばしば不正確な情報が沢山流されてきたので、国民に減塩を勧めるようになった。しかし、塩摂取量が少ないと、胃酸(HCl:塩酸)が十分に作られないので、タンパク質や炭水化物は分解されず、酸っぱいげっぷ、酸の逆流、胸焼けを起こす。酸の過剰生産によるためと教えられてきたが、反対で、その証拠にこの時レモンをしゃぶるか、りんご酢を飲むと治る。
「妊娠中の減塩は子供の腎臓問題と関係」(2012.10.19)。塩摂取量を低、中、高と分けたラットの実験では、妊娠中に低塩食であった母親からの子供は腎糸球体の数が少なく、他の成長因子も低かった。妊娠中に過激な減塩をすると、生まれた後で子供に不都合な問題を引き起こすことを示唆している。
「減塩食は心不全の危険率を増加」(2012.9.14)。アメリカ、イタリア、イギリス、カナダの医学者たちがイギリス心臓血管学会誌Heartで心不全患者に関する研究をレビューし、減塩食は通常食と比べて有意に心不全になり易いことを示した。他に過去3年間に減塩の危険性を示した多くの論文によると、高い心不全発症率と同様に推奨量までの減塩は糖尿病、認識力喪失、老人の転倒を引き起こすことが示された。
「塩悪者説を混乱させる研究」(2013.1.16)。オーストリアの研究チームは10年間にわたって老人683人の2型糖尿病患者の塩摂取量を観察してきた結果、極端な減塩食を拒否した人々で心疾患や脳卒中による死亡の危険率が28%低下した。政府は減塩運動を中止すべきではないかとの疑問が生ずる。
「偏向のない情報に賛同し‘塩は有害’メッセージを破棄」(2013.2.5)。政府の‘塩は有害’メッセージを何の疑いもなく多くの人々は受け入れてきた。この一方的な主張は、減塩食が危険であることを多くの人々に知らせていない。極端な減塩は健康に有害であることを示す様々な研究が発表されるようになった。政府は減塩の危険性も知らせるべきである。
「不正確な証拠に基づく減塩運動を止める時」(2013.2.12)。2011年に行われたルーベン大学のヨーロッパ研究は高塩摂取量と高血圧との間には何の関係もないことを明らかにした。アメリカ医学協会誌に発表された研究は、高塩食よりも減塩食の人々で心臓血管疾患による死亡率が高いという結論を出した。健常者または高血圧者で減塩は心臓発作、脳卒中、死亡の危険率を下げることをアメリカ高血圧学会誌の研究は強力に証明できなかった。2006年のアメリカ医学協会誌とヨーロッパ疫学会誌はいずれも高塩摂取量と心疾患との間に何の関係も見出せなかった。このように証拠は塩に関する戦争を終える必要性を示している。結局、減塩は危険である。
「政府の減塩ガイドラインは健康を害する」(2013.3.13)。減塩食の人々は脳卒中、心臓発作、心疾患に対して危険因子であるレニン、コレステロール、トリグリセライドの各濃度を高くしがちであることをアメリカ高血圧学会誌の研究は明らかにした。減塩食が高い死亡率をもたらすことをアメリカ医学協会誌の論文は示し、わずか7日間で減塩食が健常人にどのようにして糖尿病を発症させるかをハーバード大学医学部の論文は述べた。塩摂取量は過去50年間変わらないのに高血圧症は増加しており、塩と高血圧との関係の可能性はないことを別のハーバード論文は示した。
摂取量減でストレスも
「医学研究所は減塩食の潜在的な害を疑う」(2013.5.28)。アメリカ政府に忠告する非政府組織の医学研究所は次のように述べた。塩摂取量が1日当たり6 g以下になっても心疾患の危険率が低下するという十分な証拠はない。心不全の治療を積極的に受けている中期から後期の患者で、減塩食が健康に悪く危険であるかもしれない証拠がある。塩摂取量を6 gまで下げる努力を数十年間続けていても、アメリカ成人の平均摂取量は8.6 g以上である。現在のガイドラインは時代遅れで、減塩食が心疾患、脳卒中、死亡の危険率を低下させると主張できるほど十分に品質の高い研究はない。したがって、減塩を勧告し続けることは無謀である。
「推奨されている減塩ガイドラインは正しい科学を要求」(2013.6.3)。2003年から2013年までを調べた医学研究所の報告書の結論は、6 g以下の低塩摂取量が心疾患、脳卒中、死亡の危険率を増加させるか、減少させるかを決定できるほどの十分な証拠はない、ということであった。現在の政府のガイドラインは疑問で、推薦に値する根拠のある科学に従って再検討するようにアメリカ製パン者協会の副会長は要求している。厚生省は不十分で時代遅れの研究に基づいて塩摂取量のガイドラインを設定しているので、政府の減塩政策は誤解をまねくと同時に危険性を持っており、協会は賛同できない。減塩の効果に対して新しい十分な証拠がない限り、政府は減塩勧告をすべきではない。
「減塩食は意気阻喪させるか?」(2014.5.23)。ハイファ大学の研究でアメリカ合衆国国民保健栄養試験調査データから10,000人についてレビューした結果は、塩摂取量が少ない人は強い意気阻喪やストレスに陥っていることが多く、男性よりも女性で著しい傾向を示した。強いストレスの期間が延びると、健康に重大な影響を及ぼす。心臓発作の危険性が増したり、免疫系が乱れたり、骨が弱くなったり、精神的な病気となる。アメリカ高血圧学会誌に最近発表された研究では、低塩食と高塩食は両方とも死亡率を増加させ、塩摂取量と健康結果との間にあるU字型関係と一致していることが示された。ストレスを受けてポテト・チップスをとても食べたいと思えば、体はストレスを解消したいと感じていることを忘れてはいけない。
「1日当たり塩推奨摂取量に一層の疑問」(2015.2.17)。これまで心臓血管に問題のなかった老人で、塩摂取量が心疾患や心不全の危険率を増加させないことをエモリー大学の研究者たちは明らかにした。
米国医師会雑誌に発表された研究は71-80歳の老人2,642人についてアンケートにより10年間にわたる塩摂取量を調べた。
その結果によると、これまで健康の専門家が考えてきたよりも塩摂取量が死亡率や心臓血管疾患にあまり影響を及ぼさなかった。この研究の弱点はアンケートによる自己申告に基づいていることであるが、二件の科学的調査も同様の結果を示した。一つ目はアメリカ医学協会の報告で、塩摂取量を6 g/日以下に下げる現在の努力を支持する証拠はないとし、二つ目はニュー・イングランド医学誌で現在の推奨摂取量に疑問を投げかける結果であった。1日当たりの塩推奨摂取量を議論するには、塩摂取量の効果をテストする厳密に管理された試験による強い証拠が必要である。
学術データの情報発信を
以上、イギリス塩協会が塩に関する情報を流しているウェブサイトの「SaltSense」から「塩と健康」分野に分類されている記事の中で減塩の危険性に関する記事を選び出して紹介した。
科学的根拠に基づいた証拠となるデータを紹介して、科学的根拠が曖昧な塩推奨摂取量を設定して減塩を勧めている政府の政策を批判している。またの機会に他の有益な情報についても紹介する。
我が国にも塩業界をまとめる団体がいくつかあり、公的な機関もあることから学術データに基づいて情報を発信する活動の展開を望む。