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たばこ塩産業 塩事業版  2015.8.26

塩・話・解・題 125 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

カリウムの危険性 認識を

 

 高血圧症予防・治療の観点から塩摂取量が問題とされ、塩味を確保しながら塩摂取量を減らす手段として塩化ナトリウム()と塩化カリウムとの混合物である塩代替物の商品が市販されている。この商品の安全性には問題がある。減塩推進者は果物・野菜からのカリウム摂取の効果を説く中で塩代替物の血圧低下効果も述べている。しかし、塩代替物の危険性については述べていないので、別の論文で危険性の情報を併せて紹介する。

 

有効な効果はあれど…

 上席研究者フェン・ジェイ・ヒーはイギリスのセント・ジョージ病院メディカルスクールでグラハム・エイ・マグレガー博士の下で研究し、連名でイギリス医師会雑誌(BMJ)のクリニカル・レビュー欄に論文「カリウムの有益な効果」を発表した(BMJ 2001;323:497-501)。彼らは高名な減塩推進論者で最近では2003年から2011年までのイギリスにおける減塩政策の成果を同誌のBMJ Openに発表している。

 彼らは高カリウム摂取量の血圧に及ぼす効果や別の有益な効果についての証拠を調べて次のように整理している。

1 カリウム摂取量の増加は高血圧者および正常血圧者の血圧を下げる。

 大規模な国際研究であるインターソルト・スタディではカリウム摂取量は集団血圧の決定要因であり、1.17 – 1.76 gの増加は集団の収縮期血圧を平均2 – 3 mmHg低下させた。

2 カリウム摂取量の増加と塩摂取量の低下は血圧低下に資する。

果物・野菜の摂取量が多い高血圧予防食(DASH食でカリウム摂取量が多い食事)では、低い塩摂取量の7.6 g/日に固定した食事の場合でもカリウム摂取量を1.44 g/日から2.77 g/日に増加したとき、血圧に大きな低下を示した。カリウム摂取量の増加と塩摂取量の低下は血圧低下に相乗効果を示した。また、塩化カリウム(塩代替物)の摂取量増加も同様の効果を示した。

3 高カリウム摂取量は脳卒中の危険性を減らし、腎臓の脈管、糸球体、尿細管などの損傷を防止する。

 アメリカの男性保健師43738人および女性看護師85764人による研究で高カリウム摂取量が脳卒中の危険率を下げることが示された。中年男性832人を20年間追跡調査したフラミンガム研究では、果物・野菜の摂取量増加は脳卒中の危険率を22%低下させた。カリウムが腎臓損傷を予防する効果はラットで示された結果で、ヒトでは確認されていない。

4 高カリウム摂取量は尿中カルシウム排泄量を減らし、そのことは腎臓結石の危険率を下げ、骨からの脱塩を防ぐのに役立つ。

 カリウム摂取量の増加は尿中のカルシウム排泄量を減らし、正のカルシウム収支にする。このことは腎臓結石の危険率を下げる可能性がある。45 – 49歳の健常な閉経婦人994人の横断的研究では、高カリウム摂取量で腰部脊柱と大腿頸部の骨ミネラル密度が増加した。骨粗鬆症を予防することにもなる。

5 高カリウム摂取量は2型糖尿病の発症率を低くすることがアメリカ婦人84360人による6年間以上の前向き疫学調査で明らかにされた。

6 血清カリウム濃度の増加は虚血性心疾患、心不全、左心室肥大などの患者で心室不整脈の危険率を減らす。

 40倍近い濃度差がある細胞内カリウムと細胞外カリウムとの関係は心臓収縮組織の電気生理学的な性質を決定するのに重要である。低カリウム血症は再分極を長引かせ、特に虚血性心疾患、心不全、左心室肥大の患者では発症因子である。

7 カリウム摂取量を増加させる最良の方法は、より多くの果物や野菜を食べることである。

 前述の2では塩代替物の血圧低下効果を述べているが、塩代替物の勧めは記載されていない。

「過剰なカリウム摂取量は有害か?」との説明では、大きなカリウム負荷で血漿カリウム濃度が上がれば、腎臓で急速に排泄される。重症な腎臓疾患ではカリウム排泄能力が低下するかもしれない。腎機能不全患者では高カリウム血症が起こるかもしれない。カリウムが静脈に入ると危険性は最大になる。

           ◇           ◇

以上、減塩推進者がカリウム摂取量を増加させることの有益性を説き、果物や野菜を多く食べることを勧めている。しかし、高カリウム血症になる危険性がある可能性までは書かれているが、死に至ることがあるとまでは書かれていない。減塩を進めるために危険性を知らないで塩代替物を使用する風潮があるので、死に至る危険性について警鐘を鳴らす必要があると思う

 

塩代替物の健康リスク

 BMJの論説はカリウム摂取の利益を称賛し、カリウムを含む塩代替物の使用は減塩とカリウム摂取量を増加させる利益があることを主張した。これに対してオランダの腎臓専門内科医のドーレンボーらはBMJの「今週の訓戒」コーナーで「カリウムを含む塩代替物は腎不全患者には危険」と題して次のように述べている(BMJ 2003;326:35-36)

 カリウム摂取量の増加で最も利益を得られそうな高い危険率の集団では、いくつかの治療条件がカリウムの腎臓排泄機能障害により高カリウム血症を起こしやすくする。それらの条件には腎不全、低レニン性の低アルドステロン症による糖尿病、閉塞性尿路病がある。アンジオテンシン転換酵素抑制剤、アンジオテンシンⅡ受容体ブロッカー、カリウム抑制利尿剤といった降圧剤を服用している高血圧患者ではさらに危険性は高まる。

この論文の事例報告では、緊急入院した老婦人の血清カリウム濃度は9.2 mmol/lで緊急処置後7.2 mmol/lまで下がり、その後の血液透析で早く回復し後遺症もなかったが、高カリウム血症の原因は分からなかった。退院して食事指導もされたが、同様の症状を再び起こし、再度緊急入院して、速やかな処置で回復した。医者の質問で患者は塩代替物のLoSalt(66%KCl33%NaClの製品)を使用していたことが分かり、決して使わないように言われた後では、高カリウム血症は起こらなかった。

 筆者は本紙で次のような記事を書いたことがある。― 阪神淡路大震災後に建物・家財・瓦礫に長時間挟まれ・埋もれ、助け出された時には命に別状はないように思われた人々が突然死亡することが度々起きた。最初、原因は分からなかったが、やがて身体の圧迫で細胞が破壊され、細胞内のカリウムが血液に入り高カリウム血症を起こし、心臓が停止したことが分かった。これはクラッシュ症候群として認識されるようになり、現在では災害時に治療順位を決めるトリアージで最優先に緊急治療されるようになった。

 LIVESTRONG.COMでは塩代替物の健康リスクについて次のように記している。

 腎臓に障害のある人は過剰のカリウムを排出できないので体内に蓄積してしまい、重大な副作用を生じさせるので、医者と相談をしないで塩代替物を使ってはいけない。

  軽い副作用:塩代替物は厳密な塩味ではなく、後味に苦味がある。吐き気、胃の不調、軽い下痢、手足に軽いチクチクする痛みがある。

  重い副作用:不整脈、筋薄弱または感覚麻痺、ぼんやりした状態、口の周りや手足にチクチクした痛み、錯乱、不安状態になる。連続的な吐き気や嘔吐、脚の痛み、激しい胃痛、血便、吐血を起こすことがある。このような時にはすぐに医者に行く。

  生命を脅かす副作用:腎臓は血液中の過剰のカリウムを除き、尿中に排泄する。しかし、高血圧症や心不全を治療するために処方する利尿剤、心臓疾患、糖尿病、慢性腎臓疾患を治療する薬物、高濃度のカリウムを含む塩代替物またはカリウム補給剤の処方は過剰なカリウムを排泄する腎臓の能力を上回る可能性がある。その結果、血中のカリウム濃度上昇(高カリウム血症)は心拍を不規則にし、非常にゆっくりとさせる原因となる。まれには心臓停止や死に至らせる。

 以上をまとめると、カリウム摂取は血圧低下をはじめ数々の効果があることから果物・野菜を多く食べることにより高血圧の治療や予防を図るDASH食が勧められている。一方、減塩による塩味を補うために販売されている塩化カリウムを主成分とした数多くの塩代替物商品がある。これらの商品はカリウム摂取量を増加させるというよりも、塩化ナトリウムを減らすために使われる。しかし、それらの商品の使用法に関する表示は十分ではない。例えば、オーストラリアには利尿剤を服用している人は使用してはいけない、と注書された製品がある。

 

使用の可否確認を

塩代替物の健康リスクについては、塩代替物を使用したとき、危険になる場合がある様々な症例と降圧剤を述べた。そこで降圧剤を服用しながら塩代替物を使用して前述した自覚症状のあった人はもちろん、なかった人でも診察してもらう際に必ず医師に塩代替物使用の可否を一度は尋ねた方が良い。事例報告では幸運にも命を落とす危険は避けられたが、心不全で命を落とす危険性が高いと考えられるからだ。

 

低カリウム野菜 他の成分は?

水耕栽培による野菜工場のレタス、ホウレン草で低カリウム含有量の製品が開発されたとのテレビ放送を見た。ホウレン草では通常製品の1/7しかカリウムはないそうだ。腎臓透析を受けている患者用とのこと。このような製品は他の成分も明らかにしてもらいたいものだ。生で美味しく食べられるようだが、成分的には健康に役立たない高価な野菜を食べているのかもしれないから。