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たばこ塩産業 塩事業版  2012.12.25

塩・話・解・題 93 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

進む環境影響の対策

米国では融氷雪用塩

自然への塩放出量も着実に減少

 

 再び冬が来て雪害に悩まされる季節となった。最近は天候が不順で、突然局地的な大雨、大雪、強風に見舞われることが多くなった。冬場の大雪では交通事故の多発、通行止め、速度制限などで生活、経済活動が多大な影響を被る。安全な交通を確保するため融氷雪用塩が散布されるが、塩による環境への悪影響が心配だ。アメリカ塩協会は環境への影響と対策を解説した資料を用意している。今月はそれを紹介しよう。

 

’70年から環境対策を研究

「塩に代わる融氷雪剤ない」

 アメリカでは早くも1970年に高速道路研究委員会は、塩に代わる信頼性があって経済的な融氷雪剤はないと結論を下し、適正な貯蔵、取り扱い、使用、排水、景観の面から環境問題を現場で解決する研究を行って、環境に及ぼす融氷雪用塩の有害な影響を減らしてきた

 1990年代初頭に、降雪帯の4州で塩散布による冬期道路保守管理の走行安全性への影響を調べたマルケット大学高速道路交通技術センターによる研究では、85%の総合的な事故減少と88.3%の障害事故の低下が確認された。燃料費についても通常10.6 km/lで走る自動車が、滑りやすい道路では6.4 km/lしか走らないことを示した。

 予測できない冬の嵐による雪氷災害を防ぐために道路の保守管理を良くすれば、交通を確保し、経済活動を支えられ、人命を救える。それが高速道路税(高速道路通行料にあたる)の最も有効な唯一の投資であり、1ドルの出費に対して少なくとも60ドルの利益をもたらすとしている。

 塩の融氷雪作用については図1に示すように、塩が雪氷を溶かしてかん水を作り、道路表面との結合を壊し、雪氷は自動車により道路から排除される。

あらかじめ融氷雪用塩を散布しておくと凍ることはなく雪も積もらないが、溶けて流されると効果はなくなる。散布時に散布塩が飛び散らないように水で湿らせることもある。

 融氷雪用塩はマイナス11℃以上で最も効果的であり、共晶温度(飽和塩水が凍る温度)のマイナス
21℃に近付くにつれて溶解速度は遅くなるが、雪氷を溶かし続ける。効果を急速に出すためにマイ
ナス
11℃以下の低い温度では塩化カルシウムや塩化マグネシウムを融氷雪用塩に加えるが、それらの価格は高い。

 道路表面における塩/かん水の作用

道路・橋梁・車両の腐食

進化続ける防錆技術

 融氷雪用塩で主として腐食により被害を受ける構造物は道路、橋梁、車両である。一般道路や高速道路は融氷雪用塩の使用に耐えられるように建設される。腐食防止鉄筋を使った高品質の発泡コンクリートは高速道路構造物の寿命を長期化する。道路表面も塩化物イオン(Cl-)の浸透を阻止する処理が行われる。橋梁では橋床中の鉄筋の腐食防止が重要だ。新しい技術と設計はこの問題を最小限にしてきた。塩がある状態で湿気と酸素が裸の鉄筋と接触すれば鉄筋の腐食は促進される。橋梁の露出した支持鉄筋は被覆で保護されており、重大な腐食から露出した鉄筋を保護している。

 コンクリート橋床中の鉄筋腐食は大きな問題だ。橋床の舗装道路表面にひび割れがあると水分、酸素、塩が鉄筋に届く。ほとんどの新しい橋は届いても鉄筋に触れないように腐食防止鉄筋で作られている。凍結・融解の繰り返しによる膨張・収縮でコンクリートがひび割れないように、今日では多くの微細な気泡を含んだコンクリートで鉄筋の上を5 cm以上覆うように橋床は設計されている。古い橋では陰極保護装置で腐食損傷を防止している。塩水が鉄筋と接触すると、自然に電流が流れて腐食が起こる。陰極保護装置は橋床を通して人為的に弱い電流を逆に流して腐食を防止する。塩の影響を受けた橋から塩を除く処理法も発明された。橋床は上下の両方から氷点温度に曝されるので、隣接した舗装道路よりも早く橋床表面は凍結する。比較的新しい橋では、センサーが氷点温度の水分を検出すると、橋床上に融氷雪用の塩水を自動散布する装置がしばしば組み込まれている。

 約20年前では、高速道路の塩散布で最も大きな影響を受けるのは車両腐食での費用だった。車両製造者は、車両設計の改善やプラスチック、亜鉛メッキ鋼、改良塗料、防錆コーティングで腐食しない新しい材料を使って車やトラックの防食技術を開発してきた。これらは全て自動車の寿命を大きく伸ばしてきた。プラスチック製の通常の車は21世紀の中頃までに20年間の耐用年数で作られるようになるだろう。表1に示すように2004年現在で5年間または100,000マイル(16km)、無制限のマイル数を防食保証しており、12年間も保証している車もある。冬期には車を毎週1回洗うことも防食に寄与する。

車両製造者による絶えざる改良により車両腐食は非常に少なくなった。6年間使用(1990)の車に錆で孔が開くことは1%以下である。

表1 アメリカで販売されている2000年モデル自動車の貫通腐食保証期間
車  種 保証期間 車  種 保証期間
マイル マイル
アキュラ 5 無制限 リンカーン 5 無制限
アウディ 12 無制限 マツダ 5 無制限
BMW 6 無制限 メルセデスベンツ 4 50,000
ビューイック 6 100,000 マーキュリー 6 無制限
キャでラック 6 100,000 三菱 7 100,000
シボレー 6 100,000 ニッサン 5 無制限
ディウー 5 無制限 オーズモビール 6 100,000
ダッジ 5 100,000 プリムス 5 100,000
フォード 5 無制限 ポンティアック 6 100,000
GMC 6 100,000 ポルシェ 10 無制限
ホンダ 5 無制限 サーブ 6 無制限
ヒュンダイ 5 無制限 サターン 6 100,000
インフィニティ 7 無制限 スバル 5 無制限
イスズ 6 100,000 スズキ 3 100,000
ジャガー 6 100,000 トヨタ 5 無制限
カイア 5 100,000 フルクスワーゲン 6 無制限
ランドローバー 6 100,000 ボルボ 8 無制限
レキサス 6 無制限
塩協会の「高速道路用塩と環境」資料より

 土壌・植物へのストレス

濃度低く影響少ない

 道路脇は風や車の排気ガスに曝される植物にとって厳しい環境になる。散布された塩も植物にストレスを与える。高濃度の塩は土壌構造、浸透性、通気を変えることによって土壌からの植物の水分吸収を妨げ、葉の褐変や黒変を起こさせるなど植物の成長に影響を与える。これらの影響は塩の量、土壌の種類、総降雨量、道路からの距離、風の方向、植物の種類によって変わる。

 土壌に蓄積した塩を化学的に取り除くには石膏または無水アンモニアを加える。現在、石膏処理は最も効果的で、最も安い土壌改良法であるように思われる。

 道路脇の植物や土壌に10年間の融氷雪用塩を使用した時の影響について、次の観察結果が示された。ナトリウム・イオン(Na+)の蓄積傾向は一般的にあるが、障害を与える濃度よりはるかに低い。塩化物イオンは土壌からかなり早く浸出され、蓄積傾向はない。総合的な影響は道路からの距離が遠くなるにつれてなくなり、25 m以上では微々たるものになる。

 高速道路は排水を容易にする水路を作るよう設計されており、環境への悪影響を防いでいる。幹線道路や高速道路脇は安全な地域にするため障害となる木々は一般的に取り除かれている。安全性に配慮して配置される潅木や樹木には高い耐塩性のある樫、ニセアカシア、サンザシなどが選ばれる。草ではアルカリ・サコットン、ソルト・グラスベルダ・グラスなどだ。

 

塩が動物引き付ける?

衝突事故と関連薄い

 塩は植物だけでなく動物にも影響を及ぼす。動物の塩に対する欲求が冬期に塩散布された道路に野生動物を引き付け、自動車との衝突を増加させていると主張されてきた。しかし、塩があることで自動車と野生動物が衝突する科学的な情報はほとんどない。ウィスコンシン州の運輸局によると、自動車と鹿が衝突した最高の発生率(38)10月〜11月で、二番目に高い(16)期間は5月または6月であった。つまり道路に塩が使われる月ではない。カナダ国立公園で自動車事故による野生動物の死亡数調査では、大部分の死亡は春または秋に起こり、塩が道路に散布される時期ではない。

 

フェロシアン化物を添加…

化学的に安定し、無害

 融氷雪用塩の散布による河川水や地下水の汚染が懸念される。250 mg/L以上の塩化物濃度(塩としては390 mg/?)の水を「飲めない味」として検出できる人々がいる。飲料水の塩化物濃度が250 mg/?に達することは希であり、長期間の傾向では環境への塩放出は着実に改善されている。五大湖の水質の傾向は塩濃度の低下傾向を示している。

融氷雪用塩にはいくつかの固結防止剤が加えられる。中でも最も一般的な物はフェロシアン化物である。食品医薬品局はそれらを食品添加物に認定している。遊離のシアン化物(例えば、青酸カリ)やシアン化水素は非常に毒性が高いので、食品添加物としてのフェロシアン化物の安全性について心配してきたが、これらは化学的に安定な金属化合物であり完全に無毒である。

    ◇           ◇           ◇

融氷雪用塩が環境に及ぼす影響に関する情報を紹介した。冬の嵐の到来で今年早くも交通事故で人命が失われたが、事前に塩を散布しておけば防げたと思われる。天気予報の精度が高くなった今日では、事前に塩を散布して準備すれば災害を回避できるだろう。