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たばこ塩産業 塩事業版  2013.2.25

塩・話・解・題 95 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

塩に関する海外マスメディアの報道 

4.減塩するとなぜ危険なの?

 

 高血圧の治療や予防に国を挙げて減塩が勧められている中で、減塩が危険だなんて聞いたこともない、と思うだろう。しかし、ここに減塩の危険性を訴えてニューヨーク・タイムス紙に意見投稿をした学者がいる。ミカエル・アルダーマン博士だ。その投稿内容と、博士の意見をマスコミ紙が引用している記事を紹介しよう。

 疫学が専門の学者であるアルダーマン博士は1958年にハーバード大学を卒業し、1962年にイェール大学医学部から医学博士を授与された。

1984年から1997年まで疫学と社会医学会会長を務め、1996年から1998年までアメリカ高血圧学会会長であった。

彼の研究の焦点は心臓血管疾患に関連した高血圧患者の異質性を解明することだ。

 200925日付けニューヨーク・タイムス紙のオピニオン面に、ニューヨーク市がこれからの10年間に加工食品中の塩含有量について40%減らすように加工食品製造者に勧める運動に着手したことに対してA Pinch of Science”(科学の危機)と題して、減塩に伴う問題点を提起する意見記事を寄稿した。

 その概要については以下に記す。

減塩政策は「科学の危機」

アルダーマン博士が警告

脳卒中と心臓発作を予防するためにニューヨーク市の減塩目標はほめられてよい。目標設定は論理的で、減塩すれば血圧は下がるだろうし、心臓血管状態を改善するだろう。しかし、そのように大きな減塩が達成されれば、他の諸国が減塩しているよりも少ない塩しかニューヨーク市民は摂取しないことになるだろう。食事の中で一つの成分にそのような大きな変化があれば、意図しない有害な結果を招く可能性がある。したがって、論理や利益を考える時には強い安全性の証拠に基づくよう慎重でなければならない。

減塩で血圧上昇も

塩は食事中の多くの必須栄養素の中の一つにすぎない。塩を自由に食べられる健康な人々の1日当たりの摂取量は約58グラムであり、1日当たりの塩摂取量を2.55グラムも減らせば平均血圧は低下する。しかし、個人間で非常に大きな変動がある。ほとんどの人々では、塩摂取量が幅広く変動しても血圧に影響はなく、ある人々については実は減塩で血圧が上昇する。

 しかし、本当に重要なことは、減塩が最終的に心臓発作や脳卒中を予防し、寿命が延びるかどうかである。これは血圧だけに依存するのではなく、減塩により起こる全ての代謝結果に依存している。減塩による代謝結果にはインスリン抵抗性、交感神経活性の亢進、レニンーアンジオテンシン系に基づく腎臓の活性化があり、これら3つの結果の全てが心臓発作や脳卒中の危険性を増加させる。このただ一の食事成分()の変化が栄養素間の未知の相互作用を乱すかも知れず、良いか悪いかまだ確認されてない結果をもたらすことはあり得る。

塩摂取量が健康に影響を及ぼす証拠を得るには観察研究が一番利用される。それらの研究では、通常の塩摂取量とその後の心臓発作や脳卒中との相関関係を明らかにするために被験者を調べる。ニューヨーク市民と同程度の塩摂取量を示している1万人以上を調べた9件の観察研究からは様々な結果がもたらされた。4件の研究では、減塩は心臓発作や脳卒中による死亡や疾病の増加と関係していた。肥満者に焦点を置いた1件の研究では、塩摂取量が多いほど心臓血管疾患の死亡率は増加していた。そして残りの4件では、塩と健康との間に何の関係も見られなかった。

リスク高まる例も

 減塩を主張する人々は、塩摂取量がアメリカよりも高い日本とフィンランドの2つの観察研究を考察することを一般的に好む。両国では、塩摂取量の多さは心臓血管問題の多さと関係していた。しかし観察研究は因果関係を示せない。多くの研究が幅広い状況範囲の中で一定の強い結果をもたらした場合に、観察研究は作用因子を正当化できるだけである。

最も厳密な方法によるランダム化された臨床試験研究だけが塩摂取量に関する疑問を明らかにできる。そのような研究では、年齢、体重、血圧値、コレステロール値のような関連した特性値を共有している人々を2つのグループに分け、1つのグループを対照とする標準とし、他のグループは塩摂取量だけを減らした同じ食事をさせて比較する。この方法で結果(心臓発作や脳卒中)に何らかの差があれば、確かに塩摂取量のためである。

 塩摂取量に関する厳密な臨床試験はわずかに一件しか報告されておらず、それはかなり進んだ心臓に問題のある患者に焦点を置いていた。その報告では結局のところ、減塩食グループは高塩食グループよりもかなり多くの心臓血管疾患による死や入院に見舞われた。

 考察すべき別の証拠は、前の世代からアメリカ合衆国の塩摂取量は明らかに増加しているのに、心臓発作や脳卒中による死亡数は半減してきたことである。

 減塩のメリットについて説得力のある科学的証拠がなく、安全性の保証もあまりないので、ニューヨーク市は減塩政策のために確実な科学的根拠を提供する研究を進めることが賢明であろう。その間、心臓発作や脳卒中の危険性を下げるために、衛生当局は減量や運動のメリットを周知させることに集中すべきである。

     ◇           ◇           ◇

 減塩のメリットについて科学的根拠が乏しい中で、ニューヨーク市が勧める減塩政策に対してアルダーマン博士は警告を発した。高血圧学会誌の論文「塩と血圧と健康」の中では博士の見解として、塩摂取量の勧告は生活の質と寿命に関する塩の多様な結果についての総合的な知識に基づくべきで、それがない塩だけの摂取量勧告は科学的に正当化されない、と述べている。

「減塩食は効果なし」

すべての研究は不十分

 アルダーマン博士が減塩の危険性を警告していることを記載している記事がある。その一つは201153日付けニューヨーク・タイムスの健康面の研究欄で「減塩食は効果なし 研究で明らか。多様な意見の相違」と題するGina Kolataの記事だ。彼女はタイムス紙で科学と医学に関する記事を担当している。

 記事の中でアルダーマン博士は次のように言っていると述べている。

◇          ◇          ◇

塩と健康への影響に関する医学文献の結果は一貫していない。新しい研究は減塩食の逆効果を発見した研究だけではない。

高血圧者による博士自身の研究では、減塩食者はほとんど死にそうになることが分かった。減塩は血圧以外の結果をもたらす。

例えば、減塩は心疾患の危険性を増加させるインシュリン抵抗性も増加させる。食事は複雑な作用を引き起こし、意図しない結果をもたらす。塩論争に付随する一つの問題は、全ての研究が不十分であることだ。

それらの研究は、人々に大量の塩を食べさせた後、血圧への影響を見るために塩を食べさせない短期間の介入研究か、集団を観察し、たまたま塩摂取量の少ない人々がより健康であるかどうかを尋ねる研究のいずれかである。人々を減塩食と普通食に無作為に割り当て、減塩が健康を改善し、心臓血管疾患による死亡率を減らすかどうかを見るために何年間も追跡する大規模な研究が必要である。

研究データに矛盾も

正確な事実は知らされず

 もう一つの報道は、心臓関係に特化したHeartwire紙の「変化の機が熟す:アメリカ、一律の減塩政策を熟慮」と題するLisa Nainggolan氏の記事(2010129日付)。彼女は科学系のジャーナリスト。記事の中でアルダーマン博士について次のように述べている。

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大多数の専門家は一律の減塩政策を進める意見を支持しているが、アルダーマン博士のようなにそれに疑問を持っている人達がわずかにいる。問題になっていることの科学的根拠を知ることが彼の姿勢だ。減塩は血圧を下げることに間違いないが、塩は多くの生物学的な効果も持っていると彼は主張する。減塩が実際に心臓発作や脳卒中のような厳しい結果に影響を及ぼす臨床試験による証拠はいたる所にあり、食事の質によって全体的な結果が表れる。減塩推進者は血圧に及ぼす効果だけを信じているが、彼のような懐疑者達は、それは誇張だと思っている。

血圧効果は誇張

 集団レベルによるアメリカの減塩政策は一つの実験であり、減塩が有益であるか、全く有害であるかどうかを知る方法はない、と彼は主張している。人々の健康について非常に献身的で善意を持っている熱狂的な運動家が沢山おり、さあ減塩を進めようとか、減塩をさせようと言っている。何が起こるか我々は確信できないし、直接的な証拠を何も持たないが、非常に固く信じているので、減塩を進めれば血圧効果は全て規則に従うと思っているようだが、彼には軽率に見え、証明されてもいないことを固く信じていることに基づいている、と彼は言う。

 アメリカ人が食べているような食事をしている人々では、減塩すればするほど、ますます心臓発作が多くなる、という逆の関係を示す研究がいくつかあり、データは矛盾しており、それが問題だと言っている。彼が引用しているいくつかの解析にも彼は関係しているが、それらは方法論に関して批判されてきた。

 科学的な事実に基づく保健政策を望むならば、試験条件を無作為に割り当てた上で対照とする標準のある試験が必要であると主張している。彼は血圧値やレニンーアンジオテンシン系の活性度にはそんなに関心を持たず、どれだけ健康に生活し、どれだけ長生きするかに関心があり、それらは心臓発作、脳卒中、腎不全、死によって評価される。議論のために議論をしている反対者ではないと言っている。

皆が食べている食事のような複雑な事柄の中で一つだけ変える簡単なトリックで数百万人の命が救われるのであれば、嬉しいことだ。もちろんそんなことはない、と言っている。

 アルダーマン博士は少数派だとマグレガー(著者注:減塩推進者の旗頭)は言い、マグレガー博士が知っている限り、減塩反対者は減塩させないことに失敗している塩協会のコンサルタントであると語った。

 アルダーマン博士は、自分は塩協会の諮問委員会のメンバーであるが、給与を貰っておらず、委員会の年会に出席しても講演料や研究費を受けておらず、食品業界からも資金援助を受けていない、と言っている。

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 減塩すると血圧は下がるように思われているが、アルダーマン博士が寄稿の中で書いているように減塩すると逆に血圧が上がる人がいる。その割合は下がる人の割合と同じくらいである。減塩に対する血圧応答は子供から大人まで正規分布で表れるからだ。この事実は20年以上も前の研究で明らかにされているが、一般的には知らされていない。